九日後に、事故になったーバードストライク 毎日、どこかで起こっている

安全・事故


遙かなる大空 VOL.141

九日後に、事故になった

バードストライク ― 毎日四回、どこかでぶつかっている
そのほとんどは、誰にも知られないまま終わる。

この記事の要点(約8分)

  • 3月13日の日本航空158便は安全に着陸したが、損傷が「大修理を要する」と判明した九日後に航空事故となった。
  • 日本の鳥衝突は年間1,400〜1,900件、一日あたり約4回。2025年は羽田が152件で最多、最も多い鳥はツバメだった。
  • バードパトロールで衝突率は半減するが、ゼロにする決め手はない。

皆さんこんにちは。今日は、私自身が長いあいだ深く考えずにいた話を書きます。鳥のことです。

今年3月13日、日本航空158便。三沢を出て羽田へ向かう便が、離陸上昇中に鳥と衝突しました。

計器にも客室にも異常はなく、乗員は飛行を続けます。そして羽田に安全に着陸しました。誰も怪我をしていません。乗っていた方の多くは、鳥にぶつかったことにすら気づかなかったかもしれません。

この飛行が「航空事故」になったのは、九日後のことです。

1. 九日後に、事故になった

【図1】

到着後の機体点検で、機首部に損傷が見つかりました。そして修理を進める過程で、その損傷が「大修理を要するもの」であることが確認されます。

3月22日、国土交通省航空局はこれを航空事故として認定しました。

ここに、私たちが普段あまり意識しない線引きがあります。航空事故かどうかを決めるのは、その場の劇的さではありません。人が重傷を負ったか、機体がどれだけ壊れたか。それだけです。

158便は、その場では何事もなく終わった飛行でした。事故になったのは、機体を開けて中を見たあとです。

2. 毎日、四回ぶつかっている

では、鳥との衝突はどれくらい起きているのか。

【図2】

国土交通省の鳥衝突防止対策検討委員会の資料によれば、日本国内の空港での鳥衝突は年間おおむね1,400件から1,900件。ここ数年は1,400件台から1,600件前後で推移しています。

割り算をすると、一日あたりおよそ4回。日本のどこかの空港で、毎日四回、飛行機と鳥がぶつかっている計算になります。

これに加えて、ぶつからなかったニアミスが年に数百件報告されています。

2025年の速報値では、羽田が152件で最多、次いで那覇が110件。そして最も多くぶつかった鳥は、意外なことにツバメでした。大型の水鳥ではなく、小さな鳥がいちばん多い。

そして——そのほとんどは、何も起きずに終わっています。

毎日四回ぶつかって、ほとんどは誰も知らないまま終わる。

3. 追い払うという、地道な仕事

空港では何をしているのか。調べてみると、想像よりずっと泥臭い作業でした。

【図3】

バードパトロールと呼ばれる方式があります。国が管理する空港では1982年から行われており、車で滑走路の周りを巡回し、空砲や爆竹を鳴らし、鳥が苦しむときの鳴き声を流し、訓練した犬で追い立てる。

地味な仕事です。ですが数字は出ています。実施している空港の衝突率は、実施していない空港のおよそ半分。

新しい取り組みもあります。中部国際空港はAIを活用した対策で、主要な拠点空港のなかで最も低い衝突率を保っています。熊本空港などでは、滑走路周辺の緑地を人工芝にする検討が進んでいます。鳥のえさになる昆虫を寄せつけないためです。

それでも、ゼロにはなりません。未然に防ぐ決め手は、いまのところ存在しないというのが現状です。

当たり前といえば当たり前で、空港の外に広がる空は、もともと鳥のものです。

この記事の限界

3月13日の事案は調査中であり、本稿は原因について何も述べない。公表された事実のみを扱っている。筆者は所属する会社の内部情報について一切述べない。

件数は報告されたものの集計であり、実際に起きた回数ではない。小さな鳥との接触は、気づかれないまま終わることもある。年ごとの増減には、運航回数の変動や報告の徹底度も影響する。

2024年末に韓国で起きた事故については、直前に鳥衝突があったことが判明しているものの、事故の原因は調査中である。鳥衝突が原因だと述べるものではない。

4. 千五百分の一の、向こう側

年に千数百回。そのほとんどは何も起きません。ですが、同じ一つの現象が、まったく違う結末になることがあります。

【図4】

多くは、機体に傷もつかずに終わる。ときに損傷が生じて修理が必要になる。まれに、158便のように大修理を要する損傷となり、航空事故になります。

そしてきわめてまれに、両方のエンジンが止まる。2009年1月のニューヨーク、ハドソン川への着水がその例です。2024年末に韓国で起きた事故でも、直前に鳥衝突があったことが判明しています。ただし原因は調査中で、確定した事実ではありません。

何がこの違いを生むのか。鳥の大きさと、当たった場所と、そのときの高度です。機首に当たれば機体が壊れ、エンジンに入れば推力を失う。離陸直後であれば、対処する高度がない。

つまり、結末を分けているのは対処の巧拙よりも、運の要素が大きい。これは認めておくべきことだと思います。

現場のパイロットとして

正直に書くと、鳥は日常の一部です。離陸前に「バードアクティビティあり」と言われることは珍しくありませんし、実際に当たったこともあります。そのたびに点検を依頼し、問題がなければ次の便へ向かう。

158便の記事を読んで、少し背筋が伸びました。私が「問題なし」として飛んだ回の中に、開けてみれば違った結果になっていたものが、なかったとは言い切れません。

そして今日いちばん考えたのは、空港で毎日車を走らせている人たちのことです。空砲を鳴らし、犬を連れて、鳥を追い払う。その仕事の成果は「何も起きなかった」という形でしか現れません。誰にも数えられない仕事です。

結論

日本の空港では、毎日およそ四回、飛行機と鳥がぶつかっています。そのほとんどは、誰にも知られないまま終わります。

3月の158便は、その場では何事もなく着陸しました。事故になったのは、機体を開けて損傷の程度が分かった九日後です。

結末を分けているのは、鳥の大きさと当たった場所と、そのときの高度。何も起きなかった千数百回の上に、私たちは飛んでいます。

数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。

吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)

エアラインパイロット(A320)
UPRT JAPAN 代表
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)

出典・参考

※ 本稿は2026年9月時点の公開情報に基づく。3月13日の事案は調査中であり、原因については何も述べない。件数は報告されたものの集計である。図はいずれも筆者による整理である。

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