皆さんこんにちは!
スカンジナビア諸国と言えば、ノルウェー、スエーデン、デンマークです。
その国の中の一つ、ノルウェーのゼロカーボン(脱炭素)にむけた取り組みを紹介
します。
ノルウェー
ノルウェーは、スカンジナビア半島の西側に位置しており、ノルウェー界に面した
南北に細長い国です。国土面積は、ほぼ日本と同じです。
ノルウェーは、石油・天然ガスを生産(合計:年産約14億バレル)、欧州諸国を中心に
輸出しており、GDPの約10.2%、輸出(サービスを除く)の約42%を占めています。
豊富な水資源を利用して(国内電力の93%は水力発電(2019年))、電力を多消費す
る加工産業(アルミニウム、シリコン、化学肥料)が盛んです。また、水産業がGDPに
占める割合は2%程度と小さいですが、水産物輸出は(商品輸出の13.1%)、石油・ガ
スに次ぐ輸出品目となっています。ノルウェー大陸棚の未発見の石油・ガス資源は推定
埋蔵量の48%とされていますが、世界的に気候変動対策が急務とされている中、石油・
天然ガスからクリーンエネルギーへの転換が課題です。そのため、水素、洋上風力発電や
CO2の回収・貯蔵等の関連研究開発や技術革新に、限られた資源を投入して国際競争力
を強めていく方針です。
日本との関係は、石油事業関連で出光やINPEX、三菱商事などが進出しています。
経済状況は、前述の通り石油関連でコロナも乗り切りましたが、今後はゼロカーボン事
業に舵を切っています。ノルウェーは、EUには加盟していませんが、近年EUとのつな
がりを重視しています。
エルフライが全電動水上飛行機ノエミの試作機を公開
全電動水上飛行機、ノエミ
ノルウェーの新興企業エルフライ・グループは今週、全電動水上飛行機の計画を発表し、
2030年に商業旅客輸送サービスに参入する準備が整い、貨物バージョンは2028年まで
に完成するとしています。6月14日にオスロで行われたお披露目イベントで、同社による
と、ノエミ航空機の初期バージョンは6~13席で、最大250ノットの速度で約200キロメ
ートル(109海里)まで飛行できます。
Noemi (「排出ガスゼロ」の略) は、まだ詳細が明らかにされていない電気モーターによ
り駆動され、合計出力は 1 メガワットになります。エルフライは、EASA の CS23 レベ
ル 4 規則に基づいて航空機を製造し、最大 19 人の乗客を運ぶように設計を拡大する余地
を残しています。また、貨物(1 トン標準パレットを最大 4 個搭載)および緊急医療サポ
ート バージョンも提供する予定です。
エルフライによると、2025年にはノエミのプロトタイプを飛行させる準備が整う予定です。
この機体でノルウェー西海岸(フィヨルドの間)に沿ってサービスを開始するために航空
オペレーター証明書を申請する予定です。
2018年に同社を設立したIT起業家で、エルフライの最高経営責任者(CEO)エリック・リ
トゥーン氏は、「世界人口の80%が海沿いに住んでいることを考慮すると、その後は他の
ショートホップ(水上飛行機)市場にも拡大する可能性がある」と述べました。
スカンジナビアのゼロカーボン政策の課題に立ち向かう
ノルウェーは、山々に囲まれた起伏の多い海岸線に沿って人口が集中している困難な地理
により、ゼロカーボン水陸両用航空機を早期に導入する可能性が高いと思われます。
もう 1 つの重要な要因は、ノルウェー政府が 2040 年までにすべての国内線を完全電動化
するという要件を宣言しており、隣国であるスウェーデンとデンマークも同様の政策を推
進していることです。
ノルウェーの航空会社ヴィデローエは、Eve Air Mobility (ブラジル)が開発中の 4 人乗
りモデルの eVTOL 航空機を、一部の地方路線に使用することを検討しています。
また、テクナムの新しい電動式固定翼機「PVolt」の評価も行っていますが、今週、テクナ
ム(イタリア)とロールス・ロイスはこのプロジェクトを中止すると発表しました。
ハート・エアロスペース社が計画しているハイブリッド電気旅客機ES-30も、スカンジナ
ビアの航空輸送部門で検討されている選択肢の 1 つです。
ノルウェー当局は近く、特定のコミュニティ間での電気航空機サービスの初期サービスの
入札を募集するとみられています。他に考えられるルートとしては、ベルゲンやスタヴァ
ンゲルなどの石油産業の中心地を結ぶルートがあり、エルフライによれば、ダウンタウン
からダウンタウンまでの移動時間が1時間未満に短縮され、少なくとも4時間半かかるロ
ードトリップに代わる選択肢となるといいます。長い海岸線に加えて、ノルウェーには
1,000 以上のフィヨルドと 450,000 の湖があります。
ノルウェーの首都で開催されたイベント中に、エルフライは乗客向けに構成されていない
EG1A プロトタイプをゲストに披露しました。プロジェクトの設計作業は、民間投資家と
ノルウェー研究評議会から資金提供を受けました。
エルフライによると、船体を備えたボートからインスピレーションを得たノエミの設計は
離陸に必要な電力を最小限に抑え、最大2メートルの波での運航を可能にするといいます。
低高度で飛行するため、客室内を与圧する必要がなく、型式証明作業が簡素化され、重量
が約5パーセント削減されると言います。翼には安定用のフロートが付いています。
ノエミの旅客機バージョンには、6人乗りのVIPモデルから9人乗りおよび13人乗りまでの
3つのキャビンオプションがあり、それぞれビジネスフライトまたは短期間の観光旅行に
使用できます。車椅子の乗客が利用したり、荷物を積み込んだりするために、大きなドア
が利用可能になります。
エルフライの全電動水上飛行機 Noemi (ノエミ)(画像:エルフライ)
これまでのところ、エルフライの主な開発および製造パートナーには、ノルウェー科学技
術大学、SINTEF (フル システムおよびセンサー システムに取り組んでいる)、および
Norsk Titanium (3D プリント部品を提供) が含まれます。OSM航空アカデミーはノエミ
の飛行甲板の整備と飛行訓練の準備に取り組んでおり、格安航空会社ノルウェージャン航
空はメンテナンス計画を支援しています。
エルフライはエンジニアリング人材を拡大しており、eVTOL 航空機開発会社の Lilium や、
1980 年代のビンテージ水陸両用機 Seastar を製造したドイツの ドルニエなどの企業から
専門家を採用しています。最高技術責任者のトーマス・ブロドレスキフト氏は 2010 年に
エクエーター エアクラフトを設立し、電動航空機 P2 エクスカーションを開発しました。
ライバル企業
ジェクタ(スイス)
エルフライのライバル会社として名乗りを上げているのが、スイスのジェクタです。
ジェクタも 19 人乗り PHA-ZE 100 水陸両用機でこの市場を狙っています。EASA およ
び FAA CS/Part-23 型式認証の取得も目指しており、 2029 年のサービス開始を目指し
ています。
PHA-ZA 100(Passenger Hydro Aircraft Zero Emissionの略)は当初はバッテリー電動
パワートレインを搭載し、後に水素燃料電池に切り替えるオプションもあるといいます。
最大約150キロメートル(94マイル)の区間と最大135ノットの速度での運用を想定して
います。この設計は、翼に取り付けられた 10 個のプロペラを特徴とし、それぞれのプロペ
ラには独自の 180 キロワットの電気モーターが 30 メートルの翼に取り付けられています。
ジェクタ(スイス)のPHA-ZE 100 電動水陸両用航空機。(画像:ジェクタ)
ジェクタは現在、パイェルヌ空港にあるスイス・エアロポール・ビジネスパークの拠点か
ら、予備設計段階を完了し、設計組織の承認を申請しています。同社は、2024年までに
PHA-ZE 100の技術実証機の構築を開始し、2027年に本格的なプロトタイプの構築を開
始する準備を整えることを目指しています。
リージェント(アメリカ)
一方、米国では、リージェントと呼ばれる新興企業が、ヴァイスロイと呼ばれる12人乗り
の全電気翼地盤効果シーグライダーの本格的なプロトタイプの「飛行」テストの準備を進
めています。同社は、この車両が海事規則に基づいて認定される予定で、航続距離は180
マイルで、沿岸地域のコミュニティを結ぶことを期待しています。
シーグライダーは、地面効果として知られる空気力学現象を利用して水上のみを飛行しま
す。この現象では、機体の下を流れる空気が揚力をもたらします。この技術は、従来の水
上飛行機とホバークラフトを組み合わせたようなものですが、シーグライダーはホバリン
グできません。下向きのプロペラの下にある加圧空気のクッションがホバークラフトをサ
ポートしますが、翼地面効果航空機は前向きのプロペラを備えており、航空機の下に空気
の流れを導き、揚力をもたらす圧力を生み出し、同時に揚力による抗力を軽減します。
リージェント(アメリカ)のシーグライダー。(画像:リージェント)
ヴィデローエ、スカンジナビアのモビリティ ネットワークの可能性を探る
ノルウェーに本拠を置く航空会社ヴィデローエは、イブ・アーバン・エア・モビリティ
・ソリューションズ(ブラジル)と協力して、スカンジナビアでのeVTOL航空機運航開
始の可能性を評価する予定です。昨年11月10日に署名された覚書に基づき、両パートナ
ーはウィデローの新しいエア・モビリティ・ビジネス・インキュベーターを通じて、人
口集中が分散し地理的に困難な地域へのサービス開始計画に取り組むことになります。
この共同プロジェクトは、新しい航空技術とサービスオプションの実装を加速する責任
を負う航空会社のヴィデローゼロ部門によって実施されます。この契約には、イブが
2026年の市場投入を目指している4人乗りの全電気式eVTOLを航空会社が取得して運用
する計画については特に言及されてはいません。
イブのeVTOL(画像:イブ・アーバン・エア・モビリティ)
「当初は都市部のエアモビリティ向けに設計されましたが、これらの柔軟性の高い機体は
貨物輸送から旅客輸送に至るまで、さまざまな地方地域で興味深いものになると期待して
います」と、ウィデローエ ゼロの CEO、アンドレアス コルビー アクス氏は述べています。
「イブとのパートナーシップは、ノルウェーにおける持続可能な航空の開発を加速するた
めの計画の一部です。私たちはパートナーシップを拡大し、地域のつながりを改善する新
たな機会を開拓することに期待しています。」
今年3月、ヴィデローは、テクナムの新しい全電気式固定翼機「P-Volt」を2026年に予定
路線に追加する計画を発表しました。ロールス・ロイス・エレクトリカルは、9人乗り航
空機用の推進システムを開発しています。(その後、計画は中止)
ノルウェーの地域航空会社ヴィデローは、2017年にブラジルの航空機会社E190-E2旅客
機を最大15機発注して以来、エンブラエルの顧客となっています。同社は2018年4月に
ノルウェー西海岸のベルゲン発の便で100席のツインジェット機の運航を開始しました。
今週初め、エンブラエルは、ハイブリッド、水素、二元燃料ガスタービン、電気推進シス
テムを組み合わせた9人乗りから50人乗りの航空機ファミリーのコンセプトを発表。
エネルギア航空機は2030年から2040年の間に就航する可能性があり、最大約575マイル
の航続距離を提供する予定です。
エンブラエルが発表した再生可能エネルギー推進技術を用いた航空機コンセプト「エネル
ギア・ファミリー」の(前列右から時計回りに)ハイブリッドE9-HE、エレクトリックE9
-FE、H2ガスタービンE50-H2GT、H2燃料電池E19-H2FC(同社提供)
まとめ
ノルウェー政府は、2040年までにすべての国内航空会社に電動航空機の使用を義務付ける
ことを発表しました。この政府方針は、とても画期的であり世界のゼロカーボン政策の先
端を行っています。ここまで、思い切った政策を打ち出せるのは北欧・ノルウェーならでは
の事情があります。
ノルウェーは、その富裕な資源と活発な社会民主主義を背景に、安定した政治体制を持つ国
として知られています。ノルウェー政治史は、中世の独立王国から、デンマークとの連合、
その後のスウェーデンとの同君連合を経て、1905年の完全な独立に至るまで、多くの変遷
を経験しました。この経験が、ノルウェーが現在の政治体制を形成する上で重要な役割を果
たしました。
近年、ノルウェーの石油とガスの埋蔵量は、ウクライナ情勢の悪化以降、大きな需要があり
ます。また、ノルウェーの河川と貯水池により、自国の電力需要の最大 90% を賄うことが
できるのです。
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