皆さんこんにちは!
2021年6月に発表された新型エンジンについて紹介します。
その名もオープンローター型エンジンです。それではその全容をみていきましょう。
CO2排出量を20%削減する新たな航空機エンジン
CFM オープンローター型エンジン
航空機の性能(推進力)の多くを決定するものはエンジンです。
エンジンには、ピストンエンジン、ジェットエンジン、ジェットファンエンジンなど
があります。
多くの旅客機のエンジンはカウルケースに覆われたエンジンを想像しますが、
今回発表されたエンジンは、まるでプロペラのようにファンがむき出しになっているの
です。
2021年6月14日に合弁企業CFMインターナショナル(CFM International)の親会社で
あるGEとサフラン・エアクラフト・エンジン社(Safran Aircraft Engines)の両社が発
表したCFM RISEプログラム。RISEプログラムの掲げるビジョンは、タイトルである
「持続可能なエンジンのための革新的なイノベーション」そのまま表されています。
CFMは世界中の600以上のオペレーターに35,000基超のエンジンを納入してきました。
同社のエンジンを搭載した航空機は合計で10億時間以上の飛行時間を記録しており、
これは飛行距離で表すと地球から冥王星への20往復分に相当します。少なくとも航空
機産業では、CFMは世界で最も成功した合弁事業と言えます。
1980年代初頭にCFMの初期のエンジンが稼働し始めてから、同社の新型エンジンにリ
プレースすることで、従来型のものに比べ燃料消費量とCO2排出量をそれぞれ40%削
減することを実現してきました。CFMの世界最高の航空宇宙エンジニアチーム
(RISEチーム)は、これらの性能をさらに20%改善する予定です。
このエンジンは、飛躍的な燃料消費率向上とCO2排出量削減につながることが見込まれ、
RISEチームが今後数年間の実証を重ねる予定の「オープンローター」設計コンセプトを
採用ししました。従来のターボファンエンジンと異なり、この新しいエンジンは構造上
前部にあるローターが外装ケースに覆われていないため、オープンローターと呼ばれ
ています。このオープンローターは、推進効率を大幅に向上させることからCO2排出量
と燃料消費量の削減に大きく役立ちます。
オープンローター素材には、三次元に編み上げられ樹脂が注入された特殊な炭素繊維を
用いる予定です。軽量で堅牢なこの素材を用いることで、エンジニアたちは直径13フィ
ート(約3.9メートル)の規格外の大径ローターを実現でき、結果的に推進効率とバイパ
ス比が向上します。
このバイパス比とは、ローターが創出する推力とローターを駆動するのに必要なエネルギ
ー量との関係を表す非常に重要な数値です。CFMの歴代のエンジンを振り返ると、1980年
代の初期のバイパス比5:1から、LEAPエンジンではバイパス比11:1まで向上してきまし
た。それに対し、オープンローターは、70:1を超えるバイパス比を達成できるのです。
※バイパス比が大きいほど、亜音速での推進効率が良く、低速時の燃料消費率が下がり、
排気騒音も下がるのです。
ターボファンエンジンの仕組み
推力(推進力)は、推力 = 過速度 ×質量流量このような式で表せます。
過速度を下げる方法は、ファンの圧力比を下げることです。同時に、推力を維持するため
に質量流量を増やす必要があります。これは、ファンのサイズを大きくするか 、コアの
サイズを小さくするか、またはその両方によって、バイパス比を大きくすることによって
行います。
バイパス比が 15 を超えると、ファン、その保護ファン ケーシング、およびそれを囲むナ
セルのサイズと重量に問題が生じます。別の方法は、ナセルをスキップして、オープンロー
ター エンジンを使用することです。
スワール損失(エンジンのなかで生成するガスの動きのこと)を減らすために 2 つのロータ
ーが必要だったため、これらは以前は複雑でした 。
1985年に地上試運転が行われた GE36 UDF
CFM RISE の開発により、回転しない第 2 ステージの可変インシデンス ベーンによって
スワール除去が行われ、エンジンの複雑さがターボプロップに近くなりました。
実際、サフラン社は2018年に自身のオープンローターによる設計コンセプトのテストも
行っています。
とはいえ、エンジンをより高効率にする技術手法は、より大きなファンを作ることに限られ
るわけではありません。別のアプローチには、エンジンのコア部を構成するコンプレッサー、
燃焼器、タービンを含め、燃料の持つエネルギーをより効率的な回転運動に変換する部品
を開発することも含まれます。
「RISE」計画
「RISE」計画は環境に優しい「オープン・ファン」エンジンの開発ですが、これには
SAFと呼ぶ“環境に優しい燃料(sustainable aviation fuel)”や液体水素燃料を使用する
新しい燃焼室の開発・試験が最大のポイントになります。また「オープン・ファン」を
駆動する「ハイブリッド電動装置(hybrid-electric operation)」の開発が重要です。
「RISE」計画は、GEとサフランが2009-2012年に取組んだ「アン・ダクテッド・ファ
ン(UDF=unducted fan engine)」開発から生まれた計画です。「アン・ダクテッド・
ファン / UDF」エンジンは、米国ではNASA、FAAの支援を受けて試作エンジンの試運転
が行われました。ファン・ブレードにはGEの試作エンジンGE36 UDF のファン・ブレ
ードの改良型を使用。同時期には同じ形式のエンジン「Pratt & Whitney/Allison 578DX」
が作られ、MD-80で飛行試験が行われました。両プロジェクト共1989年末までに当時の
石油価格下落で燃費節減の必要性が薄れ開発中止となってしまいました。
サフランは、EU当局の「クリーン・スカイ航空研究プログラム」の中にある「SAGE 2
(sustainable and Green engine)/環境に優しいエンジン計画」に基ずき、「二重反転
オープン・ローター計画(CROR=counter-rotating open rotor)」の研究を2億4000万ドル
で受託実施、2017年に研究を完了しました。続いてサフランとGEのイタリアの子会社Avio
Aeroは、EU当局に対しこの研究のさらなる継続を2027年完結を目標に提案しています。
こうしたことから「RISE」計画には、今後米国およびEUの関係当局からの支援が得られる
ことは間違いなさそうです。
CFM International
CFM Internationalは前述の通りGE エビエーションとサフラン(Safran Aircraft Engine /
以前のスネクマ)の合弁会社で、CFM56エンジンの開発、生産のため1974年に設立。
GEとサフランはそれぞれの最終組立工場でエンジンを生産しています。そしてGEは高圧
コンプレッサー、燃焼室、高圧タービン、を担当/製造。サフランはファン、ギアボックス、
排気ダクト、低圧タービンを製造しています。GE、サフランで組立てたエンジンは、CFM
International経由で顧客に納入される仕組みになっています。
ナセルやカウルは必要ない?
現在のエンジンは、ファン・ブレードの破断に備え外周をケースで囲み、さらにその外側
をナセル/カウルで覆いブレードの飛散を抑える構造にしています。これまで数件のブレー
ドあるいはファン・デイスクの破損事故がありましたが、いずれもファンやデイスクの
金属疲労が原因でした。ボーイング777-300ERおよび787のエンジンであるGE-90および
GEnxでは炭素繊維複合材製のファン・ブレードを使っており、これまで1億4千万時間以上
の飛行時間で破損したことは無く、安全性が証明されています。
そして今回の新しいエンジンのファンブレードには更に特殊な素材を使用する予定です。
鳥との衝突(バードストライク)が起きたときに対処可能な性能を期待します。
まとめ
CFMが提案するオープン・ファンは2030年台半ばとなっており、これはエアバスがCFM
Leapを装備するA320neoの後継機として「ゼロ・エミッション中型機」を開発・就航
させたいとする時期と一致します。
一方ボーイングは2度の墜落事故で長期間の飛行停止となった737 MAXは、エアバスに
差をつけられ長距離型A321neoに対抗できる系列機の開発を見送らざるを得なくなりま
した。市場シェア回復のためボーイングは2030年代ではなく2020年台半ばに新型機の
開発を決めようとしています。しかし開発には巨額の資金が必要な上A321neo より燃費
で15 %改善が必要なので達成は容易ではありません。このタイミングではCFM 「RISE」
エンジンは未完成で、CFM LeapやPW1100Gの改良型に頼ることになります。
今後の動向に注目したいと思います。
それでは今日はこの辺で・・・
またお会いできる日を楽しみにしています。
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