破産から復活、そして新機体へ
VolocopterのVoloXProが示す
「eVTOL民主化」の始まり
2024年末、Volocopterは破産寸前だった。数百億円の資金を集め、パリやシンガポールでのエアタクシー商用化を夢見た欧州最大のeVTOLスタートアップが、認証の壁と資金枯渇で倒れかけた。しかし2025年3月、Diamond Aircraftによる買収で復活。そしてわずか1年後の今週、まったく別のアングルで市場に帰ってきた。「フライトスクールのための電動機」として。
VoloXProとは何か ― スペックと戦略
VoloXProは完全電動の2座席eVTOLで、18個のローターセットを円形構造に配置。最大離陸重量600kg、積載量154kg、巡航速度70km/h、最大航続距離40kmというスペックを持つ。飛行制御にはフライ・バイ・ワイヤシステムを採用し、シングルスティック操縦で「かつてないほど簡単な飛行」を実現するという。

(円形構造に配置)
(VoloCityの2倍)
(欧州超軽量機上限)
認証取得目標
ターゲットは欧州のフライトスクール・フライングクラブ・観光遊覧飛行事業者。そして欧州以外の市場では、エアタクシーとしての用途も想定している。VoloCityとの違いは重量と価格だ。VoloCityが1,000kgで商用エアタクシー向けなのに対し、VoloXProは600kgで超軽量機カテゴリーに収め、認証取得を大幅に速めた。
破産から復活へ ― Volocopterの1年間
- 2011年 Volocopter創業(ドイツ・ブルフザール)電動マルチコプターのパイオニアとして欧州eVTOL業界を牽引。数百億円の資金調達。
- 2019年 VoloCity発表パリ、シンガポール、ドバイでの商用運航を宣言。世界が注目。
- 2024年〜 認証の壁・資金枯渇EASAによる型式証明取得が想定より大幅に遅延。投資家の信頼が低下し、資金繰りが悪化。
- 2024年末 破産手続き開始欧州最大のeVTOLスタートアップが事実上の経営危機に。業界に衝撃。
- 2025年3月 Diamond Aircraft(Wanfeng傘下)が1,000万ユーロで買収中国自動車部品メーカーWanfengが親会社のDiamond Aircraftが救済。「Diamond のDNAとVolocopterのDNAを融合させる」と発表。
- 2025年 全面的な製品・体制見直し製品ポートフォリオのモジュール化・サプライチェーン再構築・コンポーネント最適化を実施。
- 2026年4月22日 VoloXPro世界初公開(AERO Friedrichshafen 2026)「旧製品とは内部が全く異なる新設計」として復活。フライトスクール向けという新戦略で市場再参入。
「旧機体とは内部が全く別物です。外見はあの18ローターの円形構造を継承していますが、中身はほぼ新しい。VoloCityとフライトコンピューターを共有しているため、安全性の認証クレジットをそのまま活用できる。これが認証を2026年末に間に合わせられる理由です」
— David Bausek, CTO, Volocopter(AERO Friedrichshafen 2026)
最も重要な一文 ― 「訓練用eVTOL」という革命
今回の発表で私が最も注目したのは、スペックでも価格でもない。VolocopterのCTO David Bausekが語った「このレーティングと移行訓練でJobyやArcherなど他のすべての機体に移行できる。フライトスクールを運営するにも自費訓練をするにも、できる限りコスト効率が必要だ。600万ドルの機体で訓練するのは意味がない」という言葉だ。
これは電動航空業界にとって、これまでなかった視点だ。Joby・Archer・BETAはいずれも「乗り物」としてのeVTOLを開発してきた。しかしVoloXProは「訓練機」としてのeVTOLを定義した。
現状、eVTOLパイロットになるためには「Joby S4(6百万ドル)」のような本番機体で訓練するしかない。しかしVoloXProが訓練機として普及すれば、大幅に低コストでeVTOLの操縦感覚——垂直離着陸・フライ・バイ・ワイヤ・パワードリフト制御——を習得できる。訓練コストが下がれば、パイロット不足の解消が加速する。これは「乗る人」ではなく「育てる側」の革命だ。
| 機体 | カテゴリー | 価格帯 | 訓練用途 |
|---|---|---|---|
| VoloXPro | 超軽量eVTOL | €49万(約8,100万円) | フライトスクール・移行訓練に最適 |
| Joby S4 | 商用eVTOL | 約600万ドル(約9億円) | 本番機体での訓練のみ |
| BETA ALIA CTOL | 電動固定翼 | 非公開(数億円級) | 物流・旅客向け |
| Archer Midnight | 商用eVTOL | 約500万ドル(約7.5億円) | 商用運航向け |
UPRT JAPANとの接点 ― ニセコで使えるか
VoloXProの登場はUPRT JAPANのビジョンに直接影響する。現段階では「いつ日本で使えるか」という問いに答えるのは早すぎるが、将来の可能性として整理しておく価値がある。
可能性① eVTOLパイロット移行訓練の入門機として
VoloXProはフライ・バイ・ワイヤアーキテクチャにより、次世代eVTOL航空機へのシームレスな移行を可能にするよう設計されており、「今日の訓練環境と未来の先進航空モビリティを橋渡しする」と位置づけられている。eVTOLが商用化される前に、UPRT JAPANのカリキュラムにVoloXProを使った「垂直離着陸体験」を組み込めれば、世界で最も先進的な訓練プログラムになりうる。
可能性② ニセコでの体験飛行コンテンツとして
羊蹄山を背景に、18ローターが静かに回転するVoloXProが浮上する——その光景はインバウンド富裕層にとって唯一無二の「コト消費」体験になる。航続距離40kmはニセコの空中遊覧には十分だ。XcabuとVoloXProという「固定翼×回転翼」の二本立て体験飛行という構想も、夢物語ではない。
VoloXProの欧州超軽量機認証はMOSAICが定める「パワードリフト」カテゴリーとも親和性が高い。FAAのMOSAICが2026年7月に完全発効し、JCABが追随する制度整備を進めれば、数年以内に日本でVoloXPro相当機を認証する経路が開く可能性がある。訓練インフラを今から整えておく意義はここにある。
「eVTOL民主化」が意味すること
かつてコンピューターは大企業のものだった。それがパーソナルコンピューターになり、スマートフォンになった。eVTOLも同じ道を辿る。Jobysは「エアライン」のeVTOLだ。VoloXProは「個人」のeVTOLだ。
Bausekは「旅客機の安全水準を持つ電動マルチコプター飛行が、高級車の価格で民間顧客と商業オペレーターにとって可能になる」と語った。€49万という価格は高いが、欧州の富裕層フライイングクラブや訓練学校にとっては現実的な投資金額だ。Diamond Aircraftの販売ネットワーク(世界に広がる認定ディーラー)を通じた普及も見込まれる。
破産から復活したVolocopterが選んだのは、夢のエアタクシーではなく、地道で実用的な「訓練機」という道だった。その判断は正しい。革命は、いつも派手な舞台から始まるとは限らない。地元のフライトスクールの格納庫から始まることもある。
そしてそのフライトスクールが、ニセコにあってもいい。
参考:Volocopter プレスリリース(2026年4月22日)/ FlightGlobal「Volocopter launches VoloXPro」(2026年4月22日)/ Aviation Week「Volocopter Unveils New Ultralight Multicopter」(2026年4月22日)/ Robb Report「Volocopter’s New eVTOL Aircraft Is the Same Price as a Ferrari SF90」/ Aerospace Global News / UPRT JAPAN Initiative



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