実機が、義務になったーUPRT通達を読む

UPRT


遙かなる大空 VOL.130

実機が、義務になった

UPRT通達を読む ― 2028年4月1日から何が変わるのか
そして、国内に提供者は一社もいない。

この記事の要点(約8分)

  • 2025年11月27日、航空局がUPRT通達を制定した。2028年4月1日から、ATPL・CPL・MPL・操縦教育証明の取得に「実機によるUPRT」の経歴が必要になる。
  • 使用する機材は「航空運送事業機・二人運航機以外」、すなわち小型機と明記された。シミュレーターでは代替できない。
  • シミュレーター側には提供者がいる。実機側には、国内に一社もいない。残り18か月。

皆さんこんにちは。この連載でUPRTについて書き続けてきましたが、今日は制度が大きく動いた話をします。

2025年11月27日、国土交通省航空局安全部安全政策課長名で、一本の通達が出ました。「異常な姿勢の予防及び異常な姿勢からの回復を行う飛行に係る訓練について」(国空安政第1903号)。全16ページ。

省令第58号が定めた要件を、実務のレベルまで具体化した文書です。訓練内容、使用機材、教官の要件、そして経歴の確認方法。これまで曖昧だった部分が、一気に明文化されました。

私は読みながら、何度か手が止まりました。

1. 実機が、義務になった

【図1】

通達の6-1-1は、技能証明を受けるために必要なUPRTの経歴を定めています。

定期運送用操縦士および事業用操縦士は、学科訓練及び実機訓練によるUPRTの経歴。准定期運送用操縦士は、CoreフェーズまたはBasicフェーズにおける学科と実機、加えて型式の模擬飛行装置による経歴。

そして三つ目に、こう書かれています。操縦教育証明 ― 学科訓練及び実機訓練によるUPRTの経歴。

教える側も、実機を飛ばなければ資格が取れない。Vol.125で私は「その実機に誰が同乗するのか」と書きましたが、その教官自身が実機UPRTを経ていることが、制度上の前提になりました。

機材の指定も明確です。7-1-3にこうあります。「原則として航空運送事業に供する飛行機又は構造上その操縦のために二人を要する飛行機以外の飛行機により実施する」。

つまり小型機です。エアラインの機体でも、二人乗務の機体でもない。全姿勢の訓練ができる、小さな飛行機。

適用は2028年4月1日から。2028年3月31日までに技能証明を持っている人は従前のままで、対象は新たに取得する人です。

シミュレーターでは代替できない領域が、国の文書として明文化された。

2. 二つの世界に分けられた

通達の構造で、私が最も重要だと思うのはここです。UPRTが、はっきり二つに分けられました。

【図2】

7-2は模擬飛行装置等によるUPRT。対象は型式限定の取得と、航空運送事業者の定期訓練・任用訓練・型式移行訓練・昇格訓練・復帰訓練。失速を含む異常姿勢の回復訓練には、原則としてレベルC以上のシミュレーターを用いること。

7-1は実機によるUPRT。対象は技能証明そのものの取得です。ATPL、CPL、MPLのCore・Basicフェーズ、操縦教育証明、そして外国免許の切替。

この区分は、思想として筋が通っています。型式固有の挙動はシミュレーターで学ぶ。飛行機そのものの挙動は、飛行機で学ぶ。Vol.119で書いた第二層――身体が覚える部分――は、結果のある場所でしか育たないという考え方と一致します。

ただ、この二つの世界には、決定的な違いがあります。

シミュレーター側には、すでに提供者がいます。海外の専門企業が日本市場に入ってきています。オランダのIDT(International Development of Technology)はその代表格で、代表のSunjoo Advani博士はICAOのUPRT基準を作った委員会ICATEEの創設者です。50社以上の航空会社に提供実績があり、保険大手Starrの専属訓練プロバイダーでもあります。

経験も、実績も、国際的な信用もある。シミュレーター側は、有能な手に委ねられつつあります。

実機側には、誰もいません。私の知る限り、国内に一社もありません。

3. 個人の教官に、道が開かれた

ここで、通達の9章を読んでください。どういう場合に「適切なUPRTが実施された」と認められるのかを定めた部分です。

【図3】

一つ目は、航空大学校や指定養成施設の教育規程、航空運送事業者の運航規程に基づく場合。規程の審査と監査で確認されます。これは大組織の道です。

二つ目は、航空機使用事業者の運航基準や、大学等の訓練シラバスに基づく場合。ここには重要な一文があります。「当該訓練シラバスは事前に航空局へ提出し、本通達の要求を満足しているかどうかの確認を受けることができる」。

シラバスを、事前に当局へ持ち込める。確認済みのシラバスを使えば、証明書にその名称を書くだけでよい。プログラムそのものを、公的に認めてもらう道が制度に書かれています。

そして三つ目。私はここで、本当に手が止まりました。

操縦教育証明を有し、UPRT講習会を修了した教官によってUPRTが実施された場合、本通達の要求を満足しているものとして取り扱うことができる。(通達 9.(3))

8-4によれば、航空局はUPRT講習会を実施し、修了者にUPRT講習会受講者番号を発行します。対象は「操縦教育証明を有し、教官としてUPRTを実施する予定のある者」。

その教官が署名し、受講者番号を記した証明書を提出すれば、経歴として認められる。組織の指定も、養成施設の認定も要りません。

これは、日本の航空行政としてはかなり踏み込んだ設計だと思います。大組織でなくても、実機UPRTは提供できる。国が、そういう道を開いた。

この記事の限界

本稿は通達の条文を筆者が読んで整理したものであり、航空局の公式な解釈ではない。UPRT講習会の実施時期や回数、必要な機材の具体的な要件、実際の運用は、いずれも当局の判断による。実務で判断される際は、必ず原典と航空局への照会によること。

また筆者は、実機UPRTの事業化を構想している立場にある。その意味で、本稿は中立ではない。「提供者がいない」という記述も、そこに商機を見ている人間の言葉として読んでいただきたい。

IDTに関する記述は同社および業界誌の公開情報に基づく。特定の航空会社との取引内容については、筆者は何も述べない。

4. 残された時間

【図4】

2028年4月1日まで、およそ18か月です。

その間に、機材を揃え、教官を養成し、シラバスを作り、空域を確保し、保険をかけ、当局の確認を受ける。どれ一つとして、半年でできる仕事ではありません。

一方で、Vol.126で書いたとおり、日本の操縦課程には年間およそ250名の学生がいます。航空大学校が108名、そして私立大学6校。2028年4月以降にCPLを取る学生は全員、実機UPRTの経歴が必要になります。

間に合わなければ、どうなるか。その学生たちは資格を取れません。あるいは、全員が海外で受けることになります。通達9.(4)は、外国で実施されたUPRTも、本通達に適合している旨を記載した証明書があれば認めるとしています。

それも一つの解ではあります。ですが、4年間で2,800万円かかる学費に、さらに海外での実機UPRTが積み上がる。Vol.123で書いた構造が、また一段重くなります。

現場のパイロットとして

正直に書きます。私はこの通達を読んで、嬉しかったのではありません。少し怖くなりました。

何年も「実機のUPRTが必要だ」と書いてきました。国が同じことを制度にした。本来なら喜ぶところです。ですが制度ができても、それを実行する場が国内にない。主張していた側として、その空白をどう埋めるのかを問われる立場になりました。

11月にアリゾナでAPSの訓練を受けます。そして通達を読み直して気づきました。いま取ろうとしている操縦教育証明は、教えるための前提条件だと思っていましたが、制度上はそれ自体が実機UPRTを提供する資格でした。思っていたより、自分の足元は前に進んでいたようです。

結論

日本は、実機によるUPRTを制度として選びました。シミュレーターでは埋められない領域があると、国が認めたということです。これは大きな前進です。

そして通達は、大組織だけに道を開いたのではありません。操縦教育証明とUPRT講習会を持つ一人の教官にも、道を開きました。

残り18か月。制度はできました。次は、それを実行する側の番です。

数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。

吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)

エアラインパイロット(A320)
UPRT JAPAN 代表
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)

出典・参考

  • 国土交通省航空局安全部安全政策課長「異常な姿勢の予防及び異常な姿勢からの回復を行う飛行に係る訓練について」国空安政第1903号、令和7年11月27日制定 ― 定義、訓練課程の構成(5-3)、技能証明に必要な経歴(6-1-1)、実機による訓練(7-1)、模擬飛行装置等による訓練(7-2)、教官の要件(8-2)、UPRT講習会(8-4)、経歴の確認方法(9.)、附則。
  • 航空法施行規則の一部を改正する省令(令和7年国土交通省令第58号)/航空法施行規則 別表第二。
  • ICAO Doc 10011「Manual on Aeroplane Upset Prevention and Recovery Training」/ICAO Doc 9868。
  • Halldale Group「IDT Named Exclusive Provider for UPRT and Final Approach Training」2021年6月2日 ― IDT(オランダ・ブレダ)とStarr Consulting Servicesの専属契約、Dr. Sunjoo Advani。
    IDT Named Exclusive Provider for UPRT and Final Approach Training
    IDT Named Exclusive Provider for UPRT and Final Approach Training
  • International Development of Technology b.v. 公式情報 ― ICATEE(International Committee for Aviation Training in Extended Envelopes)の創設と英国王立航空協会の下での活動。
    Home - UPRT.aero
  • 関連記事:遙かなる大空 Vol.119「人を育てるということ」、Vol.123「問いは、いつのまにか裏返っていた」、Vol.125「その実機に、誰が同乗するのか」、Vol.126「誰が払うのかが、変わりつつある」。

※ 本稿は2026年9月時点の公開情報に基づく。通達の解釈は筆者によるものであり、航空局の公式見解ではない。筆者は実機UPRTの事業化を構想する立場にあり、本稿は中立ではない。図はいずれも筆者による整理である。

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