皆さんこんにちは!
今年破綻したドイツのリリウムエアロスペース(旧リリウム)。その特許をアメリカのアーチャーアビエーションが買い取ることになりました。
リリウムの技術はどのように使われるのでしょうか?また、アーチャーの今後の戦略は?
アーチャー、破産したリリウムの特許を取得
アーチャーは、ラスベガスコンベンションセンターでミッドナイト eVTOLのモックアップを展示しています。 クレジット: ビル・ケアリー
エアタクシー開発のアーチャー・アビエーションは10月15日、経営破綻した電気航空機
メーカー、リリウムの特許を2100万ドル(1800万ユーロ)で買収する競争入札に勝利したと発表しました。
カリフォルニア州サンノゼに本社を置くアーチャーによると、リリウムのポートフォリオ
には、高電圧システム、バッテリー管理、高度な航空機設計、飛行制御、電動エンジン、
プロペラ、ダクテッドファンに関する300件の特許が含まれています。リリウムは10年に
わたる事業で、計画中の7人乗りベクトル推力電動垂直離着陸機(eVTOL)であるリリウム
ジェットの主要な実現技術の開発に15億ドル以上を費やしてきました。
今回の特許買収は、アーチャーにとって過去2カ月間で2回目の取引となります。アーチャー
は8月、ライバルのeVTOL開発企業であるカレム・エアクラフトからスピンオフした
オーバーエアから特許ポートフォリオを取得し、主要従業員を採用したばかりです。
この買収は、アーチャーが2024年12月にアンドゥリル・インダストリーズと発表し、
軍事用途のハイブリッドVTOL機を開発するための戦略的提携を受けたものです。
アーチャーは、今週ラスベガス・コンベンションセンターで開催されているNBAAビジネス
航空会議・展示会で、4人乗りのミッドナイト・エアタクシーのモックアップを初めて
公開します。同社は現在、同機の最初のフルスケール試作モデルの飛行試験を行っています。
ドイツのオーバープファッフェンホーフェンに拠点を置くリリウムは、ドイツ連邦政府と
州政府が融資保証を拒否し、投資家が同社への追加資金の注入を控えたため、2024年に
財政難に陥いりました。リリウムは昨年10月に破産を申請したが、リリウム・エアロスペ
ースという新会社を設立した投資家グループによって救済されたとみられました。新会社も約束された資金が調達されずに倒産したのです。
アーチャー、ジョビー・アビエーション、そしてリリウム・ジェットの元顧客である
アドバンスト・エア・モビリティ・グループは、破産管財人に対し、リリウム買収の競合
入札を行ったとみられます。取材に応じた業界筋によると、アーチャーは主にリリウムの
特許と知的財産に関心を持ち、ジョビーはリリウム・ジェットの復活に関心を持っていたということです。
リリウムの資産には、オーバープファッフェンホーフェンの格納庫に保管されている未完成の試作機が含まれていました。
ドイツのeVTOL企業、リリウム。2度の破綻を申請しました。リリウムジェット(完成予想図)
アーチャーの野望とライバル、ジョビーの存在
今年、2回目の経営破綻を経験したドイツのeVTOL企業リリウムの特許ポートフォリオを、
アメリカのアーチャー・アビエーションが買収した件は、eVTOL業界における競争激化と再編を象徴する出来事です。
特に、リリウムが開発に15億ドル以上を投じ、その技術が「時代を先取りしていた」と
評価されていた点を考えると、アーチャーにとって非常に大きな戦略的勝利と言えます。
この買収が、今後のアーチャーの戦略に与える影響について解説します。
買収の概要と戦略的な意義
アーチャーがリリウムから取得した特許資産は約300件にのぼり、これによりアーチャーが保有する特許資産は全世界で1,000件以上となりました。
取得した特許には、以下の主要なイノベーションが含まれています。
- ダクテッドファン(有導ファン)技術: リリウム機のトレードマークだった、高効率で騒音を抑えるダクテッドファンに関する特許ポートフォリオ。
- 高電圧システム、バッテリー管理: 電動モーターの効率と安全性を高める中核技術。
- 電動エンジン、プロペラシステム、飛行制御、航空機設計など。
1. 技術的優位性の確保と防衛戦略の強化
アーチャーの既存の主力機ミッドナイトはティルトプロペラ(昇降用と巡航用が一体)型
を採用していますが、今回の買収により、「ダクテッドファン」というまったく異なる推進技術に関する最高の特許群を手に入れました。
2. 新市場と製品ロードマップの拡大
アーチャーは、この新しい特許群を活用し、既存のエアタクシー(ミッドナイト)市場以外への展開を加速させる戦略を描いています。
- 軽スポーツ機(Light-Sport)分野への参入機会: FAA(米連邦航空局)が2025年7月に発表した新しい認証規則(MOSAICルール)は、小型・軽量の電動航空機の開発を奨励しています。リリウムの特許にあるダクテッドファン技術は、この軽スポーツ機や地域航空モビリティ(Regional Air Mobility: RAM)といった新しい市場での開発機会を切り開く可能性があります。
- 軍事・防衛分野の強化: アーチャーはすでに米空軍(AFWERX Agility Prime)と契約し、軍事用ハイブリッドVTOL機の開発を強化しています。今回の買収は、今年8月のOverair社のチルトローター関連特許と複合材製造施設の買収と合わせて、防衛プログラムにおける技術力をさらに多角化するものです。
3. 業界再編におけるリーダーシップの確立
eVTOL業界は、技術開発に巨額の資金と時間を要する一方で、商業化までの道のりが長く、資金力のない企業が淘汰されつつあります。
- 競争優位の明確化: 今回の買収は、ライバル企業であるジョビーアビエーションとの入札競争に勝利したものであり、アーチャーが資金力と先見性を備えた業界のリーダーであることを印象付けました。
- 成長の加速: 他社の失敗によって生まれた優れた技術資産を低コスト(1,800万ユーロ)で獲得することで、自社の研究開発にかかる時間とコストを大幅に節約し、製品開発のロードマップを加速させることができます。
今後のアーチャーの戦略まとめ
アーチャーは、リリウムの特許買収をテコに、単なるエアタクシー企業から「電動航空技術のプラットフォーム企業」へと進化しようとしています。
- コア技術の多角化: 既存のティルトプロペラ技術に加え、ダクテッドファン技術を獲得することで、次世代機の設計の幅と、IP訴訟リスクへの防御力を高める。
- 市場の多角化: 商業UAM(都市航空モビリティ)だけでなく、地域間移動、軽スポーツ、防衛といった、より広範な市場で製品を展開する足がかりとする。
- 米国の技術的リーダーシップ確保: 中国などの競合に対する米国の技術優位性を確保する、という政府のコミットメントを果たす。
アーチャーの戦略は、単に「機体を作る」だけでなく、「未来の空を支配する知的財産と
技術基盤を構築する」ことに重点を置いていると言えるでしょう。
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