皆さんこんにちは!
航空機の緊急事態において、最も恐ろしいシナリオの一つが「コクピット内への煙の充満」
です。たとえ酸素マスクを装着して呼吸が確保できたとしても、濃い煙で計器や窓の外が
全く見えなくなってしまえば、安全な着陸は不可能に近いものとなります。
そんな課題を解決するために開発されたのが、Klatt Works(クラットワークス)社の革新的なシステム「SAVED」です。
視界ゼロの煙の中でも着陸が可能に!Klatt Worksの「HUD内蔵型酸素マスク」とは?
酸素マスクの中に「拡張現実(AR)」を統合
「SAVED」は、パイロットが緊急時に必ず装着する酸素マスクの内部に、拡張現実(AR)グラスを組み込んだ製品です 。
直感的な操作: パイロットは訓練通りに酸素マスクを装着するだけで、目の前のグラスに重要な飛行情報が映し出されます。
見える情報: ヘッドアップディスプレイ(HUD)のシンボル(速度や高度など)と、機体前方の赤外線カメラ(EVS)による熱線映像が重ねて表示されます。
メガネ併用もOK: 普段メガネをかけているパイロットでも、その上から問題なく装着できる設計になっています。
開発のきっかけとなった悲劇:UPS 6便事故
この製品が開発された背景には、2010年にドバイで発生したUPS 6便の墜落事故があり
ます 。 この事故では、リチウムイオンバッテリーの火災によりコクピットが煙で満たされ
副操縦士の最後の言葉は「(何も)見えない(I can’t see)」でした。このような悲劇を
繰り返さないために、視界を物理的に遮断されても着陸を可能にする技術が必要とされたのです。
年間180件以上の「煙のトラブル」が発生している現実
驚くべきことに、コクピット内での煙の発生による緊急着陸や目的地の変更は、把握され
ているだけでも年間180件以上にのぼります 。報告義務のない地域やビジネスジェットを
含めれば、その数は3倍以上に達すると予測されており、この技術の需要がいかに高いかがわかります。
導入と今後の展望
レトロフィット可能: 既存の酸素マスクを改造する形で導入でき、機体へのインストール自体は約2.5日ほどで完了します 。
認証状況: 現在、ボーイング777および767向けにFAA(連邦航空局)の認証を取得済みで
す。現在はガルフストリーム G550などのビジネスジェット向けにも認証プロセスが進められています。
今後の課題: 最新の航空計器に対応するため、光ファイバー出力への対応も開発中とのことです 。
まとめ
「SAVED」は、パイロットに「最後まで操縦し続けるための視界」を提供する、文字通り
命を守る(Saveする)技術です。リンドバーグが大西洋を横断した時代から100年、現代の
航空安全はこうした最先端のAR技術によってさらに高められようとしています。
動画URL: Klatt Works Oxygen Mask Head-Up Display Lets Pilot See in Smoky Cockpits – AIN
UPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)6便墜落事故

2010年に発生したUPS(ユナイテッド・パーセル・サービス)6便墜落事故は、航空業界に
おけるリチウムイオンバッテリーの輸送リスクを世界中に知らしめた、非常に重要な事故です。
以下に、事故の経緯、原因、そしてその後の航空安全への影響を詳しく解説します。
1. 事故の概要
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発生日: 2010年9月3日
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機体: ボーイング747-400F(貨物専用機)
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ルート: ドバイ(アラブ首長国連邦)発、ケルン(ドイツ)行き
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結果: ドバイ空港近くの軍事基地内に墜落。乗員2名(機長・副操縦士)が死亡。
2. 事故の経緯
離陸からわずか22分後、高度約32,000フィートを上昇中に、メインデッキで火災警報が作動しました。
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急速な煙の充満: 警報から数分も経たないうちに、コクピット内に濃い煙が充満し始め、パイロットは計器や窓の外がほとんど見えない状態になりました。
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酸素供給の問題: パイロットは酸素マスクを装着しましたが、機長の酸素供給システムにトラブルが発生。機長は予備の酸素を求めて席を離れましたが、煙の中で意識を失い、戻ることができませんでした。
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副操縦士の孤立: 一人残された副操縦士は、視界がほぼゼロの中でドバイへの引き返しを試みました。管制官の無線誘導を頼りに操縦を続けましたが、計器が見えないため、高度や速度の制御が極めて困難でした。
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墜落: ドバイ空港を一度通り過ぎてしまい、再アプローチを試みる途中で機体は制御不能となり、離陸から約50分後にドバイ郊外の砂漠(軍事基地内)に墜落しました。
3. 事故の原因
アラブ首長国連邦の調査当局(GCAA)による調査の結果、以下のことが判明しました。
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火元はリチウム電池: 貨物室に積まれていた数万個のリチウムイオンバッテリーが熱暴走(自動的に発火・爆発する現象)を起こしたことが直接の原因でした。
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延焼の速さ: 1つの電池の発火が隣の電池に次々と引火し、消火システムが追いつかないほどの猛烈な火災となりました。
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防護の不備: 当時の貨物コンテナは耐火性能が不十分で、火災を食い止めることができませんでした。
4. この事故がもたらした教訓と変化
この事故は、航空安全基準を大きく変えるきっかけとなりました。
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リチウム電池の輸送規制: 旅客機によるリチウムイオン電池のバルク(大量)輸送が禁止され、貨物機でも非常に厳しい梱包・積み込み基準が設けられました。
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耐火コンテナの導入: 高温の火災にも長時間耐えられる新しい素材の貨物コンテナの開発・導入が進みました。
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視界確保技術の開発: 先ほどの動画(SAVEDシステム)のように、「煙の中でも計器が見える技術」の必要性が強く認識されるようになりました。もし当時、副操縦士が酸素マスク越しに計器を見ることができていれば、墜落を回避できた可能性が高いと考えられているためです。
5. 悲劇の言葉
ボイスレコーダーに記録された、副操縦士の最後の言葉「(何も)見えない(I can’t see)」
は、航空史上最も悲痛な記録の一つとして知られており、現在でも多くのパイロット訓練や安全啓蒙活動で引用されています。
この事故は、現代の私たちが日常的に使っているスマートフォンやPCのバッテリーが、
航空輸送においていかに危険な「凶器」になり得るかを象徴する出来事でした。




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