足りないのは、熱意ではない-日本で飛ぼうとする人たちへ

LSA 軽スポーツ航空機


遙かなる大空 VOL.160

足りないのは、熱意ではない

日本で飛ぼうとする人たちへ
人がいないのではない。続けられないのである。

この記事の要点(約8分)

  • 人口に占める操縦士の割合は、日本0.0053%に対し米国0.026%。およそ5倍の差がある。
  • 自家用の技能証明は累計1万件を超えるが、いま飛べる状態にあるのは2割程度。
  • 足りないのは熱意ではない。安い機体、近い飛行場、乗せてくれる人。その三つである。

皆さんこんにちは。今日は、いま日本で飛ぼうとしている方々に向けて書きます。

資格を取ろうと勉強している方。長く免許を持ちながら、しばらく飛べていない方。そしていつか自分で操縦してみたいと思いながら、どこから始めればよいか分からない方。

この連載では事故と数字を扱うことが多いのですが、本当は、そういう方々のために書いているはずでした。

今日は、日本で飛ぼうとすることの現状を、数字で見てみます。

1. 日本の空には、人が少ない

まず、現状の数字を並べます。

【図1】

国土交通省が示した国際比較によれば、人口に占める操縦士の割合は、日本が0.0053%、米国が0.026%。およそ5倍の開きがあります。

操縦士の総数で見ると、日本が約6,800人に対し、米国は約27万人。そして人口が日本の半分ほどのフランス、英国、ドイツが、いずれも1万5,000人から1万8,000人を抱えています。

人口が半分の国が、2倍以上の操縦士を持っている。

2. 免許はあっても、飛んでいない

もう一つ、重い数字があります。

【図2】

自家用操縦士(飛行機)の技能証明は、累計で11,342件。回転翼を加えれば16,068件、滑空機を含めれば2万件を超えます。

ところが、航空身体検査が有効で「いま飛べる状態」にある人は、2割程度と推計されています。

免許を取った人の8割が、いま飛んでいないのです。

理由は想像がつきます。機体が高い。飛べる場所が遠い。そして聞くところでは、耐空検査に100万円から200万円かかるという話もあります。

人がいないのではありません。続けられないのです。

免許を取ることより、飛び続けることのほうが難しい。

3. 先に進んだ国がしていること

では、なぜ米国には27万人もいるのか。

【図3】

Vol.151で書いたことですが、米国ではボランティアの操縦士が自分の機体で子どもを乗せる活動が30年以上続いています。1992年の開始以来、8歳から17歳の230万人以上が無料で空を飛びました。

国の制度ではありません。5万人を超える操縦士が、自分の機体と時間を出して続けてきたものです。

成り立つ条件は三つあります。入口が安いこと。飛べる場所が近いこと。そして、乗せる人がいること。

日本は、三つとも細い。

よく聞く意見があります。日本の行政は、新たな挑戦を「危険」「前例がない」と切り捨てている、と。

私は、少し違う見方をしています。熱意が足りないのではなく、器がないのだと思います。安い機体がない。近い飛行場が使えない。乗せてあげたくても、乗せる機体がない。志のある人が、どこにも入っていけない構造になっている。

この記事の限界

数値は公表時点のものであり、現在は変動している。国際比較の資料にはやや年数が経っているものも含まれる。「2割」は民間による推計であり、公式の統計ではない。

また本稿は、行政を批判するものではない。国土が狭く、空域が複雑で、人口密度が高い日本では、規制が慎重になる理由がある。安全を預かる立場の判断には、それなりの根拠がある。

耐空検査の費用については、関係者から聞いた範囲の数字であり、機体や整備の内容により大きく異なる。電動機の整備や効率に関する記述も、筆者が検証したものではない。

4. それでも、変わりうる三つ

【図4】

暗い話ばかりではありません。変わりうる要素は、いくつもあります。

一つ目は、電動という道です。整備の箇所が減り、静かで、燃料費が下がる。2020年に世界初の型式証明を取得した2座席の機体があり、それははじめから訓練機として設計されています。

二つ目は、静かさです。Vol.149で、札幌駅から6キロの空港が騒音への反対で84年動かなかったことを書きました。訓練機の場周飛行は、特に音が響きます。静かな機体なら、その前提が変わるかもしれません。

三つ目は、使われていない空港です。Vol.154で書いたとおり、隣の韓国では設立3年、従業員7名の会社が、遊休空港から電動機を飛ばしました。

どれも、誰かが最初にやらなければ始まりません。

現場のパイロットとして

この連載を書いていると、ときどき読んでくださった方から連絡をいただきます。資格を目指して勉強しているという方が、少なくありません。

私はいま、2028年の制度改正に向けて動いています。ですが正直に言えば、制度の話ばかりしていると、何のためにやっているのかを見失いそうになります。

この連載は、事故と数字を扱うことが多い。ですが本当は、飛びたいと思っている人がいて、その人が無事に飛び続けられるように、という話をしているはずでした。そういう連絡をいただくたびに、それを思い出します。

結論

人口に占める操縦士の割合は、日本が0.0053%、米国が0.026%。そして免許を取った人の8割が、いま飛んでいません。

足りないのは熱意ではありません。安い機体、近い飛行場、乗せてくれる人。この三つが細いのです。

それでも、電動という道があり、静かさという鍵があり、使われていない滑走路があります。そして何より、飛びたいと思っている人が、確かにいます。

数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。

吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)

UPRT JAPAN 代表
エアラインパイロット(A320)
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)

出典・参考

  • 国土交通省「技術・安全部会 乗員政策等検討合同小委員会」資料 ― 人口に占める操縦士の割合(日本0.0053%、米国0.026%)、操縦士総数の国際比較、訓練費用の比較。
    https://www.mlit.go.jp/common/001031191.pdf
  • 国土交通省航空局「航空従事者技能証明等 現在数一覧」― 自家用操縦士(飛行機)11,342件、同(回転翼)4,726件。日本滑空協会の統計 ― 滑空機の技能証明 累計7,486名。
  • 身体検査が有効な「現役」が2割程度であるという推計は、公開資料をもとにした民間の分析による。公式の統計ではない。
  • 関連記事:遙かなる大空 Vol.135「時間を買う側から、売る側へ」、Vol.149「冬になると、ジェットが消える空港」、Vol.151「機体は変わった。周りの余裕は変わっていない」、Vol.154「7人の会社が、国で最初に飛ばした」。

※ 本稿は2026年10月時点の公開情報に基づく。数値は公表時点のものであり現在は変動している。本稿は行政を批判するものではない。技術的な記述は筆者が検証したものではない。図はいずれも筆者による整理である。

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