皆さんこんにちは!
フランスの電動航空機メーカー、ボルトエアロが資金難に直面しています。
新たな融資先を模索しています。カシオは無事に浮揚することができるのでしょうか?
投資家の撤退を受けカシオへの資金提供を模索
2025年6月のパリ航空ショーで、VoltAeroはCassio 330ハイブリッド電気航空機の新設計のモックアップを展示した。© AIN/David McIntosh
現在、米国子会社の計画を急いでいる
ボルトエアロ社は、フランスの破産手続きを受け、新たな投資を急いで模索する中で、
ハイブリッド電気航空機シリーズの開発計画の維持に苦戦しています。同社は今週、
フランスのACIグループが約束していた約500万ユーロ(580万ドル)の自己資本調達が、
ACIグループ自身の資金難により頓挫したと発表しました。
ボルトエアロは10月7日、フランス西部ラ・ロシェルの商事裁判所に申し立てを行い、
新たな資金調達を模索する一方で、債権者からの請求に対応するため「正式な救済手続き」
を開始しました。同社はヌーベル=アキテーヌ地域に本社を置き、35人の従業員を抱えて
いるものの、米国子会社の設立計画を早める可能性を示唆しています。
ボルトエアロのCEO兼最高技術責任者であるジャン・ボッティ氏は、ACIの投資は9月初旬
に完了すると予想していたものの、9月21日の報道でACIが財政危機に陥っていることを
知ったと説明しました。ACIグループ自身も9月25日に裁判所主導の行政手続きを開始したのです。
フランスの新聞「l’informe」によると、これはACIが2025年2月に発表されていた
フォルトゥナ・キャピタル・ホールディングスからの8000万ユーロ(9300万ドル)の
投資を受けられなかったことが原因だということです。フォルトゥナもその株主である
ウィルシャー・キャピタル・ファンディングもコメント要請に応じていません。
2025年7月、マレーシアSEDC エネルギーとフランスのACI グループは、ボルトエアロの
株式をそれぞれ取得することで合意しました。ACI グループは、航空宇宙、製造、国際的な
産業パートナーシップの専門知識を持つ多角的なエンジニアリング・テクノロジー企業です。
投資家は自らの金融危機に直面
ACIグループは現在、将来のガバナンスと戦略について協議するための法廷審問を受けて
いるため、「交渉の余地はない」とボッティ氏は認めました。しかし、ボルトエアロは
SEDCが投資約束の履行を「強く期待している」と述べています。
ACIの広報担当者は、どちらのグループも今のところこの件に関して正式な声明を出して
いないと述べました。しかしながら、ボッティ氏は「解決策を見つけ、事態を緩和する
ために、我々は迅速に対応しなければならない」と答えました。裁判手続きに従い、ボルト
エアロは11月25日までに再建計画を策定する必要があるが、ボッティ氏は「正直な
ところ、(ボルトエアロは)そこまで待つことはできない」と述べたのです。
ボルトエアロは、合計1,000万ユーロの投資により、カシオ 330航空機の型式証明取得を
完了する予定。今年初めの設計改良を経て、このマイルストーンは2027年末までに達成される予定でした。
エアバスの元上級幹部であるボッティ氏は、同社が迅速に新たな資金を確保できれば、まだ
機体を市場に投入できる可能性があると示唆しました。「厳しい状況になるでしょうが、
私たちはできる限りのことをするつもりです」とボッティ氏は述べました。「時間との競争です。」
カシオプロトタイプの構築に必要な資金
同社の最初の適合試作機は現在、昨年末に開設されたロシュフォール工場で組み立てを
待っています。「設計は完了しています。今必要なのは、資金が間に合うという保証を得る
ことです。そうすれば、行動に移します」とボッティ氏は説明しました。ボルトエアロは、
この航空機の初飛行を2026年第1四半期末に実施し、熱エンジンを用いて構造と空力特性を
検証する予定でした。ハイブリッド電気生産型の暫定受注は、これまでに約280件に上っています。
ボルトエアロは声明の中で、「事業継続性を確保し、持続可能な航空製品を守るために、
パートナーや関係者と協力を続けている」と表明しました。対象となる製品には、より
大型のカシオ 480および600の派生型、そして自作航空機用のHPU 210ハイブリッドパワーユニットが含まれています。
ボルトエアロは現在、新たな投資の可能性について「多くの選択肢」を検討しています。
ボッティ氏は、「もっと早く米国で合弁事業を立ち上げていればよかったと後悔している」と語りました。
ボルトエアロの創業者は、このステップによって同社は「より幅広い投資家層を活用できる
ようになる」と考えています。「米国は世界最大の一般航空市場です」と彼は述べまし
た。「当然ながら関心は高いですが、米国企業でなければ、この市場に参入するのは極めて困難です。」
米国での合弁事業はボルトエアロの計画に常に含まれていたが、「これらの出来事によって
われわれは米国でのプレゼンスを加速させる必要があると確信した。そして、それに向けて
取り組んでいるのだ」とボッティ氏は付け加えました。
重要なのは、ボッティ氏がフランス国外への投資の可能性に目を向けることには複数の
メリットがあると考えていることです。ボルトエアロはすでに地域および国家からの支援を
受けていますが、欧州の公的資金の特殊性から、資金に見合うだけの民間投資が必要となります。
ボッティ氏は、これらの規則は「スタートアップにとって非常に不利」であり、「他の大陸
と比べて、我々にとって競争上の不利な状況を生み出している」と主張しました。また、
フランスでは人工知能(AI)などの取り組みに比べて、産業投資への意欲が低いことも
指摘しました。しかし、ボルトエアロは自社のビジョンと事業性について楽観的な見方
を崩していません。「私たちはただ現状を受け入れ、解決策を見つけ、この厳しい移行期
から抜け出すしかないのです」とボッティ氏は締めくくっりました。
ボルトエアロ カシオ 330 の主な性能と特徴
カシオシリーズは、同社が「セントリックハイブリッド」と呼ぶ独自のハイブリッド推進
システムを特徴としています。これは、機体の後部に電動モーターと内燃エンジンを組み合わせた推進ユニットを配置するものです。
1. 基本仕様(予定値)
項目 | カシオ 330 の特徴 |
座席数 | 4人乗り(パイロット1名+乗客3名) |
推進システム | ハイブリッド電動推進システム(セントリックハイブリッド) |
– 主な推進力は電動モーター。 | |
– 後部に配置された単一の推進ユニットに、内燃エンジンと複数の電動モーターを統合。 | |
– 内燃エンジンは主にバッテリー充電用(レンジエクステンダー)として機能するが、必要に応じて直接推進力も提供。 | |
電動モーター出力 | 150 kW (約200馬力相当) |
内燃エンジン出力 | 90 kW (約120馬力相当) |
最大離陸重量 (MTOW) | 1,500 kg |
巡航速度 | 370 km/h (200 kt) |
航続距離 | 約1,200 km (ハイブリッドモード時) |
運用天井 | 6,000 m (20,000 ft) |
2. 独自の「セントリックハイブリッド」推進システム
カシオ 330の最も革新的な点は、そのハイブリッドシステムにあります。
- モジュール型設計: 内燃エンジンと電動モーターを組み合わせた後部推進ユニットはモジュール式になっており、将来的にバッテリー技術が進歩すれば、内燃エンジンを取り外して完全電動化することも視野に入れています。
- 効率性と安全性:
- 離着陸時や高出力が必要な場面では、電動モーターがメインで推進力を提供し、騒音と排出ガスを低減します。
- 長距離巡航時には内燃エンジンが発電機としてバッテリーを充電し、航続距離を大幅に延ばします。
- 推進システムが冗長性を持つため、片方のシステムに問題が発生しても、もう一方で飛行を継続できる安全性が高まります。
- 騒音と振動の低減: 電動モーターを主要な推進力として使用することで、従来の航空機に比べて騒音と振動が大幅に抑制されます。
3. 機体デザイン
- 独特な後部推進: 垂直尾翼と水平尾翼の間にプロペラが配置された、特徴的な推進ユニットのデザインです。
- 空力効率の追求: 高アスペクト比の主翼とT字尾翼は、空力効率を最大化し、燃費と飛行性能の向上に貢献します。
アメリカ子会社設立のメリット:資金難を乗り越え、成長を加速する戦略
資金難に直面しているボルトエアロがアメリカへの子会社設立を検討する背景には、単なる
市場拡大以上の戦略的なメリットが考えられます。特にeVTOLを含む電動航空機業界におい
て、米国市場が持つ独自性とチャンスが影響しているでしょう。
1. 資金調達の多様化と強化
これは最も直接的かつ重要なメリットです。
- 米国の投資家層の獲得: 米国は、ベンチャーキャピタル(VC)やプライベートエクイティ(PE)ファンドなど、航空宇宙技術への投資に積極的な投資家が豊富です。欧州市場とは異なる大規模な資金調達機会を得られる可能性があります。
- 政府系資金(R&D助成金など)の獲得: 米国政府は、環境に優しい航空技術や国防関連の航空技術に対して、研究開発(R&D)助成金や契約を提供しています(例: NASA、米国防総省、DARPA)。米国に拠点を置くことで、これらの資金源にアクセスしやすくなります。
- SPAC(特別買収目的会社)上場の可能性: 米国市場はSPACを利用した新規上場が活発であり、これが大規模な資金調達の一つの手段となる可能性があります。
2. 世界最大の航空市場への本格参入
米国は、プライベート航空、地域航空、軍事航空において世界最大の市場です。
- 顧客基盤の拡大: 広大な国土を持つ米国では、Cassioのような高効率なハイブリッド機に対する需要(地域航空、チャーター、貨物輸送など)が大きいと考えられます。
- 事業展開の加速: 米国に拠点を置くことで、販売、サービス、メンテナンスネットワークを直接構築しやすくなり、市場へのアクセスと顧客対応が迅速化します。
3. FAA(米連邦航空局)認証プロセスの効率化
新しい航空機の市場投入には、各国の航空当局からの認証が必要です。
- FAAとの密な連携: 米国に子会社を持つことで、世界的に影響力のあるFAA(連邦航空局)との認証プロセスにおいて、より密接なコミュニケーションや技術的な調整が可能になります。これにより、認証取得の時間短縮やスムーズな進行が期待できます。
- 国際的な認証戦略: EASA(欧州航空安全機関)での認証と並行して、FAA認証を進めることで、グローバル市場での競争力を高めることができます。
4. 米国の人材とサプライチェーンへのアクセス
- 優秀な人材の確保: 米国は航空宇宙産業の歴史が長く、設計、製造、ソフトウェア開発など、電動航空機開発に必要な優秀な技術者や専門家が豊富です。
- サプライチェーンの最適化: 米国国内にサプライヤーネットワークを構築することで、部品調達の安定化、コスト削減、輸送時間の短縮といったメリットが得られる可能性があります。
5. 地政学的・戦略的ポジショニング
- 「メイド・イン・アメリカ」のメリット: 米国での生産や開発体制を構築することで、「メイド・イン・アメリカ」として扱われ、国防関連の契約や政府調達において有利になる可能性があります。
- 欧州での資金調達難の打開策: 欧州の一部の投資家が、航空業界や新興技術への投資に慎重な場合、より積極的な米国市場に活路を見出すことができます。
まとめ
ボロとエアロのアメリカ子会社設立は、資金調達、市場アクセス、認証、人材・サプライ
チェーンといった多方面にわたる戦略的なメリットを狙ったものと考えられます。これは
単に資金難を乗り越えるだけでなく、グローバルな電動航空機市場でのリーダーシップを
確立するための、攻めの戦略と言えるでしょう。
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