ヨーロッパ初の電気LSA

飛行機

皆さんこんにちは!

ヨーロッパ航空安全機関(EASA)が、初めて電動航空機に対して許可を出した

スロベニアのピピストレル(Pipistrel)社製のヴェリス・エレクトロを紹介します。

ピピスレレル ヴェリス・エレクトロ

母国・スロベニア

電気航空機開発会社 ピピストレル(Pipistrel)は、中央ヨーロッパに位置する国スロベニ

にあります。首都はリュブリリャナ。主要なヨーロッパの文化や交易の交差点です。

スロベニアと周辺国の地図

スロベニアは、人口約200万人と市場としては小さいため、欧州を見据えた経済活動が基本

であり、製造業も欧州、EU内への供給を中心としています。主要産業は、自動車等輸送機

械、電気機器、医薬品、金属加工、観光です。日本との関係は良好で、2014年3月、二国

間の経済関係強化のため、スロベニア日本ビジネス協会が発足しました。2016年には19年

ぶりに経団連ミッションがスロベニアを訪問したほか、新エネルギー・産業技術総合開発

機構(NEDO)とスロベニア関係機関が共同でスマート・コミュニティ実証事業を行うこと

を決定しています。2016年10月に安川電機は産業用ロボットの欧州製造拠点をスロベニア

に設置することを決定し、2018年5月には産業用ロボット用のインバーター等の製造工場建

設にかかる追加投資を発表。また、関西ペイント社が塗装業界大手のヘリオス社の株式を買

収、住友ゴム工業がロンストロフ社の子会社として精密医療用ゴム製品の製造工場建設を決

定するなど日本企業による投資は増加傾向にあります。

電気航空機開発会社 ピピストレル(Pipistrel)

1982年、スロベニアの 2 人のグライダー パイロットと優れたラジコン モデル航空機メーカ

ーのイヴォ・ボスカロルと ボヤン・サヨビッチが会社を興しました。彼らは数年間一緒に

さまざまな飛行方法を研究し、実験用の航空機を製造しました。

30 年の間に、ピピストレルは趣味のハング グライダー ガレージ製造から、世界の主要な航

空当局によって認められた、世界的に有名な小型航空機製造業者に成長しました。

その革新的なアイデアにより、マイクロライトプレーンおよび軽量スポーツ航空機に複合材

料を導入し、史上初の 2 人乗りおよび 4 人乗りの電動飛行を製造しました。

ピピストレルの名前の意味はコウモリです。スロベニアがまだ旧ユーゴスラビアの一部だった

1975 年以来、代替航空に積極的に関わってきました。当時、代替飛行やマイクロライト飛行

は違法でした。使用していた飛行場は軍隊に属していたので、最初の代替パイロットは飛行し

たい場合、秘密裏に飛行しなければなりませんでした。彼らは、通常の航空機を飛ばしたパイ

ロットがその日の飛行を終えるまで待たなければならず、格納庫をロックして家に帰り、暗闇

が落ちる前に1時間の飛行を試みました. 彼らが夕方遅くに飛行し、代わりの航空機の前部にあ

るライトを使用していたことと、電動ハンググライダーが三角形の翼を持っていたことから、

地元の人々は彼らを「あのコウモリ」と呼び始めました。「コウモリ」を表すラテン語は

「Pipistrellus」です。

制作している航空機は、ハイブリッド型エンジン(電動、ガソリン、ハイブリッドを

選択できる)搭載の4人乗りの航空機パンテーラ。

パンテーラ(Pipistrel より)

グライダーの牽引もできるパワフルなLSA(Light Sports Aircraft)のエクスプローラー

エクスプローラー(Pipistrel より)

などがあります。

そして今回、紹介する電動LSA ヴェリス・エレクトロです。

電動LSA ヴェリス・エレクトロ

ヴェリス・エレクトロは、世界で初めて型式証明 ( EASA.A.573 TCDS ) を取得した電動

飛行機です。主にパイロットの訓練を目的とした 2 人乗りのこの航空機は、技術革新とコ

スト効率の点で画期的な航空機です。ヴェリス・エレクトロは商用運用が可能であり、パ

イロットの訓練やその他の運用が完全に承認されています。その静音性により、コミュニ

ティの生活の質に悪影響を与えることなく、飛行訓練を都市部近くでもできます。

わずか 60 dBa の騒音レベルで、他の航空機よりもかなり静かで、燃焼ガスをまったく発生

しません。その革新的なパワートレインは、バッテリーを含めて完全に水冷式であり、認証

プロセスの一環として、バッテリーの熱暴走試験、衝突負荷に耐える能力の実証実験を行い

ました。

性能は以下の通りです。

エンジン ピピストレル E-811 EASA 型式認定
マックスパワー 57.6kW MTOP
プロペラ Pipistrel P-812-164-F3A 認定固定ピッチ複合 3 ブレード、直径 1.64 m
寸法
翼幅 10.71m(35.1フィート)
長さ 6.47メートル(21.3フィート)
身長 1.90メートル(6.23フィート)
翼面積 9.51㎡(102.4平方フィート)
アスペクト比 12.04
ポジティブフラップ 0° (0)、8° (+1)、19° (+2)
重心 24% – 32.4% マック
ウェイト
基本自重 – バッテリー付き 428キロ(941ポンド)
最大離陸重量、MTOW 600kg (1,320ポンド)
ペイロード重量 172キロ(378ポンド)
パフォーマンス
600 kg MTOW (1.323 ポンド) のデータが公開されています。ノットのすべての速度
フラップ付き失速速度、V S0 45KCAS
フラップなしの失速速度 51 KCAS
巡航速度(35kW時) 90KCAS
海面での最大水平速度 98KCAS
速度を超えない V NE 108KCAS
フラップありの最高速度 (+2)、V FE 65 KCAS
操縦速度 100KCAS
最高上昇速度、V Y 75 KCAS
最大上昇率 3.3 m/秒 (647 フィート/分)
最高の滑空比速度 64 KCAS
最高の滑空比 15:1
テイクオフラン – 芝/アスファルト 246/241 メートル (807/791 フィート)
50 フィートの障害物を超えるテイクオフ – 草/アスファルト 453/409 m (1,486/1,342 フィート)
サービス上限 3,660m(12,000フィート)
耐久 最大 50 分 (プラス VFR リザーブ)
許容される最大負荷係数 @ (1.875) +4g -2g
設計安全係数と試験済み 最小 1.875

ヴェリス(Velis)はラテン語の「帆」 ( velum, veli ) の奪格から来ており、「帆を持って

移動する (補助なし)」という意味です。その名前は、何世紀にもわたって世界の海を巡航

してきた、静かで緑豊かな帆船を連想させます。

気になるフライト時間ですが、1回の充電で約45分飛行することができます。

この機体は、LSAですので国によっては2点間飛行(離陸飛行場と着陸飛行場が異なる)

ことができないことも考えると妥当かなと思います。主にローカルフライトや初期訓練用

に使用することを目的としています。

また、バッテリーの優れた寿命を維持するために、バッテリーに液体冷却を採用した画期

的な設計が採用されました。これにより寿命は、前世代の電気航空機の寿命の 2 倍になり

ました。モーターとパワーコントローラーも改​​善され、暑い気候や寒い気候での堅牢な操

作が可能になりました。

そして、特記すべき性能ですが、スピンやUPSET(アップセット)と呼ばれる異常姿勢か

らの回復訓練が行えることです。

ヴェリス・エレクトロ(Pipistrel より)

EASAの型式証明の意味

型式証明書を発行することにより、EASA は、連続生産を目的とした航空機が、欧州連合

の航空法によって確立された該当する耐空要件に準拠していることを証明します。これに

より、航空機を商業的に利用することができます。

以前の電動航空機は、国家当局からさまざまなレベルの承認を得ていましたが、標準カテ

ゴリーの航空機と同等のレベルの安全性を実証したり、商業的に運用することができたも

のはありませんでした。

デンマーク空軍が練習機として採用

デンマーク空軍は、2030 年までに CO2 排出量を 70% 削減するという政府計画の一環

として、世界で初めてヴェリス・エレクトロ 航空機を使用してパイロットを訓練しました。

同国空軍は 2 機をリースしており、9 月に納入され、飛行学校でパイロットが使用する

予定です。これらは空軍の現在の航空機であるサーブ T-17 を補完するものであり、

2 年間にわたって使用される予定です。

そして、結果として軍事パイロットの訓練業務に関連する CO2 排出量、騒音、およびコス

トを削減することができるのです。それは、空港周辺の住民から騒音問題を無くすことを

意味しています。

同時に、このヴェリス・エレクトロ 航空機が、軍の過酷かつ厳しい飛行訓練に耐えるだけ

の性能を持っていることを証明することにもなります。

スイスの航空学校が採用

スイスのフリブール市の南に位置するエキュヴィヨンスで、ピピストレル社の正規代理店

であるアルパンエアプレーンズを経営しているコルパトーさんは、昨年7月に14機ある

ヴェリス・エレクトロ機の1機目を納品しました。同社では、12機をスイス全国の航空学

校に貸し出す計画です。すでに7件の契約を結んでいます。

航空学校では電動航空機の需要が大きいといいます。それは、音が静かだからです。

スイスのような人口密度の高い国では、飛行機の騒音に対して地元から抗議の声が上がる

ことは珍しくありません。9月下旬には、ローザンヌのブレシュレット空港の周辺住民

100人以上が、年間3万6千便に上るフライト、騒音、汚染について抗議運動を行いました。

住民たちの要求は、この地方空港の閉鎖という過激なものでした。それほど、騒音問題は

根が深いのです。

一方、電動航空機の推進派は、フライトの音が静かになり、価格が下がり、メンテナンス

費が抑えられ、増え続ける航空産業の二酸化炭素排出量も減らせると主張しています。

理論的には、電動航空機は音が静かなので、空港の離着陸時間も延ばすことが可能です。

背景には、二酸化炭素排出量の削減は国際的な課題となっており、スイスでも、2020年6月

の炭素法改正により、スイス出発の航空便に航空チケット税が課されることになっています。

TEXTRON が PIPISTREL を買収

2022年4月、Cessna、Beechcraft、Bell の航空ブランドの本拠地であるテキストロン社は、

ピピストレルを買収しました。

ピピストレル社は、テキストロン社の傘下に入ることで、より多くのリソース、技術的・

規制的専門知識、グローバルな航空機販売・サポートネットワークを利用できるようにな

り、電気・ハイブリッド航空機の開発・認証を加速させることができるようになるのです。

ピピストレルは現在、テキストロンの最も新しい事業セグメントであるTextron eAviation

の一部となっており、都市部の空の移動、一般航空、貨物、特殊任務向けに持続可能な航空

機ファミリーを提供するというテキストロンの長期戦略を追求することになるのです。

また、これまでTextron eAviationの取り組みを主導してきたロブ・ショールが、このセグ

メントの社長兼CEOに就任しました。

PIPISTREL が LINCOLN PARK AVIATION を米国の販売代理店として選択

ピピストレルは、米国東部 15 州の代理店として、一般航空販売、保守、コンサルティング

の大手プロバイダーである Lincoln Park Aviation (LPA) を任命しました。

航空業界で 35 年以上の経験を持つ LPA は、ピピストレルの 2 人乗りおよび 4 人乗りの

航空機の販売とサポートを担当します。これには、完全電動のヴェリス・エレクトロと、

長距離、高高度用の 4 人乗りの低翼航空機であるパンテーラが含まれます。

リンカーン パーク アビエーションは、1988 年にフランク ガレラによって設立された

ゼネラル アビエーション エアクラフトの高品質のメンテナンスを行っており、過去 35

年以上にわたり、航空の多くの分野で主要なサービス プロバイダーとしての地位を確立

しています。

販売部門は、新車および中古航空機の両方で数十年の経験を有し、販売チームは飛行教官

としての経験を積んできました。一方、サービス部門は、航空機の一般的な整備から複雑

な機体、エンジン、アビオニクスの修理まで、メンテナンスのあらゆる側面を専門として

います。大規模な複合材と板金の修理は、有能なスタッフ、最新の技術とツールとともに

組織内の遺産となっています。

まとめ・日本で飛行できる?

ヴェリス・エレクトロ機の価格は約20万ユーロ(約2800万円)です。

これには、機体本体価格のみでパイロットの訓練費などは含まれていません。

諸経費諸々で約3000万円くらいになるでしょうか。

従来のジェットエンジン機と比べて運転費用はずっと安く、メンテナンス費は

3分の1だということです。燃料費は電力ですので、専用の電気スタンドさえあれば

燃料費は従来の航空燃料よりは安く済みます。

パイロットのライセンスは、基準がLSAのライセンスです。日本ではそのLSA用の

ライセンスが無いために自家用操縦士免許以上が必要です。

残念ながら、日本では飛ぶことはできません。

理由は、EASAやFAAで承認された機体でも、日本にはLSAというカテゴリーが無いために

承認が下りないのです。

それでは、自衛隊の練習機として採用できないのでしょうか?

現在、航空自衛隊は初等練習機・T-7、海上自衛隊はT-5です。どちらも富士重工が製造して

います。性能は、馬力が380HP、最高時速は400km前後、最高上昇可能高度は7620m。

製造開始が2003年と20年が経っています。

航空大学校は、シーラス式SR22型で、310HP、時速340km、高度5300mです。

これらの練習機と比べるとヴェリス・エレクトロの性能は見劣りしますが、本当に初期の

訓練機としては問題はないと思います。

今後日本でも法整備が進み、LSAが承認されれば、低コスト、低騒音、脱炭素など多くの

メリットが期待できる飛行機となるでしょう。何と言っても飛んでいて楽しいと思います。

 

それでは今日はこの辺で・・・

またお会いできる日を楽しみにしています。

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