GPSに替わる新しい通信衛星

飛行機

皆さんこんにちは!

自動車のナビゲーションや携帯電話での位置情報など、今やGPS( Global Positioning

System:全地球測位システム)無しでは日常生活もままなりません。もちろん航空機も同

じです。しかし、ウクライナやガザでの上空では疑似電波が横行し航空機が危険にさらされ

ているのです。このGPSに替わる新たなシステムの開発が進んでいます。

機会信号はGPSの代替となる可能性がある

ザック・カサス

東地中海、中東、黒海、ノルウェー、フィンランド、南シナ海、ロシアの共通点

これらはすべて、ジャミングやスプーフィングと呼ばれる全地球航法衛星システム (GNSS) 妨

害のホットスポットであり続けています。ジャミングとは、GNSS 衛星信号を局所的に圧倒し

て受信機が機能しないようにすることです。スプーフィングとは、GNSS 受信機を騙して誤っ

た位置を計算させるプロセスです。

過去 10 年間、電子戦、特に妨害やスプーフィングが普及するにつれ、航空システムが妨害に

対して脆弱であるという懸念が高まっています。

2018年以来、シリア、レバノン、イスラエル、キプロス付近の東地中海上空を飛行するパイ

ロットからGPSの障害が報告されている。こうした障害は頻繁に発生し、混乱を招くため、

一部のパイロットはコンパスと地図に頼り、GPS(全地球測位システム)を完全にオフにし

ています。

2014年にロシアがクリミアを併合して以来、黒海地域ではGNSS干渉が頻繁に発生していま

す。ロシア軍によるものとみられる複数の航空機が、スプーフィング攻撃の特徴である予期せ

ぬ座標の変化を報告しているのです。

南シナ海の係争地域もそのひとつだ。パイロットや船舶は、予期せぬ位置の変化や信号の消失

など、GNSSの異常を報告しています。係争地域の軍事化に向けて大きな措置を講じてきた

中国軍は、GNSSの妨害やスプーフィングを戦略的に利用している疑いがあります。

現在、大多数の航空機はこれらのホットスポットを迂回するか、影響を受けた飛行を全面的に

中止しています (古い方法に戻るという記憶力を持つ航空機など、いくつかの例外を除く)。

これは、航空会社の運航経済性と乗客の選択肢に直接影響を及ぼします。

先月、EASA は 「全地球航法衛星システムの機能停止と変更による通信/航法/監視機能の低

下」と題する安全速報を発行しました。速報では、規制当局が GNSS 妨害やスプーフィング

が発生した場合の乗務員、オペレーター、当局に対するいくつかの推奨事項を示しています。

これには、計器着陸装置や距離測定装置ステーションなどの非 GNSS ベースの航法インフラ

ストラクチャが確実に機能し続けるようにすること、妨害やスプーフィング イベントの発見

時に NOTAMS(航空情報) を発行すること、GNSS 妨害システムのテスト前に民間と軍の調

整を促すことなどが含まれています。

事故が増加し続ける中、複数の規制機関もGNSSの代替手段の研究を求めています。

2023年、IATAはICAOに対し、GNSSの中断中に飛行と航空交通管理業務の継続性を確保する

ための代替測位、航法、タイミング(PNT)に関する世界戦略を策定するよう要請しました。

偶然にも、オハイオ州立大学に拠点を置く自律システム知覚、インテリジェンス、ナビゲー

ション(ASPIN)研究所は、2020年3月にすでに代替案に取り組んでいました。関与したチー

ムは、結果を検証して公開し、誰かに伝えるまで数年待つ必要がありました。

SNIFFER キャンペーン

今年初めに発表された ASPIN の研究は、周波数禁止環境でのナビゲーション機会信号(別名

SNIFFER) として知られるキャンペーンの形で行われました。米国空軍の支援を受けて実施

された SNIFFER キャンペーンでは、パイロット チームがビーチクラフト C-12 ヒューロン

(別名 Ms Mabel) で一連のテスト飛行を行いました。この機には、T-Mobile、AT&T、

Verizon の携帯電話信号を利用してカリフォルニア上空での位置を特定するという斬新なナビ

ゲーション システムが装備されていました。

機会信号は、適切な用語です。これらは、デジタルテレビ、衛星、携帯電話などの無線周波数

信号であり、測位、ナビゲーション、タイミングを目的としたものではありませんが、そのよ

うな用途で使用できる機会を提供します。この種の信号、特に携帯電話は、「絶対位置」 を抽

出できるため、航空機のナビゲーションに適しています。また、実際の運用に関するほぼすべ

ての関心領域で一般的です。

ASPIN のディレクターであるザック・カサス氏  が無線同時位置推定およびマッピング

(SLAM)と呼ぶこれらの信号を使用する技術は、成功を収めました。約 43 km のテス

飛行でナビゲーション システムは、統計的に計算された誤差がわずか 7 m (22 フィート) で

航空機の位置を正確に特定することができました。また、携帯電話ネットワーク インフラスト

ラクチャは地上のユーザー向けに設計されていますが、ASPIN チームは、高度 23,000 フィ

ートまで、および携帯電話基地局から 100 km 離れた場所でも、信号が予想よりも強力である

ことを発見しました。

2020 年春の SNIFFER キャンペーンの進展は、ASPIN チームがセルラー信号ナビゲーショ

技術を使用して世界で最も正確なドローン飛行の世界記録を獲得した少し前に始まりました。

無線 SLAM システムは、周囲の携帯電話基地局から発せられる一定の信号を検出することで

機能します。信号は数百に及ぶことが多く、全方向の無線サブ信号の複雑な配列に分散してい

るため、無線 SLAM システムはこれらを使用して周囲の信号ランドスケープを作成できます。

システムは、コードの分析と各信号のキャリア位相の観察を通じてそのマップを作成します。

ドップラー効果の測定と組み合わせることで、生成されたデータを計算して、GNSS を必要と

せずに航空機のライブ位置を明らかにすることができます。

重要な課題を解決する

このシステムは地上およびドローンの飛行実験では効果的であることが証明されたが、従来の

航空機で同じことを行うのは別の話だとザック・カッサスは語ります。

「高高度の航空機でこのシステムを使用する場合、2 つの大きな課題があります」と 彼は語り

ます。 「低高度のドローンに乗っている場合、または携帯電話を使用している場合でも、信号

は簡単に聞こえ、感知でき、ロックできます。これは強力です。結局のところ、塔に十分近い

ため、塔はユーザーの都合に合わせて下向きに傾いています。ただし、塔は航空機用に設計さ

れていません。」

高度 5,500 フィートの航空機は信号を受信できますが、その状態ははるかに不安定になりま

す。なぜなら、その高度では航空機は送信機のメイン ビーム内になく、代わりに弱い信号を発

するサイド ローブを聞いているからです。

「大きな課題の 1 つは、高度が上がるにつれて信号が弱くなることです。何も聞こえなくなり

ます。商業飛行中に携帯電話の電源を入れたときと同じです。信号はありますが、携帯電話は

それを拾うほど感度が高くありません。そこで、高度が高くても信号をロックできる高感度

信機を開発しました」と カサス 氏は言います。

2 つ目の重要な課題はドップラー効果に関係しています。  「ドップラー効果を非常に正確に

推定する必要があります。なぜなら、高速で移動する高高度プラットフォームでタワーから遠

く離れている場合、ドップラー効果の広がりが大きくなるにつれて推定値が不正確になるから

です。このような不正確な推定値に対応できる感度の高い受信機がなければ、システムは信号

を追跡できません。」

カサス氏と彼のチームが開発した受信機は、このシステムの要となる。これまでの受信機は高

高度で12個以上の信号を拾うことしかできなかったが、彼らのシステムは100個以上の信号を

同時に検知できます。

実際に運用が開始される前に残された課題は、航行データをリアルタイムで処理できるソフト

ウェア システムを開発することであり、これまでは飛行後に分析が行われてきました。

論理的には、この新しい無線 SLAM システムは、携帯電話のアンテナが密集している地域で

より効果的に機能すると考えられます。チームは、モハーベ砂漠の遠隔地、エドワーズ空軍

基地近くの半都市地域、リバーサイド市近くの都市部など、さまざまな都市化地域で 3 回の試

験飛行を行いました。都市環境では信号密度が最も高かったものの、感度の高い受信機は

100 km離れた場所から信号を受信できるため、このシステムは 3 つの場所すべてで効果的

であることが証明されました。

LEO衛星の受信

しかし、たとえば航空機が広大な山脈や太平洋の上を飛行しているときはどうなるでしょうか。

幸いなことに、カサス氏はその解決策も開発しました。  「そのような地域では、意味のある

深さで信号を拾うことはできないと思います」 とカサス氏は言います。  「そのため、私

の研究の別の部分は、低軌道 [LEO] 衛星をリッスンする同様のシステムの開発に焦点を当てて

きました。そのシステムを使用して、Starlink、OneWeb、Iridium、Orbcomm、

NOAA 衛星を使用してメートルレベルの精度でナビゲートすることができました。衛星の素晴

らしい点は地球全体をカバーしていることです。」

今日の GNSS システムは、高度約 20,000 km の地球の中軌道上にある約 30 基の衛星のネッ

トワークに依存しています。Kassas 氏と彼のチームが地上車両でテストしたシステムは、現

在軌道上にある約 5,000 基の LEO 衛星 (今後 10 年間で数万基に達する予定) にロックしま

す。これらのシステムは高度 500 ~ 1,500 km で軌道を回り、受信機が受信する強力な信

号を生成するため、妨害やスプーフィングの影響を受けにくくなります。

「我々はこれらの衛星と協力はしていません。携帯電話の信号の場合と同じように、同期信号

を聞いてそれにロックし、そこから衛星がどのくらい離れているかを知るだけです。」

カサス氏と彼のチームが克服しなければならなかった問題は、GNSS 衛星のデータは公開され

ていますが、LEO 衛星は民間所有であり、そのビーコン信号は秘密にされているということです。

そのため、研究者は民間衛星のビーコン信号のロックを解除できるアルゴリズムを開発する必

要がありました。

「携帯電話の塔の場合、送信する信号の構造はわかっています。これは 3GPP ドキュメントで

指定されています。つまり、携帯電話事業者は特定のプロトコルに従う必要があり、それに応

じて受信機を設計できます。独自の衛星群の場合、事業者はそれをユーザーに伝える必要はあ

りません。一部は半オープン アクセスの知識を持っていますが、ほとんどは完全にクローズ

ドです。そこで、完全に未知の信号を聞き取っても意味を理解できるコグニティブ無線を開発

しました。」

LEO 衛星信号によるナビゲーションに関連するもう 1 つの重要な課題は、衛星が常に移動する

性質です。携帯電話の塔は移動しませんが、LEO 衛星は大きく移動します (1 秒あたり

7 km 以上)。そのため、Kassas 氏と彼のチームは、同時追跡ナビゲーション (STAN) と呼ば

れる別のアルゴリズムを開発しました。

「衛星の位置の推定値は、実際の位置から 1 ~ 10 キロメートルほどずれている場合がありま

す。宇宙の世界では、これは悪くありません。しかし、ナビゲーションを行うには、衛星の位

置をはるかに高い精度で知る必要があります。そのため、LEO 衛星の存在を検出し、信号を追

跡し、同時に衛星の位置を推定して、受信機から衛星までの距離を推定できる STAN を開発す

る必要がありました。」

「これは、太平洋上にいて携帯電話の信号にアクセスできない場合は、代わりにこれらの衛星

を使用するという私たちの答えでした」と カサス氏は言います。

次は何?

最終的に、カサス氏は GPS と LEO 衛星ナビゲーション システムが商品化され、現在の

GNSSのバックアップとして利用されることを望んでいます。  「パイロット全員がコンパス

と地図に頼れるわけではありませんし、そうする必要もありません。これらのシステムを開

発する目的は、パイロットがスプーフィングや妨害に遭遇した場合にバックアップを提供する

ことです。このシステムを使って明日大西洋を飛ぶことはできません。スイスチーズのような

ものだと考えてください。このシステムは穴をふさぐことができます」とカサス 氏は言います。

カサス氏は、このシステムをUAVやエアタクシーなどの低高度エコノミー航空機にも使用でき

る可能性があると考えています。ASPINとセルラーネットワークナビゲーションシステムの研

究開発中、同氏のチームはGPS故障によるUAVの墜落に遭遇しました。  「UAVは連絡が取れ

なくなった後、約1マイル飛行しました。回収した際にデータログを確認すると、GPS故障と

表示されていました。電波が妨害されたのか、部品が故障したのかはわかりません。UAVは故

障時に帰還することになっていますが、自分の位置がわからなくなったらどうやって帰還でき

るのでしょうか?」 

オーストリアのソフトウェア会社 ディメトルは、空域での携帯電話接続の自動分析を提供す

るAirborneRF というプラットフォームを開発しました。ドローンと低高度エコノミー航空機

向けに特別に設計されたこのソリューションは、地上のモバイル ネットワーク オペレータ

ーからのライブ無線ネットワーク データと UAV 空域制御システムを統合します。

AirborneRFは計算技術と Inmarsat の通信スペクトルを使用して、飛行計画、リスク評価、

飛行許可、および運用のために 4G および 5G データを集約します。

一部のGNSSプロバイダーは、サイバーセキュリティの脅威に対応する緩和システムも開発

しています。ガリレオGNSSには、サイバーセキュリティの脅威に対するオープンサービスナ

ビゲーションメッセージ認証(OSNMA)と呼ばれる機能があります。捜索救助、ドローン、

民間航空、海事を含む10の業界向けに開発されたOSNMAは、受信したガリレオナビゲーショ

ンメッセージが改変されておらず、システム自体から送信されたものであるという保証を受信

機に提供します。ソフトウェアアップデートによってガリレオ受信機に追加できるのです。

ガリレオのOSNMAはデジタル署名を使用してデータを認証するが、同社によれば、認証によ

ってスプーフィングの発生がすべて防止されるわけではないという。また、妨害電波に対する

保護も行われない状況です。

システム開発に多大な労力を費やしてきたカサス氏は、障害が発生した場合に GNSS に代わ

るソリューションとして、携帯電話ネットワークと LEO 衛星を使用するシグナル オブ オポチ

ュニティ システムに期待を寄せています。「人々は物事をコントロールしたいので抵抗は

ありすが、このように考えてみてください。Uber とタクシー。20 年前には、見知らぬ人が

でやって来て乗せてくれるなんて誰が想像したでしょうか。Airbnb とホテルでも同じです。

通信も同じ方向に進んでいます。既存のものを再利用できるのに、なぜ新しいインフラストラ

クチャを構築して追加のスペクトルを割り当てる必要があるのでしょうか。

「宇宙でも同じです。なぜ LEO にナビゲーション専用の衛星群を配置するのでしょうか? 悪

意のある人物がそれを破壊することができます。問題を解決するために、問題を生み出した

い考え方を採用しても意味がありません。私はこう言います。OneWeb、Starlink、

Amazon  Kuiper などのメガ コンステレーションが誕生すれば、ナビゲーション信号を送信

するかどうかに関係なく、それらを利用できます。これで、GNSS 障害が発生した場合のリス

クを大幅削減する冗長性のある二重目的のシステムが得られます」と カサス 氏は結論付け

ています。

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