遙かなる大空 VOL.163
設計図を抱えて、待っていた
軽量スポーツ機の新制度、全面施行から3か月
制度が変わってから動き出す者は、間に合わない。
この記事の要点(約8分)
- 7月24日、米国で新制度が全面施行。重量制限が撤廃され、動力の種類にも制限がなくなった。
- 施行から3か月で、複数の製造者が新型機と納期を発表。規則の前から構えていた。
- 日本はいまも研究開発用機の枠内。航空機の区分としては存在しない。
皆さんこんにちは。今年6月、この連載で軽量スポーツ機の制度改正について書きました。
そのとき「あと44日」と書きました。米国で新しい規則の第2段階が発効するまでの日数です。
その日は過ぎ、すでに3か月近くが経ちました。今日は、その後に何が起きたかを書きます。
1. その日は、もう過ぎた

【図1】
2026年7月24日、第2段階が発効しました。機体の認証に関する新しい枠組みが動き出し、同じ日に「軽量スポーツ機」という定義そのものが規則から削除されました。
定義を消したのには理由があります。二つの問いを切り離すためです。
どの機体が、この区分の耐空証明を受けられるか。そして、スポーツ操縦士はどの機体を飛ばせるか。これまでは一つの定義が両方を縛っていました。それを別々にした。
そしてその8日前、7月16日にFAAが民間の合意規格を正式に受け入れています。これで製造者は、何をもって適合とするかが分かるようになりました。施行日の前に、道をつけておいたわけです。
2. 重さで決めるのを、やめた

【図2】
何が変わったのか、改めて並べます。
最大離陸重量600キログラムという制限が撤廃され、失速速度で区切る方式に変わりました。座席は2席から4席へ。引込脚も定速プロペラも使えるようになり、速度は250ノットまで。
そして、私がいちばん重いと思う変更がこれです。動力の数にも種類にも、制限がなくなりました。
電動も、ハイブリッドも、タービンも、この区分に入れるということです。
Vol.154で、世界初の型式証明を取得した電動機のことを書きました。区分のほうが、新しい動力に場所を空けたという形になります。
3. 待っていた人たちが、動いた
ここからが、6月の記事では書けなかった部分です。

【図3】
業界紙にこういう一文がありました。「一部の製造者は、規則が完全に施行されるのを待って、開発を止めていた」。
施行の直後に開かれた航空大会で、各社が一斉に発表しています。


スリング・エアクラフト、「スリング2M」(スリング・エアクラフト社HPより)
南アフリカのスリング・エアクラフトは、計器飛行に対応した「スリング2M」を8月から納入すると発表しました。双発機の認証も計画しているといいます。米国のテキサス・エアクラフトは、新しい規格に基づく「コルト」を半年以内に製造する見込み。有効搭載量が増えるそうです。
そしてテキストロン傘下のピピストレルが、新しい認証規則に合わせて設計した2席の訓練機「ボイジャー」を発表しました。Vol.154で扱った、世界初の型式証明を取得した電動機を作った会社です。ほかにイタリアのブラックシェイプ、英国のスカイフライなども新しい区分での機体を披露しています。
規則が変わってから3か月。もう機体が出てきている。
扉が開くのを、設計図を抱えて待っていた。
よくある誤解を一つ
「あの有名な小型機が軽量スポーツ機になった」という言い方を見かけるが、これは正確ではない。
既存の型式証明を持つ機体は、その証明の区分のままである。変わったのは、スポーツ操縦士の資格で飛ばせる範囲のほう。失速速度などの条件を満たせば、既存の機体も対象に入るというだけである。
そして同じ型式でも、年式や仕様によって該当するかどうかが変わる。判断の根拠は、その機体の飛行規程に載っている数値である。
4. 日本は、どこにいるのか

【図4】
では、日本はどうか。
2022年12月、航空局のサーキュラーが改訂され、米国または欧州の規格に適合する機体が飛べるようになりました。長く待たれていた一歩です。
ただし、これは「研究開発用航空機等の試験飛行等の許可」という枠組みの中での飛行です。航空機の区分として認められたわけではありません。
理由は、日本の航空法の構造にあります。機体を、国の型式証明を受けたものか、超軽量動力機か、という二つに分けて考えてきた。その中間にある区分を、想定していないのです。
米国では、民間の合意規格を国が認証の基準として受け入れることで、この区分を成立させました。7月16日に起きたのも、まさにその手続きです。
世界が次の版へ進むとき、日本はまだ入口にいます。
現場のパイロットとして
6月に書いたときは、正直なところ半信半疑でした。規則が変わっても、すぐに機体が出てくるとは限らないからです。認証には時間がかかり、投資の判断も要ります。
ところが3か月で、複数の会社が具体的な機体と納期を出してきました。つまり彼らは、規則ができるずっと前から準備していたのです。「待っていた」というより、「構えていた」という表現のほうが近い。
そしてここが、私には教訓でした。制度が変わってから動き出す者は、間に合わない。日本で2028年に何が始まるかは、もう分かっています。構えておくべき時期は、いまです。
結論
7月24日、米国で軽量スポーツ機の新しい枠組みが全面施行されました。重量による区切りが撤廃され、動力の種類にも制限がなくなりました。
そして3か月で、複数の製造者が新しい機体と納期を発表しています。彼らは規則ができる前から構えていました。
日本では、いまも研究開発用機の枠内での飛行許可にとどまります。制度が変わってから動き出す者は、間に合いません。
数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。
吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)
UPRT JAPAN 代表
エアラインパイロット(A320)
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)
出典・参考
- 米国連邦航空局 最終規則「Modernization of Special Airworthiness Certification」2025年7月24日公布(90 FR 35034)― 二段階の施行、重量制限の撤廃、失速速度による区分、座席数、引込脚と定速プロペラ、速度、動力の制限の撤廃。
Federal Register :: Request Access - Global Air「MOSAIC just moved from promise to certification framework」― 2026年7月16日のASTM規格の受け入れ、一部の製造者が施行を待って開発を止めていたこと。
https://www.globalair.com/articles/mosaic-just-moved-from-promise-to-certification-framework-/12515 - AOPA「Glimpsing the future of light sport」2026年10月 ― 施行後の航空大会における各社の発表。
https://www.aopa.org/news-and-media/all-news/2026/october/pilot/mosaic-glimpsing-the-future-of-light-sport
スリング・エアクラフト、テキサス・エアクラフト、テキストロン傘下のピピストレル、ブラックシェイプ、スカイフライの各社の発表内容はこの記事による。 - 国土交通省航空局 サーキュラー「研究開発用航空機等の試験飛行等の許可について」(2022年12月改訂)および日本航空機操縦士協会の解説資料。関連記事:遙かなる大空「空の軽自動車が、世界を変える」(2026年6月)、Vol.154「7人の会社が、国で最初に飛ばした」、Vol.160「足りないのは、熱意ではない」。
※ 本稿は2026年10月時点の公開情報に基づく。規則の内容は要点を抜き出したものであり、細部の条件は省いている。製造者名および機体名は、公表された発表および報道によるものである。図はいずれも筆者による整理である。
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