地方路線を拡大するATR

飛行機

皆さんこんにちは!

世界の航空業界が成長する中、地方路線の需要も高まっています。日本のような狭い国土で、地方路線の主役はATR社のプロペラ機です。

燃費の良さはもとより、貨物機としての柔軟な汎用性、離島など短い滑走路にも運用が可能です。

そんなATRは、世界でも先進国での需要の高まりを背景に拡大の道を歩んでいます。

ATRは2044年までに2,100機の新型ターボプロップ機の需要を予測

ターボプロップ機メーカーのATRは先日開催されたパリエアショーで最新の20年予測を

発表し、2044年までに2,585機のターボプロップ機が運航されると予測しました。これに

は、現在合計1,650機ある既存の航空機群からの追加機880機、代替機1,100機、および引き続き運航される605機が含まれます。

ATRの最高商務責任者であるアレクシス・ビダル氏は、ATRは通常、2〜3年ごとに長期予測を更新していると述べました。

ATRは2022年に2,450機の新造機需要を予測していましたが、その後2,100機に減少しま

した。これは、ATRの保有機数は増加しているにもかかわらず、運用中のターボプロップ機群

全体が減少しているためです。ヴィダル氏は、ATRは進行中のサプライチェーン問題の影響についても「現実的」な見方をしていると付け加えました。

今後20年間で2,100機の新型ターボプロップ機が生産され、うち70人乗り機が1,690機、

50人乗り機が410機となっています。このうち255機は北米向け、200機は中南米向け、

360機は欧州向け、240機は中東・アフリカ向け、210機はインド向け、835機はアジア向けとなります。

ATRは、同国の急速な成長と、航空旅行をすべての人にもっと利用しやすくすることを目指すインセンティブ制度を理由に、インドを予測に含めました。

「インドは今後3~4年で世界最大のATR市場になる可能性がある」とビダル氏は述べ、その

期間に2~3社の新たなATR事業者が参入すると予想されると指摘したのです。

ATR 42-600への関心は、生産拡大の進展とともに高まっている

ATR CEO、ナタリー・タルノー・ロード氏。

ATR CEO、ナタリー・タルノー・ロード氏。クレジット: ビクトリア・ムーアズ/ATW

パリエアショーで講演したATRのCEO、ナタリー・タルノー・ロード氏は、ATRの年初来

業績の詳細を発表するとともに、生産能力を年間60機に増強し、将来型航空機コンセプト

「EVO」を推進するという目標についても言及しました。ロード氏は、どちらの取り組みにも

時間がかかると警告しています。既に30機の受注を獲得しているATRは、パンデミック以降で過去最高の上半期業績を達成する見込みです。

ATRの売上は過去2年間で2倍以上に伸びており、2022年の年間受注数は26機でしたが、2023年には40機、2024年には56機、2025年には30機と増加しています。

「来年以降も納入を安定させる計画は順調です」と、タルノー・ロード氏は満員の記者会見で述べました。「生産を増強したいと考えています。それは明らかです」

ATRは2025年に、2024年に納入された35機とほぼ同数の航空機を納入すると予想していま

すが、小規模サプライヤーからの航空機構造を含むサプライチェーンの問題に依然として苦戦しているのが現状です。

「いくつか問題点はあります。着陸装置はまだ課題を抱えています。しかし、サフランの着

陸装置システムとは非常に緊密に協力しています」とタルノー・ロード氏は述べました。

タルノー・ロードは、今後3~4年以内に航空機を60機まで増強する計画で、将来的にはその

規模を超えることも目指しています。「この計画を実現できると確信していますが、時間はかかります」と彼女は述べました。

ATRのオペレーション・調達担当シニアバイスプレジデント、マリオン・スメイヤーズ氏は、

元エアバス幹部で、就任から1ヶ月が経ったばかりですが、年間60機の航空機生産は「すでに

かなり野心的だ」と述べました。彼女の新たな役割の一部は、サプライチェーンの課題を踏ま

え、既存の生産ラインでこの目標が達成可能かどうかを判断することだ。「野心と現実的なバランスが必要です」と彼女は述べました。

さらに、タルノー・ロード社は、米国と欧州の両方から小型機ATR 42-600への「関心の

高まり」を目の当たりにしています。「多くのお客様がこの機体に注目しています」とタル

ノー・ロード社は述べました。ATRの最高執行責任者(CCO)であるアレクシス・

ヴィダル氏は、ATRチームが両機種の需要のバランスをどう取るか検討していると述べ

ました。「ATR 42の需要がさらに増えれば、対応が必要になるでしょう」とヴィダル氏。

ATRは、腐食の軽減やメンテナンス間隔の2年から3年に延長するなど、製品の改善も進めています。

長期的には、ATRはプラット・アンド・ホイットニー(P&W)と協力し、燃費向上、整備

コスト削減、そしてEVOハイブリッド電気航空機コンセプトの開発に取り組んでいます。

「EVOの発売時期について適切な判断を下すためには、あらゆる情報が必要です」とタルノー・ロード氏は述べています。

EVOプログラムは当初2032年に就航予定でしたが、バッテリー性能の問題により延期され

ました。タルノー・ロード氏は、EVOは現在、2030年代末までに開発され、2035年には就航する予定だと述べました。

現在、ATRはEVOプログラムに関して主にP&Wと提携しています。同社のエンジンがATR

のプラットフォームに「最も適合している」ためです。しかしタルノー・ロード氏は、「他の多くの」企業とも協議が進行中だと述べたのに過ぎませんでした。

エア・タヒチ、全席ビジネスクラスATRを導入

フランス領ポリネシアの航空会社エア・タヒチは、国内線ネットワークのサービス水準を維持

するため、以前に発注したATR 72-600の1機にビジネスクラス客室を装備する計画です。

パリエアショーで講演したエア・タヒチのCEO、エドゥアール・ウォン・ファット氏は、

同社の製品ラインナップには「何かが欠けている」と述べました。同氏は、乗客はビジネス

クラスでフランス領ポリネシアまで行き、高級ホテルに宿泊できる一方で、エア・タヒチの国内線は「非常に伝統的」だと指摘しました。

エア・タヒチは最近プレミアムエコノミーを導入しましたが、新たにATR 72-600型機4機

のうち1機にATR HighLineビジネスクラスを導入しました。このVIPサービスには新設のビジネスラウンジへのアクセスも含まれ、2025年後半に開始予定です。

「今後数ヶ月以内に、国内線に全席ビジネスクラスを導入したいと考えています」とウォン

・ファット氏は記者会見で述べました。「まずはボラボラ島から始めます。これは重要なギャップを埋めるものになると考えています。」

エア タヒチは、ポリネシアの 5 つの群島にまたがる 48 の島と、クック諸島のラロトンガ島を結んでいます。

マレーシアの航空会社ベルジャヤ・エアも、ATRのビジネスクラス専用機「ハイライン」の

内装を採用しており、今回の航空ショーでも展示されています。ハイラインシリーズには、

デュアルクラスキャビンやその他のプレミアムレイアウトが含まれています。

ATRとプラット・アンド・ホイットニー・カナダが次世代エンジンで提携

ATR ‘EVO’ concept

ATRのEvoコンセプト:開発中の新しいエンジンとプロペラ

プラット・アンド・ホイットニー・カナダ(P&WC)とATRは、次世代ターボプロップリ

ージョナル航空機向け推進システムの開発で提携することに合意しました。月曜日にパリ航

空ショーで発表されたこの提携に基づき、両社はATRのEvoコンセプトのような航空機に搭載

可能なエンジンの効率、性能、そして運用経済性の向上に注力する予定です。

現在のATR 42型機とATR 72型機には、PW127XTターボプロップエンジンが搭載され

ています。ATRとP&WCは、エンジニアがイノベーションに注力すると述べています。例えば

熱効率の向上による燃料消費量の削減、先進材料の適用によるエンジンの耐久性と信頼性の

向上によるメンテナンスコストの削減、そしてエンジン、ナセル、機体の統合を最適化することで航空機の空力特性を向上させることを目指しています。

さらに、P&WCとATRは、ATR Evoモデルの実現可能性調査の一環として、ハイブリッド

電気推進の選択肢を検討する予定です。ATRは2022年にEvoプロジェクトを発表し、当時、2030年の就航を目指していると示唆していました。

現在、1,300機のATR航空機がP&WCエンジンを搭載しており、その中には最新の

PW127XT-Mターボプロップエンジンも含まれています。RTXグループの一員であるP&WCは、今年創立100周年を迎えます。

ATR社の「EVOプログラム」概要

ATR EVOプログラムは、世界をリードするリージョナル航空機メーカーであるATRが計画

している、次世代のターボプロップ航空機ファミリーの開発プロジェクトです。このプログラ

ムは、航空業界における持続可能性への要求と、運用コストの削減という航空会社のニーズに応えることを目的としています。

概要と目標
  • 目的: 既存のATR機と比較して、性能、経済性、持続可能性を大幅に向上させることを目指しています。
  • 革新的な技術:
    • ハイブリッド機能を備えた新しいエンジン(マイルドハイブリダイゼーションをベース)。
    • 新しいプロペラ。
    • 改良されたキャビンとシステム。
    • 軽量なバイオ由来素材の活用を増やし、リサイクル性も重視したエコデザイン。
  • 燃料効率とSAF対応:
    • 既存機と比べて燃費を全体で20%改善することを目指しています。
    • **100%持続可能な航空燃料(SAF)**に対応するように設計されており、SAFを使用することでCO2排出量をほぼゼロにすることが可能とされています。ケロシンを使用した場合でも、リージョナルジェット機よりも50%以上少ないCO2を排出するとされています。
  • 運用コストの削減:
    • 20%の燃費改善と20%の全体的なメンテナンスコスト削減を通じて、運航コストを大幅に削減することを目指しています。これにより、航空会社はより収益性の低い路線でもサービスを提供できるようになると期待されています。
  • 市場投入目標: 当初2030年までに市場投入を目指していましたが、技術の成熟度評価などにより、2030年代半ば(mid 2030s)のエントリー・イン・サービス(就航開始)が目標とされています。開発プログラムの本格的な開始は2025年初頭が目標とされています。
  • 認証と安全性: 計器飛行方式(IFR)認証取得を目指し、運用信頼性と安全性を高める設計がなされる見込みです。
背景と展望

ATR EVOプログラムは、脱炭素化された航空の未来への道を開くものとして位置づけられて

います。リージョナル航空機は短距離路線での運航が多く、その効率性と環境性能の向上が

地域コミュニティの接続性維持や経済発展に大きく貢献するとATRは考えています。

ATRは、Clean Aviationの第二フェーズ(リージョナル航空機向けのハイブリッド電動推進

システムの飛行試験デモンストレーションを含む)への参加も検討しており、既存機の運用効率向上と並行して、次世代機の開発を進めています。

このプログラムは、ATRが地域の航空輸送において、より包括的で責任あるサービスを顧客と社会に提供し続けるというコミットメントを示しています。

まとめと解説

日本でATR機を使用している主な航空会社と地方路線の展望

日本でATRのターボプロップ機を主力として運用している航空会社は、主に以下の通りです。

  1. 日本エアコミューター (JAC):
    • JALグループの一員で、鹿児島を拠点に主に南西諸島や九州各地の離島路線を運航しています。
    • 主力機材としてATR42-600型機を複数機保有・運用しています。
  2. 天草エアライン (AMX):
    • 熊本県天草市を拠点とする地域航空会社で、「みぞか号」の愛称で親しまれています。
    • ATR42-600型機を1機保有・運用しており、熊本〜天草〜福岡線を運航しています。
  3. HAC(北海道エアシステム):
    • JALグループの一員で、札幌(丘珠)を拠点に北海道内のローカル路線を運航しています。
    • ATR42-600型機を複数機保有・運用しています。

4.TOKI AIR(トキエア):

2020年に設立した新潟を拠点とするトキエア。就航地は丘珠、仙台、中部セントレア、神戸があります。

これらの航空会社は、ジェット機では採算が取りにくい短距離・低需要の地方路線において、ATR機の高い経済性と運航効率を活用し、地域住民の生活の足として、また観光振興に貢献しています。

地方路線の展望
  • 高齢化と過疎化への対応: 地方の人口減少や高齢化が進む中で、航空路線の維持は地域の生命線となります。ATRのような小型で経済的な機材は、採算性を確保しつつ、安定した運航を継続するために不可欠です。
  • 観光振興: 地方への観光客誘致には、航空アクセスが重要です。ATR機は、主要空港と観光地を結ぶ役割を担い、インバウンドを含めた観光客の誘致に貢献します。
  • 利便性の向上: 地方のビジネスや医療、教育など、住民の日常生活における利便性向上にも直結します。
  • 環境への配慮: ATRの既存機もSAF(持続可能な航空燃料)への対応を進めており、将来のEVOプログラムではさらに環境性能が向上します。これは、環境意識の高まりの中で、地域社会からの受け入れられやすさにも繋がります。

自治体との連携が発展の鍵

ATR機が日本の地方路線でさらに発展していくためには、航空会社と自治体の連携が不可欠です。

  1. 路線維持・新規開設の財政的支援:

    • 地方路線は、単独では収益性が低い場合があります。自治体は、住民の生活や地域経済にとって不可欠な路線を維持するため、運航費の一部を補助したり、着陸料などの空港使用料を軽減したりするなどの財政支援を行うことができます。
    • 新規路線の開設においても、自治体が需要喚起のためのプロモーション活動や、航空会社への誘致活動を行うことが重要です。
  2. 需要創出とプロモーション:

    • 自治体は、地域独自の観光資源を航空路線と結びつけ、航空会社と連携して旅行商品を開発したり、プロモーションキャンペーンを実施したりすることで、路線の利用者を増やすことができます。
    • 例えば、特定のATR路線利用者向けの特典や、地域イベントと連携した航空券の販売などが考えられます。
  3. 空港インフラの整備と効率化:

    • 地方空港の運営を自治体が行っている場合が多く、ATR機の運用に適した地上設備(例えば、燃料補給、整備スペース、駐機スポットなど)の整備や、空港運営の効率化が求められます。
    • LSAがテーマの吉川さんの動画でも触れられていたように、小規模空港や飛行場の活用・整備は、今後の地方航空において重要な要素になります。
  4. 地域住民への理解促進:

    • 航空路線の維持には、地域住民の理解と協力も必要です。自治体は、路線の重要性や航空会社が取り組む環境対策(低騒音機材の導入など)について、住民への情報提供や対話を行う役割を担います。
  5. 人材育成と確保への協力:

    • 将来的には、LSAを入口としたパイロット育成の話にも繋がりますが、自治体が地域の若者に航空業界の魅力を伝え、フライトスクールや航空会社への進路を支援する取り組みも考えられます。

ATR機は日本の地方路線において、その経済性と効率性から今後も重要な役割を担い続ける

でしょう。そして、そのポテンシャルを最大限に引き出し、持続可能な地域航空ネットワーク

を構築するためには、航空会社と地方自治体が密接に連携し、共通のビジョンを持って取り組

むことが不可欠です。ATRのEVOプログラムのような次世代機の登場は、この連携をさらに深化させる契機となる可能性を秘めています。

 

コメント

タイトルとURLをコピーしました