日本でも、いちばん危ないのは滑走路だった

安全・事故


遙かなる大空 VOL.148

日本でも、いちばん危ないのは滑走路だった

重大インシデント直近30件のうち17件
そしてその多くは、報じられない場所で起きている。

この記事の要点(約8分)

  • 運輸安全委員会の重大インシデント、直近30件のうち17件が滑走路に関わるものだった。
  • 最も多いのは着陸時に脚以外の部分が接地した事態で7件。逸脱とオーバーランが各3件。
  • その多くは小型機と訓練の世界で起きている。2028年4月、そこに実機UPRTが加わる。

皆さんこんにちは。前回、世界の統計を書きました。不安定な進入の97%がそのまま着陸し、滑走路からの逸脱は事故の約3分の1を占め、その83%はやり直していれば防げたという話です。

書き終えてから、気になったことがあります。では、日本ではどうなのか。

運輸安全委員会のデータベースを開いて、数えてみました。

1. 直近30件のうち、17件

【図1】

同委員会には、これまでに266件の航空重大インシデントが記録されています。そのうち直近の30件、2024年3月から2026年7月までに起きたものを分類してみました。

滑走路に関わるものが17件。全体の57%です。

残りの13件は、飛行中の発動機の停止や破損、客室の気圧の低下、ヘリコプターがつり下げた物件の落下、非常脱出といったものでした。

世界の統計では3分の1でした。日本の重大インシデントでは、半分を超えています。

ただし注意が必要です。「事故」と「重大インシデント」は別の区分で、単純には比べられません。重大インシデントは、事故には至らなかったが至りかねなかった事態を指します。それでも、どこに危険が集まっているかは見えてきます。

2. 最も多いのは、接地のしかただった

【図2】

17件の中身を見ると、意外な結果でした。

最も多いのは「着陸時に脚以外の部分が地表面に接触した事態」で、7件。機首から落ちる、尾部を擦る、翼端が当たる。そういう事案です。

次いで滑走路からの逸脱が3件、オーバーランが3件。

そして使用中の滑走路への着陸またはその試みが3件、指示とは異なる滑走路への着陸が1件。

分けて考えると構造が見えます。前の3種類は「降り方」の問題で、後の2種類は「どこへ降りたか」の問題です。

そしてどちらも、着陸の最後の数十秒に集まっています。

3. 小型機と、訓練の世界

ここからが、私がいちばん驚いた点です。

【図3】

発生場所を並べてみてください。成田、中部、新千歳、神戸、稚内、八尾。これらは大きな空港です。

一方で、竜ケ崎、岡南、大島、福井、福島スカイパーク、香良洲。小型機が飛ぶ飛行場です。

機体の種類を見ると、さらにはっきりします。17件のうち半数以上が、セスナ172やパイパー、動力滑空機といった小型機です。

つまり日本の滑走路の重大インシデントは、小型機と訓練の世界に集中している。

そしてこれらは、ほとんど報じられません。乗客が乗っていないからです。見えていないのは、見られていないからです。

危険は、報じられる場所にあるとは限らない。報じられない場所に、数は集まっている。

この記事の限界

分類はすべて筆者が行ったものであり、運輸安全委員会による集計ではない。対象は最新の30件のみで、全266件を分析したものではない。期間や件数を変えれば、割合も変わる。

17件のうち多くは調査中であり、原因は何も分かっていない。同じ型式や同じ運航者が複数回現れる箇所もあるが、本稿では運航者名を扱わず、そこから何かを推論することもしない。調査の結論を待つべきである。

また、小型機に事案が多いことは小型機の運航が危険だという意味ではない。飛行回数、運航の性格、滑走路の長さ、乗員の経験など、背景が大きく異なる。母数を揃えた比較ではない。

4. 2028年4月に、何が加わるか

【図4】

ここで、この連載で何度も書いてきた話とつながります。

UPRT通達により、2028年4月から事業用操縦士と操縦教育証明の取得には、小型機による実機訓練の経歴が必要になります。

つまりいま重大インシデントが最も多く起きている世界に、年に数百名が新たに入ってくるということです。同じ小型機で、同じ飛行場で、同じ滑走路に降りる。

これは反対意見ではありません。私は実機のUPRTが必要だと書き続けてきましたし、その考えは変わりません。

ですが、今日数えてみて思いました。UPRTを増やすなら、降りる場所の安全も一緒に考えなければならない。

空中で姿勢を回復する訓練をして、最後に滑走路で機首を打つのでは、意味がありません。空の上の訓練は、滑走路に降りて終わるのです。

現場のパイロットとして

正直に書きます。私はこの数字を、自分に都合よく読みたくなりました。小型機の事案が多い、だから訓練が足りない、だからUPRTが要る、と。

ですがそれは筋が違います。接地のしかたや滑走路からの逸脱は、UPRTが扱う領域ではありません。これは着陸の訓練の話です。自分の売り物に引き寄せて数字を読むのは、いちばんやってはいけないことでした。

正しく言えば、こうです。私が入ろうとしている世界では、いま滑走路の上でこれだけのことが起きている。そこに年に数百名を連れていくことになる。だったら、自分の訓練だけでなく、その前後のことも考える責任がある。今日はそれを知りました。

結論

日本の航空重大インシデント、直近30件のうち17件が滑走路に関わるものでした。57%です。最も多いのは、接地のしかたそのものでした。

そしてその多くは、小型機と訓練の世界で起きています。乗客が乗っていないため、ほとんど報じられません。

2028年4月、その世界に実機のUPRTが加わります。空の上の訓練は、滑走路に降りて終わります。

数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。

吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)

エアラインパイロット(A320)
UPRT JAPAN 代表
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)

出典・参考

  • 運輸安全委員会「航空重大インシデント検索結果」― 全266件。本稿は最新30件(2024年3月31日から2026年7月3日までに発生)を筆者が分類した。
    航空重大インシデント検索結果
  • 運輸安全委員会「航空重大インシデントの統計」および「調査中の案件」。
    航空重大インシデントの統計
  • 国土交通省航空局 通達「異常な姿勢の予防及び異常な姿勢からの回復を行う飛行に係る訓練について」国空安政第1903号 ― 2028年4月1日からの適用、実機による訓練の対象資格。
  • 関連記事:遙かなる大空 Vol.130「実機が、義務になった」、Vol.132「日本の空では、もう教えていない」、Vol.147「降りなければならない便は、ひとつもない」。

※ 本稿は2026年10月時点の公開情報に基づく。分類は筆者によるものであり、委員会による集計ではない。対象の多くは調査中で原因は判明していない。本稿では運航者名を扱わない。図はいずれも筆者による整理である。

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