皆さんこんにちは!
今年に入ってボーイング社のB737、エアバス社のA320の受注は生産が追いつかないほどに伸びています。
しかし、エアバスA220の受注は伸び悩んでいます。その原因はどこにあるのでしょうか?
エアバスのA220の難問
エアバスとボーイングは良いニュースと悪いニュースの両方がある課題に直面しています。

エアバスA220-300は実質的に孤児機と言える。「A220-500」は必要だが、生産率の向上も必要であり、-300の販売台数はそれを支えきれない。クレジット:エアバス
良いニュースは、彼らの航空機の大半の需要が高いことです。悪いニュースは、どちらも
需要に応えられないということです。A320neoファミリーと737 MAXファミリーの納入枠
は、今後10年間で完売しています。ワイドボディ機の納入枠もますます不足しています。
サプライチェーンは依然として不足しており、エンジンメーカーは耐久性と信頼性の高い製品の提供に苦戦しています。
エアバスには、あまり良いニュースではないもう一つの問題があります。最小の航空機
であるA220の需要が停滞しているのです。これはプラット・アンド・ホイットニーGTF
エンジンの継続的なトラブルが一因で、納入済みの451機のうち約80機が地上待機状態
にあり、AOG(地上待機機)率は18%に上ります。新しいエンジンを待つ間、無期限に
保管され、保管料がかさむのを避けるため、部品調達のために一部のA220はスクラップにされました。
販売が停滞しているもう一つの理由は、A220が実質的に孤児機となっていることです。
A220-100は941機のうち、わずか118機、つまり12.5%しか受注していません。エール
フランスやデルタ航空といった主要航空会社は、一般的にA220-500(エアバスはこの名称
を採用していません)と呼ばれる延長型を希望しています。しかし、A220ファミリーに
新たな機種を追加するには、プログラムの収益性を確保する必要があります。エアバスは
この目標を達成できていません。そのためには、サプライヤーは価格を引き下げ、生産
ペースを現在の月6~8機から月14機に引き上げる必要がありますが、受注の少なさと
A220-300の孤児機という状況を考えると、これは非常に難しい課題です。
それは古典的な鶏が先か卵が先かという難問です。
【名機なのに伸び悩む?】エアバスA220、その知られざる歴史とライバルE190との「性能差の壁」
技術者から「最も優れたナローボディ機」と称されることが多いエアバスA220。しかし、
その受注はライバルのE-Jets E2シリーズと比較して、しばしば「伸び悩んでいる」と指摘されます。
なぜ、これほどまでに革新的な機体が、市場の壁にぶつかっているのでしょうか?その
歴史、ライバルとの決定的な違い、そしてエアバスの戦略の「失敗」を深掘りします。
苦難の歴史:CシリーズからA220への道のり
A220は、エアバスがゼロから開発した機体ではありません。その起源は、カナダのボンバルディアが開発したCシリ-ズにあります。
- 2000年代初頭: ボンバルディアが、既存のリージョナルジェットの概念を超えた、100~150席級の全く新しい設計(クリーンシート設計)の機体としてCシリーズを開発。
- 革新的な技術: カーボン複合材の多用、そして低燃費で知られるプラット&ホイットニー(P&W)のGTF(ギヤード・ターボファン)エンジンを搭載。
- 貿易摩擦: 性能は高評価だったものの、開発コストの増大と、アメリカ市場でのボーイングとの貿易訴訟に巻き込まれ、ボンバルディアは経営危機に陥ります。
- 2018年: 窮地に立たされたボンバルディアから、エアバスがプログラムの過半数の株式を取得。名称をA220(CS100をA220-100に、CS300をA220-300に)へと変更しました。
この歴史により、A220は「エアバス・ファミリーの一員」となりましたが、そのルーツはエアバスの既存製品群とは異なる場所にあります。
ライバルとの性能比較:A220 vs. E190-E2
A220の直接のライバルは、ブラジルのエンブラエルが開発したE-Jetsの次世代モデル、特にE190-E2やE195-E2です。
| 項目 | A220-300 (Airbus) | E195-E2 (Embraer) | 分析 |
|---|---|---|---|
| 座席数(標準2クラス) | 130~160席 | 120~146席 | A220の方が大型。ナローボディ機(A320/B737)に近い。 |
| 胴体幅(キャビン) | 3.7m(5列座席) | 3.01m(4列座席) | A220の圧倒的優位性。乗客の快適性が高い。 |
| 航続距離 | 約6,300 km | 約4,800 km | A220が優位。長距離路線での柔軟性が高い。 |
| 技術的起源 | クリーンシート設計 | E1世代からの改良 | A220はより新しい設計コンセプト。 |
| 燃費性能 | 非常に優れている | 非常に優れている | 両機とも優れるが、設計の新しさからA220が僅かに優位とされる。 |
エンブライエルのE190-E2
性能差がもたらす「戦略的な壁」
性能だけを見れば、A220は「快適性」「航続距離」「サイズ」の全てでE-Jets E2を上回る、「技術的勝者」です。しかし、これが逆にA220の普及を妨げる要因となっています。
- 大きすぎるサイズとコスト: A220-300はあまりに高性能で大型なため、価格も高くなります。多くのエアラインにとって、150席級の機体を導入するなら、よりキャパシティの大きいA320neo(約180席)の方が「座席あたりのコスト」が安くなるという、内部競合の問題が生じます。
- リージョナル市場での限界: A220は、米国市場の「スコープ・クローズ(Scope Clauses)」という労働協約の壁にぶつかります。この協約により、大手航空会社の子会社であるリージョナル航空会社が運航できる機体は、「座席数や最大離陸重量」に厳しい制限があります。A220はこの制限を容易に超えてしまうため、リージョナル市場の主要なセグメントに入り込めないのです。 対してエンブラエルのE-Jets(特にE175)はこの協約に適合しやすいため、米国市場で圧倒的な強さを誇ります。
エアバスの戦略的失敗と課題
エアバスがA220の獲得を決定したのは正しい判断でしたが、市場投入後の戦略にはいくつかの課題が見られます。
失敗要因(1):エンジン問題とサプライチェーンの不安定さ
A220は、革新的なGTFエンジンに依存していますが、このエンジンは導入当初から
整備問題(信頼性、耐久性)**を抱え、頻繁な修理を必要としました。これにより、初期
にA220を導入した顧客は運航の不安定さに苦しみ、これが新規顧客の躊躇に繋がっています。
失敗要因(2):既存製品とのカニバリゼーションの解消不足
エアバスは、A220を「エアバス・ファミリー」として統合しましたが、依然として
A319neoやA320neoといった、サイズの近い既存製品との棲み分けを明確に打ち出せて
いません。A220は素晴らしい機体ですが、エアバス自身が「A320neoファミリーの一部
としてではなく、独立した製品」としてどのように販売し、既存のA320neo顧客をA220
に誘導するのか、という戦略が不明確なままです。
まとめ
A220は、「技術的には市場をリードしているが、経済的・政治的・構造的な市場の制約」
によってその真価を発揮しきれていない、というジレンマを抱えています。
今後A220が真のブレイクスルーを果たすためには、GTFエンジンの信頼性向上に加え、
エアバスがこの機体を「ナローボディ市場の新たな基幹機」として位置づけ、既存の
A320ファミリーとは別軸の明確な販売戦略を打ち出すことが求められます。


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