遙かなる大空 VOL.146
訓練が、法廷に立った
9月28日のスイフトエア判決と、5月のAF447
裁かれたのは着氷ではなく、乗員を備えさせなかったことだった。
この記事の要点(約8分)
- 9月28日、パリ軽罪裁判所がスイフトエアを法人としての過失致死で有罪とした。2014年の事故から12年。
- 5月にはAF447でエールフランスとエアバスが同じ罪で有罪となっている。2023年の無罪判決が覆された。
- 二つの判決は同じところを指した。裁かれたのは訓練と、乗員の備えだった。
皆さんこんにちは。9月28日、パリで判決が出ました。
スペインのスイフトエアが、法人としての過失致死で有罪。2014年7月24日、ウアガドゥグー発アルジェ行きのアルジェリア航空5017便が北マリで墜落し、搭乗していた116名全員が亡くなった事故です。機体はMD-83、運航はスイフトエアでした。
事故から12年。罰金は22万5千ユーロ(約4000万円)で、フランスの法律が定める法人向けの上限額です。
そして報道が付け加えていた一文に、私は手が止まりました。フランスで航空会社が法人としての過失致死に問われたのは、これで2例目。1例目は、今年5月のエールフランス447便です。
1. 裁かれたのは、操縦ではなかった

【図1】
事故の経緯はこうです。離陸から1時間足らずで墜落。調査によれば、防氷装置が作動しないまま着氷が起き、機体が制御を失いました。
ここで注目すべきは、検察が何を主張したかです。報道によれば、争点になったのは「氷の中での運航や、異常な計器指示への対応について、スイフトエアが操縦士をどう訓練していたか」でした。そして技量審査が適切に行われていなかったことも指摘されています。
つまり裁かれたのは、その夜の操縦ではありません。訓練のほうでした。
スイフトエアは無罪を主張し、規制やマニュアルの不備を挙げています。判決に対しては10日以内に控訴できます。
2. 5月に、先例ができていた
この判決が成り立つ土台は、今年の5月にできていました。

【図2】
2026年5月21日、パリ控訴院。エールフランスとエアバスが、2009年のAF447便墜落について、法人としての過失致死で有罪とされました。228名が亡くなった、フランス航空史上最悪の事故です。
2023年の一審は、両社とも無罪でした。検察でさえ無罪を求めるという異例の裁判で、責任は主に亡くなった操縦士に帰されていました。それが17年目にして覆った。
控訴院は両社が「もっぱら、全面的に」責任を負うとし、同じく上限の22万5千ユーロを科しています。
そして控訴院が示した判断を、エアバス自身が声明の中で引用しています。
この事故は、孤立した人的過誤に還元できるものではない。既知の危険の扱い、不可欠な情報の伝達、そして危機的状況に向けた乗員の備え。その複数の失敗から生じた。
「危機的状況に向けた乗員の備え」。それが、有罪の理由として名指しされた。
3. 二つの判決が、同じところを指した

【図3】
並べてみると、構造が重なります。
どちらも引き金は着氷でした。AF447は速度管、5017便はエンジン。そしてどちらも、その後の対応が間に合わなかった。
ですが有罪の理由として裁判所が挙げたのは、着氷そのものではありません。AF447は「危機的状況への乗員の備え」。5017便は「訓練と技量審査の不備」。
その状況に乗員を備えさせなかったことが、罪に問われている。
この連載を読んでくださっている方なら、お気づきだと思います。Vol.131で書いたとおり、AF447はICAOのUPRT基準を生んだ事故です。そして17年後、同じ事故が「乗員の備え」を理由に有罪判決の対象になりました。
この記事の限界
本稿は判決文そのものではなく、報道を通して内容を知ったものである。引用の形で示した表現も、報道の要約であり、判決文の正確な訳ではない。
いずれの判決も確定していない。エールフランスとエアバスは破毀院へ上告しており、スイフトエアも控訴の可否を検討している。破毀院は事実審理を行わず、法の適用が適切だったかだけを判断する。
また本稿は、これらの判決が妥当かどうかを論じるものではない。刑事責任を問うことが安全にとって良いか悪いかについては、専門家の間でも見解が分かれている。筆者に結論を出せる問題ではない。
4. 調べる場と、裁く場
ここで、難しい論点に触れておかなければなりません。

【図4】
ICAOの第13附属書は、事故調査の目的を「再発の防止」だけに限っています。責任を追及するためではない、と明記されている。日本の運輸安全委員会の報告書も、冒頭に同じ趣旨を掲げています。
一方で刑事裁判の目的は、責任の所在を定めることです。遺族にとっては、それが認められることでもあります。5017便の遺族は判決後、ようやく責任が認められたと語りました。AF447の遺族会の代表は「正義は果たされた」と述べています。
同じ事実が、違う目的で使われる。ここに緊張があります。
罰金について言えば、報道は冷ややかでした。22万5千ユーロは、両社の売上の数分にすぎないと。遺族の一部も形だけの罰だと批判しています。
ですが、経営にとって重いのは罰金ではありません。判決そのものです。
現場のパイロットとして
正直に書くと、複雑な気持ちです。刑事責任を問う流れが強まれば、現場が報告をためらうようになるのではないか。昨日、罰する制度では不調は見つからないと書いたばかりです。その懸念は消えません。
ただ、今回の二つの判決には一つ共通点があります。裁かれたのは個人ではなく、法人でした。操縦士個人ではなく、訓練を設計し、審査を行い、乗員を備えさせる側の責任が問われている。
Vol.137で、苦しい年に最初に削られるのは訓練だと書きました。削っても明日は何も起きないから削れてしまう、と。その計算に、新しい項目が加わったのかもしれません。何も起きない日々の先に、法廷が待っている場合がある。
結論
フランスで、航空会社が法人として過失致死に問われる判決が続きました。5月にAF447、そして9月28日にスイフトエア。どちらも上限の罰金です。
そして二つの判決は、同じところを指しました。裁かれたのは着氷ではなく、その状況に乗員を備えさせなかったことでした。
いずれも確定していません。それでも流れは見えます。訓練を削ることは、いまや法的な危険でもある。
数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。
吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)
エアラインパイロット(A320)
UPRT JAPAN 代表
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)
出典・参考
- Reuters「French court finds Swiftair guilty of corporate manslaughter over Mali crash」2026年9月28日/AFP、Insurance Journal ― 罰金22万5千ユーロ、3週間の審理、乗員訓練と技量審査に関する検察の主張、10日以内の控訴期間、フランスで2例目であること。
- ch-aviation「French court finds Swiftair guilty of corporate manslaughter」2026年10月 ― AF447判決が先例となったこと。
ch-aviationMost extensive and up to date airline knowledge base: More than 50,000 aircraft, 6,500 airports and 5,000 airlines, acce... - FlightGlobal「Airbus appeals after court overturns AF447 manslaughter acquittal」2026年5月22日 ― 控訴院の判断に関するエアバスの声明、破毀院への上告。
403 Forbidden - Bloomberg、Reuters(2026年5月21〜22日)― 「もっぱら、全面的に」責任があるとの判断、各22万5千ユーロの罰金、17年の司法手続き、遺族会代表の発言、罰金が売上の数分にすぎないとの指摘。
- ICAO 第13附属書(航空機事故及びインシデントの調査)― 調査の目的は再発防止であり、責任の追及を目的としない。関連記事:遙かなる大空 Vol.122「国が『罰しない』と約束した制度」、Vol.131「その規則を、誰が書いたのか」、Vol.137「満席なのに、残らない」、Vol.145「扉は、外に向かって作られた」。
※ 本稿は2026年10月時点の公開情報に基づく。判決文そのものではなく報道を通して知った内容であり、引用の形で示した表現も報道の要約である。いずれの判決も確定していない。本稿は判決の当否を論じるものではない。図はいずれも筆者による整理である。
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