皆さんこんにちは!
先日、シンガポール航空が乱気流に遭って死傷者が出た事故が起きました。この事故の原因は
まだ調査中ですが、恐らく上空の乱気流の影響です。
乱気流は、雲が無い場所での晴天乱気流(CAT)、雷雲などの雲中または近くを飛行したと
きに起こるものがあります。一方で人工的に飛行機が作る乱気流があります。
今日は、その飛行機が起こす『後方乱気流』についての研究です。
高高度での後方乱気流への遭遇、パート 1
スペース シャトルの輸送に利用された NASA 747 が、後流渦の研究に使用されました。後流渦の視覚画像を提供するために、747 の翼の下に 6 つの煙発生装置が設置されました。
渦は巡航飛行の要因ではないという誤解がよくあります。後方乱気流に遭遇する大半
は飛行の終末段階で発生しますが、筆者による Flight Safety Foundation の調査では
NASA 航空安全報告システム (ASRS) の後方乱気流報告の 13% が高高度巡航飛行中
に発生していることがわかりました。
高度での後方乱気流の遭遇の独特な特徴により、航空機の乗員だけでなく、航空機の
構造的完全性に対するリスクが高まります。次の ASRS レポートは、「クロストラッ
ク ペネトレーション」を示しています。これは、後続の航空機が別の航空機の後方を
鋭角で横切ったときに発生します。
「当社のガルフストリーム IV は、乗務員 3 名と乗客 2 名、会長とその妻を乗せて、
ニュージャージー州テターボロからフロリダ州フォート マイヤーズ (FMY) への定期
夜間飛行に出発しました。この飛行は CAVU で、風は穏やかでした。到着時、サラソ
タの南 FL250 付近で、マイアミ センターから、マイアミに向かう途中の 757 機が右
から左に横切るのが見えるかもしれないと通知がありました。757 機がかなり前方を
横切るのが見えたので、目視確認もしませんでした。突然、高度約 15,000 フィート、
300 ノットで、別の航空機か、機内で爆発が起きたと思ったものに衝突しました。
この衝撃は、19,964 時間の飛行時間でも、その他の物理的な遭遇でも経験したことの
ないものでした。まるで 20 フィートの厚さのコンクリートの壁に 300 ノットで衝突
したかのようでした。」
クロストラック遭遇時の航空機への衝撃は、航空機の速度、翼面荷重、翼後退角に応じ
て、短時間ではありますが、激しいものとなります。この ASRS レポートでは、これ
らの遭遇により、保護されていない客室乗務員と乗客が受ける予期せぬ外傷も明らかに
しています。
「幸運にも、我々は降下範囲内チェックリストを完了していました。ハーネスを装着し
客室のシートベルトサインも点灯していました。コックピット内の動くものはすべて
動きました。マニュアル、クリップボード、整備記録などです。操縦桿に固定されて
いた鋼鉄の進入プレートホルダーまでもが持ち上がり、私の顔に当たりました。
一瞬全電源が失われたと思いましたが、そうではありませんでした。ガルフストリーム
の損傷がまだ不明だったため、速度を 200 ノットに落としました。客室と乗客を確認
するために戻り、ドアを開けると、完全な惨事の恐怖がすべてそこにありました。割れ
た陶磁器、砕けたクリスタルガラス製品、銀食器、収納されていたトレイテーブルさえ
もサイドキャビネットから持ち上がり、客室内を飛び回っていました。さらに重要なこ
とに、客室乗務員が負傷し、会長夫人がひどい痛みで床に横たわっていました。2 人と
も天井に投げ出され、一瞬のうちに床に叩きつけられました。私は事前に救急車を要請
し、医療上の緊急事態に対する特別対応の優先権を申請しました。会長夫人の 12 番目
と 14 番目の椎骨が骨折し、全治まで 1 年かかりました。客室乗務員は治療を受け、
重度の打撲傷を負った状態で退院しました。」 [NASA ASRS レポート番号 265754、
1993 年 12 月]
高高度の危険因子
近年、高高度の後方乱気流に遭遇する件数が増加している要因はいくつかあります。
これには、反対方向の航空機が垂直方向に 1,000 フィート離れる RVSM (Reduced
Vertical Separation Minimum) の確立が含まれます。Eurocontrol が分析したデー
タによると、高高度の後方乱気流に遭遇した航空機の約 4 分の 1 は、垂直方向の分
離が 1,000 フィートの水平飛行中の航空機によるものでした。
2 つ目は、航空交通量の増加です。航空機の移動回数が増えると、後流渦に遭遇する
リスクは 2 乗的に増加します。つまり、交通量が 20% 増加すると、後流渦に遭遇す
る回数が 44% 増加することになります。
3 つ目は、衛星ベースの GPS によってナビゲーションの精度が向上したため、北大
西洋などのルートを飛行する航空機は、水平方向の偏差がほとんどなく、正確に同じ
横方向の経路をたどるようになりました。
4 番目の要因は、高高度における航空機の重量がかなり重いことです。「重量級」の
航空機は、激しい後方乱気流を引き起こすほど強い後方渦を発生させる可能性があり
ます。
5 番目の要因は、航空交通構成の変化であり、現在では「超軽量ジェット機」と
「超重量機」が含まれています。中型、軽量、超軽量の航空機の導入による航空交通
構成の多様化により、高高度の後方乱気流に遭遇するリスクがさらに高まります。
もう一つの要因は、高高度での航空機の速度です。実対気速度 460 ktas は、わずか
2 分で 15 nm を少し超える距離を移動することになります。ユーロコントロールに
よる FL285 以上の後方乱気流遭遇の分析では、最も重大な遭遇は 15 nm 以内の距離
で報告されていますが、25 nm で発生したものもあります。
この記事のパート 2 で説明するように、「クリーンな」翼から形成される一貫した渦
内では、一般的に乱流が不足しているため、より長く持続する渦が生成される傾向が
あります。
高高度での後方乱気流への遭遇、パート 2
航跡は、発生している航空機の後方 25 nm まで発生する可能性があります。最も重大な遭遇は、15 nm 以内の距離で報告されています。
高高度での高速巡航は、高高度の後方乱気流に遭遇する別の直接的なリスク要因と
なります。「クロストラック」遭遇時には、真対気速度が速いため、航空機の構造
飛行エンベロープの外側にまで及ぶ可能性のある、航空機に大きな誘導荷重係数が
発生します。
さらなるリスク要因として、飛行中の後方乱気流への遭遇は、予告なく発生し、乗員
がシートベルトをしっかりと締めていないときにも発生します。これにより、上層キ
ャビンへの衝突時に重度の脳脊髄損傷が発生する可能性が高まります。
「きれいな」翼と渦
後流渦の初期の強さは、飛行機の重量、翼幅、迎え角、構成、速度によって異なりま
す。きれいな翼と「汚れた」翼によって生成される後流渦の強さ、動き、持続時間に
は大きな違いがあります。
湿気の多い大気条件で接近中の航空機を撮影した写真をいくつか見てください。
この写真には、双渦がはっきりと写っています。航空機の翼とフラップの独自の設計
に応じて、一部の航空機では双渦が翼端ではなくフラップの外側部分から発生してい
ることに気付くでしょう。
実際に、これが後流乱気流の理解にとって重要になる理由があります。「汚れた」翼
(フラップが展開されている) は、各主要フラップ セクションの外側セクションと翼端
から一連の小さな渦を生成します。これらの埋め込まれた渦は相互に作用し、全体の
渦内に乱気流を生成します。これにより、全体の渦の強度が低下します。
対照的に、きれいな翼は単一の一貫した渦を生成します。きれいな翼から形成される
一貫した渦内には一般に乱流がないため、より長く持続する渦を生成する傾向があり
ます。
後流渦運動
ユーロコントロールがFL285以上の空域で発生した後流渦の報告を分析したところ、64%のケースで、航空機の一方または両方が上昇または下降していることが判明した。クレジット: ユーロコントロール/デルフト工科大学
後流乱気流に遭遇しないようにするには、その位置と強さを正確に予測する必要が
あります。平均すると、渦は風に流されながら毎分約 400 フィートの速度で沈みま
す。しかし、後流渦の挙動は実際には大きく異なります。
エアバスの飛行試験部門の責任者として、後方乱気流における航空機の挙動に関す
る最大規模の飛行中研究を実施したクロード・ルレール氏は、次のように述べてい
ます。「気象条件によって降下率は大きく変わる場合があり、非常に小さくなるこ
ともあります。この降下率に影響を与える主な要因の 1 つは、高度による温度の変
化です。温度逆転により降下率が制限されます。」
この降下率の変化に何が影響しているのでしょうか? 降下中、大気圧の上昇により
後流が圧縮され、その結果、後流の温度が上昇します。後流の全体的な温暖化によ
り浮力効果が生じ、特定の温度条件では、後流が降下せずに一定の高さに留まるこ
とがあります。
高高度での航跡遭遇の事後分析により、航跡渦が明らかに下降速度を上げて下降した
ことが明らかになりました。現在、この上昇した下降速度の原因が垂直下降気流や
その他の現象のどの程度であるかを正確に判断するのに十分な研究はありませんが、
これは起こり、航跡運動のこの変化に寄与しています。
渦の消散
平均して、減衰率は 2 ~ 3 分間続きます。湿度の高い状態で撮影されたビデオでは、
ポスターやプレゼンテーションでは後続の渦が予想どおりに下降するという印象を与
えますが、2 つの渦が著しくアーチ状になったり曲がったりすることがあることがわ
かります。
つまり、これらの密な核には大量のエネルギーが閉じ込められているのです。回転速
度が速い渦は、その動きに不安定さを生じ始めます。ジェット機が飛行機雲を残して
いる日に、これを自分で見ることができます。2 つの渦は、渦線がほぼ接触するまで、
その動きに波打つようになります。その後、渦は分離し、ゆっくりと消散する渦輪
の線に再結合します。これを Crowe 不安定性と呼びます。
この変化の過程で、渦のエネルギーは急速に再調整されます。この期間に航跡のある
状態で飛行する航空機は、強い横揺れではなく、航空機のランダムな動きを伴う一般
的な乱気流を経験する可能性が高くなります。
デルフト工科大学工学部とユーロコントロールが実施した「飛行中の後流渦遭遇に関
する理解の向上」と題する詳細な調査報告書によると、対流圏界面下約3,000~5,000
フィートに垂直安定性の低い大気圏があり、温度と減率の組み合わせにより後流乱気
流遭遇のリスクが高まり、後流渦の持続性が高まることが判明しました。飛行中の航
空機によって生成される後流渦は、最長3分間続くことが報告されています。
対流圏界面は一定の高度にあるわけではないことに注意することが重要です。対流圏
界面の高度は日や場所によって異なり、気象システムの影響を受けます。その推定高
度は気象図で確認できます。
この記事のパート 3 では、後方乱気流の事故が発生した場合に備える方法について
説明します。
高高度での後方乱気流への遭遇、パート 3
巡航飛行中の高速運航と RVSM 空域における標準 1000 フィートの垂直分離により、発生する航空機の後方 25 nm まで後流が発生する可能性があります。
ユーロコントロールが FL285 以上の空域で発生した後流渦の報告を分析したところ、
64% のケースで、1 機または 2 機の航空機が上昇または下降しているという組み合
わせが見られた。
後流渦は航空機の軌道に対して下降することを理解することが重要です。たとえば、
発生航空機が 1,500 fpm で上昇している場合、その後流渦は発生航空機の飛行経路
に対して 500 fpm で下降します。
報告されたケースの 27 パーセントは、垂直方向の間隔が 1,000 フィートの水平飛行
中の航空機に関係していました。後流渦が 1,000 フィート以上降下する可能性がある
場合、強力な初期降下率を生み出すには、発生する航空機が重い必要があります。
これは、離陸重量が 350,000 kg (771,617 ポンド) を超える航空機で発生する可能性
が高くなります。
第二に、大気の状態が長時間渦に適していなければなりません。そうでないと、後流
渦は次の飛行レベルに到達する前に消散してしまいます。前述のように、これらの状態
は対流圏界面より約 3,000 ~ 5,000 フィート下で発生する可能性が最も高くなります。
エアバスによる飛行試験では、パイロットが最初のロール運動に対抗しようとすると、
これらの制御偏向によって航空機が実際に渦に巻き込まれ、渦の中心と交差する位置に
置かれることが実証されました。さらに悪いことに、航空機が渦の中心に入ると、
パイロットの最初の入力によってロール運動が増幅されます。その結果、最終的な
バンク角は、パイロットが制御を動かさなかった場合よりも大きくなります。
後方乱気流に関する推奨事項
以下は、欧州連合航空安全機関 (EASA) の安全情報速報 2017-10 (2017 年 6 月
22 日)「飛行中の後方乱気流遭遇」を含む、権威ある情報源からの推奨事項をまと
めたものです。
乱気流は予告なく発生することが多いため、パイロットは客室乗務員や乗客に事前
に通知する時間が十分にありません。そのため、着席していない、またはシートベ
ルトを着用していない客室乗務員や乗客は、負傷するリスクが高くなります。
乗客へのアナウンスには、客室内を移動している場合を除き、シートベルト着用サ
インが消えている場合でもシートベルトを締めておくようにというアドバイスを含
める必要があります。これにより、航路上で乱気流に遭遇した場合(後流乱気流と
大気乱気流の両方を含む)に乗客が負傷するリスクを最小限に抑えることができます。
激しい後方乱気流のカテゴリーに属する航空機は、コールサインの直後に「Heavy」
を使用する必要があります。エアバス A380-800 の場合は、「Super」を使用します。
後流乱気流がどこにあるのかを正確に予測することは難しい場合があります。巡航飛
行中の高速運航と RVSM 空域の標準 1000 フィートの垂直分離を考慮すると、発生
した航空機の後方 25 nm まで後流乱気流に遭遇する可能性があります。最も重大な
遭遇は 15 nm 以内の距離で報告されています。
5~25 nm 以内の他の交通が前方で同様の進路をたどっている、上空を横切っている
または飛行経路を上昇または下降しているように見える場合は、航跡に遭遇する可能
性を予測してください。
渦は、空中の他の物体と同様に、風とともに移動する傾向があり、渦がどこに浮かん
でいるかを正確に予測するには、風の流れを正確に予測する必要があります。
パイロットは、コックピットのナビゲーション ディスプレイで実際の風の情報 (方向
と速度) を確認できます。高度での風速は、100 ノット以上になることがよくありま
す。100 ノットの風で発生する航跡は、2.5 分で 4.1 nm 漂います。航跡に遭遇する
リスクが疑われる場合は、風上側の横方向オフセットを使用する必要があります。
EASA は、発電機付き飛行機の上昇率や下降率が変動するため、渦の位置を正確に
予測することが難しいことをパイロットに注意喚起しています。パイロットは、
付近の他の航空機が前方で同様の軌道をたどっている、高度を超えて横切っている、
飛行経路を進んで上昇または下降していると思われる場合、後流に遭遇する可能性が
あることを想定する必要があります。可能であれば、上空からより混雑した航空機を
横切るために飛行高度の変更を要請することを検討してください。
パイロットは、他の交通や気象条件に関して高い状況認識力を持つことが重要です。
パイロットが利用できるツールには、コックピットのナビゲーション ディスプレイ
無線通信、および対流圏界面情報に関する重要な天気図などがあります。
さらに、パイロットの目による大気環境のスキャン(凝結雲の発達と消散の観察を
含む)は、飛行乗務員が航跡を視覚化し、飛行経路が交差するかどうかを予測する
のに役立ちます。
まとめ
上空で飛行機雲を見ることがパイロットの義務みたいなものです。それは、飛行機雲
の状態で、その高度が揺れているのかを判断するのと、後方乱気流に注意すること
です。
その他、管制から交差する他機の情報をもらいます。また、コックピットの画面上に
他機の情報(高度、上昇、降下)がわかります。常に必要な情報を収集することが
自分の身を守ることになるのです。特に、空港に侵入するときに前方機より低高度
に行かないように行かないようにすることや、風向きや風の強さを考えて適当な
距離をとっています。
そのセンスは、長年の経験や上記のような知識より得ることです。
それでは今日はこの辺で・・・
またお会いできる日を楽しみにしています。
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