皆さんこんにちは!
地球温暖化抑止の一番の効果的な方法として採用されているSAF(持続可能な航空燃料)が注目を集めています。
しかし、その生産量や効果に疑問の声も上がっています。SAFの現状と将来の展望は?
欧州の航空会社、2030年のSAF義務化に疑問
ネステ社は、現在SAFは十分あり、2030年にも十分になると予想していると述べています。クレジット: ネステ
欧州の航空会社は、最近ブリュッセルで開催された「Airlines For Europe」サミットの機会
を利用して、持続可能性に関する衝撃的なニュースを発表しました。緊急の対策を取らなけれ
ば、欧州の新規制で求められている2030年までに持続可能な航空燃料の使用率6%を達成することは不可能だろう、と彼らは述べました。
今年初めに施行されたReFuelEU航空規制は、持続可能な航空燃料(SAF)の2%使用要件
から始まり、需要の確実性を生み出し、ひいてはSAF生産への投資を促進することを目的としていました。
ReFuelEU 航空燃料要件は 2030 年に 6% SAF に上昇。ECはSAF目標は「現実的かつ実現可能」と述べました。
しかし航空会社は、最初の目標は実現可能だが、2030年に6%に引き上げるという目標は実現不可能だと述べています。
3月27日のイベントで航空会社の最高経営責任者(CEO)らは、現状では2030年の義務を満
たすのに十分な量がないだろうと警告しましたが、世界最大のSAF生産者であるネステは、この物議を醸す警告を即座に否定しました。
しかしながら、これは化石燃料からの脱却に向けた進歩が逆行しているように見える時期に起こったことでもあるのです。
エアラインズ・フォー・ヨーロッパ(A4E)のイベントは、石油大手BPが再生可能エネルギー
への投資を減らすと発表し、米国の新大統領が化石燃料推進政策を推進している1カ月後に開催されました。
「今後数年間、トランプ大統領がホワイトハウスに居座った場合、何が起こるかを考えれば
SAFに投資するリスクを冒す人は誰もいないと思う」とライアンエアのマイケル・オリアリー
CEOは語りました。「彼らは化石燃料会社に生産増加を強いるだろう。供給が増え、価格が下がる可能性が非常に高いと思う」
「我々が言いたいのは、何かが変わらない限り、この義務に従うのは不可能であり、唯一の
解決策は日程を延期することだ」とインターナショナル・エアラインズ・グループのルイス・
ガジェゴ最高経営責任者(CEO)は語っています。「この目標がおそらく現実的ではないと
言うのは科学的だが、ロケット科学ではない」とルフトハンザ・グループのカーステン・シュポア最高経営責任者(CEO)は言いました。
「SAFがどこにあるか示してください」とエールフランス-KLMのベン・スミスCEOは反論
しました。「SAFは存在しません。義務を達成するために必要な金額に達する道筋が見えないのです。」
A4EのCEOらの警告は、国際航空運送協会(IATA)が2021年に約束した航空業界の包括的な2050年ネットゼロ目標に対する業界の疑念の兆候が見られる中で出されたものです。
IATAのウィリー・ウォルシュ事務局長は3月に開催された国際航空運送協会のアメリカ会議で、航空業界は2050年までに排出量実質ゼロを達成するという目標を見直す必要があると述べました。
「我々は再検討する必要がある。我々は(持続可能な航空燃料に関して)思っていたほど大きな進歩を遂げていない」とウォルシュ氏は3月3日に語りました。
エアバスのギヨーム・フォーリー最高経営責任者(CEO)は3月のエアバスサミットでこの
コメントを繰り返し、目標達成にはもう少し時間がかかる可能性があると述べました。エアバスは最近、水素推進開発計画も延期しました。
しかし、A4EのCEOたちは、2050年のネットゼロ達成にはまだコミットしていると主張し
ました。「2050年のネットゼロ達成には何の問題もありません」とオリアリー氏は語りま
した。「唯一の問題は、そこに至る明確な道筋があるということです。2030年の期限を
2032年または2034年に延期しても、2050年までにネットゼロ達成が損なわれる理由は見当たりません」
A4E は、警告がもたらした影響を強調し、イベント後に声明を発表し、脱炭素化に引き続き
全力で取り組むと述べました。「しかし、ReFuel 法案が約束した手頃な価格の SAF 市場
を創出できていないことを深く懸念しています」と A4E は述べました。「今後数か月以内に
緊急の対策を講じなければ、この義務の信頼性は著しく損なわれ、義務の再評価が必要になるでしょう。」
このコメントは、ボストン コンサルティング グループの 3 月 27 日のレポートと一致して
おり、「2024 年と 2025 年には新たな勢いが見られるものの、民間航空は脱炭素化の目標
に達しないという現実的なリスクに直面している」と警告しています。レポートでは、
バイオ SAF の供給は 2030 年の目標を 30% 下回り、e-SAF (合成 SAF) は 45% 下回ると予測されていると指摘されています。
誰もが同意しているわけではない。欧州委員会(EC)は、現在のSAF目標は「現実的かつ実現可能」であると述べました。
燃料供給業者の1社であるネステも、これに強く反対しました。世界最大のSAF生産者である
ネステの再生可能航空担当副社長、アレクサンダー・クーパー氏は、イベントの合間にアビエ
ーション・ウィーク誌に対し、同社のSAF生産能力は2025年には150万トンに達し、これに
はオランダのロッテルダムの施設で開始されるSAF生産も含まれると語りました。ロッテルダム製油所の拡張が完了すれば、2027年には年間220万トンに増加します。
「SAFは十分ある。2030年でも十分だ」とクーパー氏は語りました。「2%は100万トン
なので、2030年の6%は成長を考慮に入れなくても300万トンだ。2030年までにほぼ300万
トンになるのはネステだけではない。他の企業もすべてある」と彼は認めた。「e-SAFはまた別の話だ」
「その話がどこから来ているのかは分からない」とクーパー氏は続けました。「高すぎるかどうかは議論できるが、それが存在するかどうかは問題ではないはずだ」
クーパー氏はまた、義務化目標を右に動かすことはSAF業界にとって悪いニュースになると
警告しました。「義務化の最大のポイントは、需要の確実性を提供することです」と同氏は
指摘しました。「遡及的に変更すれば、投資に壊滅的なシグナルが送られ、義務化を二度と信
頼しなくなるでしょう。今あるものに固執する必要があります。さもなければ、信頼の喪失から回復することは決してないでしょう。」
ECは今後数か月以内に持続可能な輸送投資計画を発表する予定であり、航空会社はSAF目標の達成方法を示す道筋を示すものとしてECに期待しています。
会議で、ECの持続可能な交通と観光担当委員であるアポストロス・ツィツィコスタス氏は、
このテーマは視野に入っていると述べました。「導入を促進するには国民の介入が必要だと
認識しています」とツィツィコスタス氏は述べました。「e-SAFを拡大するには、さらなる努力と投資が必要です。これは私たちの野望の重要な部分です。」
ロッテルダムにある Neste の港では、原料が到着し、SAF が船で出荷されます。クレジット: ネステ
SAF製造世界最大手ネステ
船形の展望デッキで知られる統合型リゾート「マリーナベイ・サンズ」があるシンガポール中心部から車で40~50分の海岸沿いに広がるジュロン工業地区に、その工場は立つ。
ここで製造したSAFは、工場のそばに接岸するタンカーで輸出される。世界の他の工場で製造
されたものとともに、英ヒースロー、オランダのスキポール、羽田・成田など世界中の空港に送り出しているということです。
2023年の世界全体のSAF生産量は約50万トンとされ、その多くをネステが担っています。
シンガポールの工場だけで年100万トンの生産能力をもち、オランダのロッテルダムの拡張工事が終われば、世界全体で220万トンになる予定です。
ネステはもともとフィンランドの国営石油会社でした。第2次世界大戦後に設立され、国内向
けにガソリンなどを販売してきました。ロシアなどから原油を仕入れていましたが、品質は
良いとはいえず、製油技術を磨くことで対応してきました。その後、さまざまな油脂から不要
な成分を取り除き、高品質な燃料や化成品の原料を生み出すことができる「NEXBTL」という
技術を開発。1997年に特許を取得したが、当時は使い道が見いだせず、しばらく眠っていました。
その技術が日の目をみたのは、2000年代に欧州連合(EU)がバイオ燃料の利用目標を示した
ことがきっかけです。当初2%の利用が目標とされ、段階的に引き上げるものでした。
米カリフォルニア州でも同様の動きが見られました。ネステはNEXBTLを使ったバイオ燃料
事業への投資を決め、2007年に完成したフィンランドの小規模なバイオ燃料工場を皮切り
に、シンガポール、ロッテルダムにバイオ燃料工場を建設。2011年にはSAFの製造に着手しました。
SAFの価格は現在、従来のジェット燃料価格の3~5倍にのぼります。生産量の増加によって
製造コストは下がると航空会社は期待しますが、SAFの供給量を高めるには新たな技術開発
も不可欠で、それには初期投資も必要です。結果的にはSAFは既存のジェット燃料より高いままとどまる見込みです。
ネステは祖業である石油精製事業から30年代半ばまでに撤退することを決めています。SAFなどバイオ燃料の製造に集中することになります。
ネステの経営状況を売上高・営業利益の推移から考察します。売上高・営業利益の推移は以下のとおりです。
ネステの2023年の売上高は229億ユーロ(約3.4兆円)で、前年と比較すると約10%の減少となりました。しかし、グラフから高い水準を維持していることがわかります。
2023年の大きな動きは、シンガポールにおける再生可能エネルギーの生産能力の増強を
目的とした、16億ユーロの巨大プロジェクトが完了したことです。このプロジェクトによりシンガポールの拠点では年間最大100万トンのSAFを生産できるようになりました。
SAFの生産能力が向上したことで、さらなる成長が期待されています。
SAFが注目される理由
大気中のCO2を増やさない
SAFが注目される一番の理由は何と言っても、空気中のCO2を増やさないということでしょ
う。SAFも燃料として燃やしてしまえばCO2を排出しますが、排出されるCO2は原料となる
植物が成長するときに大気から吸収していたものです。石油のように地下にあったものを掘り出しているわけではないので、原理的に空気中のCO2を増やしません。
従来の燃料と同じように使える
SAFが注目されるもうひとつの主な理由は、従来のジェット燃料とほとんど同じ使い方ができるという点です。
気候変動対策なら、自動車と同じように電気や水素を使えばよいのではないか、と思われるかもしれません。しかし、航空機はこれが難しいのです。
電気を使うならバッテリーに電気を蓄えておく必要がありますが、ジェット燃料と同じ量の
エネルギーを蓄えようとすると、バッテリーの重さはジェット燃料の100倍近くになってし
まいます。航空機にとって重いというのは決定的な弱点です。また、電気を使うならモータ
ーを回すプロペラ機にならざるを得ないので、ジェット機には使えないという問題もあります。
水素ならどうでしょう。水素ならジェット機にも使える可能性があります。しかし、水素専用
のジェットエンジンを新たに開発する必要がありますし、水素を狭い機内に蓄えるためには非
常に高圧のボンベが必要となります。圧縮のためのエネルギー消費も大きく、また安全性の問題もあります。
SAFなら、従来のジェット燃料と同じパラフィン構造の液体燃料のため、今までのジェット
燃料と同じ取り扱いが可能となり、現在運用されている航空機の燃料タンクにそのまま入れて
使うことができます。このような燃料は、そのまま燃料タンクに投げ込んで使うことができるという意味で、ドロップイン燃料といわれます。
また、SAFならエンジンや機体を新しく開発する必要がなく、燃料の貯蔵や流通インフラも現在と同じものがそのまま使えるというのも魅力です。
安定したエネルギー源になる可能性がある
AFの原料は農作物や農林業廃棄物などで、石油のように限られた地域から産出されるものでは
ありません。このため、原料は国産あるいは、限られた地域からの輸入に頼らない、安定したエネルギー源になる可能性があります。
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