皆さんこんにちは!
今年の6月16日から22日まで、パリ近郊のル・ブルジェ空港で開催されたパリエアショー2025で多くのイノベーションや商談がありました。
それから約2ヶ月、それらイノベーションはどうなったのでしょうか?
ル・ブルジェ(パリエアショー)におけるイノベーションの加速
ハイブリッド推進システムと二重防御アプリケーションの普及が加速
アンドゥリル社のXFQ-44A協働戦闘機(CCA)が、2025年のパリ航空ショーで初めて実物大で展示される © David McIntosh/AIN
「必要は発明の母」という古い格言は、高まるニーズが新技術の開発を駆り立てる原動力を指
しています。確かに、2025年6月のパリ航空ショーの雰囲気は、航空・宇宙エコシステム
全体にわたる革新的で進化し続けるイノベーションの必要性を、これまでと同様に認識させていました。
しかし、今年の展示会は緊迫感に満ち溢れており、求められるものだけでなく、技術的に実現
可能なものについても現実的な視点が根底にありました。防衛用途であれ、脱炭素化への取り
組みであれ、楽観的なレトリックは、現実的かつ迅速に実現可能なものを認識することよりも後回しにされているように思われました。
背景を説明すると、フランスの航空宇宙産業は長年、他の欧州諸国と比較して有利な資金調達
環境を享受してきました。展示会の数日前、フランス民間航空研究評議会(CORAC)は
年間2億8,500万ユーロ(3億2,500万ドル)の予算更新を発表しました。フランスの航空
宇宙産業協会GIFASによると、この予算は全国で320件以上の進行中プロジェクトを支援しています。
国と民間の資金援助は、様々な出展企業の存在からも明らかです。例えば、水素電気航空機
開発企業のブルースピリットエアロ社は、ショーの数週間前に実物大のプロトタイプを公開
しました。また、オーラエアロ社は、全電動練習機インテグラル Eで初日の飛行展示をリード
しました。両社は、フランスのオクシタニー地方やフランスの公的投資銀行BPIなどから投資を受けています。
オーラエアロ社のインテグラルE航空機:航続距離 980 km(530海里)、電気とエンジンのハイブリッド駆動システムを採用しており、環境性能と経済性を両立させています。
フランスは長年にわたり、欧州の既存企業および新興企業の発展を後押ししてきました。
しかし、世界情勢が紛れもなく戦時体制に近づいている中、地政学的緊張の高まりは、商業的
専門知識を活用したイノベーションの促進と統合の加速化を通じた企業間の連携を促進しています。
民事と軍事の二刀流
オーラ・エアロは2024年12月に初の2人乗り軽練習機のEASA認証を取得しましたが、今年
2月に発表された軍事に特化した別のビジネスモデル(Mと名付けられました)は、トゥール
ーズを拠点とするこのスタートアップ企業が事業の多角化に意欲的であることを示唆しています。
これには、今後発売予定のハイブリッド電気式19人乗り地域型航空機「Era:時代」の軍用
バージョン「Intruder:侵入者」の可能性も含まれています。
「これにより、オーラ・エアロはより強力になり、両方の適用事例を活用して脱炭素化を加速
し、開発コストを分担できるようになります」と、オーラ・エアロの共同創設者兼CEOである
ジェレミー・コサード氏は説明しました。Eraは2026年に初飛行を行い、2020年代末までに就航する予定です。
確かに、他の企業(特に、同じく完全電動のクリーンシート航空機開発からスタートした
企業)も、自社の航空機の特性を軍事任務に適用できるかどうか検討しています。アーチャ
ーはまた、米国のeVTOL開発企業であるアンドゥリルと提携し、2024年12月に発表され
たように、「防衛用途向けの次世代航空機を共同開発する」予定です。
アンドゥリル社のエンジニアリング担当シニアバイスプレジデント、シェーン・アーノット
氏が「迅速なイノベーションとスケーラブルな生産が技術的優位性を維持する上で不可欠」
と考えていることを受け、アーチャー社は「既存の市販部品とサプライチェーンを活用して
先進的なVTOL機を迅速に開発する」能力を改めて強調した。この提携により、「従来の代替
手段に比べてわずかなコストで、重要なハイブリッドVTOL機能を市場投入するまでの期間を
短縮できる」とアーチャー社は結論付けているのです。
ライバルであるカリフォルニアの企業、ジョビーも、米国のアフワークス・アジリティ・
プライム・プログラムの一環として国防総省と締結した3億1,300万ドルの契約の一環とし
て、米空軍基地に4機のeVTOL機を配備することを約束しています。
英国では、バーティカル・エアロスペースのCEO、スチュアート・シンプソン氏も「欧州で
唯一信頼できるeVTOL企業として、バーティカルのハイブリッド電気技術は、国防予算の増加
と国家産業能力への注目が高まる中で、同社を重要なプレーヤーとして位置づけている」と発表しました。
電気とハイブリッド推進システムの二刀流
アーチャー・アビエーションは、自社の航空機のハイブリッド型を開発中であると発表しました(それぞれ2025年5月と2024年12月)。
注目すべきことに、バーティカル・エアロスペースとアーチャー・アビエーションは、両社
とも既に(それぞれ2025年5月と2024年12月に)自社機のハイブリッド型を開発中であると
発表しています。完全電動コンセプトからの脱却は、ジョビーアビエーションが主要プロジェ
クトと並行して進めている水素燃料開発によって補完されています。2024年6月に水素燃料
実証機による523マイルの記録飛行を達成した後、ADS-Bデータによると、ジョビーは
2025年7月に無人実証機による9時間のミッションを実施したようです。補完的な機能と見る
人もいれば、当初のコンセプトへの妥協案と見る人もいますが、完全電動eVTOLの時代はまだ到来していないのかもしれません。
水素燃料や従来の熱エネルギーと電力を組み合わせるハイブリッド推進アーキテクチャは、
人気が高まっているようです。バッテリーの航続距離制限(特に大型機や長距離ミッション
の場合)について業界がより保守的な見方をしていることを示唆しているのかもしれません
が、完全電動化への夢は今のところ実現が難しいかもしれないのです。(ボルトエアロは従来
の双胴船レイアウトを捨て、片尾翼の新しい機体構成を発表しましたが、今回の展示会では
新しい完全電動コンセプトは発表されませんでした。)
ハイブリッド推進システムを採用する取り組みの一つとして、ダヘル社が新たに設立したフラ
ンスのコンソーシアムがあります。これは、最近終了したエコプラスプログラムに続くもので
す。このハイブリッド電気分散型電気推進プロジェクトは、「ダヘル社が実証プロトタイプの
運用システムを設計する上で役立っただけでなく、重要な技術的課題にも取り組むことがで
きました」と、ダヘル社の最高技術責任者であるパスカル・ラゲール氏は昨年末に説明しました。
サフラン、コリンズ・エアロスペース、アセンダンスを含む新たな2年間の研究コンソー
シアムは、「プロペラ効率を最適化した軽飛行機用ハイブリッド電気推進アーキテクチャの
研究と定義」を目指すと、ル・ブルジェでダヘル氏が明らかにした。フランスの民間航空
研究機関CORACとフランス民間航空総局(DGAC)からの財政支援を受けている
TAGINEプロジェクトは、年末までに最初の環境評価結果を発表する予定です。
エコプラスコンソーシアムのメンバーであるエアバスは、この新事業には参加していないもの
の、フランスのスタートアップ企業アセンダンスと提携し、ハイブリッド電気技術の共同研究
を進めています。「エアバスとの提携は、現代の航空業界の要求を満たす実用的で現実的な
技術を提供するという当社のビジョンを実証するものです」と、アセンダンスのCEO兼共同
創業者であるクリストフ・ランバート氏は述べています。アセンダンスはパリで、ターボテッ
ク社製のターボ発電機とサフラン社製の電動モーターを組み合わせたモジュラー式ハイブリッ
ド電気推進システム「スターナ」を他の航空機開発企業に提供すると発表しました。この
システムを採用する最初の航空機は、アセンダンス社のハイブリッド電気VTOL機「アテア」
で、最初のフルスケールプロトタイプは2026年初頭に完成予定です。
無人航空機(UAV)
オーラエアロエンバタ
一方、無人航空機(UAV)分野では国家の技術主権の拡大と増強が差し迫った必要性が高
まっており、欧州企業も米国輸出への依存を減らすITARフリー(国際武器取引規則)の選択肢を模索しています。
欧州での生産と流通を強化したいという強い意欲は、米国の防衛技術企業アンドゥリル社が
ドイツの防衛企業ラインメタル社と共同で開発した「フューリー」共同戦闘機(CCA)に
如実に表れています。アンドゥリル社は、いわゆる「忠実なウィングマン」と呼ばれるこの
無人機の欧州での製造は、「市販のハードウェアと相互運用可能なモジュール式サブシステム
を活用する」ことで恩恵を受けると説明しています。初飛行は今夏を予定しています。
ダッソー・アビエーション社も、ラファール戦闘機との併用に最適化され、2033年までに
運用開始予定の単発無人戦闘航空機(UCAV)を発表しました。
しかし、既存の防衛企業と並んで、民間企業の能力も、航空宇宙の専門家がもたらす設計、
製造、認証、サプライ チェーン管理の専門知識を活用して、潜在的な無人軍事用途に適用されつつあります。
フランス国防調達庁(DGA)は、現状の能力ギャップを認識しており、中高度長時間
滞空型(MALE)ドローン実証機の開発を5社に委託したことでその重要性を改めて認識し
ました。MALEは、監視、偵察、軽攻撃任務に典型的に使用される無人航空機の一種です。
新興企業と老舗企業5社との契約締結は、「国防省のMALEドローン戦略を加速させる決定的
な一歩」であるとDGAは説明し、「時間とコストの制約を遵守しながら、最善の運用ソリュー
ションを構築することを可能にする」と付け加えました。
重要なのは、選ばれた5つの候補のソリューションは、航続距離、ペイロード、推定定価が
異なり、フランス軍と潜在的な輸出機会の両方に利益をもたらす製品ラインを作成するため
の多様なアプローチを表している点です。選ばれた企業の機敏さは、おそらくDGAが2026年
末までに遠隔操縦飛行デモンストレーションと完全な技術仕様を要求していることを示してお
り、私たちが生きている時代の緊張を証明しています。ダヘルとタレスの提携は、ダヘルの
既存のTBMやコディアック航空機など、ダヘルが「認定されたCS-23(軽航空プラット
フォーム)に基づく即時運用可能な『プラグアンドフライ』ソリューション」と呼ぶものを
提供することを目指しています。「このアプローチは統合を簡素化し、展開を加速します」
とダヘルのラゲール氏は説明し、既存のアーキテクチャを採用することで、わずか6か月で
空中デモンストレーション(有人または無人)を実現できることを強調しました。
オーラエアロのMALEドローンコンセプト(エンバタと名付けられています)も、このフラン
スのスタートアップ企業の設計、製造、認証に関する専門知識を活用しています。この無人機
は最大重量約2トンで、約1トンのペイロードを搭載し、最大55時間の飛行が可能です。
「IntegralとEra(航空機)のために開発された技術基盤を再利用することで、この中小企業は
新たな挑戦に取り組んでいます」と、フランス空軍元参謀総長のステファン・ミル将軍は説明しました。
まとめと解説
二刀流戦略は、eVTOL開発企業にとって、資金調達と実用化の両面で非常に適切な方法と
考えられています。特に、軍事・民生の両分野、および電気・ハイブリッドの両技術を追求
するアプローチは、いくつかの重要なメリットをもたらします。
資金調達におけるメリット
- 開発コストの分散: eVTOLの開発と認証には巨額の資金が必要です。軍事機関との契約を獲得することで、企業は安定した資金源を確保できます。これにより、民間市場向けの商業化プロセスにかかる費用を補うことができます。
- 政府からの支援: 米国国防総省(DoD)などの政府機関は、eVTOLのような「デュアルユース(軍民両用)」技術に多額の投資を行っています。JobyやArcherは、米空軍のAgility Primeプログラムを通じて数百万ドル規模の契約を獲得しており、これが開発資金の重要な柱となっています。
- 投資家への信頼性の向上: 政府や軍事機関からの契約は、技術の信頼性と実用性を証明する強力な根拠となります。これにより、民間投資家からの資金調達も容易になります。
実用化におけるメリット
- 技術の成熟: 軍事用途で求められる厳しい性能基準(安全性、耐久性、航続距離、静粛性など)を満たすことは、民間市場への展開時に大きな強みとなります。軍事分野で技術を磨くことで、商業化に向けた信頼性の高いプラットフォームを確立できます。
- ハイブリッド技術の活用: eVTOL開発は、バッテリーの性能限界という課題に直面しています。航続距離が限られる全電動モデルに対し、ハイブリッドシステムは長距離ミッションを可能にし、軍事用途や地域間輸送といった特定の市場ニーズに応えることができます。JobyやAura Aeroは、ハイブリッド技術によって航続距離を延ばす実証実験を行っています。
- 市場の多様化: 民間市場での認証や商業運航が軌道に乗るまでには時間がかかりますが、その間にも軍事市場で製品を提供することで、収益を上げることができます。これにより、企業の財務基盤を強化し、長期的な開発を持続させることが可能になります。
結論として、軍事と民生の両方を視野に入れた二刀流戦略は、eVTOL開発における資金不足の
リスクを低減し、技術的な実証の場を確保することで、長期的な実用化を成功させるための
現実的かつ効果的なアプローチと言えます。
日本のeVTOL開発企業であるスカイドライブとHIENは、海外の事例と同様に、軍事・民事の「二刀流」戦略が今後の実用化において重要な役割を果たす可能性があります。
スカイドライブとHIENの取り組み
- スカイドライブ: 主に民間市場、特に2025年の大阪・関西万博での「空飛ぶクルマ」サービス実現を目指して開発を進めています。元三菱重工のF-2戦闘機開発に携わった技術者が参加していることからも、高い技術力と航空機開発の経験が強みとなっています。現時点では、防衛省との直接的な協業に関する明確な情報はありませんが、その技術は将来的に様々な用途への応用が期待されます。
- HIEN(HIEN Aero Technologies): 同社はハイブリッド型eVTOLの開発を進めており、「空飛ぶクルマもハイブリッドへ!」を掲げています。電動推進と内燃機関を組み合わせることで、バッテリーのみでは難しい長距離・長時間飛行を可能にし、用途を広げようとしています。資金調達においては、株式投資型クラウドファンディングを活用し、個人投資家からも広く資金を集めています。
日本における民事・軍事の二刀流の将来性
国際的な動向と同様に、日本においてもeVTOLの民事・軍事両面での活用は非常に有望視されています。
- 民生分野: 災害時の緊急物資輸送、離島や山間部での移動手段、都市部の渋滞緩和など、社会課題の解決に貢献するツールとして期待されています。
- 軍事分野: 防衛省は次期戦闘機開発などで国際協力を進めている一方で、eVTOL技術は偵察、物資輸送、人員輸送など、多様なミッションでの活用が考えられます。特に、ハイブリッド技術は航続距離を重視する軍事用途において大きなメリットとなります。
海外企業が軍事契約を開発資金の柱としているように、日本のeVTOL開発企業も、防衛省との
連携を深めることで、民間向けの商用化が始まるまでの期間に安定した資金を確保し、技術開
発を加速できる可能性があります。このため、民生用途での実用化を先行させつつも、将来的
に防衛分野でのニーズに応えることは、企業にとって持続的な成長戦略となり得ます。
日本のデメリットとリスク
日本のeVTOL開発企業が民事・軍事の二刀流戦略を進めることは、資金調達や技術開発の加速
というメリットがある一方で、上記のようなリスクを伴います。
- 国内: 国民の理解を得るためには、eVTOLが平和的な目的や国民生活の安全・安心に資する用途であることを明確に訴えることが不可欠です。
- 国際: 近隣国からは、日本の防衛力強化の一環と見なされ、政治的な摩擦を引き起こす可能性があります。
このため、日本企業が二刀流戦略を推進する際には、技術の透明性を高めるとともに、その
目的が平和と安全保障に貢献するものであることを国内外に丁寧に説明していくことが、重要な課題となります。
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