アーチャーの夜明けは近いのか?

ドローン、空飛ぶ車

皆さんこんにちは!

アメリカのジョビーと熾烈なeVTOL競争を争っている、アーチャー。

その主力機、ミッドナイトは量産体制に入りましたが同時にに新たな戦力で生き残りを模索しています。

アーチャー、ミッドナイトeVTOL機の生産を増強

アーチャーの従業員がミッドナイトeVTOL機の整備に取り組む

©アーチャー・アビエーション

ミッドナイトeVTOL機6機が同社の組立ラインに投入

アーチャー・アビエーションは、UAEで今年中に電動エアタクシーサービスを開始する計画

を推進しており、この米国メーカーは4人乗りのeVTOL機「ミッドナイト」の生産を徐々に

増やしています。同社は第2四半期の決算報告で、ミッドナイト機3機が組立の最終段階にあり、さらに3機が製作中であると発表しました。 

これらの新型機の一部は、アーチャーの『ローチン・エディション』プログラムに基づく

海外での初期運用を支援するもので、一部はFAA型式検査認可(TIA)飛行試験にも使用

される予定で、同社は今年後半に開始できると発表しています。一方、競合するeVTOL

開発企業のジョビー・アビエーションも最近、2026年初頭に開始予定の TIA試験に向けて適合機の組み立てを開始したと発表していました。

アーチャーは第2四半期を17億ドルの現金で締めくくり、純損失は2億600万ドルとなりま

した。これは、前2四半期の純損失の約2倍です。この損失は、営業費用の増加によるところ

が大きく、営業費用は前四半期比3,210万ドル増加し、1億7,610万ドルとなりました。

一方、アーチャーは同四半期に8億5,000万ドルの新規資金調達を行いました。

アーチャーは第2四半期にミッドナイト機のFAA型式認証に関する大きな進展は報告しなか

ったものの、株主への書簡の中で、米国航空安全規制当局は「生産認証取得に向けた取り

組みの一環として、当社の製造業務の審査と検査を継続している」と指摘していました。 

アーチャーのCEO、アダム・ゴールドスタイン氏は四半期決算発表で、「ミッドナイト型

式認証を取得し次第、生産を開始できるよう、型式認証の進捗状況を生産認証と整合させ

ている」と述べ、このマイルストーンは早くても2026年以降に達成される予定です。 

同社は株主向け書簡で、「来年早々にもDOT(運輸省)およびFAA(連邦航空局)と

ミッドナイト機の早期導入の可能性について協議している」と述べました。アーチャー・

ゴールドスタイン氏は決算説明会で、これらの早期導入はニューヨーク、ロサンゼルス

またはサンフランシスコで開始される可能性があると説明しました。アーチャーはこれらの

都市で既にインフラ整備契約を締結しています。また、同社は今年後半にアブダビの

「ローンチ・エディション」プログラムのパートナーから商業的な支払いを受け始める予定です。

ミッドナイト機および競合するeVTOL機の米国におけるFAA認証取得の正確なスケジュール

は依然として不明ですが、トランプ大統領が6月に署名した大統領令が認証取得プロセスを

加速させる可能性があるとアーチャー社の関係者は示唆しています。同社は、この大統領令

でFAAが2026年に開始するよう指示されている「eVTOL統合パイロットプログラム」へ

の参加提案を提出する予定です。アーチャー社によると、このプログラムは「eVTOL機を

実際のユースケースでテスト・展開するための即時の道筋を創出し、米国空域への統合を迅速化する」とのことです。

このパイロットプログラムは、アーチャーが最近公式エアタクシープロバイダーに指名

された2028年ロサンゼルスオリンピックまでに、同社のミッドナイト機が認証を取得でき

るようにするのに役立つ可能性があります。しかし、飛行試験と認証の面で、アーチャーにとってはまだ長い道のりが残されています。 

CTOL運用への移行

アーチャーは6月にミッドナイト試作機による有人飛行試験を開始しましたが、これまで

のところ、パイロットを搭乗させた状態での通常離着陸(CTOL)能力のみを実証してい

ます。機体が垂直上昇から翼上巡航飛行に移行する有人トランジション飛行は未だ実証され

ていませんが、無人機のミッドナイト試作機ではトランジション飛行に成功しています。

「ミッドナイトは通常の運用の一環として、垂直離着陸と従来型の離着陸の両方に対応でき

る独自の能力を備えているため、設計上、意図的に従来型の離着陸飛行から開始しました」

とゴールドスタイン氏は述べています。「近年の飛行試験キャンペーンは、主に

垂直離陸(VTOL)と翼上飛行への移行に重点を置いてきました。今年後半に予定している

TIA(離陸試験)に向けて、まずは垂直離着陸(CTOL)キャンペーンに取り組むことが不可欠でした。」

アーチャーの最高技術責任者であるトム・ムニス氏は、決算説明会で、同社がCTOLに

注力している理由は2つあると説明しました。「第一に、ミッドナイトの設計と認証プロ

セスを通じて、規制当局、航空会社、防衛関係の顧客は、運用の柔軟性と安全性の向上、

および特定のミッションの航続距離の延長のために、VTOLとCTOLの両方の運用を認証する必要があると強調してきました。 

「第二に、これは飛行試験に対する最も実用的で安全なアプローチです。私たちの戦略は、

まずミッドナイトの固定翼飛行と従来型着陸性能を検証し、その後、今年後半にパイロット

を乗せたVTOLに再び焦点を当てることです」とムニス氏は述べました。この戦略は、

ライバルである電気航空機開発会社ベータ・テクノロジーズが採用したアプローチと似て

おり、同社は2023年にeVTOL機のCTOL版を商用化することを決定しました。 

「パイロットテストと飛行試験のペースを加速させ、性能限界を急速に拡大し、有人機と

VTOL機の運用を並行して開始していきます」とムニス氏は述べました。また、無人機の

ミッドナイト試作機は2023年の初飛行以来、数百回の無人飛行を完了しており、「VTOL

と移行に関する膨大なデータが得られました」と付け加えました。 

ゴールドスタイン氏はさらに、「アーチャーは飛行限界を急速に超え、予想される商業運航

に対応できる機体性能を強化している」と付け加えました。例えば、同社は予想される商業

ルートを模擬し、20~30マイルの範囲で飛行を実施しています。「また、UAEで最初の

ローンチエディション運用を実施し、飛行試験プログラムを国際的に拡大しました。

そこではまず、アブダビの猛暑の中でミッドナイトの性能をテストすることに重点を置きました」とゴールドスタイン氏は述べました。

生産増加

現在生産中の6機が完成すれば、アーチャーのミッドナイト機群は8機となります。「これ

らの機体はすべて、当社の量産型4枚羽根リアプロペラを搭載し、認証飛行試験または早期

商用導入へと進む予定です」とゴールドスタイン氏は述べました。

ミッドナイトの試作機2機(FAA登録番号N302AX(モデルMidzero)および

N703AX(モデルM001))が現在、飛行試験中です。アブダビでの飛行試験では、2023年

に初飛行を行い、移行飛行を達成した 無人技術実証機N302AXが使用されています。

アーチャーの後継機であるN703AXは、5月に生産ラインから出荷され、6月にパイロット

搭乗による初飛行を実施しました。アーチャー社独自の2枚羽根固定式揚力プロペラを搭載

しており、現在は垂直離着陸(CTOL)飛行のみ可能です。アーチャー社がプロペラを最新

の4枚羽根設計に交換するまで、N703AXは垂直離着陸(VTOL)飛行や移行飛行試験には

使用されません。現在、N703AXはカリフォルニア州サリナスにあるアーチャー社の施設で定期的にCTOL飛行を行っています。 

アーチャーのシリコンバレーとジョージア州コンビントンにある施設では、深夜の生産・

組立作業が行われています。同社は最近、コビントンに大量生産用の40万平方フィートの

工場を開設しました。同社は第2四半期報告書の中で、コビントン工場での初期作業はこれ

までのところ、機体胴体関連の製造工程に重点を置いていると述べています。 

コビントンにあるアーチャー・アビエーションの工場内

生産工場はジョージア州コビントン市営空港にあります。© Archer Aviation

アーチャーは、カリフォルニア州とジョージア州の工場を合わせ、ミッドナイト型機の

就航当初は年間50機の生産を目指しています。同社は、コビントン工場は将来的に年間最大

650機の生産能力を持つ可能性があると主張しています。

アーチャー・ディフェンスのハイブリッドVTOL機が急速に成熟

アーチャーは、ミッドナイト機のFAA認証取得に向けて準備を進めるとともに、 12月に

アンドゥリル・インダストリーズと提携して設立したアーチャー・デフェンス事業部による

新たな航空機プログラムにも注力しています。この航空機は垂直離着陸(VTOL)機能を

備えたハイブリッド電動パワートレインを搭載するが、必ずしもミッドナイトに類似するわけではありません。  

「私たちは新しいハイブリッド電気航空機の設計を急速に成熟させています」とゴールドス

タイン氏は決算説明会で述べました。「開発の機密性が高いため、ミッションパラメータや

機体要件の詳細についてはお伝えできませんが、eVTOLの単なるハイブリッド版ではなく、

革新的な航空機の開発に注力していることはお伝えできます。」 

アーチャーは最近、軍用機の開発を支援するため、ライバルであるeVTOL機開発会社オーバ

ーエアの特許ポートフォリオを買収し、カリフォルニア州ハンティントンビーチにある

6万平方フィートの製造施設を防衛サプライヤーのミッション・クリティカル・コンポジッ

ツから購入しました。「これらの動きは、拡大する防衛パイプラインの需要に応えるべく

当社独自の強みを築き続けるものです」とゴールドスタイン氏は述べています。「ワシン

トンでヘグセス長官とダン・ドリスコル陸軍長官と最近会談した結果、アーチャー・ディ

フェンスが当社の事業の戦略的支柱となることは明らかです。」

アーチャー・ディフェンスとは、防衛技術企業アンドゥリル・インダストリーズと提携し、

ハイブリッド電動垂直離着陸機(VTOL)を開発するために立ち上げた事業部です。

米空軍の隊員がテスト飛行中のミッドナイトを眺める

アーチャーは米空軍と協力し、同社の5人乗りeVTOL機「ミッドナイト」の軍事利用の

可能性を探っています。同社は2024年8月に、評価のために最初のミッドナイト機を米空軍に納入しました。

ライバルのジョビーは、2023年9月に米国空軍にeVTOLを初めて納入しています。

気になるライバルジョビーの動向

eVTOLエアタクシーサービスのためにブレードを買収

ブレードエアモビリティヘリコプターの運用

ブレード・エア・モビリティのヘリコプターサービスをご利用の乗客には、ジョビーのeVTOLエアタクシー便への乗り換えが提供されます。© ブレード・エア・モビリティ

ジョビー・アビエーションは、ブレード・エア・モビリティの旅客運航事業を買収すること

で合意し、この事業をeVTOLによるエアタクシーサービス開始計画の主要事業として活用

します。両社は8月4日、1億2,500万ドルの取引を発表し、ジョビーはブレードの医療輸送

部門のパートナーとなると発表。医療輸送部門は引き続き独立した上場企業として運営されます。

ジョビーによると、ブレードは来年ドバイで商業旅客サービスを開始する取り組みに直接関

与する予定です。ジョビーは、この買収により「ニューヨーク市と南ヨーロッパの主要都市

圏への即時の市場アクセスとインフラ」が実現すると述べています。

ANAとのeVTOLエアタクシー提携を拡大

日本のJoby eVTOL機

ジョビーは今年10月に大阪で開催される2025年万博で4人乗りのeVTOL機を飛行させる予定

ANAはジョビーとの提携を拡大して、合弁会社によるエアタクシーサービスの開始に向けて

準備を進めています。両社は8月5日にこの取り組みを発表し、ジョビーの4人乗り機100機以上が使用される可能性があると述べました。

両社は、eVTOL機体の所有と運用に関して、合弁事業の運営方法については明らかにして

いません。計画では、首都東京とその周辺地域から段階的にサービスを展開していく予定だと示唆しています。

ジョビーは10月1日から13日まで、大阪万博2025で公開デモンストレーション飛行を

実施します。この機体は、日本最大の航空会社であるANAの機体塗装が施されます。

TIA試験に適合する電動航空機の組み立てを開始

EAAエアベンチャーに出展されたJoby eVTOL機

ウィスコンシン州オシュコシュで開催されたEAAエアベンチャーに自社のeVTOL機を出展。© AIN/Matt Thurber

ジョビーは現在、型式検査認可(TIA)飛行試験用の4人乗りeVTOL機の適合機のうち、

最初の機体の最終組立準備を進めています。カリフォルニア州に拠点を置く同社は、

8月6日に行われた第2四半期決算説明会でこの節目となる飛行試験がFAA型式認証プロセス

の第5段階であり最終段階であることを発表しました。

同社のパイロットは、今年後半にTIA試験に使用される適合機の操縦を開始する予定です。

FAAのパイロットは、2026年初頭にこれらの機体を操縦する予定です。

試験プログラムには5機の航空機が参加します。FAAの承認を得るためにTIA試験が複数

あります。「それぞれの試験計画には、試験対象となる5機の航空機が特定されています。

5機全ての部品の製造を開始しています。他にも機体の組立工程に入っている航空機が

複数あり、その多くについて部品やシステムを製造しており、まさに本格稼働しています。

まとめと解説

ライバル同士のアーチャーとジョビー。アーチャーが浮上するきっかけは?勝機はあるのでしょうか?

アーチャーの具体的な戦略

アーチャーの戦略は、自前主義のジョビーとは対照的に、外部との連携を積極的に活用した

サプライチェーンの構築にあります。これにより、開発の時間とコストを削減し、市場投入までのリスクを低減することを目指しています。

  • 製造パートナーシップ: ステランティスと提携し、大量生産体制の確立を急いでいます。ステランティスの自動車製造における専門知識と生産能力を活用することで、機体製造を効率化し、スケールアップを迅速に行う計画です。
  • 顧客・資本提携: ユナイテッド航空や米国空軍との契約締結は、アーチャーの将来性を担保する上で重要な要素です。
    • ユナイテッド航空: ユナイテッド航空からの巨額な機体発注は、アーチャーの製品が市場に受け入れられる可能性が高いことを示しています。これにより、同社の信用力と資金調達力が向上しています。
    • 米国空軍: 米国空軍との契約は、アーチャーの技術が軍事レベルの厳しい要求を満たしていることを証明します。これは、将来の民間市場での安全性と信頼性のアピールに繋がります。
  • サプライヤーの活用: モーターやバッテリーなど、特定の部品を外部のサプライヤーから調達することで、開発の複雑性を減らし、認証プロセスを簡素化しようとしています。これは、すべてを自社で開発するジョビーとは異なるアプローチです。
将来性とジョビーに追いつく可能性

アーチャーの戦略は、ジョビーに追いつき、追い越す可能性を秘めています。

  • 追いつく可能性:
    • 迅速な市場投入: 外部の専門家やサプライヤーの力を借りることで、アーチャーはより早く型式証明を取得し、商業運航を開始できる可能性があります。eVTOL業界は「ファーストムーバー(先行者)」が優位に立つとされており、この時間的優位性は非常に重要です。
    • 大規模な生産能力: ステランティスとの連携により、年間最大650機という大規模な生産が可能になるとされています。これは、ジョビーの生産能力を上回り、市場の需要に迅速に対応できるという点で大きな強みです。
    • 強力な資金基盤: ユナイテッド航空や米国空軍との契約は、アーチャーの財務基盤を強固なものにし、今後の開発や事業拡大のための資金を確保しています。
  • 将来性:
    • 多様な市場への展開: アーチャーは、ユナイテッド航空との提携を通じて航空ネットワークへの統合を目指す一方、米国空軍との連携により防衛分野への展開も視野に入れています。このように、複数の市場をターゲットとすることで、収益源を多様化し、事業の安定性を高めています。
    • LAオリンピックとの連携: 2028年のロサンゼルスオリンピックの公式パートナーとして、アーチャーは同大会でのeVTOL運航を目指しています。これは、製品を世界にアピールする絶好の機会となり、ブランド価値の向上に繋がります。
ライバル比較のまとめ
項目 ジョビー・アビエーション アーチャー・アビエーション
戦略 垂直統合(自前主義)。モーターやバッテリーなども自社で開発。 外部連携(パートナーシップ)。既存サプライヤーや製造会社と提携。
主なパートナー トヨタ、デルタ航空、ウーバー ステランティス、ユナイテッド航空、ボーイング
強み 自社で全てをコントロールできるため、設計の柔軟性が高い。先行者としての実績。 外部リソースを活用して開発・生産コストを抑え、市場投入を早める。潤沢な顧客基盤。
弱み 認証プロセスが複雑になる可能性。大量生産体制の構築に時間を要する。 サプライヤーとの調整が複雑になる可能性。
先行/追撃 先行 追撃

結論として、ジョビーが自社開発と先行者利益で優位性を築いているのに対し、アーチャー

既存産業の強みを最大限に活用する独自の戦略で追撃を図っています。この戦略は、

開発スピードと生産能力、そして強固な顧客基盤という点で、ジョビーに追いつく、あるい

は追い越すための重要な武器となります。今後、両社の型式証明取得の進捗と、実際の商業

運航の開始時期が、競争の行方を決定づける最大の焦点となるでしょう。

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