ヨーロッパは人材確保に躍起

飛行機

皆さんこんにちは!

ヨーロッパでは航空人材、特に整備部門の優秀な技術者を確保するための企業間の競争が激化しています。

その背景には、コロナで解雇した人材を再び呼び戻すのと、若く優秀な人材を早くから囲い込んで行きたいという思惑があります。

マグネティックMROの取り組み

マグネティクMROとは

マグネティクMROは、バルト三国最大の航空機MROサービスプロバイダーであり、ヨーロッパの航空業界において重要な役割を担っています。

エストニアのタリンを主要拠点としています。

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タリン - エストニア 世界遺産の旅【HIS】

エストニアの首都タリンは、エストニア語でデンマーク人の城を意味する街。古き良き時代と現代が調和するこの街は、誰もが訪れてみたい場所

事業内容は、航空機の整備(機体、エンジン、部品の点検・修理・オーバーホール)、部品の

サプライチェーン管理、エンジニアリングサービス、塗装サービス、内装の設計・製造・改修

そしてMROトレーニングと人材育成です。

元々はEstonian Air Maintenance(エストニアン・エア・メンテナンス)として1995年に

設立されました。 設立以来、欧州だけでなく世界中の航空会社を顧客に持ち、急速に事業を

拡大してきました。近年は、特に成長市場であるアジアや中東にも目を向けています。 垂直

統合型のMROサービスを提供しており、機体整備から内装、部品、塗装まで一貫してサービ

スを提供できるのが強みです。これにより、顧客である航空会社は複数の業者を介さずに効率的に整備を進めることができます。

垂直統合型MROサービスとは、簡単に言えば、航空機の整備・修理・オーバーホール

(MRO)に関する複数の異なる工程やサービスを、同じ一社が社内で一貫して提供するビジネスモデルのことです。

ちなみにMROとは、以下の英語の頭文字を取った略語です。

Maintenance(メンテナンス)

Repair(リペア/修理)

Overhaul(オーバーホール/分解点検・修理)

航空業界においては、航空機本体、エンジン、部品などの整備、修理、そして大規模な分解点検・修理を指します。航空機の安全運航には欠かせない業務です。

人材採用強化のため人材スペシャリストを採用

欧州のMRO労働市場では、企業が優秀な人材を採用するために給与を上げているため、激しい競争が繰り広げられています。

この厳しい採用環境に直面して、マグネティック ラインは、業界の人材紹介およびエグゼク

ティブ サーチ会社であるオークランズ グローバルと提携し、ヨーロッパのいくつかの路線駅での労働力需要に対応しました。

マグネティック・MROのオペレーション・ディレクター、エリック・ステゲマン氏によれ

ば、同社は大規模な路線駅のひとつでエンジニアのポジション15人を埋めるのに苦労して

おり人事部には優秀な人材の採用に専念する時間も経験もなかったということでした。

同時に、オークランズ・グローバルは年初に、ヨーロッパでMROを1社選定し、独占的に

代理店契約を結ぶという目標を設定しました。「企業と綿密に連携し、その企業文化や労働環

境を理解することで、業界全体に的確にアピールしたいと考えていました」と、MDのウィリアム・フィンデン氏は述べています。

「MRO業界の人材獲得競争はかつてないほど熾烈になっています」とフィンデン氏。「まさ

に雇われガンマンのような環境です。当然のことながら、給与が急激に上昇しているため、

人々は魅力的な企業で幸せに働きながらも、場合によっては他の組織で40~50%も高い収入

を得られるチャンスに恵まれるという状況に巻き込まれてしまうのです。」

フィンデン氏によると、オークランズ・グローバルは今年初めからマグネティック・グループ

との独占契約締結を模索し始め、4月に2025年末までの契約を正式化し、「2026年までの

延長も視野に入れている」ということです。フィンデン氏は、この提携の独占性は有益だと

述べています。「優れたヘッドハンティング会社は、顧客からヘッドハンティングするべきで

はありません。そのため、マグネティック・MRO以外の企業にも自由にアプローチし、そこにいる優秀な人材にアピールできるのです」

オークランズ グローバルは、マグネティック ラインのチームに加わるライセンスを持った

航空機エンジニアを探すことから始めました。「しかし、彼らはすぐに、当社のネットワーク

と経験がはるかに幅広いスキルセットをカバーしていることに気付きました。そのため、現在

では管理職レベルまで人材を提供し、CAMO (継続的耐空性管理組織)、品質、技術サービスでも彼らをサポートしました」と彼は言います。

提携開始以来、マグネティック・ラインはオークランズ・グローバルのサポートをさらに2つ

の線路駅に拡大しました。ステゲマン氏によると、同社は現在、ヨーロッパの複数の線路駅で約30名のエンジニアを必要としています。

フィンデン氏によると、欧州のMRO市場における採用環境は非常に急速に変化していると

いう。「優秀な人材を確保するために、企業はエコシステムと必要なスピードを考慮した、

明確な採用プロセスを持つ必要があると思います。競争力を維持しながらも倒産しないという

バランスが重要だと思います。そして、企業として、何ができて何ができないかを理解する必要があります」と彼は語りました。

例えば、オークランズ・グローバルでは、大手航空会社と長期契約を結んでいるサードパーテ

ィのメンテナンス組織が、優秀な人材を確保するために給与を引き上げざるを得ない状況にあ

りますが、顧客側はそれ以上の金額を支払いたくないため、「利益率が圧迫されたり、必要な

金額を支払えなくなったり、契約を履行するために必要な質の高いエンジニアを確保できていない」という状況になっていると同氏は言います。

フィンデン氏によると、労働市場におけるもう一つの重要な要素は、従業員のエンゲージメン

トと定着率です。「非常に忙しいメンテナンス環境に足を踏み入れる人は、確かに能力がある

かもしれませんが、だからといって会社のプロセスやポリシーを理解できるとは限りません。

そのため、オンボーディングにおける細部への配慮が非常に重要です」と彼は言います。

フィンデン氏はまた、COVID-19以降、MRO業界では中間管理職の燃え尽き症候群が顕著

に見られ、これが定着率に影響を与えている可能性があると指摘しています。「多くの役割

が十分に補充されず、あるいは中間管理職に集約されてしまいました。報酬の観点から見ると

明確かつ明確な責任リストを持つ資格を持ったエンジニアと比較して、中間管理職が担う追加

の責任が、報酬に正確に反映されているとは思えません」と彼は述べています。

「私の意見では、質の高い中間管理職が不足しています」と彼は付け加えます。「以前は

エンジニアを段階的に昇進させ、育成していましたが、今は企業として彼らを必要としてい

るため、彼らをツールから引き離したくないのです。その結果、野心的な人材にも波及効果

が生じています。彼らは望むほど早く昇進できないのです。」

新たな人材育成プログラムを開始

格納庫にいるマグネティック・アカデミーの研修生たち

クレジット: マグネティックグループ

マグネティクMROは、ラトビアの専門学校と提携し、航空機エンジニア向けの新たな人材

育成プログラムを開始しました。このプログラムは、マグネティクMROの現従業員のスキル向上と将来の人材育成を目的としています。

リガ運輸電気通信研究所(TSIリガ)との提携により設立されたマグネティック・アカデミ

ーは、今後数年間で60~100人の新規航空機整備士を育成する計画です。このプログラムは

2つのパートで構成され、1つは見習い整備士向けの短期集中コース、もう1つは経験豊富な整備士向けのPart 66トレーニングコースです。

マグネティック・グループの人事マネージャー、エネ・クリンプス氏によると、このプロ

グラムは、経験豊富なメンターの指導の下、マグネティックMROの整備格納庫で実践的な経

験を積むことと、タリンの教室で理論的なトレーニングを組み合わせたものだという。彼女は

さらに、このプログラムは航空業界経験のない人々にも機会を提供できるという点で他に類を見ないものだと語りました。

「マグネティック・アカデミーは、航空業界でのキャリアを志望しながらも、必要な知識や

教育を受けていない人々に機会を提供します。多くの才能ある人々に航空業界への扉を開くこ

とができると信じています」とクリンプス氏は語ります。

ファーストトラックプログラムは、物理学や航空機構造の基礎から技術英語、航空法まで、

約16のコースで構成されます。B1またはB2の資格取得を目指す経験豊富な技術者向けに、

マグネティックアカデミーは欧州航空安全局(EASA)認定の完全モジュールプログラムを

提供しています。これらのコースは、TSIリガのPart 147認証に基づいて提供されます。

マグネティックMROは現在、タリンで約450人を雇用しており、今後数年間で約100人の

航空機整備士とエンジニアを新たに採用する予定です。「マグネティックMROの発展と成長

に不可欠な、熟練労働力の深刻な不足を補うことが私たちの目標です」と、マグネティック・グループのCEO、リスト・マエオツ氏は述べています。

クリンプス氏によると、マグネティック・グループは技術系人材の育成に加え、リーダーシッ

プ育成にも注力しているという。「最初の12ヶ月間のリーダーシップ育成プログラム

『Learning2Lead』はまもなく終了となりますが、参加者の40%がすでに次のリーダーシップ

レベルに昇進するか、より幅広い職務を担うようになりました」と彼女は語ります。「また

バルト三国全域で様々な職業学校や大学との連携を強化し、組織全体でより多くの研修機会を提供しています。」

マグネティク社は、EASA Part 147認証を取得した子会社マグネティクトレーニングも運営

しており、航空業界向けに技術研修プログラムとコンサルティングを提供しています。提供

するサービスには、航空機型式訓練、航空法規制やヒューマンファクターなどの航空専門

プログラム、EASA Part 147認証プロジェクトのプロジェクト管理などが含まれます。

エンジン市場の変遷と転換点を予測

CFM56エンジンワークショップ

クレジット: マグネティックグループ

マグネティック グループは、航空機エンジン市場における極めて重要な変化を予測しており、主要な傾向は変曲点が近づいていることを示しています。

同社のデータによると、CFMインターナショナル社のCFM56-5BエンジンとLeap-1Aエン

ジンの稼働台数は、2027年末までにそれぞれ約6,500台に収束すると予想されており、これ

は重要な節目となります。CFM56-7BエンジンとLeap-1Bエンジンについても、2030年まで

に同様の収束が見込まれ、稼働台数はそれぞれ約10,500台に達すると予測されているのです。

CFM56-5Bと-7Bはどちらも、安定的かつ予測可能な退役軌道を辿り、退役率は時間とともに

一定になると予想されます。この傾向は、現在これらのエンジンを大量に保有している資産

所有者にとって特に重要です。2030年から2035年にかけて、エアバスA320neoの納入で

はLeapエンジンがますます採用されるようになり、納入機の62%以上がこのオプション搭載機となる予定です。

マグネティック・グループの最高投資責任者(CIO)兼マグネティック・リーシングのCEO

であるアレックス・ベラ氏は、この変化こそが、Leap-1Aと-1Bの性能差が以前の世代の

エンジンほど劇的に拡大しないと予想される主な理由だと強調しています。ボーイングは

737 MAX機にLeap-1Bのみを搭載しており、一方エアバスはLeapエンジンをIAE V2500の

後継機であるプラット・アンド・ホイットニーPW1100ギアード・ターボファンと直接競合するエンジンと位置付けています。

ベラ氏は、市場が大きな転換点を迎えつつあると示唆しています。「航空機の需要予測データ

は、重要な変曲点が近づいていることを明確に示している」と述べ、今日の市場環境を形作っ

ているいくつかの市場要因を挙げました。その要因としては、パンデミック後の生産制約に

よる新技術搭載機の不足、新型エンジンに伴う課題、そして旅客需要がパンデミック前の水準まで力強く回復していることなどが挙げられる。

「これらの要因により、流動性が高い旧世代機への投資が増加しました」とベラ氏は語りま

す。「その結果、退役が鈍化し、(使用可能な中古機体の)不足が生じ、リース用の予備エンジンの供給が制限されています。」

この供給不足は業界全体に波及効果をもたらし、修理工場への訪問費用の上昇、リース料の

上昇、そして取引価格の上昇につながっています。新型エンジンの稼働時間の短縮、需要の

急増、そして航空機の納入の遅れが相まって、既存エンジンのライフサイクルは実質的に延長されています。

マグネティック社は、2027年末までにCFM56における病院向けショップビジットの頻度が

コア性能回復イベントの頻度と同程度になると予測しています。2030年までに、

クイックターンショップビジットは全イベントの60%を占めると予想され、その後もこの割合は年間3~4%増加すると予測されています。

ベラ氏は、市場の力学的な側面を指摘。現在、修理不能となったエンジンのほとんどは、分解

するよりも再生する方が費用対効果が高い水準で評価されています。「この現象は、修辞的な

疑問を提起します」と彼は言います。「これほど高額な費用をかけてこれらのエンジンを再生

することは、誰にとっても理にかなっているのでしょうか?もしそうなら、どのような基準で? 」と。

まとめと解説

MRO業界は、航空機の安全運航を支える不可欠な産業でありながら、常に熟練した技術者の

確保が課題となっています。航空需要の回復やeVTOLなどの次世代航空機の登場により、その需要はさらに高まっています。

マグネティクMROが「新たな人材確保を強化している」というのは、このような業界全体のトレンドと合致しており、彼らの成長戦略の重要な一部です。

人材不足の背景には、 経験豊富な技術者が定年を迎える一方で、後継者の育成が追いついてい

ない現状があります。また、コロナの後人員不足で過重な労働を虐げられて疲弊しているのも

現実です。 現代の航空機は高度な技術の塊であり、整備には専門性の高い知識と経験が求め

られます。 航空機の整備は非常に厳格な安全基準と規制の下で行われるため、専門資格の取得

と維持に時間と労力がかかります。 パンデミック初期には航空需要の激減により多くの航空

会社やMRO企業が人員削減を行いましたが、その後の需要回復により一転して人材不足が深刻化しています。

それでは、これらの問題を解決するには?

    • 研修プログラムの強化: 自社での訓練施設や提携機関を通じて、若手技術者の育成に力を入れています。
    • キャリアパスの明確化: 技術者としての長期的なキャリアパスを示し、魅力的な職場環境を提供します。
    • 国際的な人材の誘致: ヨーロッパ内だけでなく、世界中から才能ある技術者を誘致するための採用活動を強化しています。
    • 技術革新への対応: 新しい航空機技術(例: eVTOL、複合材料、デジタル整備ツール)に対応できる人材の育成や、既存技術者のスキルアップを支援しています。
    • ワークライフバランスの改善: 働き方改革を進め、より魅力的な労働条件を提供することで、人材の定着を図っています。

マグネティクMROのような企業が積極的に人材投資を行うことは、単に自社の成長だけでな

く欧州ひいては世界の航空産業全体の安全と発展にとって極めて重要であると言えます。

 

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