皆さんこんにちは!
航空機はパイロットの意図とは相反する姿勢になることがあります。
その時、冷静に自分(航空機)の状態を瞬時に判断し、正常な姿勢に戻すことが重要です。
それにはURTP訓練「Upset Recovery Training Program」(異常姿勢回復訓練プログラム)です。
URTP訓練
URTP訓練(Upset Recovery Training Program)は、航空機が通常では想定されない
異常な姿勢(Upset)に陥った際に、安全に回復させるための操縦技術と判断力を習得する訓練プログラムです。
「Upset」とは: 航空機が以下の状態になることを指します。
- 異常なピッチ姿勢: 機首が異常に上がったり下がったりする状態(例:急な失速、急降下)
- 異常なロール姿勢: 翼が異常に傾く状態(例:急激なバンク角の増加)
- 適切な速度からの逸脱: 規定された速度域から大きく外れる状態(例:失速速度以下、設計最大速度以上)
訓練の目的:
- 異常姿勢の認識: 航空機がUpset状態にあることを早期に正確に認識する能力を養う。
- 回復操作の習得: 異常姿勢から安全に回復するための適切な操縦操作(例:失速回復、スピン回復など)を習得する。
- 判断力の強化: 異常事態に直面した際に冷静に状況を判断し、適切な手順で回復操作を行う能力を高める。
- 予防策の理解: Upset状態に陥ることを防ぐための知識(空力、システム、人的要因など)を深める。
訓練の内容:
- 座学: 航空力学、Upsetの種類とメカニズム、回復手順、人的要因など。
- シミュレーター訓練: 専用のフライトシミュレーターを使用し、様々なUpsetシナリオ(失速、スピン、急降下、急上昇など)を経験し、回復操作を繰り返し練習します。
- (場合によっては実機訓練): 特定の機種や訓練によっては、実機を用いて安全な高度と環境下で一部のUpset状態を体験し、回復操作を行うこともあります。
この訓練は、特に大型旅客機のパイロットにとって非常に重要であり、国際的な航空
安全基準(ICAOなど)によってその導入が推奨されています。過去の航空事故の中には、
Upsetからの回復ができなかったことが原因とされるものもあり、この訓練によって事故のリスクを低減することが期待されています。
事故事例
- アエロフロート航空593便墜落事故 (1994年3月23日)
- 概要: ロシアのシベリア上空を飛行中に発生。機長が自分の子供たちをコックピットに連れ込み、オートパイロットを解除して操縦桿を握らせた結果、機体は危険なバンク角に達し、失速・急降下。パイロットは状況を認識したものの、適切な回復操作を行えず墜落しました。
- 教訓: パイロットは異常姿勢に陥っていることを認識するのが遅れ、さらに回復操作についても知識が不足していたことが指摘されました。ヒューマンファクターと、非常時の操縦能力の欠如が重なった事故としてURTPの必要性が強調されました。
- アメリカン航空587便墜落事故 (2001年11月12日)
- 概要: ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港を離陸直後、他機のウェイクタービュランス(後方乱気流)に遭遇。副操縦士が過度なラダー操作を繰り返した結果、垂直尾翼が分離し、機体は制御不能となり住宅地に墜落しました。
- 教訓: ウェイクタービュランスという異常事態に対する過剰な操縦(特にラダー操作)が機体構造に過大な負荷を与え、致命的な破損に繋がった事例です。Upset状態での適切な操縦入力の重要性が再認識されました。
- エールフランス447便墜落事故 (2009年6月1日)
- 概要: ブラジルからパリへ向かう途中、大西洋上で失速し墜落。ピトー管の着氷により対気速度計が一時的に不正確になったことがきっかけで、パイロットが意図せず機体を失速状態に陥らせてしまいました。その後の操縦で、機首上げ操作を継続してしまい、回復可能な状況にもかかわらず失速状態を維持し続けて墜落に至りました。
- 教訓: 「オートパイロット解除後の手動操縦への移行時の認識不足」、「計器情報が混乱した状況での状況認識の困難さ」、「失速に対する誤った回復操作(機首上げを継続)」が複合的に重なった事故です。Upset状態の認識と、失速回復の基本操作の徹底がURTP訓練で特に強調されるきっかけとなりました。
- トランスアジア航空235便墜落事故 (2015年2月4日)
- 概要: 台北を離陸直後、エンジンの不具合が発生。しかし、パイロットは正常に作動しているエンジンを停止させるという誤った操作を行い、両エンジンを停止させてしまいました。その後、機体は失速し、回復不能な状態に陥って川に墜落しました。
- 教訓: エンジン停止という異常事態(Upsetの原因となる可能性のある事象)への対応において、状況認識の誤りから致命的な誤操作に至った事例です。システム異常からのリカバリーと、その後の機体制御の重要性を示しました。
これらの事故は、航空機が通常とは異なる姿勢や状況に陥った際に、パイロットが適切に
状況を認識し、適切な判断と操作を行うことの極めて重要性を示しています。URTP訓練は
これらの教訓を基に、パイロットが不測の事態にも対応できる能力を向上させるために
開発され、現在では多くの航空会社で必須の訓練となっています。
オムニとアンリミテッド・エアロバティクスがUPRTトレーニングで提携
ポルトガルで高度な不調予防と回復トレーニングを初めて実施
オムニ・アビエーションのパイロットはエクストラ300を使って高度なUPRT訓練を行っています。
ポルトガルのリスボンにあるオムニ・アビエーション・トレーニング・センター
(OATC)は、アンリミテッド・エアロバティクスと提携し、高度アップセット防止・
回復訓練(A-UPRT)コースを提供しています。A-UPRTは、アンリミテッド・エアロバテ
ィクスのエクストラ 300ピストン単発機で実施され、+/- 8Gまで認定されています。
UPRTは欧州の新規事業パイロットに義務付けられており、OATCによると、ポルトガルで
この上級編が提供されるのは今回が初めてです。この訓練は、パイロットが異常事態を認識
して対処し、飛行中の制御不能(LOC-I)の可能性を回避する方法を指導することで、予防
に役立つように設計されています。LOC-Iは依然として航空事故による死亡者の主な原因となっています。
同社によれば、アンリミテッド・エアロバティックス・コースには「異常姿勢や失速回復に
関する理論的知識と実践経験が含まれており、予期せぬ状況に対処する独自の自信を養う
ことでパイロットの飛行範囲が広がります」とのことです。
「OATCはパイロット訓練の新たな基準を打ち立てています」と、オムニ・アビエーション
の訓練責任者であるディラン・ファン・ハーセン氏は述べています。「アンリミテッド・
エアロバティクスとの提携により、ポルトガルで最も先進的かつ効果的なA-UPRTプログ
ラムを提供できます。私たちの目標は、単に規制を遵守することではなく、受講生がコック
ピットでの自信、回復力、そして安全性を育むための最良の準備を提供することです。
アンリミテッド・エアロバティクスとの共同でこのプログラムを提供することは、まさにその理念の延長線上にあるのです。」
空の緊急事態に備えよ!「URTP訓練」は大型機だけじゃない!グライダーも小型機も、そしてアクロバット機が救う命がある!
一般的には、大型旅客機のパイロットが受ける訓練として知られていますが、実はこの
URTP訓練、グライダーや小型機のパイロットにとっても、いや、むしろ彼らにとってこそ、命を守る上でとてつもなく重要なんです!
そして、その訓練を最も効果的に行う方法の一つが、なんと「アクロバット機」を使った実機訓練なんです!
小型機・グライダーにURTP訓練が重要なワケ
大型旅客機は、高度な自動操縦システムや複数のパイロットがいて、そうそう異常姿勢に
陥ることはありません。万が一、そうなっても回復のための膨大なマニュアルと訓練が積まれています。
しかし、グライダーや小型機はどうでしょう?
- 単独飛行が多い: 万が一の時、頼れるのは自分一人。
- シンプルなシステム: 大型機のような複雑な保護システムは限られる。
- 気象の影響を受けやすい: 小型ゆえに乱気流などの影響を受けやすい。
- 「遊び」の中に潜む危険: アクロバット飛行や曲技飛行の練習中に、意図せず異常姿勢に陥る可能性も。
これらの特性から、小型機やグライダーのパイロットが異常姿勢に陥るリスクは、大型機
よりも身近に存在します。そして、一度Upset状態に陥ってしまえば、限られた時間と
高度の中で、瞬時に状況を認識し、的確に回復操作を行う能力が、まさに生死を分けるのです。
アクロバット機が「URTP訓練」に最適な理由
「なぜアクロバット機?」と思う方もいるかもしれませんね。アクロバット機を使ったURTP訓練の重要性は、以下の点に集約されます。
安全に、あらゆる異常姿勢を体験できる! アクロバット機は、通常の飛行機では危険とさ
れる「背面飛行」「スピン」「マイナスG(体が浮き上がるような感覚)」など、あらゆる
異常な姿勢を安全に作り出し、そこからの回復を練習するために設計されています。一般的
な訓練機では体験できないような、リアルなUpset状態を安全な高度で経験できるのです。
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