A380が、降りられる空港ー中部国際空港の立ち位置

飛行機


遙かなる大空 VOL.155

A380が、降りられる空港

中部国際空港 ― 設備は一級、路線は三級
目的地にしようとして、入口であることを忘れていないか。

この記事の要点(約8分)

  • 2026年4月、羽田が受けられなかったA380を中部が受けた。誘導路、駐機場、24時間運用の差である。
  • だが国際線の座席は2019年比78%。「大陸間路線の少ない地域空港」に分類されている。
  • 二本目の滑走路226億円は、増やすためではなく補修中に止めないためのものである。

皆さんこんにちは。前回は札幌の丘珠を扱いました。今日はもう一つ、考え込んでしまう空港の話をします。

中部国際空港、セントレア。2005年に開港し、今年で21年目です。

この空港を語るときの決定的な出来事が、今年の4月にありました。

1. 羽田ではなく、中部に降りた

【図1】

2026年4月16日、成田空港の滑走路が閉鎖されました。向かっていた便はそれぞれ別の空港へ向かいます。そのなかに、ANAのエアバスA380「フライング・ホヌ」がありました。

降りたのは、中部です。NH183便は乗客379名と乗員22名の計401名。中部で降機してもらい、地上交通に振り替えました。もう1便のNH181便は計246名を乗せたまま、中部から成田へ再出発しています。

なぜ羽田ではなかったのか。専門誌の見出しが、そのまま答えでした。「超大型機阻む日本最大空港の現実」。

A380は、走れる誘導路が限られます。駐機できる場所も限られる。そして羽田はもともと混んでいる。日本最大の空港が、受けられなかったのです。

一方の中部は、3,500メートルの滑走路、広い誘導路と駐機場、そして海上空港ゆえの24時間運用。2014年と2016年にはA380の定期便の受け入れ実績もあります。

国全体から見れば、中部は最後の受け皿である。

2. 箱は一級、路線は三級

ところが、です。

【図2】

航空データの分析会社が2024年にまとめた報告によれば、中部の国際線の提供座席は2019年比で78%にとどまっていました。国内線が91%まで戻っているのに対してです。

そして同社は、中部を「大陸間の路線が少なく、主に短距離と域内を中心に展開する地域空港」に分類しています。福岡、新千歳、那覇、ソウルの金浦などと同じ区分です。

設備は国際拠点の水準にある。中身が追いついていない。

弱点も明確です。空港島へ渡る陸路は、全長1,414メートルの道路橋と、1,076メートルの鉄道橋の二本きり。しかも道路橋は自動車専用で、歩行者も自転車も125cc以下の二輪も渡れません。

海の上に作った代償が、ここに出ています。

3. 増やすためではなく、止めないための226億円

いま、中部では二本目の滑走路の工事が進んでいます。ですがその理由を知ると、印象が変わります。

【図3】

代替滑走路、3,290メートル。現在のA誘導路を改修し、滑走路との間隔は210メートル。事業費は226億円で、2025年5月に着工しました。供用開始は2028年3月の予定です。

目的は、新しい需要への対応ではありません。開港から20年が経ち、滑走路の大規模補修が必要になったからです。

中部は、滑走路が1本しかありません。補修のあいだ、空港が止まってしまう。だから工事中も飛ばすための滑走路を、先に作る。

いまでも週に10時間ほどは整備に充てているそうです。代替滑走路ができて初めて、完全な24時間運用が実現します。

維持費も重いものがあります。滑走路1本あたり年間1億円。労務単価の上昇で1.25億円へ、25%増が見込まれています。そして将来構想として、埋立で約200ヘクタールを拡張し新滑走路を作る案があり、その事業費はおよそ2,000億円とされています。

この記事の限界

座席数の比較は2024年5月時点の分析であり、その後の回復は反映されていない。事業費と供用開始の時期も計画値である。

また、本稿は空港会社や自治体の経営判断を批判するものではない。提案として記した内容は筆者の私見であり、実現性や費用を検証したものではない。

空港島内の施設についても、個別の事業の成否を判定する材料を筆者は持っていない。本稿が扱うのは、施設の配置という考え方そのものである。

4. では、何を売るのか

【図4】

ここから先は、私の考えです。

一つ目は、乗り継ぎの空港として売ることです。トキエアが新潟と中部を結んでいます。1日2便、週7日。これは単なる地方路線ではありません。新潟や北陸から中部へ、そして中部から海外へ、という流れを作る試みです。

二つ目は、24時間を本気で使うことです。騒音の苦情が出ない空港は、日本では貴重です。深夜の貨物便、深夜に着く国際線。他の空港にはできない時間帯を、商品にする。代替滑走路ができれば、その条件が整います。

三つ目は、陸のアクセスです。橋の料金、鉄道の乗り入れ、夜間の高速バス。空港の外が、いまの最大の弱点です。深夜に着いても、そこから動けなければ意味がありません。

四つ目は、名乗りを変えることです。「名古屋の空港」ではなく、中部・北陸・京阪神へ向かう入口として売る。京都へは新幹線を使って1時間41分。関空からの80分ほどには及びませんが、勝負にならない差ではありません。

そして、こう思うのです。空港の中に客を留める施設を作るより、空港の外へ出る道を整えるほうが効く。

現場のパイロットとして

操縦する側から見れば、中部は気持ちのいい空港です。海の上で、進入の障害物が少なく、誘導路が広い。混んでいない。深夜でも降りられる。

4月のA380の件は、象徴的でした。日本最大の空港が受けられない機体を、中部は受けた。設備として、それだけのものを持っています。

ですが、使われていないものは、いずれ削られます。維持費は毎年かかり、補修には226億円かかる。設備があることと、それが活かされることは別です。前回の丘珠とは、まったく逆の形で同じ問題が出ていると思いました。

結論

今年4月、日本最大の空港が受けられなかったA380を、中部が受けました。海上空港の広さと、24時間運用があったからです。

ところが国際線の座席は2019年比で78%。設備は国際拠点の水準にあり、中身が追いついていません。そして補修に226億円、維持に年1.25億円がかかります。

売るべきものは、乗り継ぎと、深夜と、陸の足です。目的地にしようとして、入口であることを忘れていないでしょうか。

数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。

吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)

UPRT JAPAN 代表
エアラインパイロット(A320)
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)

出典・参考

※ 本稿は2026年10月時点の公開情報に基づく。座席数の比較は2024年5月時点の分析である。提案として記した内容は筆者の私見であり、実現性や費用を検証したものではない。図はいずれも筆者による整理である。

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