「軽飛行機」の常識が、変わった
——MOSAIC完全施行、最初のひと月
2026年7月24日、FAAのMOSAICが完全施行。重量制限は消え、4座席も電動も“ライトスポーツ機”の枠に。
8月は、新しいライトスポーツの世界で迎える、実質最初のひと月だ。
8月になった。ちょうど先月末、7月24日に、米国の空で大きな節目があった。FAAのMOSAICがフェーズII施行を迎え、“完全発効”したのだ。2004年にライトスポーツ機(LSA)というカテゴリーが生まれて以来、最大級とも言われる改革が、いま全面的に動き出している。
今日語りたいのは、この「今月から本格化する、新しいライトスポーツの世界」だ。これは単なる海の向こうの制度変更ではない。若い世代が空へ入る入口が、大きく広がろうとしている——そういう話である。
MOSAICとは何か——2フェーズで、完全施行へ
MOSAIC は Modernization of Special Airworthiness Certification(特別耐空証明の近代化)の略。2段階で発効した。フェーズI(2025年10月22日)でスポーツパイロットの権限や整備・修理士の枠が拡大し、フェーズII(2026年7月24日)で新しいライトスポーツ機の型式・耐空証明のルール(新設の Part 22)が発効。これで制度は“完全施行”に至った。
とはいえ、まだ動いている部分もある。詳しくは後半で触れるが、今月8月17日には、適合手段(MOC)案の意見公募が締め切りを迎える。制度は「動きながら仕上げていく」段階にある。

何が変わったのか——「重量の物差し」を捨てた
最大の変化は、LSAを縛ってきた重量制限(最大離陸重量1,320ポンド=約600kg)の撤廃だ。代わりに導入されたのは、失速速度をものさしにした性能ベースの基準(VS0 61ノット以下)。「どれだけ軽いか」ではなく「どれだけゆっくり、安全に飛べるか」で定義し直した。
結果として、座席は最大4席まで、最大水平速度はVH 250ノット以下まで認められ、引込脚・定速プロペラ・電動推進、さらには軽双発までもがライトスポーツ機の設計として視野に入った。とりわけ電動推進の受け皿になりうる点は、これからの技術革新にとって大きい。(非与圧であること、標準耐空証明を受けたことのない機体であること、などの条件はある。)
「重さで縛るのをやめ、“どれだけゆっくり安全に飛べるか”で定義する。これがMOSAICの思想の核心だ。」

見落としがちな肝——「機体の資格」と「操縦士の資格」は別物
ここが最も誤解されやすい。今回のMOSAICは、機体を認証する物差しと、操縦士が許される操作を、明確に切り離した。高性能なライトスポーツ機が“作れる・登録できる”ことと、ある操縦士がそれを“合法に飛ばせる”ことは、別の話なのだ。
たとえばスポーツパイロットは、機体が4席でも同乗者は1名まで。夜間飛行は、追加の裏書と医療要件(FAA医証またはBasicMed)を満たせば可能になった。また、高度に自動化された簡易操縦系統(SFC)を備えた機体は、型式ごとの訓練と裏書が必要になる。「機体が対応している」ことと「自分が合法に飛べる」ことは、必ず分けて確認しなければならない。

残る宿題と、今月の締め切り
“完全施行”とはいえ、仕上げの作業は続いている。ひとつは、ライトスポーツ機の特別耐空証明の根拠となるコンセンサス標準の適合手段(MOC)。その案が7月16日に公表され、8月17日まで意見公募中だ。もうひとつは、簡易操縦系統(高度自動化)に関するガイダンス。制度の骨格は固まったが、細部は関係者の声を取り込みながら、いままさに形になろうとしている。今月は、その仕上げに立ち会える月でもある。
日本には、MOSAICのような性能ベースの軽量機カテゴリーは、まだない。だがLSAの普及が意味するのは、単に機体の選択肢が増えることではない。空へ入る入口が、より広く、より安全に開かれること——それは、若い世代が「飛ぶことの素晴らしさ」に触れる機会を増やすことに直結する。
パイロットの2030年問題を抱える日本にとって、航空の裾野を厚くすることは、未来への投資そのものだ。ルールをただ輸入するのではなく、日本の空に合った軽量機文化をどう育てるか。MOSAICは、それを考えるだけの価値がある改革だと思う。
門戸が広がることは、素晴らしい。同時にそれは、より高性能な機体に、より多様な人が触れる時代でもある。だからこそ、土台になるのは“包絡線を守る”素養——アップセットを予防し、必要なら確実に回復する力だ。入口が広がるほど、その素養は「あった方が良い」ものではなく、「なくてはならない」ものになる。
数字は嘘をつかない——UPRTは『あれば良い訓練』ではない。
吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)
エアラインパイロット(A320)
UPRT JAPAN 合同会社 代表
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)
- FAA「Modernization of Special Airworthiness Certification (MOSAIC)」公式ページ(施行日:フェーズI 2025-10-22/フェーズII 2026-07-24). https://www.faa.gov/aircraft/MOSAIC
- FAA「MOSAIC Fact Sheet」. https://www.faa.gov/newsroom
- AOPA「MOSAIC Explained: FAQ」. https://www.aopa.org/
- EAA「Sport Pilot 2.0 (MOSAIC)」. https://www.eaa.org/
- 各種解説(適合手段MOC案の意見公募:2026年7月16日公表・8月17日締切). Gleim Aviation/AeroTime ほか.
※ 本稿は2026年8月1日時点の公開情報に基づく。適用の可否や細目は、必ずFAAの一次資料および有資格の専門家でご確認ください。VS0/VH=失速・最大水平速度、KCAS=較正対気速度ノット。
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