皆さんこんにちは!
台湾の新しい航空会社『スターラックス』。「ラグジュアリーな航空会社」としてのブランドイメージと、将来的に台湾の航空業界で確固たる地位を築くという野望を持った航空会社。
その勢いはどこまで行くのでしょうか?
台湾の新星、スターラックス航空
スターラックス航空(STARLUX Airlines)の概要
スターラックス航空は、台湾を拠点とする比較的新しい航空会社です。高級感と質の高いサービスを追求し、「ラグジュアリー」な航空会社を目指しています。
- 設立: 2018年5月2日
- 本社所在地: 台湾台北市
- 取締役会長: 張國煒(Kuo-wei Chang)
- 従業員数: 2024年4月現在で4,381人
路線と保有機材
スターラックスの新塗装を施したエアバスA350-1000のレンダリング画像。クレジット:エアバス/カレン・ウォーカー
スターラックス航空は、ハブ空港である台湾桃園国際空港(台北)を中心に、アジアと北米の主要都市を結んでいます。
- 現在の就航地(一部):
- アジア: 日本(後述)、マカオ、タイ(バンコク、チェンマイ)、マレーシア(クアラルンプール、ペナン)、ベトナム(ホーチミン、ダナン、ハノイ、フーコック島)、シンガポール、フィリピン(マニラ、セブ、クラーク)、香港、インドネシア(ジャカルタ)。
- 北米: ロサンゼルス、サンフランシスコ、シアトル、オンタリオ。
- 保有機材:
- 2024年末時点では、合計28機を運航しています。
- エアバス A321neo: 13機
- エアバス A330-900: 5機
- エアバス A350-900: 10機
- 発注済み機材:
- エアバス A350-1000: 18機
- エアバス A350F(貨物機): 10機
- 2025年には、A330neo 3機、A350-900 2機、A350-1000 2機の計7機を導入し、年内に33機体制に拡充する計画です。
- 2024年末時点では、合計28機を運航しています。
日本路線と地方空港の関係
スターラックス航空は、日本市場を非常に重要視しており、主要国際空港だけでなく、地方空港への積極的な乗り入れが特徴です。
- 主要な日本路線:
- 東京(成田国際空港)
- 大阪(関西国際空港、神戸空港 ※チャーター便、一部定期便)
- 名古屋(中部国際空港)
- 福岡空港
- 札幌(新千歳空港)
- 仙台空港
- 地方空港への進出:
- 沖縄(那覇空港、台中発着便あり)
- 熊本空港
- 函館空港
- 高松空港(台中発着便のみ)
- 宮古島(下地島空港 ※2025年8月22日より運航開始予定)
このように、日本の地方空港へも積極的に就航することで、台湾と日本の地方間の観光需要の
掘り起こしや、乗り継ぎ需要の創出を図っていることがうかがえます。特に台中発着便を地方空港に設定するなど、戦略的な路線展開を行っています。
スターラックスとの契約によりエアバスA350の受注が約1,400台に
スターラックス航空は、エアバスA350-1000を10機追加する契約を行い、パリエアショーの調印式で新塗装を公開しました。
スターラックスのCEOであるグレン・チャイ氏とエアバスの民間航空機販売担当副社長
ブノワ・ド・サン=テグジュペリ氏は、6月18日水曜日に契約に署名しました。これに
より、スターラックスの発注書にある-1000の数は18機となりました。また、同社は
A350-900を10機運航中、エアバスA330を5機運航中、さらに6機を発注中、エアバス
A321neoを13機運航中、さらに6機を発注中、A350F貨物機を10機発注中です。
チャイ氏は、最初の発注分の最初のA350-1000は今年中に納入されるが、確定している新規発注分の航空機は2031年から納入が始まると述べました。
スターラックス航空は設立からまだ日が浅いものの、既に台湾からアメリカ、日本、マカオ、
ベトナム、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポールまで29の都市に就航しています。
2026年第1四半期には、米国で5番目の都市となるアリゾナ州フェニックスへの就航を計画
しています。チャイ氏によると、アラスカ航空およびエティハド航空とコードシェア便を運航
している同社は、来年にはヨーロッパ初となる都市への就航も計画しているとのことですが、具体的な都市や国名は明らかにしませんでした。
スターラックスがいつ中国路線に就航するかとの質問に対し、チャイ氏は、これは難しい
質問であり、中国と台湾の「両政府」にしか答えられないと述べました。しかし、スターラッ
クスが中国路線を拡大することで、多くの路線を持つ市場が開拓される可能性もあると認め
ました。エアバスのサン=テグジュペリ氏は、スターラックスがまだ発注していない唯一の
エアバス機であるA220にとって、これは大きなチャンスだと冗談を飛ばしました。
チャイ氏は、スターラックス航空の輸送力の40%が日本に投入されており、同航空会社は日本をちょうど12番目の就航地として開設したと述べました。
パリ航空ショーは、A350の旅客型と貨物型の両方にとって素晴らしい航空ショーとなった
のです。エアバスは水曜日に、エジプト航空がエアバスA350-900を6機受注したと発表し
ました。これにより、同社の同型機の受注総数は16機となる。また、トルコに拠点を置くMNG航空がA350F貨物機を2機発注したことも発表しました。
「今回の提携により、欧州、中東、アジア、そして北米における拠点拡大を含む主要貿易路線
における当社の地位が強化されます。定期便とチャーター便の両方の運航を支えるとともに
eコマースから高価値貨物、エクスプレス物流に至るまで、変化する貨物需要への対応力を
さらに強化します」と、マパ・グループCEO兼MNG航空会長のムラサン・ドルク・ギュナル氏は述べています。
今週初めには、リヤド航空が最大50機のA350-1000を発注し、サウジアラビアを拠点とするリース会社アビリースが最大22機のA350Fを発注しました。
ロールスロイス XWB 搭載の A350 ファミリーの受注残は現在、世界 60 社の顧客から
1,390 機を超え、38 社の運航会社の航空機群に 650 機以上が保有されています。
骨肉の争い、創立物語
社長(取締役会長)のプロフィール
スターラックス航空の取締役会長である張國煒(チャン・クオウェイ)氏は、台湾航空業界で非常に著名な人物です。
- 学歴: 米国南カリフォルニア大学経済学学士、米国カリフォルニア州立大学ロングビーチ校経済学修士を修めています。
- 経歴: 台湾を代表する企業グループ「エバーグリーン・グループ(長栄集団)」の創業者、張栄発氏の息子であり、長栄航空(エバー航空)の経営に長く携わりました。エバー航空では総経理(CEO)や董事長(会長)を歴任し、同社の国際的な評価を高めることに貢献しました。
- ユニークな側面: 張國煒氏は、パイロットの資格を持つ航空会社経営者として知られています。自ら定期便の機長を務めたり、新機材の受領フライトで操縦桿を握ったりすることもあります。また、ボーイング777-300ERの副操縦士訓練を修了し、さらに整備士資格も取得しているという、航空機に関する深い知識と情熱を持つ異色の経営者です。
「長栄の乱」:台湾財界を揺るがした兄弟戦争
「長栄の乱」とは、2016年1月に長栄集団の創業者である張栄発(チャン・ヨンファ)氏が
90歳で死去した後に勃発した、彼の子供たちによるグループの経営権と莫大な遺産を巡る熾烈
な争いのことです。中心となったのは、張栄発氏の末息子である張國煒(チャン・クオウェイ)氏と、彼の異母兄たちでした。
争いの発端:突然の遺言公開
争いの引き金となったのは、張栄発氏の死去直後に公表された彼の遺言でした。遺言の内容は
多くのメディアや関係者の予想を裏切るもので、グループの経営権と全遺産を、彼の四男(末子)である張國煒氏に単独で継承させるというものでした。
当時、張國煒氏はグループの中核企業であるエバー航空(EVA Air)の董事長(会長)を務め
経営手腕も評価されていましたが、グループ全体の総裁(会長)職を継ぐというのは、長兄
たちを差し置いての抜擢であり、家族内には寝耳に水の出来事でした。
主な登場人物と彼らの思惑
- 故・張栄発氏(創業者・父): 遺言で末息子の張國煒氏を後継者に指名。彼が航空事業で示した才能と情熱を高く評価していたとされる。
- 張國煒氏(末息子、エバー航空董事長): 父親の遺言によりグループ総裁に指名される。自らパイロット資格を持ち、航空事業に深い知識と情熱を持つ。遺言通りにグループを率いることを目指した。
- 張國華氏(長男、海運事業のキーパーソン): 長栄海運などグループの中核事業を長年支えてきた実力者。遺言の正当性に疑義を呈し、他の兄弟と連携して張國煒氏に対抗する中心人物となる。
- 張國明氏(次男)と張國政氏(三男): 彼らもグループの要職に就いており、張國華氏と足並みを揃え、遺言の無効と兄弟による共同統治体制を主張した。
経営権争いの勃発と激化
遺言が公表されるやいなや、長兄たちは猛反発し、すぐに反撃を開始しました。
- 遺言の無効主張: 兄たちは、遺言が張栄発氏の真意を反映していない、あるいは健康状態が思わしくない中で書かれたものだとして、その有効性を疑問視しました。
- 臨時株主総会の招集と人事刷新: 兄たちは、グループ傘下の企業の株主として連携し、臨時株主総会を招集。張國煒氏をエバー航空の董事長から解任し、グループの要職から外す人事を次々と決定していきました。
- 「クーデター」と称される展開: 張國煒氏が海外出張中に、兄たちが経営権を掌握する動きを見せたことから、メディアはこれを「クーデター」と表現し、ドラマチックな展開として報じました。
- 法廷闘争: 遺言の正当性を巡り、法廷での争いにも発展しました。
争いの結末と張國煒氏の「再起」
激しい争いの末、張國煒氏は兄たちとの対立に敗れ、エバー航空の董事長の座を追われ、長栄集団から完全に離れることとなりました。
しかし、彼は航空事業への情熱を失うことなく、自らの理想とする航空会社をゼロから作り
上げることを決意。そして、2018年に「究極のラグジュアリー」を追求する新たな航空会社、スターラックス航空を設立しました。
「長栄の乱」は、巨額の資産と航空、海運、ホテルなど多岐にわたる事業を擁するコングロ
マリットの経営権を巡る、家族間の深い確執と、予期せぬ遺言が引き起こした現代の王朝物語
とも言える出来事でした。張國煒氏が敗れてもなお航空業界に残り、新たな道を切り拓いたことは、この「乱」をよりドラマチックなものとしています。
スターラックスの野望とチャイナリスク
スターラックス航空の経営状況
スターラックス航空も、コロナ禍での厳しい立ち上げ期を乗り越え、初の通期黒字化を達成するなど、順調に成長を遂げています。
- 初の通期黒字化: 2023年12月期に、1億4,900万台湾ドルの純利益を計上し、初の通期黒字化を達成しました。
- 売上高の急伸: 2023年の売上高は225億台湾ドルで、前期比568%増と急激な伸びを見せました。特に旅客収入は197億台湾ドル(前期比767%増)と大きく貢献しました。
- 新規路線の貢献: コロナ後の旅行需要の回復に加え、北米を含む8都市への新規就航が業績を押し上げる主な要因となっています。
- 戦略的な路線展開: 定期路線は25路線を運航しており、台北/桃園発着が23路線、台中発着が2路線です。北米と北東アジア路線の乗り継ぎ拡大に注力しており、路線網強化と機材拡大により東南アジアでの需要増加も見込んでいます。
- 高評価の獲得: 2025年6月には、国際的な品質評価機関であるスカイトラックス社から、実質最高評価の「ザ・ワールド・ファイブ・スター・エアラインズ」に初めて認定されました。これは台湾の航空会社としてはエバー航空に続く2社目であり、サービスの質の高さが評価されています。
- 機材納入遅れの影響: 一方で、2025年比で輸送能力を50%増加させる当初計画に対し、エアバスからのワイドボディ機(A330neoやA350など)の納入遅れにより、実際の増加率は20〜30%程度に落ち着く可能性があり、需要の取りこぼしが発生する可能性が指摘されています。これは、新興航空会社にとって大きな課題となり得ます。
将来性と中国リスク
- 将来性:
- 積極的な路線・機材拡大: 大型のA350型機を多数発注し、北米路線を拡充する計画があることから、長距離路線での競争力を高め、グローバルな航空会社を目指す意欲が見られます。2025年中に北米4路線目を含め2~3路線の開設を予定しています。
- 高付加価値戦略: プレミアムサービスと最新鋭機材に注力することで、価格競争に巻き込まれず、富裕層やビジネス利用客をターゲットにする戦略は、収益性を高める可能性があります。
- 張会長のリーダーシップ: 航空業界での豊富な経験と情熱を持つ張会長の存在は、会社の成長を牽引する重要な要素です。
- 中国リスク:
- 台湾を拠点とする航空会社である以上、台湾と中国の関係は常にビジネス上の潜在的なリスク要因となります。中台関係の緊張が高まった場合、航空業界全体、特に台湾の航空会社は、運航ルートの制限や旅客需要の変動といった影響を受ける可能性があります。
- ただし、スターラックス航空は中国本土路線を直接多く持っているわけではなく、主に太平洋路線や東南アジア路線に注力しているため、他の台湾系航空会社と比較して直接的な影響は限定的であるという見方もできます。しかし、地域全体の政治情勢の不安定化は、航空需要全体に影響を及ぼす可能性は否定できません。
まとめと解説
台湾の方々は海外旅行、特に日本への旅行が非常に好きであると言えます。そして、台湾と日本の間には深く特別な関係があり、強い親日感情が育まれてきました。
台湾人は海外旅行が好き
特に日本は、台湾人にとって最も人気の高い海外旅行先であり、その熱意は特筆すべきものがあります。
- 地理的・文化的な近さ: 日本は台湾から地理的に近く、航空券も比較的安価で、LCC(格安航空会社)の路線も充実しています。また、文化や食に対する関心も高く、台湾の食文化との共通点も多いため、初めての海外旅行先としても選ばれやすいです。
- 訪日リピーターの多さ: 台湾からの訪日客はリピーターが非常に多く、地方の特色ある地域や、季節ごとのイベント、限定商品などを求めて何度も日本を訪れます。都市部だけでなく、日本の地方都市にも積極的に足を運びます。
- SNSの影響: 日本の観光情報やグルメ情報はSNSを通じて台湾国内で非常に活発に共有されており、それが新たな旅行需要を喚起しています。
- 経済的な背景: 近年の台湾経済の成長も、海外旅行を後押しする要因となっています。
台湾からの訪日客数は、コロナ禍以前には中国本土に次ぐか、時に上回るほど多く、人口比で見れば世界でもトップクラスの訪日リピーター率を誇っていました。
台湾人と日本人の関係、親日はどのように生まれた?
台湾と日本の関係は、歴史的背景と現代における相互理解と協力によって、非常に友好的で「親日」的な感情が育まれてきました。
歴史的背景(日本統治時代の影響)
台湾の親日感情の根源には、約50年にわたる日本の統治時代(1895年~1945年)の影響が色濃くあります。しかし、これは単に「植民地支配への懐古」という単純なものではありません。
- インフラ整備: 日本統治時代には、鉄道、道路、港湾、発電所、病院、学校などの近代的なインフラが整備されました。これらは、台湾の経済発展の基盤となり、現在もその恩恵を受けている部分があります。
- 衛生・教育の普及: 公衆衛生の改善、医療機関の設置、義務教育の導入なども進められました。これにより、伝染病の抑制や識字率の向上が図られ、社会の近代化に貢献しました。
- 秩序と法治: 日本の統治下で、一定の秩序と法治が確立され、治安が安定したと感じる台湾人も少なくありません。
- 日本語世代の存在: 特に高齢者の中には、教育や日常生活で日本語を話し、日本の文化に直接触れた「日本語世代」が存在します。彼らは、日本の統治下で受けた教育や経験に対し、複雑ながらも肯定的な感情を持つ場合があります。
- 「公平性」の評価: 厳しい統治の中で、一方で一部の日本人官僚の「公正さ」や「清廉さ」を評価する声もあります。また、中国国民党政府によるその後の統治と比較して、相対的に評価される側面もあります。
戦後の交流と相互理解
戦後、日本と台湾は外交関係こそ断絶しましたが、民間レベルでの交流は途絶えませんでした。
- 震災支援と「恩返し」: 日本の東日本大震災(2011年)や能登半島地震(2024年)の際に、台湾から多額の義援金や温かい支援が寄せられました。これに対し、日本人も深く感謝し、「恩返し」として台湾を訪れる人が増えました。同様に、台湾で大きな地震があった際には、日本も迅速に支援の手を差し伸べています。このような相互の助け合いが、両国民の絆を深めています。
- 民主主義という共通の価値観: 台湾は民主主義の価値観を共有する国であり、同じく民主主義国家である日本との間に、思想的な親近感が存在します。
- 文化的な魅力: 日本のアニメ、漫画、音楽、ドラマ、ファッション、食文化などは、台湾の若者を中心に絶大な人気を誇っています。これらのサブカルチャーは、現代における親日感情の大きな源となっています。
- 観光交流の深化: 双方への観光客が増えることで、直接的な交流が生まれ、お互いの文化や人柄に触れる機会が増えています。
これらの要因が複合的に作用し、台湾では日本に対して深い理解と共感を伴う「親日」感情が
育まれてきたと考えられます。これは、単なる観光ブームを超えた、歴史と現代が織りなす特別な関係性と言えるでしょう。
スターラックス航空は、新規就航と質の高いサービス戦略が奏功し、急速な売上拡大と初の
通期黒字化を達成しており、今後の成長が期待されますが、機材調達の課題も抱えています。
しかし、スターラックスは日本を足がかりに世界へと羽ばたいていくでしょう。その精神は
日本の大手航空会社にはない『チャレンジスピリット』があります。そしてその商機は、日本の地方空港とリージョナル航空にあるのかもしれません。
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