最後の砦、UPRTを常識にする企業ASP

飛行機

皆さんこんにちは!

現代の航空事故の大半を占める異常姿勢による墜落。パイロットは自分の姿勢が解らず闇雲に操縦桿を引いてしまって失速になり墜落してしまうのです。

このような悲劇を回避する異常姿勢からの回復訓練(UPRT)を専門に行っているのが

アリゾナ州メサに拠点を置く世界的なUPRT専門企業であるAviation Performance Solutions(APS)

世界が求めるUPRT

世界中のパイロットたちが「最後の砦」として信頼を寄せる訓練機関、Aviation Performance Solutions(APS)

なぜ彼らは、航空業界で最も恐れられる事故原因「飛行中の制御不能(LOC-I)」に立ち

向かうことができたのか? そして、創設者ポール・ランズベリーは、いかにしてニッチ

だった「曲技飛行」のスキルを、現代のパイロットに必須の「科学的トレーニング(UPRT)」へと昇華させたのか?

今回は、航空安全の歴史を変えたAPSの軌跡と、その背後にある情熱を深掘りします。


 創設者:ポール・ランズベリーの「違和感」

APSの物語は、創設者でありCEOのポール・ランズベリー(Paul Ransbury)の経歴から始まります。

彼は元々、カナダ空軍の軍パイロットでした。軍の世界では、機体が真っ逆さまになろう

が、きりもみ状態(スピン)になろうが、そこから生還するための徹底的な訓練を受け

ます。「極限状態からの回復」は、彼らにとって当たり前のスキルでした。

しかし、彼が軍を退役し、民間の航空業界を見渡したとき、ある「致命的なギャップ」に気づきます。

「なぜ、民間のパイロットは『傾きが60度を超えたらどうするか』を習っていないんだ?」

当時の民間パイロット訓練は、「危ないことはしない(予防)」に重点が置かれ、

「もし危ない状態になってしまったら(回復)」という訓練は、驚くほど軽視されていたのです。

「エアラインパイロットがなぜ墜落するのか?」

1990年代から2000年代初頭にかけて、航空機のハイテク化が進む一方で、不可解な墜落事故が散見されるようになりました。

  • 乱気流で機体がひっくり返る

  • 自動操縦が外れた瞬間にパニックになる

  • 計器の故障で機体の姿勢を見失う

これらは全て、LOC-I(Loss of Control In-flight:飛行中の制御不能)に分類されま

す。統計上、航空機事故の死因第1位はずっとこのLOC-Iです。

ポールは確信しました。 「通常のライセンス訓練だけでは、現代のパイロットを守れない」

彼が目指したのは、単に曲技飛行(アクロバット)を教えることではありませんでした。

「アクロバットを楽しむ」のと「パニック状態から旅客機を立て直す」のでは、求められるメンタルも技術も全く異なるからです。

 曲技飛行を「科学(UPRT)」へ昇華させる

1996年、APS(当初はAviation Performance Training)が設立されます。

ポールたちが画期的だったのは、感覚的な「職人芸」だったリカバリー技術を、徹底的に

「標準化・体系化」した点です。これが現在のUPRT(Upset Prevention and Recovery Training)の原型です。

彼らはUPRTを以下の3つの柱で構築しました:

    1. アカデミック(理論): なぜ飛行機は失速するのか?空気力学的にどうすれば翼は再び揚力を生むのか?これを物理学として叩き込む。

    2. オンエアクラフト(実機訓練): Extra 300などの曲技飛行機を使い、実際に「空が見えない」「体が座席に押し付けられる」恐怖(スタートル・ファクター)を体験させる。

    3. シミュレーター(大型機への応用): 小型機で学んだ物理法則を、ボーイングやエアバスのような大型機の挙動にどう当てはめるかを学ぶ。

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彼らは、「楽しむためのループ」ではなく、「生き残るためのアンローディング(操縦桿

を押し、翼の迎え角を減らす操作)」を徹底的に教え込みました。

世界がAPSを求めた背景

当初、航空業界には「旅客機でそんな極端な操作は必要ない」という保守的な意見もありました。しかし、時代がAPSに追いつきます。

  • 2009年 エールフランス447便事故: 大西洋上で失速警報が鳴り響く中、パイロットが混乱して操縦桿を引き続け、海に墜落した悲劇。

  • 2009年 コルガン・エア3407便事故: 着氷による失速に対し、適切な回復操作ができずに墜落。

これらの事故は、「どれだけハイテク機になっても、最後の最後はパイロットの『マニュア

ル操縦能力』が生死を分ける」という事実を世界に突きつけました。

これを受け、ICAO(国際民間航空機関)やFAA(米連邦航空局)、EASA(欧州航空安全

機関)が動き出します。彼らが新たな訓練基準を作る際、その中心的なアドバイザーとして

頼ったのが、すでにこの分野で膨大なデータと実績を持っていたAPSでした。

ポール・ランズベリーの先見の明が、世界の航空安全基準(スタンダード)になった瞬間です。


 APSが教えてくれること

Aviation Performance Solutionsの成功は、単なるパイロットスクールの成功物語ではありません。

「想定外(Upset)を想定内にする」

AIや自動化が進む現代だからこそ、システムが限界を迎えた時に人間がどう振る舞うか。

その「泥臭いが生死を分けるスキル」を、論理的かつ科学的なトレーニングに落とし込んだ点に、彼らの真の凄みがあります。

現在、デルタ航空やユナイテッド航空など世界の大手エアライン、そして米軍までもが

APSのカリキュラムを採用しています。 ポール・ランズベリーが抱いた「違和感」は今、

世界中の空の安全を支える巨大な礎となっているのです。

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