UPRT JAPAN INITIATIVE — VOL.13 / POST-EVENT REPORT
届かなかった、
LSA という言葉。
— HIEN の LSA 新事業、業界全体へ伝えるべき本質 —
Japan Drone 2026 セッション「無人航空機・AAM シームレスな制度の重要性」を受けて
執筆:UPRT JAPAN INITIATIVE 代表 吉川 哲也(現役エアラインパイロット)
公開日:2026年6月6日(Japan Drone 2026 閉幕翌日)
関連セッション:「無人航空機・AAM シームレスな制度の重要性」(白井 一弘氏・御法川 学氏・五十嵐 教授・又吉氏 登壇)
- 1. はじめに——閉幕翌日の朝、幕張からの帰り道で
- 2. 「LSA」とは何か——ドローン関係者にこそ知ってほしい
- 3. MOSAIC——アメリカが切り開いた「新しい規制思想」
- 4. HIEN Aero Technologies が提案する LSA 新事業
- 5. なぜ今、LSA 新事業なのか——日本が直面する5つの危機
- 6. ドローン関係者にとっての、HIEN LSA 新事業の意義
- 7. 「シームレスな制度」とは——白井氏・御法川先生が伝えたかったこと
- 9. 幕張で出会った、忘れがたい瞬間たち
- 10. UPRT JAPAN として——「届ける」ことの責任
- 11. 結びに——明日、もう一つの「届けるべきこと」を
- 参考資料
1. はじめに——閉幕翌日の朝、幕張からの帰り道で
2026年6月3日〜5日の3日間、Japan Drone 2026 が幕張メッセで開催されました。初日は台風6号の影響で午後開催となる厳しいスタート、2日目は天候が回復して多くの来場者で賑わい、最終日は会期を締めくくる活発な対話の場となりました。3日間を通じて、私は出展者・来場者・学識者・行政関係者の皆様と、貴重な対話を重ねることができました。
そして、閉幕翌日の本日土曜の朝。3日間の興奮と疲労が、まだ体に残っています。会場で交わした数えきれない会話、HIENブースで出会った熱心な来場者の方々、AIR WINGS 林様との未来を語り合う打ち合わせ——これらの記憶を整理しながら、私はひとつの「届けるべきこと」を書き留めておきたくて、このブログを書いています。
それは、会期中に開催された「無人航空機・AAM シームレスな制度の重要性」セッションでの議論について、です。
| 登壇者 | 所属・背景 |
|---|---|
| 白井 一弘 氏 | 日本エアモビリティ総合研究所 |
| 御法川 学 氏 | 法政大学 アーバンエアモビリティ研究所 |
| 五十嵐 教授 | 東京大学 |
| 又吉 氏 | JAXA(宇宙航空研究開発機構) |
このセッションでは、本ブログでも繰り返し論じてきた LSA(Light Sport Aircraft) と MOSAIC(FAA の認証ルール) が議題に上がりました。日本の航空業界の未来を考える上で、これ以上ない知の結集です。しかし——
正直に申し上げる。会場の傍聴者の多くが「ドローン関連の業界関係者」だったため、LSA や MOSAIC という言葉が、本当に伝わったかどうか、私には甚だ疑問がある。これは、登壇者の方々の責任ではない。むしろ、日本の航空業界全体が抱える「知の分断」という、構造的な課題の表れである。
本日のブログは、その「届かなかったかもしれない言葉」を、改めて分かりやすく業界全体に届けることを目的としています。特に、HIEN Aero Technologies が今回の Japan Drone 2026 で正式に提案した LSA 新事業 について、その本質と意義を、誰にでも分かる言葉でお伝えしたいと思います。
2. 「LSA」とは何か——ドローン関係者にこそ知ってほしい
まず、本ブログの読者の中にもまだ LSA(Light Sport Aircraft)という言葉を初めて目にされる方がいらっしゃるかもしれません。特に、ドローン・UAV を本業とされている方々にとっては、馴染みが薄い領域かもしれません。簡潔に整理させてください。
| 項目 | LSAの定義 |
|---|---|
| 何か | 軽量スポーツ航空機(最大離陸重量約600kg) |
| 用途 | 操縦訓練、航空スポーツ、地域モビリティ、観光遊覧 |
| 特性 | 短い滑走路で運用可、燃費・整備コスト低、初期訓練に最適 |
| 認証の基本思想 | 性能基準型(Performance-based)—— 細かい仕様より「性能を満たすか」で評価 |
| 未来との接続 | 電動化・eVTOL・自律飛行など、次世代技術との親和性が極めて高い |
なぜ、ドローン関係者にも LSA が重要か
ここが、本日のブログで最もお伝えしたいポイントです。ドローン業界の方々がいま懸命に取り組まれている 「無人機」 の世界と、LSA という 「軽量有人機」 の世界は、見た目こそ違いますが、根っこのところでは同じ問題に直面しています。
ドローンも、LSA も、そして将来のeVTOL(空飛ぶクルマ)も——「従来の大型有人機の規制ルールでは収まらない、新しい飛行体」であるという点で共通しています。仕様を細かく決めて、その通りに作らせる「仕様規定型」の規制では、もはや新しい技術に追いつけない。だから、世界は今、「性能基準型」へと舵を切っているのです。
つまり、LSA は「次世代航空機の規制設計の最前線」であり、その制度をドローン・eVTOL・AAM の世界が借りる——これが、御法川学教授がご講演でずっと提唱されてきた「スケーラブルな開発プロセス」の核心です。LSA は、ドローン関係者にこそ深く知ってもらうべき領域なのです。
3. MOSAIC——アメリカが切り開いた「新しい規制思想」
次に MOSAIC(Modernization of Special Airworthiness Certification)について、これも分かりやすく整理します。これは、米国 FAA が 2025年に正式に最終ルール公布、2026年7月にPhase 2 が施行される、LSA の新しい認証枠組みです。
| 項目 | 旧LSA(2004年〜) | 新MOSAIC LSA(2026年〜) |
|---|---|---|
| 重量上限 | 1,320ポンド(約600kg) | 廃止(性能基準型へ) |
| 座席数 | 2座席以下 | 4座席まで解禁 |
| 推進方式 | 基本的にレシプロエンジン | 電動・ハイブリッド対応 |
| eVTOL包含 | 想定外 | 明示的に包含 |
| 認証の判断 | FAAが審査 | メーカーが性能を自己宣言 |
ここが、ドローン関係者にとっても重要
MOSAIC の真の革命は、「メーカーが性能基準を満たすことを自己宣言すれば、商業飛行が可能になる」という認証思想にあります。これは——ドローンの認証で世界が長らく悩んできた「無人機にどう型式証明を出すか」という問題に対する、ひとつの解答なのです。
セッションで登壇された白井氏・御法川先生・五十嵐教授・又吉氏が「LSA と MOSAIC は、ドローンや AAM の制度設計のヒントになる」と訴えていたのは、まさにこの点です。「シームレスな制度」とは、LSA で築かれた性能基準型の思想を、ドローン・AAM の領域にもシームレスに拡張するという発想なのです。
4. HIEN Aero Technologies が提案する LSA 新事業
ここからが、本日のブログの本題です。Japan Drone 2026 の HIEN ブースでは、本ブログ Vol.2「日本のパイロット養成に革命を」で論じた構想が、具体的な事業提案として正式に発表されました。その全体像を、改めて整理しお伝えします。
HIEN LSA 新事業の3本柱
世界水準 LSA 機種の日本導入
チェコ共和国から、2機の世界水準 LSA を導入:
① Orlican M-8 EAGLE(1935年創業、カーボン複合材高翼機、Rotax 912UL、未舗装路対応)
② BRM Aero Bristell B23(2009年創業、全金属低翼機、Rotax 912 S3、FAA Part 23 認証取得(2025年9月)、BRS パラシュート標準装備)
AAA コンセプトの実装
AI × AR × AAM を統合した、次世代型の訓練体系:
・AI:訓練生のデータ解析・個別最適学習
・AR:拡張現実で実機の上にシナリオを重ね合わせ
・AAM:次世代エアモビリティ時代を見据えたスキル教育
産学官の積極的な連携
大学・研究機関・行政・企業との実装連携。法政大学(御法川学教授)、JAXA(又吉氏)、東京大学(五十嵐教授)など、学術機関とのシームレスな知の橋渡し。地方拠点(ニセコ等)との接続も視野に。
5. なぜ今、LSA 新事業なのか——日本が直面する5つの危機
HIEN の LSA 新事業は、単なる機体販売ではありません。日本のパイロット養成・訓練文化が直面する複合的な危機への、構造的な回答です。本ブログでも複数回論じてきた論点を、ここに統合して整理します。
| 日本が直面する危機 | HIEN LSA 新事業の応答 |
|---|---|
| 2030年問題(パイロット5,000人不足) | LSA の劇的なコスト低減で訓練生を増やせる構造を作る |
| フライトスクールの経営難 | Bristell B23 で従来訓練機比 35%の運航コスト削減 |
| 機材高齢化(Cessna 172 等は40年前の設計) | 現代の安全装備(BRS・グラスコックピット等)を標準搭載 |
| 2027年 eVTOL 商用化に向けた人材不足 | LSA 訓練を AAM パイロット育成の基盤に位置づけ |
| 地方空港・場外離着陸場の活用低迷 | Orlican M-8 EAGLE で未舗装路を含む地方拠点を活性化 |
つまり、HIEN の LSA 新事業は、単独の機体導入ではなく、日本の航空業界全体が抱える5つの危機に同時に応答する、戦略的な事業なのです。これが、Japan Drone 2026 のセッションで「無人航空機・AAM・LSA のシームレスな制度」が議論された本当の意味です。
6. ドローン関係者にとっての、HIEN LSA 新事業の意義
ここで、本ブログ最大の問いに戻ります。ドローン業界の方々にとって、HIEN の LSA 新事業は、どのような意義を持つのか。3つの視点で整理します。
規制制度の「先輩」として参考になる
MOSAIC で確立された「メーカーが性能基準を自己宣言する」モデルは、今後、ドローン・eVTOL の認証制度設計に直接的な参考事例となります。「LSA がどう運用されているか」を理解することは、ドローン業界の制度設計を考える上で、極めて有益です。
「有人 ⇔ 無人」の人材橋渡し役
将来の eVTOL(空飛ぶクルマ)は、有人モビリティです。ドローン業界で培われた無人機運航ノウハウを持つ方々が、LSA を通じて有人機操縦を学べば——無人と有人の両方を理解する、世界でも稀有な人材になります。AAM 時代に最も価値ある人材像です。
事業領域拡大の「次の一手」
ドローン物流・点検事業者が、LSA や eVTOL に事業領域を拡張するとき、HIEN の機体・訓練プログラムは強力な選択肢となります。AIR WINGS のような佐渡実績のあるドローン事業者が、北海道・ニセコで HIEN の LSA を活用して観光ツアー事業に展開する——これは、現実的な事業拡大の一例です。
7. 「シームレスな制度」とは——白井氏・御法川先生が伝えたかったこと
セッションタイトルだった「無人航空機・AAM のシームレスな制度」。この「シームレス」という言葉には、極めて深い意味があります。私の理解する範囲で、それを補足して整理させてください。
| 「シームレス」の意味 | 具体的に何が起きるか |
|---|---|
| 機体スケールの連続性 | 25kg ドローン → 150kg LSA → 600kg eVTOL → 1,000kg AAM、認証ロジックが一貫 |
| 有人と無人の連続性 | 無人機の知見が有人機制度に、有人機の安全文化が無人機運航にフィードバック |
| 技術と制度の連続性 | 技術進化を待つ制度ではなく、技術と並走する制度設計(性能基準型) |
| 学術と実装の連続性 | 大学・研究機関の知見と、企業・運航事業者の現場が、シームレスに連携 |
| 日米欧の連続性 | FAA・EASA・JCAB の制度が、相互参照可能な形で発展 |
つまり、「シームレス」とは単なる技術用語ではなく、「あらゆる壁を越える発想で、空モビリティの未来を設計する」という思想宣言なのです。LSA は、その思想を最も体現する具体例なのです。
9. 幕張で出会った、忘れがたい瞬間たち
会期3日間を通じて、私自身が会場で経験した「忘れがたい瞬間」を、いくつか皆様にお伝えしておきたいと思います。これらは、本ブログの論点が決して机上の空論ではなく、現場で確実に動き始めている現実であることを示しています。
HIEN ブースで出会った来場者の方々
HIEN Aero Technologies のブースには、3日間を通じて多くの来場者が訪れました。LSA の実機モデル写真、Orlican M-8 EAGLE と Bristell B23 の詳細パンフレット、AAA コンセプト(AI×AR×AAM)の説明資料——これらに、ドローン業界の方々、学生、研究者、行政関係者、そして本ブログの読者の方々が、熱心に耳を傾けてくださいました。
特に印象に残ったのは、「ドローン業界で長年やってきたが、LSA の存在は今日初めて知った」というドローン事業者の方の言葉です。本ブログ第2章で論じた「知の分断」が、まさに会場で確認できた瞬間でした。同時に、その方が「Bristell B23 の FAA Part 23 認証、これは大きい。我々の事業の次の展開を考える材料になる」と語ってくださったことに、深く励まされました。
AIR WINGS 林様との、未来を語る時間
2日目には、佐渡島ドローン物流で実績を持つ AIR WINGS の林様と、対話の時間を持つことができました。新潟拠点の AIR WINGS と、HIEN Aero Technologies の機体・LSA、そして UPRT JAPAN INITIATIVE の訓練文化——この三者が「ニセコ」という具体的な舞台で連携する可能性について、率直な意見交換ができました。
林様は、現役の航空業界・ドローン業界の課題を深く理解されている方で、対話を通じて「日本の空モビリティを、次世代へ繋ぐ責任」を共有していることを強く感じました。佐渡島・ニセコ・新潟・北海道——これらの地名が、今後の本ブログでもキーワードとして登場することになります。
御法川先生・白井氏らとの再会
初日のセッション後、登壇された御法川 学 教授、白井 一弘 氏とも、会場で短い時間ながら直接お話しすることができました。「LSA という言葉が傍聴者に届いているか心配」というご懸念を、お二人とも率直に共有されていました。そして、その懸念を「業界横断で言語の壁を越える努力」に変えていく、という共通の覚悟を確認できました。
本記事は、その覚悟への、ささやかな応答の一つです。
10. UPRT JAPAN として——「届ける」ことの責任
ここまで論じてきて、改めて思います。Japan Drone 2026 のセッションで、白井氏・御法川先生・五十嵐教授・又吉氏という、日本の航空知の最前線の方々が語られた内容を、業界全体に届けることは、私自身も含めた業界関係者の責任です。
学術と実装、有人と無人、機体と訓練、規制と現場——日本の航空業界には、「専門領域ごとの言語の壁」がある。LSA という言葉、MOSAIC という言葉、UPRT という言葉——これらは、その言葉を知る人にとっては当たり前だが、隣の領域の人には届かない。この壁を越えること自体が、「シームレスな業界」への第一歩である。
本ブログ UPRT JAPAN INITIATIVE は、この壁を越えるための、ひとつの試みです。現役エアラインパイロットとして、有人機の世界を生きながら、ドローン・LSA・eVTOL・AAM の世界を見渡し、それらを繋ぐ言葉を、業界に向けて発信し続ける——これが、私の使命だと信じています。
11. 結びに——明日、もう一つの「届けるべきこと」を
Japan Drone 2026 は閉幕しましたが、本展示会で発信されたメッセージが日本の航空業界に届くのは、これからです。本ブログでも、引き続きHIEN の LSA 新事業の進捗、御法川先生らが提唱する「シームレスな制度」の具体化、AIR WINGS との三者連携によるニセコ実装構想、そして2027年商用 eVTOL への準備を、丁寧に追いかけていきます。
届かなかった言葉を、
もう一度、業界全体に届けたい。LSA は、ドローン関係者にこそ知ってほしい。
MOSAIC は、AAM 設計者にこそ深く読み込んでほしい。
そして、有人機パイロットも、ドローン業界の進化から、
学ぶべきことがたくさんある。
そして、Japan Drone 2026 で目撃したことの中には、本記事で扱った「知の分断」とは別の、もう一つの重要な業界の方向性がありました。それは、世界各国からの多様な出展・来場、そして「民生」と「公共安全」「防災」の境界線が薄れていく時代の風です。
明日のブログ Vol.14「空の境界線が、薄れていく」 では、その方向性について、現役エアラインパイロットとして、慎重に、しかし率直に書きたいと思います。シリーズ第14作にして、Japan Drone 2026 を巡る一連の論考の結びとなる記事です。お楽しみに。
2026年6月6日(土)
Japan Drone 2026 閉幕翌日の朝に
UPRT JAPAN INITIATIVE 代表 吉川 哲也
参考資料
📚 セッション・登壇者関連
- Japan Drone 2026 国際コンファレンス「無人航空機・AAM シームレスな制度の重要性」
- 白井 一弘 氏(日本エアモビリティ総合研究所)
- 御法川 学 教授(法政大学 アーバンエアモビリティ研究所)
- 東京大学 五十嵐 教授
- JAXA(宇宙航空研究開発機構) 又吉 氏
📖 関連企業・LSA 機種情報
- HIEN Aero Technologies 株式会社 新規事業開発部
- Orličan Ltd.(チェコ):M-8 EAGLE 製造
- BRM AERO(チェコ):Bristell B23 製造、FAA Part 23 認証取得(2025年9月10日)
- FAA「Modernization of Special Airworthiness Certification (MOSAIC) Final Rule」
📰 UPRT JAPAN INITIATIVE 関連シリーズ
- Vol.2:日本のパイロット養成に革命を — HIEN が提案する新訓練の姿
- Vol.8:2027年、空が変わる — 日本のAAMロードマップ改訂
- Vol.11:幕張、開幕。— Japan Drone 2026 初日レポート
- Vol.13:届かなかった、LSA という言葉。(本記事)
- Vol.14(明日公開予定):空の境界線が、薄れていく — デュアルユース時代の業界の方向性
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