遙かなる大空 ── VOL.54
聖地オシュコシュ、電動の夜明け
── EAS 2026と、動き出す電動航空
小型機の聖地で、20回目の電動航空シンポジウム。MOSAICとeIPPという二つの追い風が、いま吹き始めている。
毎年夏、世界最大の航空の祭典「EAAエアベンチャー・オシュコシュ」の直前に、静かに、しかし確かに未来を先取りする会議が開かれる。電動航空機シンポジウム(EAS)だ。2026年は7月18〜19日、ウィスコンシン大学オシュコシュ校で第20回を迎える。主催は垂直飛行協会(VFS)フェデラルシティ支部。世界で最も長く続く電動航空の会議が、今年は特別な追い風の中で開かれる。
「聖地」で開かれる意味
オシュコシュは、世界の航空ファンにとって“聖地”だ。エアベンチャーには昨年、70万人超と約1万機が集い、期間中はウィットマン地方空港が「世界一忙しい空港」になる。手作りの実験機から歴史的な軍用機まで、あらゆる航空の情熱が一つの空に集まる。その直前に電動航空を語る ── これは象徴的だ。趣味と実験の草の根文化が根づくこの地でこそ、新しい動力の芽は最も自然に育つ。EASは2007年にカリフォルニアで始まり、2017年からこの地に根を下ろした。
今年のプログラム ── 電動航空の全景
EAS 2026は、3ダース(36名)超の専門家による12の司会付きセッションで構成される。軽スポーツ機、訓練機、一般機、地域航空機、ヘリコプター、VTOL機まで ── 電動航空のほぼ全カテゴリーを網羅し、バッテリー式・ハイブリッド式・水素電気式という推進方式、そしてインフラと規制まで踏み込む。登壇予定にはRobinson(電動ヘリ)、Joby・BETA・Wisk・Eve・HorizonなどのeVTOL勢、Ampaire・AURA・Bye・Electra・Pipistrelといった従来型電動機勢、magniX・Pratt & Whitney Canada・H2FLY・Whisper Aeroなどの推進系企業が名を連ねる。まさに、電動航空の「いま」が一望できる場だ。
研究室の未来より、地に足がついている。
二つの追い風 ── MOSAICとeIPP
今年のEASが特に注目するのは、米国で電動航空への関心を再燃させる二つの制度的動向だ。
機体を「作れる」ようにするMOSAICと、それを「飛ばして試せる」ようにするeIPP。制度が機体と運用の両輪を同時に押し始めた ── これが、電動航空への期待が再び高まっている最大の理由だ。加えて、燃料価格の上昇が「直接運航コストの低い電動・ハイブリッド機」への関心を後押しし、その用途としてパイロットの飛行訓練が明確に挙げられている点は、見逃せない。
日本から見て ── UPRT JAPANの視点
私がこの動きに注目するのは、それがUPRT JAPANの第二の柱「LSA/AAM訓練プラットフォーム」に直結するからだ。電動・ハイブリッド機は運航コストが低く、訓練機としての適性が高い。MOSAICで機体の選択肢が広がり、電動訓練機が現実味を帯びれば、UPRTを含む次世代の訓練基盤を、より持続可能な形で設計できる。
ただし、いつもの警鐘も添えておきたい。動力が電気に変わっても、空の物理は変わらない。失速も、姿勢の崩れも、驚愕も、電動機の上でも等しく起きる。むしろ静粛性や即応するトルク特性など、新しい挙動への慣熟も要る。機体が新しくなるほど、それを安全に飛ばす「人の訓練」── UPRT ── の重要性は増すのだ。オシュコシュの熱気は、技術の話であると同時に、それを扱う人の備えの話でもある。
── 聖地からの学び
EASが20年間、草の根の祭典の傍らで続いてきたことに、私は希望を見る。派手な発表の場ではなく、技術者が課題(認証・インフラ・安全)を率直に語り合う場だからだ。日本が学ぶべきは、機体の華やかさではない。新しい技術を、地に足をつけて、規制・インフラ・訓練とともに育てる“文化”のほうだ。
聖地オシュコシュで、電動航空は20回目の夜明けを迎える。
MOSAICとeIPP、二つの追い風。だが動力が変わっても、空の物理は変わらない。
機体が新しくなるほど、人の訓練が要る。
UPRTは「あれば良い訓練」ではない。
吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)
UPRT JAPAN INITIATIVE / 現役エアラインパイロット
数字は嘘をつかない ── UPRT は「あれば良い訓練」ではない。
出典・参考資料
- Vertical Flight Society「20th Annual Electric Aircraft Symposium Returns to Oshkosh in July」(2026年4月20日 プレスリリース)── 開催日程・会場・登壇企業・MOSAIC/eIPP・料金等。eas2026.org
- Vertical Magazine / Skies Mag「20th annual Electric Aircraft Symposium returns to Oshkosh in July」(2026年)── AERO Friedrichshafen提携、登壇者・スポンサー。verticalmag.com
- State Aviation Journal「Electric Aircraft Symposium Returns to Oshkosh」── MOSAIC(電動・回転翼・動力揚力機を初めて包含)とeIPP(26州8プロジェクト)の焦点。
- General Aviation News「Electric Aircraft Symposium Returns to Oshkosh」(2026年4月24日)── 12セッション、推進方式・対象市場(訓練を含む)。
- 本ブログ Vol.45(eVTOLと安全の土台)/Vol.46(MOSAIC)/Vol.51(日本のものづくり)── 関連する論点。



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