皆さんこんにちは!
羽田空港で起こった日本航空機と海上保安庁機の滑走路上での衝突事故から明日で1週間が
経ちます。今朝(8日)には事故があったC滑走路が再開されました。
航空事故は、離陸時の3分間と着陸時の8分間に集中していると言われる『魔の11分間』が
あります。しかし、近年の航空事故を見ると地上での事故が増大しています。
過去の事故
テネリフェ、史上最大の航空機事故
1977年3月27日、スペイン領カナリー諸島でジャンボジェット機同士が衝突しました。
両機の乗客乗員644人のうち583人が死亡、生存者は乗客54人と乗員7人でした。
パンアメリカン航空(パンナム)1736便(以下、PAA1736便)はロサンゼルス空港を
を離陸し、ニューヨークのジョン・F・ケネディ空港に寄港しました。機体はボーイン
グ747-100型機。
一方のKLMオランダ航空4805便(以下、KLM4805便)はオランダの保養客を乗せた
チャーター機で、午前9時にアムステルダムの好きポール空港を離陸しました。機体
はボーイング747-200B。
どちらの便も、最終目的地は大西洋のリゾート地であるグラン・カナリア島ラス・
パルマス空港でした。
目的地に近づく途中、PAA1736便はグラン・カナリア空港がカナリア諸島分離独立
派組織による爆弾テロ事件の発生と、さらなる爆弾が仕掛けられているという予告
電話のため、臨時閉鎖したと告げられました。PAA1736便は空港閉鎖が長くは続かな
いという情報を得ており燃料も十分に残っていたため、着陸許可が出るまで旋回待機
を要求したものの、他の旅客機と同様に近くのテネリフェ島のテネリフェ空港にダイ
バートしました。KLM4805便も同様にテネリフェへのダイバートをしたのです。
テネリフェ空港は、その他多くのダイバートしてきた航空機でエプロンはごった返して
いました。
スペイン領カナリー諸島、テネリフェ。ヨーロッパの観光保養地として有名です
テロの脅威も無くなり、すぐに出発できるKLM機とパンナム機が続けて離陸すること
になりました。
管制官は、KLM機に対して離陸滑走路の端でUターンして離陸を待つよう指示します。
一方のパンナム機に対しては、当初鋭角な3番出口から誘導路へ出るよう指示しました
がパイロットは濃い霧で3番出口を過ぎてしまい4番出口へ向かうことになりました。
そして、タワー(管制官)はKLM機に対して離陸を待つように指示しますが、それが
上手く伝わらずに、KLM機は離陸を開始しました。
テネリフェ空港の主滑走路の両端からPAA1736便(青)とKLM4805便(空色)が接近衝突した(赤い星印)
濃霧のため管制塔(橙色)は両機とも視認できなかった
事故原因
- KLM機が離陸の許可なしで離陸した。
- 管制官と両機のコミュニケーションがとれていなかった。
- 濃霧という悪天候が視認を遅らせた。
- 焦りや疲労、思い込みなど複数の心理的ヒューマンエラーが重なった。
これらが、事故原因と報告されています。
那覇の地上接触
1985年5月28日。この日、那覇空港あたりは朝から雷を伴う雨が降っていました。
11時14分、那覇のランウエイ18に全日空のジャンボ機が精密進入(GCA)で着陸し
ました。接地後、機長はエンジンのリバース(逆噴射)装置を作動させようとしま
した。そこへ突然、前方左の誘導路から誘導路E-2タクシーウエイにいた航空自衛隊
のMU-2型機が滑走路上へと動き出しました。機長はとっさに、右のラダーを踏み込
み、同時にエルロンを右に30°ほど切り、機首を右に振りました。
ジャンボ機の左外側エンジンと、MU-2の翼端の燃料タンクが接触しました。
航空自衛隊のMU-2(三菱重工製)
間一髪のところで、重大事故にはなりませんでしたが、一歩間違えば今回の羽田空港の
事故のようになったかもしれません。
事故の原因は、自衛隊機長(右席)、副操縦士(左席で訓練中)が、すでに離陸許可等
を得たものと相互に錯誤し、同機を滑走路に進入したことであり、これは離陸許可を受
領していないことについての両操縦士の認識が十分でなかったことによるものと推定さ
れます。当時、自衛隊のMU-2にはボイスレコーダがありませんでしたので、当該乗員の
証言によります。
那覇空港、ヘリコプターが航空機の前を横切る
2015年6月3日、同じく那覇空港で離陸滑走中の航空機の前を離陸許可無しでヘリコプター
が横切りました。
3日午後1時すぎ、那覇空港で離陸するために滑走していた全日空機新千歳行き1694
便ボーイング737(乗客乗員83人)の前方を、航空自衛隊那覇ヘリコプター輸送隊所
属のCH47Jが管制官の指示を受けずに上空を横切って飛行、全日空機が急停止して離
陸を中止しました。
直後に、着陸のために同滑走路に進入中だった新石垣空港発の日本トランスオーシャン航空
(JTA)610便ボーイング737(同44人)に管制官が着陸やり直しを指示。
しかしJTA機はそのまま着陸。停止中の全日空機との距離は400~500メートルで、
あわや衝突という危険性がありました。
原因は、自衛隊ヘリコプターが全日空機に対する離陸許可を自機のものと勘違いしたことで
す。また、着陸中のJTA機も管制指示に反して着陸してしまったことも問題になりました。
乗務員が整列や待機の指示を誤解しているため、ビジネスジェット機による滑走路侵入が増加している
このスクリーンショットは、2月27日にボストン・ローガン国際空港の滑走路4Rに着陸したジェットブルー・エンブラエルE190のジャンプシートパイロットが撮影したビデオからキャプチャされたフリーズフレーム画像の一部
ヒューストンホビー空港で2機のビジネスジェット機が衝突
近年は滑走路の安全性が大きな話題になっています。実際、年初から現在までのデータに
よると、最も深刻な種類の滑走路進入、つまり 2 機の航空機の衝突がかろうじて回避され
たカテゴリー A の事故が増加していることが示されています。NTSBやFAAなどの航空安
全機関は、衝突寸前事故の増加を懸念しており、多くの人が最悪の事態、つまり2機の航空
機が実際に衝突するのではないかと懸念しています。
昨年10月24日、ヒューストンホビー空港で2機のビジネスジェット機が衝突したことで、
こうした懸念が現実となりました。離陸滑走中のホーカー 850XP の乗組員が、滑走路を
横切るところに着陸していたセスナ サイテーション マスタングに衝突しました。驚くべ
きことに、ホーカー社のパイロットたちは「停止して待機」という管制官の指示に従わず、
衝突前に離陸滑走を中止するという地元管制官の2度の要請を無視しました。両機とも大破
しました。幸いなことに、乗員に怪我はありませんでした。
NTSBの事故予備報告書によると、管制官はホーカー号のパイロットに対し、滑走路22の
「停止して待機」するよう指示しました。事故後のインタビューで、ホーカー号のパイロ
ットらは、離陸時には離陸許可が出ていると信じていたと述べました。
FAAの通信記録によれば、ホーカーが滑走路22に接近した際、地上管制官がパイロットに
タワーの周波数を監視するよう指示しました。ホーカー社のパイロットは事故後のインタ
ビューで、滑走路に到着する直前に飛行表示画面にV速度が表示されなくなったと述べま
した。
その直後、管制官はホーカー乗組員に滑走路 22 で待機するよう指示し、パイロットも
それを認めました。管制官はホーカー号にいかなる交通勧告も提供しなかったし、提供
する義務もありませんでした。
この時点で、セスナ サイテーションは、滑走路 22 と交差する滑走路 13R への短い最終
地点にありました。各滑走路の長さは 7,602 フィートで、2 つの滑走路の交差点は滑走路
22 のほぼ中間にあります。
ホーカー機が滑走路22に近づくと、予期せず離陸滑走を開始しました。この時点で、タワ
ーの別の管制官がホーカーの動きに気づき、タワー管制官に通知しました。管制官はすぐ
にホーカー乗組員に「停止し、位置を維持する」よう指示しましたが、応答はありません
でした。管制官は再び「位置を保て、停止せよ」と叫びましたが、反応はありませんでした。
パイロットは気が散ったのかもしれません。彼らは「ラダーバイアス警報とピッチトリム
警報があり、離陸滑走中に解決する必要があった」と述べました。
(注: V 速度が表示されず、2 つの航空機システムのアラートが発報される場合は、航空機
が適切に設定されていない、または離陸の準備ができていないことを示しています。)
興味深いことに、ホビータワーの管制官は、空港に設置された空港表面探知装置(ASDE-X)
が気づく数秒前に、ホーカーの動きに気づきました。
無許可離陸を開始してから2分も経たないうちに、ホーカー号の左翼端がサイテーション号
の尾翼に衝突。ホーカーのパイロットは両方とも、衝突の約1秒前までサイテーションを
視認できなかったと述べ、その感覚を「ドスン」と表現しました。サイテーションのパイ
ロットは、ホーカーの姿は見えなかったと述べ、その衝撃を「トラックのタイヤが吹き飛
ぶような音」だったと述べました。
飛行機同士が接触した後、ホーカー乗組員は離陸を続け、すぐにヒューストンホビーに戻
り、滑走路13Rに着陸した。サイテーションは滑走路を通過しました。
事故後の検査により、ホーカーの左翼翼と主翼前縁の表面に重大な損傷があることが判明
しました。サイテーションは、テールコーン、舵、その他の構造要素を含む尾翼に重大な
損傷を負っていました。
ヒューストンでの二アミス
ヒューストンでの滑走路衝突事故の8か月前、別のビジネスジェット機がボストン・ロー
ガン国際空港(KBOS)で離陸許可を得ずに離陸しました。このケースでは、2月27日、
ジェットブルーのエンブラエル190の乗務員が、離陸許可なしで滑走路09と交差して離
陸を開始したボンバルディア・リアジェット60を避けるため、KBOSの滑走路04R上空
で復行を開始し、惨事を回避。航空機は互いに30フィート以内の距離を通過しました。
NTSBの調査報告書によると、KBOS管制官はリアジェットのパイロットに滑走路09の
手前で待機するよう指示しましたが、ジェットブルーの乗組員は滑走路04Rへの着陸を
許可されていました。ASDE-X は差し迫った紛争をタワーに警告し、タワー管制官は
ジェットブルーの乗組員にゴーアラウンド指示を出しました。
ジェットブルーのパイロットは、滑走路09交差点に到着する前に、滑走路04R上で着陸
フレア中に復行を開始しました。ジェットブルーのパイロットらは、滑走路09で航空機
が管制官の指示を聞いた後、ゴーアラウンド前に航空機が左から右に移動しながら前を
横切るのを目撃したことを思い出しました。
リアジェット機の機長によれば、彼は「整列して待機しているかのような許可を聞いて」
その許可に反応しましたが、「しかし心の中では離陸許可が得られたと思っていた」と
いうことです。同氏は、彼らが離陸し、巡航中に管制官から目的地に着陸したら電話する
よう電話番号が記載されたメッセージを受け取ったと付け加えました。着陸後、タワー
はパイロットに許可なく離陸したことを通知し、旅客機は着陸復行を行いました。
その後のNTSBとのインタビューでリアジェット機長は次のように語った。唯一思い浮か
ぶのは、ボストンの寒さが私に影響を与えたということです…体調が完全に悪く、鼻が
詰まっていました。」何らかの理由で、彼も副操縦士も離陸許可を得たと思っていました。
「整列して待機」(LUAW:Line Up And Wait)
FAA は 2010 年 9 月に「整列して待機」(LUAW:Line Up And Wait)という表現を
採用しました。これらの言葉は、ICAO の基準に合わせて「位置決めして待機」に置き
換えられました。これは、用語の違いの原因となった可能性のある滑走路進入の数を抑
制するためのNTSBの勧告に応じたものでした。
FAA によると、LUAW は航空機を滑走路上に位置決めして即時出発するように設計さ
れた航空交通管制手順です。LUAW への指示は、パイロットに出発滑走路に地上走行
し、離陸せずに整列して待つように指示するために使用されます。
多くの場合、パイロットは LUAW を指示され、後方乱気流や交差する滑走路の交通な
どの理由や状況について知らされます。その理由または条件が満たされれば、パイロッ
トは遅延についての通知がない限り、即時離陸許可を期待する必要があります。パイロ
ットが ATC の許可または指示について不明な点がある場合は、ただちに ATC に連絡し
なければなりません。
同様に、適切な時間 (90 秒) 以内に離陸許可が発行されない場合、パイロットは ATC
に問い合わせる必要があります。FAA は、滑走路上で定位置に留まっている航空機に
関わる事故やインシデントを分析しており、管制官による LUAW への指示から 2 分
以上経過した場合、結果として生じる事象は「着陸」または着陸復行の可能性が高い
ことを示しています。 。
防衛飛行の事例
FAAは、パイロットが他の航空機に発行されたATCの指示/許可を監視すれば、LUAW
運用中の状況認識を強化できると示唆しています。パイロットはまた、他の航空機が
同様のコールサインを持つ周波数を使用しているかどうかを注意深く聞く必要があり、
ATC と他の航空機との間の通信に細心の注意を払う必要があります。
他の航空機に対して誤って許可や指示を実行しないように注意する必要があります。
似たような響きのコールサインには問題があります。
パイロットは、滑走路に地上走行する前、または滑走路を横切る前に、常に滑走路
の全長をスキャンして交通状況を確認する必要があります。これは、夜間や視界の悪
い状況での LUAW 操作中に特に重要です。あなたの航空機が ATC や他の航空機から
見えるようにすることを忘れないでください。LUAW に許可されている場合は、離陸
/着陸灯を除くすべての外部灯を点灯します。
大規模空港では、2 つ以上の滑走路がアクティブな場合、航空機は複数の滑走路で
LUAW するように指示されることがあります。FAA は、コールサインと滑走路を注
意深く聞くようアドバイスしています。似たような響きのコールサインに注意し、
常に完全なコールサインで応答してください。繰り返しになりますが、疑問がある
場合は、ATC に説明を求めてください。
ATC は、同じ滑走路に進入する際 (滑走路を横切る場合ではなく) 6 マイル以内の
最も近い航空機の位置を保持している航空機に通知する義務があります。パイロット
は着陸交通の位置に注意する必要があります。また、航空機が同じ滑走路で LUAW
を許可されている場合、ATC は着陸交通に通知します。
滑走路侵入は航空の安全に対する脅威です。今年の初めに、滑走路進入を回避するた
めに必要な計画、コミュニケーション、調整をサポートする必要があります。
最近の事件は、業界としての道のりが長いことを示唆しています。
まとめ
今回の羽田空港の事故で、ASDE(Airport Surface Detection Equipment:空港面
探知レーダー:空港地表面の航空機や車両等の動きを監視しそれらの交通の安全を図
るための高分解能レーダーです)が見逃されていたとの指摘があります。
先日お話しした低視程時のSTOP LIGHTや滑走路状態表示灯システム(RWSL
:Runway Status Lights System)などテクノロジーの発達は画期的なものです。
はたして、これらの近代的なテクノロジーをもってすれば、全ての地上での事故は
無くなるのでしょうか?
答えは『NO!』です。なぜなら、人間が操作しているからです。ASDEに音声アラ
ームを付けても、STOP LIGHTやRWSLを充実させても、人間の思い込みを無くす
ことはできません。その警報が間違っていると信じてしまうからです。
この様な事故をゼロにはできないまでも、限りなくゼロにし、死亡事故を無くして
いくことに真剣に取り組む必要があります。
『自分は間違っていないだろうか?』疑問に思ったことは、必ず確認する。その
意識がここで言う『防衛飛行』に繋がると思います。
それでは今日はこの辺で・・・
またお会いできる日を楽しみにしています。
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