皆さんこんにちは!
今日の読売新聞の朝刊の一面(左上)に「パイロット訓練短縮」という記事が載って
いました。これは、読売新聞のスクープと言っても良いですね。ちなみに読売新聞は
航空関係に精通している番記者(特定の取材対象者に密着して取材を行う記者のこと)
がいるそうです(うわさ)。2002年1月のJAS(日本エアシステム)とJAL(日本航空)
との合併も読売新聞のスクープでした。
パイロット不足
パイロットになるには
パイロットになるには、免許が必要です。自動車と同じですね。
免許には、固定翼(翼のある飛行機)と回転翼(ヘリコプター)に大別できます。
それぞれ、自家用操縦士、事業用操縦士、定期運送用操縦士の免許があります。
自家用操縦士:航空機に乗り込んで無償(お金を貰わない)で操縦できる免許
事業用操縦士:航空機に乗り込んで報酬(お金を貰う)を受けて操縦できる免許
定期運送用操縦士:機長として航空運送事業用の航空機(旅客機)を操縦できる免許
この様になります。
自動車でいうと、自家用操縦士は自家用車(第一種免許)、事業用操縦士はタクシー
(第二種免許)、定期運送用操縦士はバスなど(大型二種免許)のイメージです。
パイロットの道のり
日本で旅客機のパイロットになるには、大まかに次の4つの方法があります。
- 航空大学校(独立行政法人)
- 民間大学校(東海大学、法政大学、崇城大学、桜美林大学など)
- 個人で全部のライセンスを取得する
- 航空会社の自社養成
今はほとんどありませんが、自衛隊からのパイロットが民間航空会社に就職する
割愛(かつあい)というものがあります。この制度は、日本の民間航空が始まっ
た頃(1970年代ごろ)からバブル期(2000年代前半)まで、パイロット不足を
補うために当時の防衛省と民間航空会社との間で結ばれた制度です。
とりあえず、日本の民間航空会社に就職するには最低でも事業用操縦士の免許が
必要です。
その中でも、エンジンが1つ(単発)の免許を取ってから、エンジンが2つ以上(多発)
の免許を取る必要があります。
そして、雲の中でも飛べる計器飛行の免許を取らなければいけません。
では、それぞれの道のり(課程)を見ていきましょう。
これは、航空大学校のカリキュラムです。(航空大学校HPより抜粋)
1.宮崎学科課程
|
2.帯広フライト課程
|
3.宮崎フライト課程
|
4.仙台フライト課程
|
まずは宮崎キャンパスで5カ月間の学科教育を受講。そして帯広キャンパスにおいてシングル
エンジン機(単発)の飛行機を使用してのフライトトレーニングを開始、6カ月で自家用ライ
センス相当のテクニックをマスターします。
続く6カ月間は再び宮崎キャンパスでのフライト課程。ここでは事業用ライセンス相当、つま
りプロパイロットとしてのより高度なテクニックや判断力をマスターするのが目的です。
そして最終課程は仙台キャンパス。ここではレシプロ双発機(多発)の飛行機を使用し、計器
飛行をマスターします。この仙台キャンパスでの7ヶ月間のフライトトレーニング(この間に、
エアラインの入社に向けた試験も開始される)を終えれば卒業できます。
卒業時の取得ライセンスは「飛行機・事業用操縦士(陸上単発・陸上多発)」そして「計器
飛行証明」です。
航空大学校では、座学の時間も含めて24ヶ月(2年間)ですが、実際には訓練と試験だけで
16ヶ月かかります。また、それぞれ事業用操縦士(単発、多発)、計器飛行と試験を受けなけ
ればなりません。特に計器飛行の試験は難関です。
そして今回、国土交通省がこの旅客機のパイロットの訓練を短縮すると発表しました。
3つの訓練と試験を一本化して、期間も13ヶ月に短縮する計画です。
それではなぜ、この様なことをしなければいけないのでしょうか?
パイロット2030年問題
コロナも収束の兆しが見え、規制が緩和されてきました。それに伴い航空需要も
コロナ前までの水準まで徐々に回復してきました。一部中国など規制があるものの
国際線の便数も増えてきて、我々パイロットも忙しくなってきました。
しかしこれとは別に、パイロット2030年問題というものがあります。
航空会社のパイロットの定年は68歳です。(一部65歳のところもあります)
日本の航空会社に勤務するパイロットは、6800人と言われています。そのうち50歳以上が
全体の約4割を占めており、今後大量に退職することが予想されています。そのピークが
2030年と言われています。しかし、実際にはもっと早く起こるかもしれません。
それは、60歳を超えると身体検査基準が厳しくなるのです。60歳までは年1度の身体検査
を受けなければいけません。60歳を超えると半年に1回になります。当然のことですが
年齢を重ねるごとに人間の体は衰えてきます。身体検査に合格する確率が減ってきます。
中国など一部の国では60歳以上は飛ぶことができないのです。それは外国の航空機であっ
ても同様の扱いです。理由は中国はパイロットの定年が60歳だからだといわれています。
私が中国の航空会社に勤めていた頃、中国人のパイロット曰く、「中国は人口が多く、
パイロットの数も半端なく多い。早く上の人(歳をとった人)が辞めなければ我々が機長
にはなれない。」それが理由の一つかはわかりませんが、中国では定年が60歳です。
パイロット不足の原因
パイロット不足は、日本に限ったことではありません。アメリカや中国なども慢性的に
不足しているのです。2020年から2023年にかけては、コロナで航空業界は大きなダメ
ージを受けました。中にはパイロットやCA(客室乗務員)大量解雇される始末でした。
しかし航空需要の回復と共に、パイロット不足が再燃し、アメリカでは一部の便が止ま
ってしまうほどでした。
近年、パイロット不足の原因とされているのが、格安航空会社LCCの台頭です。
LCCは、小型の飛行機(エアバス320やボーイング737など)を使用して、低コストで
地方空港を中心に勢力を伸ばしてきました。これにより、旅行客は低運賃で旅行に行ける
ようになり、誰もが飛行機に乗れるようになりました。そして路線を拡大して、便数を増
やした結果、大量のパイロットが必要になってきました。大型機でも小型機でも1機あたり
のパイロットの数は同じです。特に中国は、コロナ前の2010年代後半には海外から大量の
パイロットを高額の報酬を払って雇っていました。私の知り合いも何人か働いています。
パイロットになりたい人の減少も問題です。
私の子どもの頃は、将来なりたい職業ランキングの上位には必ずパイロットが入っていました。
現在はこの通り、トップテンにも入っていません。悲しいことです。
理由は、飲酒問題や勤務の厳しさ(身体検査、長時間勤務)などが上げられます。
確かに、飲酒制限は厳しくなりましたし、徹夜でフライトすることも増えました。
長時間勤務で家族との時間も減ってしまっていることも原因なのかもしれません。
そして何と言っても、訓練にお金がかかることです。
先ほどの航空大学校の授業料だけでも400万円かかります。それに生活費などを合わせると
1000万以上はかかります。民間の大学でも2000万は下りません。ましてや個人で全ての
ライセンスを日本で取るとなると益々高額になります。しかも、苦労して免許を取っても
航空会社が採用してくれるとは限りません。
そんなこんなで、2023年以降も慢性的なパイロット不足は解消しないでしょう。
パイロット不足解決法
訓練期間の短縮
今回、国土交通省が提案した訓練効率化方針のように、訓練時間と費用を軽減する
ことは極めて有効だと思います。実は、訓練期間の短縮と試験回数の減少は国土交通省
にとってもメリットがあります。試験の回数が減ればそれだけ試験を審査する試験官
の数も減るわけです。これで国土交通省としても試験官の人員不足解消と経費削減に
なるのです。
パイロットの魅力の発信
なぜ最近、パイロットになりたいと思う人が少なくなってしまった原因の一つに
パイロットに魅力が無くなっているからだと思います。それは、パイロットという
職業を正しく理解していない、魅力をわかってもらっていないと思います。
昨年のサッカーワールドカップで一段とサッカー人気が上がり、競技人口も増え
なりたい職業ランキングでも1位です。野球にしても今年はWBCが有りますので
益々人気が上がるでしょう。最近の傾向としてユーチューバーなどインターネット
やメディアを通じて情報を発信しています。
一つに、幼い頃からサッカーや野球などのスポーツに取り組んで、身近に感じている
ことが大切です。そして、ユーチューバーなど常にメディアで発信していることが
必要です。パイロットも、飛行機に触れる(乗れる)ことが魅力回復の方法だと考えます。
そこで私の提案は、LSAの活用です。
LSAの活用
LSAとは、Light Sports Aircraft:軽量飛行機のことです。
LSAは、アメリカやヨーロッパなどの航空先進国や中国などにもある小型飛行機です。
LSAに乗るにはもちろん免許が要りますが、自家用操縦士免許よりは簡単に取得でき
機体自体の金額も決して高くなく、誰でもが飛行機に親しむことができます。
アメリカの例でいきますと、自家用操縦士免許は17歳からですが、LSAは16歳から
取れます。近年、事故が多発しているモーターグライダーや軽飛行機(いずれも免許は
要りません)に比べて、訓練を受けているので安心です。また飛行機の性能も向上して
いて、世界一周飛行や2点間の飛行も可能です。
海外では、大手の航空会社や軍が、訓練用に使用しています。
サッカーや野球のように幼い頃から飛行機に親しむことで、パイロット人口の増加
に繋がると思います。例えば、F1レーサーが幼い頃からゴーカートなどで訓練した
ように。
また、自衛隊のブルーインパルスやエアレーサーの室屋義秀さんのようにメディアに
積極的に出て、裾野を広げている方々もいます。
私も、まだまだ微力ながら、皆さんに飛行機の魅力を発信できるように頑張ります!
それでは今日はこの辺で・・・
またお会いできる日を楽しみにしています。
コメント