操縦不能回復訓練の重要性

飛行機

皆さんこんにちは!

航空機の墜落事故の原因として、操縦不能による事故は後を絶ちません。

要因は様々ですが、異常姿勢からの回復訓練の重要性が世界で注目されています。

アプセット・リカバリー・トレーニング(UPRT)の概要と背景

アップセット(Upset)」とは、航空機の姿勢が通常の範囲を超えて異常な状態(例:

急激なバンク角の増加、機首の異常な上下など)に陥ることを指します。

UPRT (Upset Prevention and Recovery Training) は、この異常な状況を予防

(Prevention)し、もし発生した場合には安全に回復(Recovery)するための知識とスキルをパイロットに提供する訓練です。

1. UPRTの目的と重要性

UPRTの最大の目的は、LOC-I(Loss of Control In-flight:飛行中の操縦不能)事故の防止です。

LOC-Iは、過去数十年にわたり、死者数の多い航空機事故の主要な原因となってきまし

た。これは、パイロットが予期せぬ機体の挙動に遭遇した際、誤った操作を行ったり、状況

を把握しきれなかったりすることが原因で発生します。

UPRTは、パイロットに以下の能力を習得させることを目指しています。

  • 認識(Recognition): 危険な状況が始まるのを早期に察知する。

  • 予防(Prevention): 機体がアップセット状態になるのを避けるための適切な操作を行う。

  • 回復(Recovery): 万が一アップセット状態に陥った場合、迅速かつ正確に通常の飛行姿勢に戻す。

エールフランス447便墜落事故

2009年6月1日、ブラジル・リオデジャネイロ発 / フランス・パリ行きエールフランス

447便(エアバス A330-203)は、大西洋上(ブラジル沖)で操縦不能に陥り、墜落し

ました。乗員乗客228名全員死亡が死亡したのです。

【図解】消息絶ったエールフランス機の捜索 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

1.事故の経緯:凍結から失速へ

AF447便は、大西洋上の積乱雲が発達した地域(熱帯収束帯)を飛行中に、連鎖的な問題に直面しました。

① ピトー管の凍結

現地時間午前2時過ぎ、機体が激しい乱気流に突入した際、機外に取り付けられていた

ピトー管(対気速度を計測するセンサー)が高度約11,000メートルで凍結しました。

これにより、操縦席のコンピューターとパイロットのディスプレイから、信頼できる対気

速度データが一斉に失われました。現代のジェット機は速度データに依存しているため、これは非常に危険な状態でした。

② オートパイロットの解除と「操縦ミス」

速度データが失われた結果、航空機は自動的にオートパイロット(自動操縦)とオート

スラスト(自動推力制御)を解除しました。当時、巡航高度で操縦を担当していた副操

縦士は、機体が急降下することを恐れ、左側のサイドスティックを強く手前に引きました。

Shutterstock

この操作により、機首は急激に上昇し、迎え角(翼が空気と接する角度)が急増しました。

③ 高高度での失速

高高度では空気が薄く、わずかな迎え角の増加でも失速しやすい環境です。機体は失速状態(Stall)に陥り、警報が鳴り響きました。

失速からの回復には、通常、機首を下げる操作が必要です。しかし、副操縦士は混乱と

パニックから、墜落まで約4分半にわたり、機首を上げ続ける(スティックを引き続ける)操作を続けました。

④ パイロット間の協調の失敗

機長がコックピットに戻った後も、状況の把握と操作の意思疎通がうまくいきませんでし

た。失速警報が鳴り続けているにもかかわらず、経験豊富な機長や他の副操縦士も、なぜ

機体が失速しているのか(高迎角状態にあること)を瞬時に理解できませんでした。最終的

に、機体は失速状態から回復することなく、毎分約3,300メートルの降下速度で大西洋に激突しました。

2. 事故の根本原因

フランス航空事故調査局(BEA)による最終報告書では、複数の要因が複雑に絡み合った結果だと結論付けられました。

要因 詳細
技術的要因 ピトー管の凍結により、一時的に速度データが失われた(機体の初期不良や設計上の脆弱性)。
人的要因(操作) オートパイロット解除後、パイロットが誤った回復操作(スティックを引き続け、失速を悪化させた)を行った。
訓練的要因 「ハイ・アルティチュード・ストール(高高度失速)」からの回復手順や、異常姿勢(アップセット)を認識し回復するUPRTがパイロットに不足していた。
組織的要因 操縦システムの移行(オートパイロット解除)に関する警告や情報伝達が不十分だったこと、および、**パイロット間の連携(CRM:クルー・リソース・マネジメント)**が混乱時に機能しなかったこと。
3. 航空業界への影響

AF447便事故は、航空安全のパラダイムを大きく転換させるきっかけとなりました。

① UPRT(アップセット・リカバリー・トレーニング)の義務化

最も直接的かつ大きな影響は、UPRTの国際的な義務化です。この事故は、ハイテク機材

であっても、予期せぬシステムの異常や自然現象に遭遇した際、パイロットが基本的な航空

力学の知識に基づいた手動操縦能力と、異常姿勢からの回復スキルが不可欠であることを示しました。

② ピトー管の設計変更

事故原因となったピトー管は、凍結しにくいように設計が改善され、世界中のエアバス機で交換されました。

③ 訓練への焦点の変化

従来の訓練が「正常な運航」に焦点を当てていたのに対し、AF447便事故以降の訓練は、

「システムが機能しない状態での手動操縦」「予期せぬ失速からの回復」、そして

「コックピット内の効果的な意思疎通」に重点が置かれるようになりました。

12月に予定されているUpset Safetyバーチャルイベント

UPRTトレーニングでさらに300L

UPRTトレーニングでさらに300L © UPRTA

国際アップセット予防・回復訓練協会(UPRTA International)は、12月17日に年次

安全サミットを開催します。世界中の専門家が一堂に会し、航空業界における死亡事故の

最も根深い原因である飛行中の操縦不能(LOC-I)について議論します。このバーチャ

1日イベントは14:00Z(日本時間)に開始され、参加者は無料でご参加いただけます。

同団体によると、LOC-I(着陸失敗)は依然として全航空セクターにおける死亡事故の主な

原因であり、世界の航空事故の中でも上位を占めるデータが示されているのです。

ボーイングのデータによると、過去10年間で航空会社のLOC-I(着陸失敗)による死亡者

428人に達しています。一方、AOPAのデータによると、これらの事象は一般航空事故

40%を占め、同セクターでは4日に1件の死亡事故が発生しているとのことです。

サミットでは、UPRTAのリーダーシップと専門家ワーキンググループが参加し、企業および

政府の航空部門、一般航空、安全管理システム、ヒューマンファクター研究、規制問題など

について議論します。発表者は、ベストプラクティス、新たな戦略、そして世界中でアップ

セット予防および回復訓練を拡大するためのUPRTAの戦略計画について議論します。

「UPRTAインターナショナルでは、世界中の人命を救うために、航空業界における安全訓練

の卓越性を推進しています」と、UPRTA会長のポール・“BJ”・ランズベリー氏は述べていま

す。エグゼクティブバイスプレジデントのデイブ・カーボー氏は、進化する世界的な慣行

は「コンプライアンスの枠を超え、真に人命を救う」ものだと付け加えました。

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