日本のものづくりと、問われる経営

飛行機

遙かなる大空 ── VOL.51

密かに、確かに、進む
── 日本のものづくりと、問われる経営

時速100kmの空飛ぶクルマ。国産無人ジェットの自動飛行。その同じ週に、老舗の補助金不正。明と暗のコントラストが、日本の未来を問う。

この数週間、日本の空に二つの確かな前進があった。愛知のベンチャーが、空飛ぶクルマを実用速度域で飛ばした。北海道の大学が、国産の無人ジェット機を自動で離着陸させた。日本のものづくりは、派手さこそないが、密かに、そして確実に進歩している。だが同じ時期、対照的なニュースも届いた。この明暗が、私たちに重い問いを突きつける ── 日本の未来は、どちらが作るのか。

明①|時速100km ── SkyDriveの空飛ぶクルマ

2026年6月24日、愛知・豊田のSkyDriveが、マルチローター型の空飛ぶクルマ「SKYDRIVE(SD-05型)」で、実用速度域の時速100kmでの安定した前進飛行を確認した。12基の電動ローターと飛行制御が高速前進でも想定通り機能し、設計と実機挙動の整合性を裏づけた。固定翼を持たない都市型のコンパクト機という、前例の少ない設計の有効性を実機で示した一歩だ。型式証明と2028年の商用化へ、着実に前進している。

明②|「オオワシ」── 室蘭工大の無人ジェット

6月17日には、室蘭工業大学が小型無人ジェット機「オオワシ」で、離陸から着陸までの完全自動飛行に成功したと発表した。ジェット機型無人機の完全自動化は、大学機関として国内初。超音速飛行を見据えたクランクト・アロー翼を採用し、学生有志が内製の組み立てノウハウを確立、舵面の軸は地元室蘭の町工場が0.01mmの精度で仕上げた。大学・学生・地域のものづくりが結実した、静かな快挙である。

技術は、地道な現場から生まれる。
0.01ミリの精度に、日本の底力は宿る。

暗|同じ週に届いた、もう一つの報せ

6月30日、日本航空(JAL)が、ドローンや空飛ぶクルマに関する国(NEDO)の公募事業で、実態と異なる労務費を計上して補助金などを不適切に受給していたと公表した。返還額は約2.8〜2.9億円。不正は2022年から行われていた可能性があるという。同社は「予算の100%執行への過度なプレッシャー」を原因に挙げ、報道では、統一的な日誌記入マニュアルの作成や、現場からの指摘に対する事実上の口止めも指摘されている。最終的に、内部通報で発覚した。

私はここで、個人を断罪したいのではない。事実は調査と公表に委ねる。だが、未来を創るはずの「次世代モビリティ」の予算が、未来でなく「予算消化」のために使われていたとすれば ── それは航空界の発展にとって、妨げ以外の何ものでもない。挑む者の足を、最も引っ張ってはならない側が引っ張った、という構図がそこにある。

古い体質と、新しい挑戦

古い体質(守りの論理)
  • 予算の消化が目的化する
  • 前例と体面を守る
  • 現場の声に蓋をする
新しい挑戦(攻めの論理)
  • 成果と実機データで語る
  • 前例なき設計に挑む
  • 現場の手で内製・改良する

誤解してほしくない。大企業が悪で、ベンチャーが善、という単純な話ではない。問題は規模ではなく「姿勢」だ。守りに入り、数字の辻褄合わせに労力を注ぐのか。それとも、リスクを取り、実機で結果を出しにいくのか。SkyDriveも室蘭工大も、後者を選んだ。そして日本の大企業の中にも、同じ覚悟で挑む人たちが必ずいる。

── 流れを、切らさないために

芽生えた技術は、放っておけば枯れる。SkyDriveのような機体も、オオワシのような大学発の挑戦も、ここからが本当の正念場だ。だからこそ、官と民が一体となって、芽を育てねばならない。補助金は「消化するもの」ではなく「未来へ投資するもの」。その原点を、支える側も、受ける側も、もう一度思い出す必要がある。

はたして、日本の未来は

日本のものづくりの底力は、本物だ。0.01ミリを削る町工場、徹夜で機体を組む学生、前例なき設計に挑むベンチャー ── その現場に、私は希望を見る。足りないのは技術ではない。技術を信じ、正しく支え、長く育てる「経営」と「制度」の覚悟だ。私もUPRT JAPANという小さな挑戦の当事者として、この流れの一隅を担いたい。日本の未来は、守る者ではなく、挑む者が作る。そう信じている。

技術は、密かに、確かに進んでいる。

流れを切らさぬよう、官民が一体で芽を育てること。
そして経営は、未来の足を引っ張る側に回ってはならない。

日本の未来は、挑む者が作る。

吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)

UPRT JAPAN INITIATIVE / 現役エアラインパイロット

数字は嘘をつかない ── UPRT は「あれば良い訓練」ではない。

出典・参考資料

  1. 株式会社SkyDrive プレスリリース「空飛ぶクルマ『SKYDRIVE』、実用速度域の時速100kmで安定飛行を確認」(2026年6月24日)── skydrive.co.jp
  2. 室蘭工業大学「小型無人ジェット機(オオワシ)による離着陸を含む完全自動飛行に成功 −大学機関では国内初−」(2026年6月17日)── muroran-it.ac.jp/マイナビニュース(2026年6月22日)
  3. 読売新聞/共同通信/ロイター「日航が補助金不正受給『空飛ぶクルマ』事業など 約2.8億円返還へ」(2026年6月30日)── NEDO公募事業での労務費の不適切計上に関する各社報道。
  4. FNNプライムオンライン「JALが補助金約2億9000万円返還へ 内部通報で発覚」(2026年6月30日)── 経緯・原因に関する報道。

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