皆さんこんにちは!
UAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビと産業の中心ドバイで、アーチャーとジョビーの2大eVTOL企業が覇権争いをしています。
それそれの都市の思惑と企業の思惑が交錯する複雑な関係です。
アーチャー、アブダビでミッドナイトeVTOL機のプロトタイプを飛行
アーチャーのミッドナイトeVTOL機は、2025年7月2日にアブダビのアルバティーン・エグゼクティブ空港で初試験飛行を行った。©アーチャー・アビエーション
カリフォルニアを拠点とする航空機メーカー、アーチャー・アビエーションは7月2日、
アブダビのアル・バティーン・エグゼクティブ空港でミッドナイトeVTOLプロトタイプの試験
飛行を開始したと発表しました。これは米国外での初飛行となります。UAEでの飛行試験
作業は、今週の気温が華氏100度(摂氏約37.8度)近くまで上昇した高温多湿で埃っぽい環境での航空機の性能評価に重点が置かれます。
「真夏に実際の運用条件で航空機をテストすることで、UAEと米国の両方で商業化と認証の
取り組みを進めるために必要なデータが得られます」とアーチャーのCEO、アダム・ゴールドスタイン氏は語りました。
アーチャーは2023年からカリフォルニアでミッドナイト機の初号機の飛行試験を行っており
まずは遠隔操縦飛行から開始しています。有人飛行は先月カリフォルニアで開始されましたが
アブダビでの初飛行には無人のミッドナイト試験機を使用しました。アーチャーによると、
この4人乗りの有人eVTOLエアタクシーは来年初めにUAEで商用運航を開始する予定で、
ブダビ・アビエーションが 同社のローンチ・エディション・プログラムを通じて運航する予定です。
最初の試験飛行には、UAEの民間航空総局、アブダビ投資庁(ADIO)、統合運輸センター、
アブダビ航空局、アブダビ空港の幹部職員が立ち会いました。UAE当局は最近、アブダビ・
クルーズターミナルと併設するハイブリッド・ヘリポートの設計をザーイド港に承認しました。
「今回の飛行は、先進的な都市型航空モビリティで世界をリードするというアブダビの野望の
実現に向けた重要な一歩です」と、ADIO事務局長のバドル・アル・オラマ閣下は述べまし
た。「スマート・自動運転車産業(SAVI)クラスターを通じて、アーチャーのような企業が
次世代航空モビリティソリューションを試験、認証、そして拡張できるようにすることで、
イノベーションの世界的な発射台、そして変革をもたらす技術のハブとしての私たちの地位を強化していきます。」
ジョビーはドバイ飛行でeVTOL業界をリードし、来年には商用飛行に向けて準備を進めている
ジョビー・アビエーションは今週、同社のeVTOL機がドバイで一連の有人飛行を成功さ
せ、同地域での商業市場への準備の始まりとなる歴史的な節目を発表したとプレスリリースで報じています。(7月2日)
eVTOL業界初となるこの取り組みは、来年の初旅客輸送開始に向けて、ジョビーの準備をさら
に強化するものです。このマイルストーンは、ジョビーの3本柱からなる商業化戦略における重要な一歩でもあります。
:直接操作
: 航空機販売
: 地域パートナーシップ
ジョビーの創設者兼CEOであるジョーベン・ベバート氏は、「アラブ首長国連邦は、旅行の
あり方における世界的な革命の出発点です。高性能な航空機の製造に加え、グローバルな
運用能力と拡張性と耐久性に優れた製造体制を駆使し、将来を見据えた旅客サービス提供に向けたプログラムを成熟させてきました。」と述べています。
同氏はさらに、「当社のドバイでのフライトと事業展開は、クリーンな飛行が新たな常識とな
る世界中の日常生活にエアタクシーサービスを組み込むための画期的な一歩です」と述べました。
マタール・アル・タイヤ閣下
ドバイ道路交通局の局長兼執行役員会会長のマタール・アル・タイヤ閣下が、ドバイでの初のテスト飛行に立ち会いました。
同氏は、「今回の飛行試験は、急速な世界的変化に対応し、新たなモビリティの課題に対する
将来を見据えたソリューションを開発するというドバイの取り組みを強調するものです。
エアタクシーは、市内の主要目的地へのスムーズで迅速、かつ安全な移動を求める住民や
訪問者に、新たなプレミアムサービスを導入することになります」と述べました。
アル・タイエル氏はさらに、「このサービスは、公共交通機関や電動スクーター、自転車な
どの個人の移動手段との統合も強化し、ドバイ全域でのシームレスな複合移動と接続性の向上
を可能にし、すべての乗客にとってスムーズで便利な体験を保証します」と述べました。
プレスリリースには、「この成果は、ジョビーとドバイ道路交通局(RTA)、ドバイ民間
航空局(DCAA)、そしてUAE総合民間航空局(GCAA)との協力によって実現しました。
2024年にRTAと締結した画期的な契約に基づき、ジョビーはドバイにおける6年間のエア
タクシーの独占運航権を付与されました。この契約により、ジョビーは交通の未来を形作る
最前線に立つこととなり、先進的な航空モビリティにおけるUAEのリーダーとしての役割を強化することになります」と記されています。
ジョビーはドバイ国際空港(DXB)、パーム・ジュメイラ、ドバイ・マリーナ、ドバイ・
ダウンタウンで商業サービスを導入する予定で、Vポート(離発着場)の建設はすでに始まっています。
例えば、ドバイ国際空港(DXB)からパーム・ジュメイラへの移動はわずか12分と予想され
ており、車で45分かかる移動時間がほんの一部に短縮されます。ジョビーの航空機は、パイ
ロット1名と乗客4名を最高時速200マイル(約322km)で輸送できるよう設計されており、
騒音を最小限に抑え、運用中の排出ガスもゼロです。これにより、短距離の通勤、迅速な移
動、そして地域内をシームレスに移動するための、より高速で静かで便利な空の旅を提供します。
4万マイル(6万5000km)を超える飛行テスト、有人飛行の成功、複数航空機の運用の
実証により、ジョビーはクリーンで静かで高速な空の旅を日常の現実にするというビジョンに近づき続けています。
アブダビとドバイの関係性
アブダビとドバイは、UAEを構成する7つの首長国の中でも中核的な存在であり、それぞれが国の異なる側面を担っています。
アブダビ首長国:
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- 首都: UAEの首都であり、政治の中心地です。
- 面積と資源: UAE全体の約80%を占める広大な面積を持ち、豊富な石油資源を有しています。UAEの連邦予算の約8割をアブダビが負担しており、実質的に他の首長国(特に北部5首長国)を財政的に支える役割も担っています。
- 産業: 主に石油・ガス産業が中心であり、政治・外交の中心地でもあります。
ドバイ首長国:
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- 経済の中心: 石油に大きく依存しない経済多角化を進め、商業、貿易、金融、観光、不動産、エンターテイメントの中心地として発展してきました。
- 発展性: 近未来的な建築物や世界的なイベント、大規模な商業施設で知られ、国際的なビジネスハブとしての地位を確立しています。
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両首長国の関係性の変化
かつては、ドバイがアブダビに対して対抗意識を持つ時期もありました。しかし、2008年の
世界金融危機(通称「ドバイショック」)でドバイが大規模な債務危機に陥った際、アブダビ
が多額の金融支援を行い、ドバイを救済しました。この支援を象徴するのが、世界一高い
ビル「ブルジュ・ハリファ」の名称です。当初「ブルジュ・ドバイ」と名付けられる予定で
したが、アブダビの当時の首長であるハリファ氏に敬意を表して現在の名称に変更されました。
現在、アブダビは「政治、石油、外交」の中心、ドバイは「経済、商業、観光」の中心として
それぞれが異なる強みと役割を持ち、互いに協力し合いながらUAE全体の発展を牽引する
「両輪」の関係を築いています。両都市間は車で約1~2時間ほどの距離にあり、密接に連携しています。
まとめと解説
ではなぜ、仲の良い2つの都市が違う企業を誘致しているのでしょうか?
同じ国内で競わせる必要性とメリット
各首長国の戦略的ニーズに合わせた誘致:
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- ドバイはeVTOLの商業運航と観光利用を最速で実現したいと考えており、ジョビーが提供するような即時的なサービス展開に魅力を感じているでしょう。
- アブダビは、eVTOL技術の研究開発や製造、長期的な産業育成を見据えており、アーチャーのような広範なパートナーシップや技術開発への投資を引き出したい可能性があります。
- 同じeVTOLでも、ジョビーとアーチャーは技術開発の段階、ビジネスモデル、提携戦略が異なります。それぞれの首長国が自国の戦略的ニーズに最も合致するパートナーを選定するために、複数の選択肢を比較検討するのは自然な流れです。
競争による最良条件の引き出し:
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- 両社を競わせることで、それぞれのeVTOL企業から**より有利な条件(投資、技術移転、雇用創出、早期のサービス開始など)**を引き出すことができます。企業側も、誘致の熱意が高いほど、より積極的な提案を行うインセンティブが働きます。
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リスク分散と技術多様性:
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- eVTOL技術はまだ発展途上であり、どの企業が最終的に成功するかは不透明です。複数の企業と関係を持つことで、特定の企業への依存リスクを分散できます。
- また、異なる技術やアプローチを持つ企業を誘致することで、将来的により多様なモビリティソリューションを国内に確保できる可能性も生まれます。
連邦制の特性と首長国の自立性:
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- UAEは連邦制であり、各首長国には高い自治権と独自の予算、開発計画があります。連邦政府が全ての経済活動を中央集権的にコントロールするのではなく、各首長国が自らのビジョンに基づき、競い合いながら発展を追求することが、UAE全体のダイナミズムを生んでいます。eVTOLの誘致も、この首長国間の健全な競争の一環と見ることができます。
メディアへの露出とブランディング:
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- 世界的に注目されるeVTOL技術の誘致合戦は、ドバイとアブダビ双方の「未来志向の都市」としてのブランディングに貢献します。どの首長国が先に、あるいはより大規模なeVTOLサービスを開始できるかは、国際的なイメージ向上にも繋がります。
このように、一見すると無駄な競争に見えるかもしれませんが、UAEの戦略的背景と各首長国
の特性を考慮すると、ジョビーとアーチャーをそれぞれ誘致しようとする動きは、将来を見据
えた多角的な投資とリスク分散、そしてより良い条件の引き出しという点で合理性があると言えるでしょう。
そして気になるのが隣国、サウジアラビアです。
サウジアラビアとUAEの関係性
サウジアラビアとUAEは、アラビア半島に位置する湾岸協力会議(GCC)加盟国であり、スンニ派イスラム教国という共通点を持つ、最も影響力のあるアラブ諸国の2つです。
歴史的・地政学的関係:
- 同盟関係: 歴史的に、両国は地域安全保障における重要な同盟国であり、特にイランの地域的影響力拡大への対抗という点で協力関係を築いてきました。イエメン内戦への介入など、軍事・安全保障面での連携も行ってきました。
- 部族・宗教的つながり: 両国は同じスンニ派イスラム教スンニ派(ワッハーブ派)を国教とする国家であり、部族的なつながりも深く、王家間の婚姻関係もあります。
- 経済的共通点: 共に石油・ガス資源が豊富な産油国であり、OPECプラスにおける主要な意思決定国でもあります。
近年の「協力と競争」: 近年、特にムハンマド・ビン・サルマン皇太子が主導するサウジアラビアの「ビジョン2030」の下で、両国の関係には「競争」の側面が色濃くなっています。
- 経済多角化の競争: サウジアラビアは石油依存からの脱却を目指し、ドバイが先行して成功した観光、エンターテイメント、テクノロジー、金融などの分野で大規模な投資を行っています。これは、これまで地域で独走してきたドバイや、安定した金融拠点であるアブダビにとって、強力な競争相手の出現を意味します。
- 例えば、サウジアラビアはリヤドを地域のハブにする計画を進めており、多国籍企業の地域統括本部をサウジアラビアに移転させる政策なども打ち出しています。これは、ドバイの地位を脅かす可能性を秘めています。
- 投資とビジネス誘致: 両国は、世界中から投資や人材を呼び込むために、税制優遇、ビジネス環境の整備、大規模プロジェクトの推進などでしのぎを削っています。
- 地域リーダーシップ: サウジアラビアとUAEは、それぞれがアラブ世界やイスラム圏におけるリーダーシップを追求しており、外交政策において独自の立場を取ることも増えています。
しかし、両国は根本的な安全保障上の利益を共有しており、水面下では引き続き連携を保っ
ています。この「競争」は、互いを刺激し、改革と発展を加速させる「健全な競争」の側面も持ち合わせています。
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