国が、LOC-Iを名指ししたー実機UPRTの義務化が始まる

UPRT


遙かなる大空 VOL.152

国が、LOC-Iを名指しした

航空安全実施計画が特定した、リスクの高い5つの事項
そして計画が終わる年に、実機UPRTの義務化が始まる。

この記事の要点(約8分)

  • 2026年4月、航空安全プログラムが通達から大臣告示に格上げされた。目標は死亡事故と全損事故のゼロ。
  • 新たに策定された実施計画が、リスクの高い5つの事項の一つとしてLOC-Iを特定した。
  • 計画の期間は2026年4月から2028年。終わる年に、実機UPRTの義務化が始まる。

皆さんこんにちは。前回、国の年次報告を読んで907件の内訳を書きました。そのとき、こういう記述が気になっていました。

日本の航空事故発生率は、令和2年度以降、上昇傾向にある。

では、国はこれに対して何をしているのか。調べてみたら、今年4月に大きな動きがありました。そして、その中身に私は少し驚きました。

1. 通達から、大臣告示へ

【図1】

2026年4月1日、航空安全プログラムが改正されました。日本の航空安全管理の体制と機能のあり方を定めた文書で、2013年10月に第一版が作られています。

今回の改正で、大きな変化が二つありました。

一つは形式です。これまで通達だったものが、大臣告示に格上げされました。国土交通省告示第1102号。航空安全に関わる根幹の文書であることを、形の上でも示したということです。

もう一つは中身です。ICAOの第19附属書が改訂され、2026年11月から適用される見込みであることに対応しました。主な追記は三つ。国全体で対応すべき危険要因の特定とリスク評価を明記したこと。監査を一律に行うのではなく、懸念の高い分野に重点を置く「リスクベース監視」を実施すると書いたこと。そして収集した安全情報に国際標準の分類法を用いると定めたことです。

そして安全目標が明記されています。定期便の死亡事故と全損事故の発生率をゼロにする。その他の指標は、15年で50%削減する。

2. 国が名指しした、5つの事項

ここからが、私が驚いた部分です。

同じ日に、航空安全実施計画という文書が新たに策定されました。これまで日本になかったものです。安全プログラムが目標を定めるのに対し、実施計画は「その目標を達成するために、何年かけて何をするか」を具体的に書きます。ICAOの世界航空安全計画に対応する、各国版の行動計画です。

【図2】

この計画が特定した「リスクの高い事項」が5つ。

滑走路誤進入、滑走路逸脱、制御飛行中の地表への衝突、飛行中の制御不能、そして空中衝突。

LOC-Iが、国の計画に名前を持って載りました。

さらに、その他の運航上の課題として3つ。乱気流遭遇(搭乗者の死傷事案に限る)、離着陸時の滑走路への異常な接触、エンジン以外の航空機システム等の故障または誤作動。

LOC-Iは、もはや一部の専門家が訴える話ではない。国が3年かけて取り組むと決めた、5つのうちの一つである。

3. 書いてきたことと、重なっていた

【図3】

この一覧を見たとき、正直に言えば、少し不思議な気持ちになりました。

飛行中の制御不能は、Vol.130とVol.131とVol.142で書きました。滑走路逸脱はVol.147とVol.148。離着陸時の異常な接触はVol.148。乱気流遭遇はVol.139とVol.150。滑走路誤進入はVol.148とVol.150。

国が特定した8つの課題のうち、6つをすでに扱っていました。

これは自慢ではありません。むしろ当然のことです。どちらも同じ公開データを見ているからです。運輸安全委員会の報告書、国の年次報告、NTSBの統計。事故の記録を数えれば、同じところに行き着きます。

このブログの標語は「数字は嘘をつかない」です。国も、同じ数字を見ていたということです。

この記事の限界

本稿は公表された概要資料に基づくものであり、計画の全文を精読したものではない。各課題に対する具体的な取組は付録に記されており、本稿はその中身に立ち入っていない。

また、課題が特定されたことと、対策が十分であることは別である。計画は3年ごとに見直されるとされており、評価はこれからである。

そして筆者は実機によるUPRTの事業化を構想する立場にあり、中立ではない。LOC-Iが国の課題に挙げられたことを、自分に都合よく読んでいる可能性を自覚している。

4. 期間が、重なっている

【図4】

最後に、日付の話をします。

航空安全実施計画の期間は、2026年4月から2028年まで。およそ3年間です。

そしてUPRT通達の適用開始は、2028年4月1日。事業用操縦士と操縦教育証明の取得に、実機による訓練の経歴が必要になります。

計画が終わる年に、通達が始まります。

これが意図された配置なのかは分かりません。ですが結果として、LOC-Iへの取組を3年かけて進め、その先に実機訓練の義務化が待っているという形になっています。

そして——実機でUPRTを提供できる事業者は、いまも国内に存在しません。

課題は特定されました。あとは、誰がやるのかです。

現場のパイロットとして

この連載を始めたころ、UPRTという言葉を知っている人は、周りにほとんどいませんでした。説明するたびに、最初の3分を用語の解説に使っていました。

それが2025年11月に通達ができ、2026年4月に国の計画でLOC-Iが名指しされました。1年足らずで、説明が要らなくなりつつあります。

ただ、安心はしていません。名指しされたということは、見られているということです。3年後に「取り組んだが変わらなかった」という評価が出る可能性もあります。計画に載ることと、現場が変わることは違います。来月、私はその現場を見に行きます。

結論

2026年4月、航空安全プログラムが通達から大臣告示に格上げされました。安全目標は、定期便の死亡事故と全損事故をゼロにすること。

同時に策定された航空安全実施計画は、リスクの高い事項5つの一つとして、飛行中の制御不能を名指ししました。

計画の期間は2026年4月から2028年。終わる年に、実機UPRTの義務化が始まります。課題は特定されました。あとは、誰がやるのかです。

数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。

吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)

UPRT JAPAN 代表
エアラインパイロット(A320)
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)

出典・参考

※ 本稿は2026年10月時点の公開情報に基づく。公表された概要資料に基づくものであり、計画の全文を精読したものではない。筆者は実機UPRTの事業化を構想する立場にあり、中立ではない。図はいずれも筆者による整理である。

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