エンブラエルの足かせ、米国のスコープ条約

飛行機

皆さんこんにちは!

先日、ANAが新機種導入を発表しました。その中にブラジルのエンブラエル新型小型機「E190―E2」20機の契約を発表しました。

そんな中、エンブラエルはE175-E2の開発をさらに4年間保留すると発表しました。はたしてその背景は?

エンブラエル、E175-E2の休止を4年間延長

エンブラエル E175-E2 レンダリング

E175-E2の最大離陸重量は約98,000ポンドで、現在の米国の適用範囲条項で許可されている重量より約10%高くなっています。クレジット: エンブラエル

エンブラエルはE175-E2の開発をさらに4年間保留すると2月25日に確認しました。
「(本日)取締役会は、E175-E2ジェット機の開発計画をさらに4年間停止することを承認
した」と同社は規制当局への提出書類の詳細を記した発表で述べました。「活動の再計画は、
76席までの航空機の最大離陸重量(MTOW)制限に関するパイロット組合との進行中の米国
主要路線スコープ条項協議、現在の商業航空の世界市場状況、米国市場における現行のE175ジェット機への継続的な関心と引き続き関連している」と同社は付け加えました。
E175-E2は2019年12月に初飛行した。エンブラエルは2022年に最新の発表と同様の文言を
使用して開発を3年間停止しました。当時、同社は改訂された就航開始(EIS)時期は2027~28年であると述べていました。
この動きは、現行世代の小型版であるプラット・アンド・ホイットニーPW1000Gギアード
・ターボファンエンジン搭載E2ファミリーが2029年まで停止されたままとなり、EISは完全
にキャンセルされない限り2030年代まで延期されることを意味します。この設計の
MTOWは約98,000ポンドで、現在の米国のスコープ条項で許可されているよりも約10%高いのです。
E175-E2が停滞したままである一方、同社のE175の受注残は163機に上ります。旧型モデ
ルの人気と、現行型モデルへの関心の高まりが相まって、エンブラエルの受注残は2026年まで完売している。
エンブラエルは、全日本空輸(ANA)との大型契約により受注残を強化しました。2月25日
に複数のOME発注の一環として発表されたこの契約は、E195-E2型機15機とオプション5機で構成されます。
エンブラエルの今回の動きは、年間の民間ジェット機納入数が4年連続で増加している直後
に行われました。同社は2024年にE175 25機を含む民間航空機73機を納入しました。
2023年の通年数値64機からは増加していますが、同社の生産量は景気後退前の合計、2016年のピーク時の108機を下回っています。
E190-E2

ANAの最新の発注発表には、同グループにとって新しい機種となるE190-E2も含まれている。クレジット: エンブラエル

米国、スコープ条約

三菱のMRJ(後のスペースジェット)の足かせとなったアメリカのスコープ条約(米国名:スコープ・クローズ)。

スコープ・クローズは航空会社とパイロット組合の契約の一部であり、リージョナル(地方)

航空路線において航空機機材の席数、大きさ、重量の制限値を定めています。アメリカの

航空業は、基幹路線(ハブ)と各地の小需要(スポーク)をつなぐ「ハブ・アンド・スポー

ク」路線形態が取られており、地域の小需要路線に関して大手はリージョナル航空会社に運航の委託をしています

ハブ・アンド・スポーク路線形態が拡大していき、リージョナル航空会社の運行およびリージ

ョナル航空会社への運行委託が増えていくにつれ、それらの航空会社が大きな機材(航空機)

を使用する可能性がありました。大手航空会社は地域の小路線の運航は別会社へ委託をして

いるため、大手に所属するパイロットたちは自分たちの職域をリージョナル路線のパイロット

に侵食される可能性がありました。そこで大手パイロット組合は仕事を守るために航空会社へ

いくつかの要求を起こし、話し合いによりリージョナルジェット運航に関する制限事項が定められました。

制限は航空会社間で微妙な違いはあるものの、2016年12月1日に合意された代表的なリージョナルジェットへの制限は

  • 座席数:最大76席
  • 最大離陸重量:39トン(8万6000ポンド)

というものがあります

航空機メーカーにとって旅客座席の制限は機体製造後も調整可能なため影響を受けませんが、

機体重量の軽減は製造工場レベルでは不可能なため、機体の設計変更を行う必要があり、メー

カー側にとってはコストが増大します。さらに航空会社にとって座席制限は収益に影響するた

め制限緩和に向けて労使で度々交渉が行われていますが、2019年に90席クラスまで緩和され

る見通しだった交渉は纏まらず、緩和を見越して新機体を開発していたメーカーには影響が出ています

航空機メーカーではリージョナルジェットを開発する際、90席クラス(基本モデル)と

100席クラス(ストレッチモデル)の他、需要の多いアメリカ国内路線向けとしてスコープ・クローズの上限に合わせた設計の70席クラスを用意していることが多いのです。

三菱航空機はMRJの基本モデル(MRJ-90)は90席クラスとして設計されていたため最大離陸

重量が超過しており、この影響を受け開発は頓挫しました。このため三菱航空機では70席

クラス(MRJ-70)も並行して開発しており、既に基本モデル導入を決めた航空会社は交渉が

決裂した場合に70席クラスへの切り替えを検討していました。特にMRJ70ERは最大76席、最大離陸重量は38,995 kgと上限いっぱいの設計でした。

エンブラエルは80席クラスのE175-E2を2020年に引き渡す予定でしたが、2019年の規制緩和を考慮して2021年に延期し、新条項適合機として販売することを発表しています。

ボンバルディアは2019年2月従来のCRJ700を元に新たにCRJ550という3クラス50席仕様の

機体を製造し、元となるCRJ700は制限値の一つである最大離陸重量8万6000ポンド

(約39トン)をクリアしていて、北米市場で700機超が運航されている50席規模の更新機として適しています

この労使協定は北米地域航空会社の機材更新に大きな影響を与えていて、近年は同協定が低燃

費新世代エンジン採用リージョナルジェット旅客機の北米市場参入の参入障壁となり米国フィエアラインエアラインの運航機材のガラパゴス化も進んでいます。

もともと地域航空会社とは、1978年、アメリカで航空会社の撤退と参入に関するための規制が廃止されたことにより誕生したため、特に北米において発達してきました。

ヨーロッパでは特には定義がなく、ただ短距離を結ぶ航空路線のことをリージョナルと呼んでいます。

日本では、地域航空は、2000年2月までは「60席以下の飛行機での不定期航空輸送事業による

二点間輸送」とされていましたが、現在は「客席数が100席以下かつ最大離陸重量が50トン以

下の航空機での定期的旅客輸送」を意味するとされています。大型ジェット機ほど出発準備に

時間がかからない(30分程度)という利点だけでなく、特に山間部の多い日本では、道路や

鉄道などの陸上の交通手段に比べると移動時間を大幅に短縮できるという利点があります

これらの利点を活かし、地域航空路線は拡大傾向にあります。また、大都市から離れた島

(東京都の八丈島や沖縄県の諸島など)を結ぶ地域航空会社も複数存在しますが、これらは生活路線の一端という意味合いが比較的強いものです

 

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