皆さんこんにちは!
約1週間に及んだパリエアショーは、ボーイングの不調や中東の紛争などのマイナス要素はあったものの成功裏に終わりました。
多くの航空機の契約や、新しいAAM(アドバンスエアモビリティ)の注文も見られた一方で、更なる航空所ようの高まりと共に人材不足が問題になっています。
航空業界は150万人の専門家を採用する必要がある
CAEはパリ航空ショーで最新の航空人材予測を発表
CAEが発表したばかりの航空人材予測によると、航空業界は今後10年間でパイロットや航空機整備士を含む150万人の専門家を雇用する必要がある。© ボンバルディア
訓練機関CAEが月曜日にパリ航空ショーで発表した最新の航空人材予測によると、民間航空
業界は2034年までに世界中で約150万人の専門職を採用する必要があるという。2年ごとの
この調査の最新版では初めて航空管制官が調査対象に含まれており、今後10年間で多数の
パイロット、整備士、客室乗務員に加え、7万1000人の管制官が必要になるとしています。
予測によると、約130万人の航空関連専門職が必要となり、パイロット26万7000人、
整備士34万7000人、客室乗務員67万8000人が含まれます。これらの従業員の大部分は
アジア太平洋地域で必要となるでしょう。さらに、ビジネス航空部門では同時期に
10万2000人の専門職が必要となり、パイロット3万3000人、整備士6万9000人が含まれます。
「2034年までに150万人の航空専門家が必要になる理由は、航空旅行の記録的な需要と、
あらゆる分野で予想される大規模な退職の波によるものだ」とCAEの戦略、パフォーマンス
航空交通サービス、マーケティング担当副社長、マリー・クリスティーヌ・クルティエ氏は述べました。
今後10年間で商業航空機およびビジネス航空機の保有数は2桁の増加が見込まれるため、業界
は人材の確保、訓練、そして再訓練のための対策を講じる必要があります。高度なスキルを持
つ航空専門家は、航空輸送システムの安全確保に不可欠であるだけでなく、世界の航空セクターの成功と回復力の基盤でもあります。
CAEは、資格のある候補者が卒業し、就職できるよう、業界には包括的な訓練環境が必要だ
と述べました。報告書によると、すべての専門職において、中退率と不合格率が高いことが
わかっています。米国だけでも、国家航空宇宙システム安全審査チーム(National Airspace
System Safety Review Team)によると、有給の航空管制研修生の30%が訓練を完了していません。
今週、航空宇宙産業協会(AIA)とマッキンゼーは、航空宇宙・防衛産業がますます深刻な
人材不足に直面していることを示す調査を発表しました。「Accelerating Progress –
Maximizing the Return on Talent in A&D(進歩の加速:航空宇宙・防衛における人材
収益率の最大化)」と題されたこの報告書は、業界が人材の確保と維持のために新たなアプロ
ーチを早急に導入し、より持続的な投資を行う必要があると述べています。
CAEとは、「Computer Aided Engineering(コンピュータ支援エンジニアリング)」の略です。
人材確保の問題に直面し、転換期を迎えたA&D
企業は既存の労働力で30%から40%の効率向上を図る必要がある
航空宇宙・防衛(A&D)業界は、力強い事業成長の一方で、離職率の上昇と人材採用の問題
が依然として続いているため、重大な転換点を迎えていると、航空宇宙産業協会(AIA)
とコンサルティング会社マッキンゼーが今週パリ航空ショーで発表した調査で明らかにな
りました。この調査では、A&D組織は既存の労働力の生産性を少なくとも30%向上させる必要があると指摘されています。
『進歩の加速:航空宇宙・防衛業界における人材収益の最大化』と題されたこの調査は、航空
宇宙・防衛業界の労働力のダイナミクスを深く掘り下げ、人材パイプラインを強化するための
新たなアプローチと継続的な投資の必要性を浮き彫りにしています。この調査は、60万人以上
の米国従業員を代表する30以上の組織に加え、業界リーダー、人材担当幹部、そして全国の労働力データから得られた知見に基づいています。
調査によると、米国のA&Dセクターは2024年に9,950億ドルの収益を生み出し、前年比
5.7%増加しましたが、複数の人材維持策にもかかわらず、離職率は15%にとどまりました。
A&D部門の従業員数は2024年に223万人に達しましたが、エンジニアリングや熟練職種における深刻な人材不足は依然として続いています。
調査によると、これらの課題は、生産性の向上、高まる顧客需要への対応、デジタル導入の促進に向けた取り組みにとって逆風となっています。
「航空宇宙・防衛産業は、従業員の力と創意工夫により、引き続きイノベーションをリードし
ていますが、人材に関する課題はますます複雑化しています」とAIAの社長兼CEOであるエリック・ファニング氏は述べています。
「グローバルリーダーであり続けるためには、次世代の才能を引きつけ、維持し、力づける
ために、大胆かつ戦略的な行動を取らなければなりません」と彼は付け加えた。「それは人材
への投資だけでなく、今後数十年にわたって業界の回復力と競争力を確かなものにする技術とパートナーシップへの投資も意味します。」
調査によると、効率性を高めるための鍵となる方法としては、業務の設計と実行方法の見直し
既存の人材プールへの新たなスキルの習得、そして重要な従業員への意義あるインセンティブ
付与などが挙げられます。例えば、人材不足への対応に取り組む企業にとって、人工知能
(AI)と自動化は重要な優先事項となっていると、調査では指摘されています。
マレーシアの飛行学校がVoltAeroのCassio 330を発注
マレーシアの飛行学校HMエアロスペースは、VoltAero社のカシオ330ハイブリッド電気航空機を使用してプロのパイロットを養成する計画
HMエアロスペースはパイロットの訓練のために最大30機の航空機を調達する可能性がある
マレーシアの航空学校HMエアロスペースは、ボルトエアロ社製のカシオ330ハイブリッド電気
航空機15機を購入することに合意しました。6月18日にパリ航空ショーで締結されたこの
契約には、さらに15機のオプション購入も含まれており、フランスのメーカーがマレーシアの
民間航空当局による承認を得てEASA型式証明を取得することが条件となります。
ハリム・マズミン・グループ傘下のHMエアロスペースは、過去20年間で約2,400人のプロ
パイロットを輩出してきました。同社は、ボルトエアロとの契約により、マレーシアおよび
アジア太平洋地域におけるハイブリッド電気航空のエコシステム拡大に貢献できると述べています。
パリエアショーにおいて、ボルトエアロ社はカシオ330の改訂設計の実物大モックアップを
展示しました。この機体は、シリーズハイブリッド推進システムを搭載し、従来のツインブー
ム構成からT字型テールに変更されています。同社は2027年にCS23規則に基づく型式証明
の取得を目指しており、より大型のカシオ 480および600モデルも開発中です。これらの
機体は、後部胴体の両側にそれぞれ2基のプッシャープロペラを備えています。
ボルトエアロは、フランス南西部のロシュフォール空港に製造施設を設立しました。ヌーヴェル=アキテーヌ地域圏政府は、当初からの資金提供者の一つでした。
HMエアロスペースとの契約により、ボルトエアロの暫定受注残高は280件となりました。他の顧客も同機を地域航空サービスに利用する計画です。
再設計されたカシオ330のモックアップがパリで初公開されました。© AIN/David McIntosh
まとめと解説
世界の航空・宇宙業界、そして防衛産業において、人材不足は非常に深刻な地球規模の課題
となっています。これは、地政学的リスクの高まりによる防衛費の増加、民間航空機の需要
回復と生産拡大、そして宇宙産業の急速な発展といった要因が重なり、熟練した技術者や研究者、技能労働者の需要が急増しているためです。
各国の具体的な対応策・政策
各国は、この人材不足に対応するため、様々な政策や戦略を打ち出しています。
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アメリカ:
- 強力な政府・産業連携: 国防総省(DoD)やNASAが主導し、産学官連携で人材育成プログラムを強化しています。大学や研究機関への資金援助、インターンシップや奨学金の提供を通じて、若い世代のSTEM(科学・技術・工学・数学)分野への関心を高めています。
- 技術者育成プログラム: 防衛関連企業が、社内で高度な専門知識を持つ技術者を育成するプログラムに投資しています。退職者の再雇用や、軍からの退役軍人の積極的な採用も行われています。
- サプライチェーン強化: 国内のサプライチェーン強化を通じて、人材の囲い込みや育成を促進しています。
- 軍事費の研究開発投資: 防衛費の16%を研究開発に投じ、技術革新とそれに関連する人材の育成を促進しています。
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欧州(EU全体・各国):
- 共同調達と標準化: 欧州委員会は、EU加盟国間の共同調達を推進し、防衛産業の規模の経済を達成することで、効率性を高め、長期的な発注の確実性を通じて増産や人材育成への投資を促しています。
- 研究開発支援: 域内生産強化のため、防衛関連の研究開発への公的投資を増やすことで、イノベーションを加速させ、関連する人材を確保しようとしています(ただし、アメリカに比べると研究開発への支出割合は低い現状があります)。
- 中小企業の活用: 防衛産業のエコシステム全体(中小企業を含む)の活用を提案し、裾野の広い人材確保を目指しています。
- 教育機関との連携: 大学や専門学校と連携し、航空宇宙・防衛分野に特化したカリキュラムを強化したり、キャリアパスの魅力を発信したりしています。
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イギリス:
- 防衛産業戦略: 政府が明確な防衛産業戦略を策定し、国内の技術基盤と人材育成を重視しています。
- 国際協力: F-35などの国際共同開発プロジェクトへの参画を通じて、国内の技術者育成と技術移転を進めています。
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韓国:
- 積極的な輸出戦略: 防衛装備品の輸出を積極的に推進し、産業規模を拡大することで、人材への投資余力を生み出しています。
- 政府の強力な支援: 防衛産業の育成を国家戦略として位置づけ、研究開発予算や人材育成プログラムへの政府からの強力な支援があります。
日本の現状と遅れ
日本もまた、航空・宇宙、防衛産業において深刻な人材不足に直面しており、他国と比較していくつかの点で遅れを取っていると指摘されています。
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歴史的背景と産業構造:
- 戦後の空白期間: 第二次世界大戦後、日本の航空宇宙・防衛産業は一時的に活動が停止し、その間に諸外国はジェット機やロケット技術を急速に発展させました。この空白期間が、国際競争力の面で大きなハンディとなりました。
- 「武器輸出三原則」の制約: 長らく続いた武器輸出規制により、日本の防衛産業は自衛隊のみを顧客とする特殊な産業となり、規模が限定され、国際競争力が育ちにくい環境にありました。これにより、技術者や研究者が育ちにくく、優秀な人材が他の産業に流れる傾向がありました。
- 民間機体事業の限定的発展: YS-11以降、完成機事業が限定的で、国際共同開発における部品製造が中心でした。これは、航空機産業全体の裾野を広げ、多様な人材を育む機会を逸してきた要因ともいえます。
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具体的な人材不足の課題:
- 熟練技術者の高齢化と引退: 長年産業を支えてきた熟練技術者の引退が進む一方で、若手の育成が追いついていません。これにより、貴重な技術やノウハウが失われる「組織的知識の喪失」が懸念されています。
- 魅力の低下: 他のIT産業や高付加価値産業に比べ、航空宇宙・防衛産業への就職の魅力が十分に伝わっていない可能性があります。給与水準やキャリアパス、企業の安定性などが他産業に見劣りする場合もあります。
- サプライチェーンの脆弱性: 複雑でグローバルなサプライチェーンの中で、特定の部品や技術を持つ中小企業の高齢化や事業承継問題が、全体の生産能力に影響を与えています。
- 教育と実務の乖離: 大学や専門学校での教育内容と、現場で求められる実践的なスキルとの間に乖離がある場合があり、即戦力となる人材が不足しています。
日本の対応策と今後の課題
日本政府も、この問題の重要性を認識し、様々な対応策を講じ始めています。
- 防衛生産基盤強化法(2023年6月公布): 防衛産業の生産基盤を強化し、防衛力の向上を推進するための法律です。企業の事業継続を支援し、技術・人材の流出を防ぐことを目指しています。
- 経済安全保障推進法(2022年5月公布): 安全保障上重要な物資のサプライチェーン強化や、先端技術の開発促進など、産業基盤強化を通じて人材確保の間接的な効果も期待されます。
- 「航空機産業戦略」の策定: 経済産業省を中心に、航空機産業の基幹産業化を目指し、完成機開発の推進、認証制度の整備、そして人材育成システムの整備を掲げています。
- 産学官連携の強化: 大学や研究機関との連携を深め、技術者教育や研究開発の機会を増やす取り組みが進められています。大学への講師派遣やインターンシップの受け入れなどが期待されています。
- 宇宙産業振興戦略: 宇宙基本計画に基づき、宇宙産業の国際競争力強化やデュアルユース(軍民両用)技術の開発を通じて、関連する人材育成を推進しています。
しかし、これらの取り組みはまだ道半ばであり、構造的な問題の解決には時間がかかります。
- 賃金や待遇の改善: 優秀な人材を呼び込むためには、他産業と比較して魅力的な賃金体系や福利厚生の整備が不可欠です。
- キャリアパスの多様化と流動性の向上: 航空宇宙・防衛産業内でのキャリアパスを明確にし、異業種からの転職や再就職を促進する仕組みが必要です。
- 中小企業への支援: 産業を支える中小企業の技術継承や人材確保への具体的な支援が求められます。
- 広報とイメージ戦略: 若年層に対し、航空宇宙・防衛産業の魅力を積極的に発信し、憧れやキャリア形成の対象となるようイメージアップを図る必要があります。
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