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MOSAIC(Modernization of Special Airworthiness Certification:特別耐空性証明の近代化)
通称モザイクが今年の7月24日にオシュウコシュ(米)航空展示会で発表されました。
この発表は、世界中の航空愛好家にとって長年の夢であり、大革命です。
FAAによる特別耐空証明の近代化(MOSAIC)最終規則に関する報告書
ショーン・ダフィー米国運輸長官は7月22日の記者会見で、EAAエアベンチャー・オシュコシュショーで新しいモザイク規制を紹介した。©運輸省
I. エグゼクティブサマリー:ゼネラルアビエーションの戦略的近代化
米国連邦航空局(FAA)が2025年7月18日に署名し、官報に掲載を申請した特別耐空証明の
近代化(MOSAIC)最終規則は、レクリエーションおよびゼネラルアビエーションの規制枠
組みにおける根本的な転換を意味します。この規則は、2024年のFAA再認証法の直接的な
要請に応えるものであり、ライトスポーツ航空機(LSA)およびその他の特別耐空カテゴリ
航空機の製造、認証、運航、整備、および改修に関する規則を近代化することを目的としています。
本規則による最も重要な変更点は以下の通りです。
- 航空機設計: これまでの厳格な重量制限を撤廃し、より大型で高性能な航空機の設計を可能にします。これにより、ロータークラフトやパワードリフトといった新しいクラスがFAAの認証枠組みに組み込まれます。
- パイロットの特権: スポーツパイロットの特権が大幅に拡大されます。適切な訓練と証明があれば、ヘリコプターの操縦、夜間運航、引き込み式着陸装置や可変ピッチプロペラを持つ航空機の操縦が可能になります。
- 整備: ライトスポーツ整備士の証明書の特権が拡大され、新しい航空機カテゴリに対応できるようになります。また、特定のカテゴリとクラスのアマチュア製作航空機(EAB)の年次条件検査を実施できるようになります。
- その他のカテゴリ: 実験機および制限カテゴリ航空機に関する変更も含まれ、特定の証明書の有効期間延長や、議会からの宇宙支援車両フライトに関する新たな運航要件の成文化が行われます。
Ⅱ.MOSAIC近代化の歴史
2004年に発表された「ライトスポーツ航空機の運航に関する航空機および航空士の認証」
最終規則は、ライトスポーツ航空機(LSA)カテゴリを確立し、重量、失速速度、および
推進システムに関する厳格な制限を設けました。これは、レクリエーション航空に新たな
市場を創出し、安全性を確保するための画期的な一歩でした。この規則の導入以来、LSA
カテゴリは成功裏に運用され、その安全記録は、コンセンサスベースの認証モデルが有効であることを証明しています。
しかし、それから20年近くが経過し、航空技術と業界のニーズは大きく変化しました。
FAAの分析によると、EAB航空機は、LSAカテゴリの制限に縛られない性能と実用性を持
つため、より高い致命的事故率にもかかわらず、多くのパイロットにとって魅力的な選択肢
となっていました。この傾向は、ゼネラルアビエーション全体の安全性を脅かす可能性があ
りました。FAAは、この市場動向を是正し、より厳格な認証要件を満たすLSAカテゴリへの
移行を促すことで、全体の安全性を高める必要があると判断しました。MOSAIC規則は、
この課題に対応するための直接的な解決策として考案されました。
III. ライトスポーツカテゴリ航空機:設計と性能の新時代:設計の可能性の解放
最も注目すべき変更点は、従来の最大離陸重量制限(陸上機1,320ポンド:
600kg、水上機1,430ポンド:650kg)の撤廃です。この制限の撤廃は、航空機設計者
に計り知れない自由をもたらします。これにより、製造者は、より優れた操縦特性、より
大きなペイロード(燃料、乗員、貨物)、そして追加の安全性向上装備(例えば、より頑丈
な着陸装置や高度なアビオニクス)を組み込むことができます。
この変更がもたらす戦略的な影響は多岐にわたります。例えば、バッテリーの重量が課題と
なる電動航空機(eVTOLなど)の開発が促進されるでしょう。また、より大型で多発のプラ
ットフォームを、LSAカテゴリの枠内で設計することが可能になります。これは、単に既存
のLSAを改善するだけでなく、市場に全く新しいタイプの航空機を導入する契機となります。
- 座席数とペイロード: LSA飛行機の最大座席数が2席から4席に拡大されます。ただし、グライダー、ロータークラフトなどの他のカテゴリは引き続き2席の制限が維持されます。この変更は、長らくゼネラルアビエーションの主力であった旧型ノーマルカテゴリの4席機体と、無制限のEAB航空機市場を意識したものです。4席のLSAは、訓練機や個人的な移動手段として、より幅広い層のパイロットにアピールする可能性が高まります。
- 失速速度: 飛行機の最大失速速度は、従来よりも高い61ノットCAS(指示対気速度)で、フラップなどの高揚力装置を最大伸展した着陸構成()で規定されます。これは、従来のクリーン構成( )での45ノットCASという制限からの大きな変更です。グライダーの失速速度は、着陸構成()で45ノットCASに設定されます。この失速速度の基準変更は、技術的な観点から非常に重要です。$V_{S1}V_{S0}$への移行は、製造者が乱気流や横風での操縦性を向上させるためにより高い翼面荷重を持つ機体を設計することを可能にしつつ、着陸時にはフラップなどの装置を使用して低速で安全な着陸速度を確保するという、安全性と性能のトレードオフを巧みに解決するものです。これは、安全性向上のために着陸時の運動エネルギーを低減するというFAAの意図と、操縦性の向上のために高翼面荷重を求める業界の要望の両方に応えるものです。
- 巡航速度と推進システム: 最大水平飛行速度()は250ノットCASまで引き上げられます。さらに、単発レシプロエンジンの制限が撤廃され、あらゆる種類と数のエンジン(多発、電動、ハイブリッド、タービンなど)が許可されます。これにより、LSAはより高速で長距離の個人旅行に対応できる、実用性の高い航空機となり、旧来のLSAの枠をはるかに超えることになります。
- 技術統合: 規則は、引き込み式着陸装置や可変ピッチプロペラといった、これまで禁止されていた、または厳しく制限されていた技術の採用を明示的に許可します。これは、これらの技術がライトスポーツカテゴリの安全性と実用性を高め、コンセンサス標準プロセスを通じて安全に統合できるというFAAの確信を示すものです。
表1:ライトスポーツカテゴリ航空機の適格性の変遷
IV. パイロットと整備士:特権の拡大と新たな責任
本規則の最も注目すべき側面の1つは、スポーツパイロットの特権の大幅な拡大です。
飛行機の座席数が4席に増えたにもかかわらず、スポーツパイロットは引き続き操縦者を含
めて1名の同乗者しか運ぶことができません。この制限は、パイロットが運航中に背負う
リスクを、スポーツパイロット証明書の基本的な原則と一致する低いレベルに維持するための重要な安全措置です。
この規則は、スポーツパイロットが以下の特権を得るための明確な道筋を定めています。
- ヘリコプターの操縦
- 夜間運航
- 引き込み式着陸装置および可変ピッチプロペラを持つ航空機の操縦
- 簡易型飛行制御装置を持つ航空機の操縦
これらの特権は、追加の訓練とログブックへの証明によって取得されます。これは、FAA
がパイロット訓練に対して柔軟でモジュール式の考え方を採用していることを示しています。
基本的な技能を持つパイロットが、新しいシステム(例:引き込み式着陸装置)の訓練を
短期間で安全に完了できることを認めています。夜間運航については、第三種以上の医療
証明書またはBasicMedの要件を満たすことが必須となります。
特権 | 要件 |
夜間運航 | 指定された訓練、証明、経験、および第三種以上の医療証明書またはBasicMedの要件を満たすこと。 |
ヘリコプター操縦 | 訓練、証明、および該当カテゴリの技能試験に合格すること。 |
引き込み式着陸装置 | 指定された訓練と証明を取得すること。 |
可変ピッチプロペラ | 指定された訓練と証明を取得すること。 |
簡易型飛行制御装置 | 各機種ごとの訓練と証明を取得すること。 |
表2:新しいスポーツパイロットの特権と要件
本規則は、操縦者以外の介入なしに航空機の飛行経路と利用可能な動力を自動化する、
簡易型飛行制御装置を備えた航空機に新たな認証要件を導入します。このような航空機を
操縦するには、スポーツパイロットは機種ごとの訓練と証明を受けなければなりません。
この「機種ごとの」証明書要件は、従来のLSAの証明プロセスからの重要な逸脱です。
従来のLSAは、同じカテゴリとクラスであれば、機種が変わっても追加の証明は不要でし
た。この変更は、FAAが簡易型飛行制御装置を、現在のところ非常に独自の、非標準化され
た技術と見なしていることを示唆しています。このアプローチは、新しい技術の初期段階に
おいて安全性を確保するための慎重な措置であり、この種の航空機の普及ペースに影響を与える可能性があります。
Ⅴ. 整備士証明の近代化
ライトスポーツ整備士の証明書は、「整備士証明書(ライトスポーツ)」と改称され、
その特権は新しい航空機カテゴリ(ロータークラフト、パワードリフトなど)に対応して拡大されます。
さらに、この規則は、ライトスポーツ整備士が、自身が証明書を持つカテゴリおよびクラス
のアマチュア製作航空機(EAB)の年次条件検査を実施することを許可します。これは
LSAとEABのコミュニティ間の重要な架け橋となります。LSAの整備と検査の専門家が
EABコミュニティを支援できるようになり、EAB航空機の整備と安全基準が間接的に向上
する可能性があります。これはまた、LSA整備の専門家に新たなビジネス機会を創出するものです。
VI. 実施と市場の見通し
最終規則は、2段階に分けて発効されます。
- 90日後の発効: 一部の管理的な変更や定義の更新がこの時点で有効になります。
- 365日後の発効: 規則の主要な変更点(新設のPart 22、パイロット特権の拡大、整備士特権の変更など)が有効になります。
表3:MOSAIC最終規則の発効日タイムライン
この遅延された発効日は、ASTMのような業界団体が新しいコンセンサス標準を開発し、
FAAがそれを承認・公表し、製造者がこれらの新基準に準拠する準備を整えるために必要な
時間を確保するための、現実的かつ戦略的な措置です。
騒音認証(Part 36)
本規則は、新規のライトスポーツカテゴリ航空機に対するPart 36の騒音認証要件を、
強制から任意に変更します。これは、規制ではなく市場の力に技術革新を委ねるという重要
な方針転換を示しています。製造者は、自主的にPart 36に準拠し、それを製品のセールス
ポイントとして宣伝することで、騒音に敏感なコミュニティにアピールすることができま
す。これにより、規制の負担とコストを軽減しつつ、騒音低減技術の開発を促すことが期待されます。
結論
MOSAIC最終規則は、ゼネラルアビエーションの規制を過去の制約から解放し、将来の技術
革新と市場のニーズに対応するための、戦略的かつ包括的なアプローチです。これは、単な
る規則の変更ではなく、安全性、技術、経済的実現可能性の間のバランスを取ることを目的とした、規制哲学の再構築です。
「安全性の連続性」という原則を軸に、FAAは、LSAカテゴリの性能と実用性を高めること
で、安全記録が劣るEABからの市場移行を促すという大胆な一歩を踏み出しました。これ
により、ゼネラルアビエーション全体の安全基盤が強化されると期待されます。また、
性能ベースの基準、自主的な騒音認証、そして新たな特権のためのモジュール式訓練ア
プローチは、業界に前例のない柔軟性と機会をもたらします。
今後、業界は、新しいコンセンサス標準の開発と適用、新技術の統合、そしてパイロット
訓練カリキュラムの適応という課題に直面するでしょう。しかし、これらの課題を乗り越
えることで、より安全で、よりアクセスしやすく、より活気に満ちたゼネラルアビエーシ
ョンの未来が築かれると展望されます。関係者にとって、この規則は単なる遵守すべき義務
ではなく、戦略的な成長と革新の機会として捉えられるべきです。
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