皆さんこんにちは!
化石燃料を使用している推進装置(ジェットエンジンやレシプロエンジンなど)は、地球温暖化の原因とされているCO2を排出しています。
人類は、化石燃料からの脱却を図り電気式エンジンの開発を行ってきました。そこで、問題となるのがバッテリーです。
代替推進航空機の現状は?
バッテリー、航空機と自動車
ガスタービンエンジンで水素を燃焼させる航空機を除く、すべての代替推進航空機にとって
問題となる部品、すなわちバッテリーについて見てみましょう。バッテリーは自動車によく
適合します。自動車では、重量に対するエネルギー容量の要件がはるかに低く、ブレーキ時
のエネルギー回生によってバッテリーからの必要エネルギーが削減されるからです。

現在も運用試験飛行中のバッテリー電気航空機、ベータ・テクノロジーズ社製Alia CX300。出典:Leeham Co.
航空機バッテリーは重量が重く、エネルギー貯蔵容量が非常に低い部品です。今日の航空機
バッテリーシステムは、航空機燃料と比較して、1kgまたは1ポンドあたりのエネルギー密度が約60倍も低くなっています。
過去10年間、この関係は改善するだろうという期待が高まってきました。実際、過去10年
間で約70倍から60倍に改善しました。今後さらに改善していくでしょう。問題は、過去
10年間のような緩やかなペースで関係が続くかどうかです。
航空機バッテリーの歴史
新しく、より環境に優しい航空機への関心は、2014 年 7 月にエアバスがバッテリー
電気式の E-fan デモンストレーターをファーンボロー航空ショーで飛行させたときに始まりました (図 1)。
バッテリー電気自動車への自動車革命は、テスラがファミリーカーとしてエレガントな
スタイルと非常に優れた性能と経済性を備えたモデルSセダンを発表した2年前に始まりました(図1)。

図1. バッテリー電気航空機のデモ機と、その始まりとなった自動車。提供:エアバスとテスラ社
テスラの車は、電気自動車が性能と運用コストにおいて内燃機関車に匹敵し、さらには凌駕
できることを証明しました。ただし、航続距離はそうではなかった。しかし、航続距離は
バッテリー容量の開発にかかっており、航空機においても同様の状況と開発が期待されていました。
ほぼすべての技術の飛躍と同様に、代替推進航空機プロジェクトの進展は、ガートナー社の
テクノロジー誇大宣伝曲線 (図 2) に沿って進みました。

図2. 代替推進航空機に関するガートナーのハイプカーブ。出典:ガートナーおよびLeeham Co.
始まりは2015年頃で、2020年頃に過大な期待のピークを過ぎました。2014年からの
11年間で、何百もの起業家主導のプロジェクトが、環境に優しい航空機や旅客機を実現すると宣言してきました。
これらのプロジェクトから有益な成果は何も生まれず、今日、私たちは幻滅期を脱しつつ
あります。投資家は、代替推進システムのスタートアップ企業への投資を停止しました。
これらの企業は、有用な航空輸送手段を生み出していないからです。その結果、多くの
プロジェクトが静かに、そして時には公然と消滅しました。
残りのプロジェクトの中核は、航空に関する確かな知識を持つ経験豊富なチームによって
運営されています。これらのチームは現在、啓蒙の坂道へと移行し、着実に前進していくでしょう。
カナダ運輸省、ピピストレル軽飛行機3機を認証
全電動2人乗りVelis Electroがカナダで認証を取得

Pipistrel 社の Velis Electro、Club、Explorer 軽飛行機がカナダで認定されました。
カナダ運輸省は、ピピストレル社のエクスプローラー、ヴェリス・クラブ、ヴェリス・
エレクトロの軽飛行機に対するEASA型式証明を承認しました。テキストロンの子会社で
ある同社は11月12日にこの承認を発表し、これにより飛行学校からの受注の可能性が広がると述べました。
全電気式の2人乗り機、ヴェリス・エレクトロは2020年に欧州型式証明を取得し、英国民間
航空局も2022年に続き、FAAが2024年に軽スポーツ機(LSA)免除を発行しました。
昨年、カナダ運輸省がエレクトロの電気エンジンを認証しました。
2022年、ピピストレル社はオンタリオ州のウォータールー持続可能航空研究所に最初の
ヴェリス・エレクトロを納入しました。ウォータールー大学とそのパートナーであるウォー
タールー・ウェリントン・フライトセンターは、バッテリー駆動の電気飛行に関する研究を
支援するためにヴェリス・エレクトロを使用しています。
100馬力のロータックス912ピストンエンジンを搭載したピピストレル・エクスプローラー
は、昼夜を問わずVFR(有視界飛行方式)運航が承認されており、IFR対応の航空電子機器
スイートを備えています。2021年にEASA(欧州航空安全局)の型式証明を取得しました。
一方、ヴェリス・クラブは、昼間のVFR運航に関するEASAのCS-LSA規則の承認を受けています。
ピピストレル社の社長兼マネージングディレクターであるガブリエル・マッシー氏は、
「カナダ運輸省によるこれらの航空機型式証明書の承認は、当社チームのエンジニアリング
専門知識が認められたものであり、主要なグローバル市場における当社製品の国際的な認知
度が高まっていることを浮き彫りにするものです」と述べています。「この承認は、カナダ
市場における当社の地位を強化するだけでなく、全国の飛行訓練能力を大幅に向上させることにもつながります。」
航空訓練の夜明け:ピピストレルが日本の空に打ち込む「電動のくさび」
長らく高コストと人材不足に悩まされてきた日本の航空業界に、ついにゲームチェンジャー
が現れました。スロベニア発の航空機メーカー、ピピストレル(Pipistrel)が開発した小型
電動航空機「ベリス・エレクトロ(Velis Electro)」です。
この機体は、航空機技術の最大の壁であった「バッテリー問題」を克服し、カナダや
EASA(欧州航空安全機関)で承認を獲得。単なる環境に優しい乗り物ではなく、日本の
航空訓練市場の構造そのものを変える可能性を秘めた「革命児」として注目されています。
航空機電動化の「壁」とピピストレルの突破口
航空機の電動化は、地上を走るEV(電気自動車)よりも遥かに難しい課題を抱えています。
バッテリーの宿命:重さと効率
航空機のバッテリーは、以下の二つの根本的な問題に直面してきました。
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重量対エネルギー密度の壁(重い): 航空機は、機体を浮かせるためにエネルギー効率が命です。ガソリン(ジェット燃料)のエネルギー密度が約43 MJ/kgであるのに対し、高性能なリチウムイオンバッテリーは現在でも約1 MJ/kg程度と、圧倒的にエネルギー密度が低いのが現状です。必要な飛行時間を確保しようとすると、バッテリーが重すぎてペイロード(積載量)や航続距離を犠牲にする必要がありました。
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変換効率の限界(熱とロス): バッテリーから供給される電気エネルギーをモーターで推力に変換する過程で、熱が発生し、エネルギーの一部が失われます。電動モーター自体の効率は高いものの、機体全体のシステムとして、軽量化とのバランスを取るのが困難でした。
LSA(超軽量機)としての「現実解」:ベリス・エレクトロ
ピピストレルは、この「重量の壁」を無理に突破しようとせず、「今ある技術で最も効果的
な解決策」を選びました。それが、LSA(Light Sport Aircraft:超軽量スポーツ機)としての開発です。
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ターゲットを絞る: ベリス・エレクトロは2人乗りで、航続距離は訓練に必要な1時間程度に限定されています。この「短距離・短時間」に絞り込むことで、大型機に必要な重いバッテリーを搭載する必要がなくなり、既存のバッテリー技術でも十分に成立させることが可能になりました。
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認証の獲得: EASAの型式証明(Type Certification)を世界で初めて取得した電動航空機となりました。これは、単なる技術的な成功ではなく、「電動航空機が安全基準を満たせる」ことを国際的に証明した画期的な出来事です。
日本の航空訓練市場に起きる「ゲームチェンジ」
なぜ、この小型電動訓練機が日本の航空業界にとって「くさび」となり得るのでしょうか?キーワードは**「コスト削減」と「環境対応」**です。
① 訓練コストの劇的な削減
日本の航空訓練は、世界的に見ても非常に高額です。その最大の原因が燃料費(AVGAS)と整備費です。
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燃料費ゼロへ: ベリス・エレクトロは、電動であるためガソリン代が不要です。充電にかかる電気代は、同規模のガソリン機が消費する燃料費の約1/5〜1/10以下に抑えられます。
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整備費の激減: 電動モーターは構造がシンプルで、ガソリンエンジンに比べて動く部品が極端に少ないため、消耗品の交換や定期的なオーバーホールの費用が大幅に削減されます。
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静音性: 騒音が非常に小さいため、空港周辺住民への騒音問題を軽減し、訓練時間の制約を緩和できる可能性を秘めています。
これにより、パイロット志望者が訓練にかける初期費用を劇的に引き下げ、日本の航空業界
が長年抱えてきた「若者が育たない」という構造的な問題に風穴を開ける可能性があります。
② 環境意識の高い次世代へのアピール
JALやANAを含む世界のエアラインは、脱炭素化の目標を掲げています。パイロット訓練の
段階から電動機を導入することは、企業としての環境へのコミットメントを示すことにつながります。
環境意識の高いZ世代などの若者にとって、「ゼロエミッションの訓練機」でキャリアを
スタートできることは、大きな魅力となり、人材獲得競争において大きなアドバンテージとなるでしょう。
日本の行く末:電動機と既存インフラの融合が鍵
ベリス・エレクトロは、日本の航空訓練の在り方を根本から変えるポテンシャルを秘めていますが、課題もあります。
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充電インフラ: 電動訓練機を多数運用するには、訓練空港に高出力の充電設備(急速充電器)を整備する必要があります。この初期投資を誰が、どう負担するかが課題です。
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規制・認証: 日本国内での型式証明の取得、そして訓練カリキュラムへの組み込みには、国土交通省や既存の訓練機関との連携が不可欠です。
ピピストレルの成功は、バッテリー技術の進歩を待つのではなく、「今、できること」に焦点を当てることの重要性を示しています。
電動機は、日本の航空業界に「安全な飛行の基礎」を提供するだけでなく、訓練コストとい
う長年の重荷を取り払い、業界の未来を担う新しいパイロットを育む「希望の翼」となるかもしれません。


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