「夢じゃないですか」では足りない——LSAが日本の航空産業を本当に変えるために必要なこと

LSA 軽スポーツ航空機

「飛行機作れるって、なんか夢じゃないですか。いい夢見れますよね」

2025年10月、堀江貴文氏がトキエアの取締役に就任した際のコメントです。

LSA(軽スポーツ機)開発への参入も発表されました。

私はこのニュースを、複雑な気持ちで読みました。

嬉しかった。でも、同時に心配にもなった。

今回は、LSAが日本にとってなぜ「ゲームチェンジャー」なのか。そして「夢だから」だけでは足りない理由を、40年間空を飛んできた私なりに話させてください。

ホリエモンが「夢」と言ったLSA——40年間飛び続けた私が「夢だけでは足りない」と言う理由

## LSAとは——「飛行機の民主化」

改めて整理します。

LSA(Light Sport Aircraft=軽スポーツ機)は、2004年にアメリカが生み出した航空機カテゴリーです。

「もっと多くの人が、もっと安く空を飛べるようにする」

これが根本の思想です。

従来の小型機に比べて、機体が軽く、取得資格の条件が緩和され、訓練コストが大幅に下がります。

アメリカでは導入後にフライトスクールが急増し、パイロット人口が増えました。ヨーロッパではチェコ、オーストリアを中心に世界水準のLSAメーカーが育ちました。

そしてお隣の韓国では、空軍がチェコ製LSAを初等練習機として正式採用しました。

軍のパイロット育成コストを下げながら、最初からデジタル計器(グラスコックピット)に慣れさせる。合理的な選択です。

では、日本の航空自衛隊や海上自衛隊は?

海外製の高価な練習機を選定し続けています。国産開発は予算的に難しく、かといって低コストのLSAという発想にはなかなかたどり着かない。

海上保安庁の訓練機(セスナ172)が老朽化したとき、私はLSAを候補として提案したことがあります。でも個人からの提案など、受け付けてもらえる状況ではありませんでした。

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## 日本ではLSAとして登録できない——根本的な問題

ここで、日本特有の致命的な問題があります。

日本では、LSAを「軽スポーツ機」として登録できる法的枠組みが存在しません。

機体は輸入できます。でも、航空法上の「カテゴリー」がないのです。

「超軽量動力機(マイクロライト)」として扱うか、通常の小型機として高コストな型式証明を取るか。どちらかしかない。

法政大学の御法川先生がチェコ企業からLSAのオファーを受けても、この法の壁で前に進めない現実があります。

アメリカが2004年に制度を整備し、韓国軍が今年もLSAで訓練している。日本はいまだスタートラインにも立っていません。

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## MOSAICという「さらに大きな革命」

そこにきて、2025年夏。アメリカでMOSAICが正式に発効しました。

MOSAIC(Modernization of Special Airworthiness Certification)——LSAの定義を根本から作り直した大改革です。

これまでのLSAは「最大離陸重量600kg以下」という制約がありました。

MOSAICはこの重量制限を撤廃。代わりに失速速度を基準にしたことで、事実上1,400kgクラスまでの機体がLSAとして認定される可能性が開かれました。速度上限は250ノット(約460km/h)まで拡大。4座席、引込脚、電動・ハイブリッド推進もOK。一部の有償業務(農業、空撮、インフラ点検など)にも使えるようになります。

電動LSA、ハイブリッドeVTOLとの接続も視野に入ってきました。

「LSA 2.0」どころか、航空機の民主化が一段と加速したのです。

日本での認知は、ほぼゼロです。

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## ホリエモンとトキエアのLSA参入——期待と懸念

率直に言います。

トキエアとホリエモンがLSAに注目し、燕三条での製造開発を発表したことは歓迎です。話題になることで、LSAへの認知が広がります。

でも、私には懸念があります。

トキエア自身が経営的に厳しい状況の中で、LSA製造という全く異なる事業に手を出すことの現実的なリスク。そして「夢じゃないですか」という発言が示すように、まだ構想レベルを超えていない可能性。

LSAは「夢の乗り物」ではありません。

安全に飛ぶための、深い技術的・制度的基盤が必要です。

パイロットの育成、整備体制、法整備の推進、訓練機関との連携——これらがセットでなければ、機体だけ作っても「どこ吹く風」で終わります。

LSAが日本に根づくためには、作る人・飛ばす人・育てる人・制度を変える人が同時に動かなければならないのです。

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## LSAが日本のゲームチェンジャーになれる理由

それでも私は、LSAが日本の航空界を変えると信じています。

理由は3つあります。

第一に、パイロット不足の解消。

日本のパイロット育成コストは世界最高水準です。自費で免許を取ると1,000万円を超えることも珍しくない。これがパイロット人口の増加を妨げてきました。LSAを使った低コスト訓練が実現すれば、この構造を変えられます。

第二に、日本のものづくりの再生。

チェコ、オーストリア、スロベニアのような小国が、世界水準のLSAを作っています。燕三条の金属加工技術、日本の電子技術があれば、世界で通用する電動LSAを作れる可能性があります。LSAは「日本の製造業復活」の足がかりになり得ます。

第三に、地方創生との直結。

LSAを使ったフライトスクールは、全国の地方空港・飛行場を再活性化できます。観光フライト、農業利用、インフラ点検——地方に根ざした航空の仕事が生まれます。

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## 「先に動いて、後から法整備を引っ張る」

日本がMOSAICに追いつくのを待つのではなく、「先に動いて、後から法整備を引っ張る」——これが私の戦略です。

2027年、北海道・ニセコとたきかわを拠点に、日本初のUPRT×LSA専門訓練機関を作ります。

電動LSAを使った低コスト基礎訓練。アクロバット機を使った本格UPRT訓練。そして法政大学・御法川先生との産学連携による研究フィールド。

「夢だから」ではなく、「変えなければならないから」動きます。


MOSAIC 日本導入:利点と欠点の分析
観点 利点 欠点・課題
機体重量
制限撤廃
事実上1,400kgクラスまでLSA認定可。高性能機・電動機・ハイブリッド機が対象に入る。チェコ・欧州の最新機体をそのまま導入しやすい。 重量が上がると整備・保険コストが増加。「軽スポーツ」の名称と実態が乖離し、制度の目的が曖昧になるリスク。
速度上限
250ノットへ拡大
ビジネス利用・長距離移動に対応。地方間のポイントtoポイント移動手段として実用性が大幅向上。 高速機が増えると空域管理が複雑化。管制官・他機との交通分離の難易度が上がる。日本の過密な空域事情に対応できるか要検討。
パイロット特権
有償業務解禁
農業(農薬散布)、インフラ点検、空撮、観光フライトなどに使えるようになる。地方での「航空の仕事」が生まれる。パイロット不足の一部を補完できる。 「軽い資格で有償業務」という安全リスク。事故時の責任範囲の整理が必要。保険制度の整備が先決。
電動・ハイブリッド
推進OK
電動LSAが日本の法的枠組みに入れる。騒音が大幅に低減し、住宅地・観光地近くの飛行場での運用が現実的になる。eVTOLとの法的接続がスムーズになる。 電動機の整備資格・検査基準がまだ日本に存在しない。電動機特有の安全基準(バッテリー管理等)の整備に数年かかる。
資格要件
緩和
医療証明の要件が軽減。高齢パイロットや身体に制約のある人も飛べる可能性が広がる。訓練時間・コストが下がり、パイロット人口が増える。 資格が緩い分、訓練の質のばらつきが生じやすい。UPRT(異常姿勢訓練)のような安全教育が余計に重要になる(=UPRT Japanの存在意義が増す)。
日本固有の問題 LSAカテゴリーの法制化により、現在「グレーゾーン」にある超軽量機の整理が進む可能性。制度の明確化で保険・金融機関の対応も改善。 航空法改正が必要(国交省・JCAB)。業界団体・既存パイロット資格者の利害調整が複雑。法改正まで最低3〜5年は見る必要がある。「先に動いて後から引っ張る」戦略が有効な所以。
結論:MOSAICの日本導入は、利点が欠点を大きく上回る。特に電動推進解禁・地方での有償業務解禁は地方創生と直結する。ただし法整備には時間がかかるため、「制度が整うまで待つ」ではなく「先行事例を作り、行政に追わせる」戦略が現実的。UPRT Japanはその先行事例の核になり得る。
## 次回予告——UPRT Japan、始動

次回はいよいよ、UPRT Japan の具体的な構想と場所の話をします。

なぜニセコなのか。なぜ北海道なのか。誰と一緒に作るのか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

吉川 哲也

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