アメリカの人材確保の取り組み

飛行機

皆さんこんにちは!

前回は人材確保に苦戦するヨーロッパのMRO企業、マグネティクMROの取り組みを紹介しました。

同じく急速な航空事業拡大に人材不足が深刻なアメリカの取り組みを見ていきます。

アメリカはアメリカ独特の問題があるようです。

労働力不足が深刻化する中、MROは新たな人材戦略を展開

AAR技術者

AAR は、労働力不足の圧力に対応するため、技術者の勤務スケジュールを調整し、週末の休暇を増やしました。クレジット: AAR

MRO 業界の関係者は長い間技術者不足の圧力を感じてきましたが、メンテナンスの需要が

高まり、企業が増加する労働力のニーズを満たすのに苦労するにつれて、変化する労働環境が新たな課題を提起しています。

米国に拠点を置く整備業者AAR Corp.は、最近発表した2023年版「中堅技能ギャップ・

レポート」の中で、新卒者が整備工場で経験を積み、その後航空会社に転職するという従来の

整備士のキャリアパスは、企業が優秀な人材の確保に苦戦する中で、一般的ではなくなりつつ

あると述べています。レポートによると、大手航空会社は、整備士の自然なキャリアパスで

はなく、新卒者をすぐに採用・育成する傾向があり、これが独立系整備士(MRO)プロバイダーにとって問題となっています。

「AARは野球のマイナーリーグのようなものだと考えています」と、同社の人材開発担当副

社長、ライアン・ゴーツェン氏は説明しています。「技術者を採用し、通常は顧客の航空機で

経験を積み、最終的には顧客のもとで働かせるのです。しかし、現状の問題は、人材不足の

ためにそれができないことです。MROプロバイダーに悪影響を与えることで、最終的には大手航空会社として自らも損害を被ることになります。」

この変化する傾向を考慮して、ゲルツェン氏は、フロースルー契約を締結したり、航空会社

のブランドを活用して新しい人材を引き付けたりするなど、MRO と航空会社の人材協力の重要性を強調しています。

AARは現在、米国の修理拠点で約200人の求人を抱えており、今後数年間で最大600人の

新規採用を予定しています。そのため、ラテンアメリカ諸国からの国際的な人材の発掘を含

め、新たな採用方法を模索する必要がありました。「例えば、米国・メキシコ・カナダ協定を

利用して、メキシコから技術者を当社の様々なMRO施設に採用し、非常に良い成果を上げてきました」とゴーツェン氏は述べています。

しかしAARの報告書は、カナダの市民権取得を含むより柔軟な移民政策と比較して、米国の

就労ビザ制限により、この状況を改善するための取り組みが制限されていると指摘している

のです。同社は現在、カナダの修理拠点で29カ国出身の技術者を雇用しています。

ゴーツェン氏によると、AARは最近、チームスターズ組合と提携し、連邦議会の議員や移民改

革専門家らと協議を行い、米国に拠点を置くMRO事業者が外国人材を雇用しやすくするための

連邦政策の改革を促す方法について協議したという。ゴーツェン氏は、この目的は安​​価な労働

力の採用やアメリカ人労働者の代替ではなく、国内技術者の不足によって生じる人材不足を補

うことにあると強調します。また、海外から熟練した人材を雇用することで、MRO事業者は新卒採用を加速させることができると指摘しています。

「高度なスキルを持つ技術者を一人採用するごとに、比較的経験の浅い技術者を3~5人

ほど採用し、一緒に成長していくことができます」と彼は言います。「より熟練した人材を施

設内で活用することで、米国における技術者の成長を加速できるというのが、私たちの主張です。」

ネット世代の労働力需要

一方、AARは、より少ない技術者数で効率的に作業負荷を管理するため、業務運営方法を見直

す必要に迫られています。同社は「トータル・ファシリティ・クルー・アプローチ」と呼ばれ

る手法に移行し、メンテナンス内容に応じて作業を1日10時間、週4日に分けて、週末は少人

数のクルーで作業を行う体制に移行しました。また、報告書では、技術者が週末の休暇を強く

希望していることから、スケジュールとワークフローを調整したと指摘しています。

翼上の航空機技術者

トルコ・テクニックは、従業員が職場改善に関するアイデアを提案できるポータルサイトを通じて、従業員のエンゲージメントを高めることを目指しています。写真提供:トルコ・テクニック

「週末を休むために、社員は辞めたり、減給を受け入れたりしていました」と、オクラホマシ

ティにあるAARエアフレーム・サービスのオペレーション担当副社長、スタン・メイヤー氏

は語りました。「今では誰もが月に3回週末を休み、1回は働いています。」

ゴーツェン氏は、パンデミック後、より高い柔軟性を求める声の高まりに対処せざるを得なく

なったと付け加えます。「当社は24時間365日体制で事業を展開しているため、提供できる柔

軟性には限界があります。在宅勤務はできませんが、柔軟な勤務スケジュールを組める機会を

提供することで、優秀な人材を確保・定着させるためにできる限りのことを行っています」と同氏は語ります。

最近アムステルダムで開催されたAviation WeekのMRO Europeカンファレンスでは、

パネリストらが、特に若い世代におけるワークライフバランスに関する意識の変化に業界がどのように対応できるかを検討しました。

コンサルティング会社エアロダイナミック・アドバイザリーのプリンシパル、ジョナス・マー

ビー氏は、MRO業界の成長には他業界から労働市場シェアを奪うことが不可欠だと主張して

います。「今は、他の分野で若い世代にとってより魅力的な新技術が登場している時代です。

だからこそ、技術者の仕事を新世代に合わせて改革する必要があるのです」とマービー氏は

述べました。「次世代は人生を楽しみたいのです。夜勤はしたくありませんし、在宅勤務も望んでいます。」

マービー氏はまた、若い世代のテクノロジーへの関心が、こうした問題に取り組む機会を生み

出す可能性を示唆しました。「若い世代はデジタルという異なる次元に生きており、その点も

考慮する必要がある」と彼は述べました。「技術者の仕事を在宅勤務向けに再設計するには

どうすればいいだろうか?」 マービー氏が挙げたリモートワークの活用事例の一つは、技術者

が自宅からドローンを使った航空機検査をレビューできるようにすること。また、拡張現実

(AR)や仮想現実(VR)などの技術を研修に取り入れることで、柔軟性が向上する可能性

も示唆しました。しかしながら、研修自体が一部の企業にとって不安定な事業となっていることにも注意を促したのです。

「数週間前にヨーロッパのある航空会社と話をしたのですが、研修中の技術者の80%が離職

すると言っていました。残りの技術者がどれくらい残ってくれるか分からないので、本当に深刻な問題です」とマービー氏は語っています。

トルコ・テクニックの航空機整備担当シニアバイスプレジデント、ビラル・カラマン氏は、

MROプロバイダーである同社にとって採用はそれほど困難ではないものの、技術者に長期在

籍してもらうのが難しくなっていると指摘。「トルコでは、航空業界で働くことは若者の間で

依然として人気があるため、採用に大きな問題はない。しかし、この若い世代に30~40年も

同じ仕事に就きたいという意欲を持ち続けてもらうのは困難だ」とカラマン氏は述べました。

カラマン氏は、給与を上げ続けるだけでは問題は解決しないと主張します。「それでは一時的

には満足するが、すぐにまたベンチマークをしてしまう。問題は、若い世代が同じ仕事に

30年も就きたくないということだ」と彼は言います。「彼らはすぐに飽きてしまう。そして、

飽きたら会社を辞めてしまうか、あるいはもっとひどいことに、会社に残ってしまう。その

結果、いつも文句ばかり言って仕事をしない非効率な社員が残ってしまう。だから私たちは

社員のモチベーションを維持しようと努力しているんだ」

トルコ・テクニックが若手社員のエンゲージメントを高める方法の一つとして、メンテナンス

業務や職場全体の改善方法に関するアイデアを社員が提案できるポータルサイトを設けていま

す。カラマン氏によると、トルコ・テクニックには毎年700件以上のアイデアがこのポータルサイトを通じて寄せられているそうです。

最近の人材育成イニシアチブ

航空業界の企業は最近、人材の確保と育成に向けた様々な取り組みを開始しています。フロリ

ダ州だけでも、複数の新たなパートナーシップが、将来のMRO人材の育成に大きな可能性をもたらしています。

航空学生

サナドが最近開始した未来のリーダーシップ・プログラムは、選抜された学生をヨーロッパのビジネススクールに送り出す。写真提供:サナド 

Eコマース大手のアマゾンは、フロリダ州に拠点を置くPart 147認定校である国際航空技術

アカデミーと提携し、整備士向けのキャリアトレーニングプログラムを提供するため、今秋に

開始しました。国際航空技術アカデミーの社長兼CEOであるスティーブン・マーコフ氏によ

ると、このプログラムは9月に授業を開始して以来、既に大きく成長しているとのことです。

「この地域のアマゾン従業員からの反応は信じられないほどでした。次回の講習に申し込んで

いるアマゾン従業員の長い順番待ちリストができています」と、マークホフ氏は10月にAviation Week誌に語っていました。

マイアミ・オーパ・ロッカ・エグゼクティブ空港では、バリントン・アービング技術訓練学校

が専門的な人材育成プログラムを開始しました。このプログラムでは、これまで子供と10代

の若者向けのSTEM教育に重点を置いていた同校の「フライング・クラスルーム」で、成人向

けの航空技術訓練を開始します。このプログラムでは、航空機整備、アダプティブ・マニュ

ファクチャリング、複合材・板金といった分野の訓練に加え、金融リテラシー、時間管理、リーダーシップといったソフトスキルも学びます。

AARと非営利団体チューズエアロスペースは、高校で実施可能な航空機整備カリキュラムを

開発しており、南フロリダにおける人材育成イニシアチブの拡大にも取り組んでいます。

これは、同社が新たに建設する3ベイ格納庫施設の建設を支援するためです。AARはフロリ

ダ・メモリアル大学と覚書を締結し、同大学でチューズエアロスペースの一般航空カリキュ

ラムを導入し、マイアミ・オパ・ロッカ・エグゼクティブ空港と連携した初の整備プログラムの構築を支援します。

先月のドバイ航空ショーでは、中東の複数の整備業者が、同地域のMRO業界の大幅な成長に

備えて人材パイプラインを開発するためのトレーニングおよび労働力に関する取り組みを発表しました。

エティハド・エンジニアリングは、アブダビ国際空港に新たな技術研修施設を開設すると発

表したのです。これにより、新たに6,000人の研修生に年間400以上のコースを提供できるようになります。

ルフトハンザ テクニック(LHT)とサウディア テクニックは、2024 年 1 月に共同トレー

ニング プログラムを導入します。このプログラムでは、サウディアの技術者がドバイとハン

ブルクの LHT の施設で集中トレーニングを受けることになります。

より多くのエンジンタイプへのサービス提供能力を構築し、新たなメンテナンス分野への進出

を進めているサナドは、最近、「未来のリーダーシッププログラム」を開始しました。この

プログラムでは、地元の学生を選抜し、サナドのCEOであるマンスール・ジャナヒ氏がヨーロ

ッパでもトップクラスのビジネススクールの一つと評する同校に通わせ、関連するビジネス課

題を特定し、MROプロバイダーであるサナドにキャップストーンプロジェクトを提出してもらいます。

AAR、MRO人材の育成強化のため学校との提携を拡大

トロイ・プリムス (左)、ベン・クラーク (右から 4 番目)、AIM CEO ジェイソン・ファイフ (右から 2 番目) と、AAR 奨学金を受け取った AIM シカゴの学生 10 名。

AAR 奨学金を受け取った AIM シカゴの学生 10 名。クレジット: Lindsay Bjerregaard / Aviation Week Network

AAR社は、将来の労働力パイプラインの開発と確保に向けた取り組みの一環として、航空整

備学校(AIM)シカゴキャンパスへの支援を拡大しました。AARは、シカゴのAIM

(航空整備学校)の学生10名に奨学金として2万5000ドルを寄付し、シカゴ市南側の

マッキンリーパーク地区にある同キャンパスでの授業を後援しました。

6月12日に行われた奨学金授与式で、イリノイ州ロックフォードにあるAARの施設で機体

MRO部門のゼネラルマネージャーを務めるトロイ・プリムス氏は、次世代の技術者を支援す

ることの重要性について学生たちに語りました。プリムス氏によると、AARは約6年前の30

名からロックフォードの技術者数400名以上に成長し、ネットワーク全体で従業員数を拡大し続けています。

AARはロックフォード施設の人員配置は「黒字」としていますが、退職や自然減に対応する

ため、シカゴランド地域での人材パイプラインの提携先を積極的に模索し続けています。

プリムス社は、同社の主要顧客である航空会社の一社も同施設への業務拡大に関心を示して

おり、さらなる雇用ニーズの喚起につながる可能性があると指摘しました。AIMのアウト

リーチおよび開発担当副社長ベン・クラーク氏は、AARは近年、同校の米国キャンパスから

数百人の学生を採用しており、2024年12月には奨学金を寄付し、AIMのインディアナポリス

教室での講座を後援したと語りました。AARの修理およびエンジニアリング担当上級副社長

トム・ホフェラー氏によると、インディアナポリスとの提携はすでに成功している。4人の

卒業生がAARに採用され、現在5人がAARのEAGLEキャリアパスウェイプログラムに参加し

ています。ホフェラー氏によると、同社が20年前に同校と提携を開始して以来、AIMのイン

ディアナポリスキャンパスの70人以上の卒業生がAARの施設で働き続けているということです。

ホーフェラー氏は、AARの奨学金プログラム以外に、「最近の経験から学んだことの一つは

AIMを経由する従業員の[機体と動力装置の]試験も支援する必要があるということです」と述

べています。AARは、インディアナポリスの施設で働くAIM卒業生のための試験準備プログラ

ムに資金を提供しています。この施設はロックフォードにも拡張する予定です。

ホーフェラー氏によると、2026年末のマイアミ拡張により150~200人の従業員が必要にな

る見込みで、AARはそれに備えてマイアミ・デイド・カレッジと提携して7か月の機体認定

トレーニングプログラムも開発しています。ホーフェラー氏は、AARは仮想現実やペーパーレ

スソフトウェアなど、MROテクノロジーの一部をカリキュラムに組み込むことに興奮してい

ると語っています。ホーフェラー氏は、これらのテクノロジーによって、AARは若い技術者の

職場での期待に応えながら、彼らをより早く慣れさせることができたと付け加えています。

3月に、AARとそのソフトウェア子会社トラックスは、国際航空女性協会のsoFLY サザントロ

ピックス支部と提携して女子航空技術デーを開催し、両社は250名を超える高校生と大学生に

航空機整備技術とキャリアパスを紹介しました。ホーフェラー氏は、AARは若い学生に仮想

現実やドローンなどの「クールで最先端の技術」を見せることを優先し、興奮を生み出し、

「航空業界での理解と可能性に対する見方の視野を広げる」と述べています。AARのネット

ワークの他の部分では、退役軍人の人材移行のための獣医の採用およびスキルブリッジプロ

グラム、アラスカ航空とのフロースループログラム、オクラホマシティでの高校生インターン

シッププログラムなど、他の労働力イニシアチブで成功を収めています。ホーフェラー氏は

AARは高校生インターンシッププログラムをそこでの成功を受けて他の拠点にも拡大したい

と考えていると述べています。AARはまた、オクラホマシティの拠点で開始した別の労働力

戦略を活用して、他の拠点の従業員満足度を向上させたいと考えています。数年前、同社は

オクラホマシティで「トータル・ファシリティ・クルー・アプローチ」に移行しました。

これは、技術者がより多くの週末を休めるよう、仕事を1日10時間勤務の4日間と週末に少

人数のクルーに分けるというものです。ホーフェラー氏によると、このアプローチは「圧倒

的に好意的」な反応を得ています。「彼らはこのアプローチによって得られる柔軟性を大変気

に入っています。私たちは現在、これを第2段階に進めようとしています。つまり、1日10

時間勤務の4日間や、3週ごとに週末勤務といった、他の代替シフトオプションを提供すると

いうことです」とホーフェラー氏は言います。「週末に働きたい人もいることが分かりまし

た。そのため、週末クルーを編成し、彼らはそこでのみ働くようにしています。こうするこ

とで、週末に働かなければならない人員を減らす機会が生まれます。これは大成功を収め、チームはこれを採用戦略の一部に取り入れています。」

まとめと解説

せっかく企業に採用したばかりなのに離職率の大きい企業は、やはり考え方が古いのでしょうか?

日本でも「Z世代」と呼ばれる若者達の離職率が問題になっています。

企業に問題がある場合もありますが、航空業界そのものに魅力や働きがいが今の若者には理解できていないかもしれません。

今は多くの職業(ただ単にお金儲け)があります。またインターネットを通じて多くの情報が

溢れています。楽をしてお金儲けができると勘違いする若者も多くいるのも事実です。

数ある職業の中で航空業種を選んでもらうには、幼少期からその職業に触れる機会を持つことが需要だろうと思います。

私のアメリカ人の友人は、父親がパイロットであった影響もありますが、自宅には小型機と滑走路があり、飛行機という環境で育ちました。

特にアメリカは、LSAなど飛行機が身近な存在であると同時にオシュコシュなど多くの航空ショーが開催されています。

最新のテクノロジーを駆使して、働きやすい環境整備も忘れてはなりません。

そして一番重要なことは、「正しい教育」です。航空機を理解することだけではなく、自分に

合った働き方や自分で想像し考える習慣を身につけさせることです。それが、自分のためでも有りますし、航空業界の発展にも繋がるのです。

もう一つのアメリカの抱えている問題は、トランプ大統領の厳しい「移民政策」です。

ブラジルは、エンブラエルという航空機メーカーがあります。そこで優秀なエンジニアは海外

にも働きの場を求めています。実際、三菱MRJの開発メンバーの中にも多くのブラジル人が働いていました。

その優秀な人たちは今アメリカを追われ、世界各地へと行かざるを得ません。アメリカは自分の首を絞めているようなものです。

これからの課題は、「いかに優秀な人材を育てるか」です。今すぐにやらないと手遅れになってしまいます。

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