遙かなる大空 VOL.178
風防は、紫外線を半分しか止めない
操縦士とサングラス
格好をつけているのではない、という話。
この記事の要点(約9分)
- 米国連邦航空局の実測では、旅客機の合わせガラス風防はUV-Aを最大53.5%通していた。UV-Bは1%未満。小型機のポリカーボネートはほぼ完全に遮断
- 操縦士の悪性黒色腫は2.22倍、核白内障はおよそ3倍。ただし前者は紫外線、後者は宇宙放射線が疑われており、原因が違う
- サングラスで防げるのは紫外線だけで、宇宙放射線は防げない。選ぶなら中性グレー、可視光透過率15〜30%、紫外線99〜100%遮断、そして偏光は避ける
皆さんこんにちは。今回は、少し軽い話題にします。サングラスの話です。
先日、個人用のサングラスをなくしました。買い直すにあたって、どうせなら根拠を調べてから選ぼうと思い、資料を読んでみました。
結果として、軽い話にはなりませんでした。操縦士の悪性黒色腫は、一般の2.22倍。白内障は、およそ3倍。どちらも、きちんとした研究の数字です。
そして、調べていて自分が混同していたこともはっきりしました。紫外線と宇宙放射線は、別の話です。サングラスで防げるのは、片方だけです。
1. 高度が上がると、紫外線が増える

【図1】
まず、なぜ空で紫外線が強くなるのか。
理由は単純です。紫外線を吸収しているのは、頭上の大気そのものだからです。高く上がるほど、頭の上に残っている空気が少なくなる。遮るものが減れば、届く量は増えます。
目安として、米国連邦航空局は高度1,000フィートにつき約5%増加という数字を挙げています。世界保健機関は1,000メートルにつき10〜12%としています。
実測では、高度9,000メートル付近の紫外線は、地上のおよそ2倍とされています。
ここにもう一つ、見落としやすい要素があります。雲や雪は、紫外線を最大85%跳ね返します。
雲の上を飛ぶということは、上からだけでなく、下からも浴びるということです。真っ白な雲海の上を飛んでいるとき、あの明るさの正体はそれです。
2. 風防は、UV-Aを半分しか止めない

【図2】
では、窓の中にいるのだから大丈夫ではないか。
ここが、今回いちばん驚いたところでした。
米国連邦航空局の民間航空医学研究所が、2007年に風防の透過率を実測しています。旅客機6機種と小型機2機種、計8枚の風防を実験室で測った報告です。
結果はこうでした。
UV-B(280〜320ナノメートル)は、ガラスでもプラスチックでも1%未満しか通りません。ここは、よく守られています。
問題はUV-Aです。旅客機の合わせガラスでは、最大53.5%が通っていました。波長380ナノメートル付近では、54%に達しています。
一方、小型機に使われているポリカーボネートの風防は、380ナノメートル以下をほとんど通しませんでした。皮肉なことに、小型機のほうがよく守られているわけです。
報告の結論は、こう書かれています。「試験した旅客機の風防は、有害な紫外線をすべて遮ってはいなかった」
そして著者らは、こう続けています。高高度で長時間飛ぶ職業操縦士は、目を紫外線から守るための特別な配慮をすべきである。
計算してみます。外が地上の2倍で、風防が半分通すなら、操縦席の中は、おおよそ地上の晴れた屋外と同じくらいということになります。
それを、何時間も、何年も続けるわけです。
3. 受け止めているのは、水晶体

【図3】
次に、目の中で何が起きているか。
角膜が、UV-Bのほとんどを吸収します。そして水晶体が、UV-Aを吸収します。この2つのおかげで、網膜はよく守られています。
つまり、UV-Aを一身に受け止めているのは水晶体です。そして白内障は、その水晶体が濁る病気です。

数字を2つ挙げます。
1つめ。悪性黒色腫(皮膚がん)について、19の研究、のべ26万人以上を集めたメタ分析があります。操縦士の発生率は一般の2.22倍、客室乗務員は2.09倍でした。操縦士の死亡率も1.83倍です。
2つめ。核白内障について、445人を対象にした研究があります。操縦士79人と、操縦士でない366人を比べたところ、操縦士のリスクはおよそ3倍でした。
ここで、大事な区別があります。
黒色腫のほうは、紫外線が疑われています。しかし白内障のほうは、累積した宇宙放射線の被曝量と関係していました。特に、40歳までの被曝が効いていたと報告されています。
どちらも「原因はこれだ」と確定したわけではありません。ただ、2つの数字の背後にあるものが違うということは、押さえておく必要があります。
4. サングラスで防げるもの、防げないもの

【図4】
ここが、今回いちばん伝えたいところです。
紫外線は、光です。だからレンズで吸収できます。UV-AもUV-Bも、99%から100%遮るレンズが普通に売られています。日除けやサンシェードも、ちゃんと効きます。
宇宙放射線は、高エネルギーの粒子です。
こちらは、話がまったく違います。数ミリのレンズどころか、機体の構造そのものが、ほとんど素通りさせています。
線量率を挙げておきます。地上で毎時およそ0.06マイクロシーベルト。35,000フィートで毎時およそ6マイクロシーベルト。およそ100倍です。41,000フィートの極地方では、毎時12マイクロシーベルト程度になります。
つまり、サンバイザーもサンシェードも、宇宙放射線に対しては何もしていません。
これに効くのは、レンズではありません。高度、緯度、そして飛行時間です。
では、どうするか。
防げないものを嘆いても仕方がありません。防げるほうを、きちんと防ぐ。目に関して自分の裁量で減らせるのは、紫外線のほうです。
5. どんなサングラスを選ぶか

【図5】
では、何を買えばよいのか。米国連邦航空局が操縦士向けに出している資料があるので、そこから条件を拾います。
紫外線遮断は99〜100%。ここは譲れません。
可視光の透過率は15〜30%。資料では「可視光の70〜85%を遮るもの」と書かれています。85%を超えて遮ると、かえって視力が落ちます。暗ければ良いというものではありません。
色は、中性のグレーが最も推奨されています。色の歪みが最も少ないからです。灰緑や茶も選択肢に挙げられています。
逆に、黄・琥珀・橙は避けるよう書かれています。灯火や表示の色が変わってしまうからです。「視界がくっきりする」という宣伝については、科学的な裏づけがないと明記されています。
調光レンズも推奨されていません。理由が2つ挙げられています。高温では暗くなりきらないこと。そして風防が紫外線を減らしているせいで、そもそも反応しにくいこと。また、薄い状態でも夜間や雲中で十分に透明にならない場合があります。
レンズは大きめ。小さいと、横から回り込んで入ってきます。
フレームはヘッドセットと干渉しないもの。頭を振っても動かない程度に、きちんと合っていること。
ちなみに、冒頭の「あの映画のサングラス」ですが、調べてみると筋が通っていました。
あの形は、1929年に米陸軍航空隊の大佐が、眼鏡メーカーと組んで作らせたものが元になっています。涙滴形のレンズは、計器板を頻繁に見下ろす操縦士のために設計されたものでした。
そして1953年に登場した定番の灰緑レンズは、可視光の透過率が15%です。70年以上あとの今、連邦航空局が勧めている範囲に、ちょうど収まっています。
6. なぜ、偏光レンズを避けるのか

【図6】
最後に、いちばん誤解されやすい一点です。
偏光レンズは、操縦には推奨されていません。
意外に思われるかもしれません。釣りや運転では、偏光は「良いもの」とされています。水面やボンネットの反射を消してくれるからです。
ところが操縦席では、その「反射を消す」働きが、そのまま裏目に出ます。
理由が4つ挙げられています。
1つめ。反射防止処理をした表示面が、暗く沈んで読めなくなることがある。
2つめ。合わせガラスの内部応力が、縞や斑として浮かび上がる。
3つめ。他機の翼が陽光を跳ね返す、あのきらめきが消える。
4つめ。液晶表示と組み合わさると、角度によって見え方が変わる。
4つのうち、いちばん重いのは3つめだと思います。見張りの話だからです。
遠くの機影を最初に捉えるきっかけは、形ではありません。一瞬のきらめきです。それが消えるということは、発見が遅れるということです。
良いサングラスの条件は、地上と空とで違う。今回調べて、いちばん腑に落ちたのはここでした。
この記事の限界
本稿は公開資料に基づく一般的な解説である。筆者が所属する会社の運航、手順、方針については一切述べない。筆者は医師でも眼科の専門家でもなく、目や皮膚の症状については医療機関に相談されたい。
風防の透過率は2007年の測定であり、各型式1枚ずつの小標本である。報告自身が、現用の風防にそのまま当てはまるかはさらなる研究が必要だと述べている。欧州操縦士協会の2025年の文書も、UV-Aの透過は機種により、同じ機体でも窓の位置により異なり、製造者が仕様を公開していない場合が多いと指摘している。高度と紫外線の目安は短い高度差についてのもので、巡航高度まで単純に掛け算できるものではない。
黒色腫と白内障の数値は、いずれも観察研究に基づく。メタ分析の著者自身が、観察研究の設計に由来する偏りが結果に影響している可能性を認めている。因果関係が確定したわけではない。宇宙放射線の線量率も、緯度・太陽活動・経路によって大きく変動する。サングラスの選択は最終的に個人の判断であり、本稿は特定の製品を推奨するものではない。
現場のパイロットとして
戦闘機のヘルメットには可動式のサンバイザーが付いていて、必要なときに下ろせるようになっていました。あれは「眩しいから」の装備だと思っていましたが、調べてみると、目を守るという意味でも理にかなっていたわけです。
今回いちばん反省したのは、自分が紫外線と宇宙放射線を一緒くたにしていたことでした。サンシェードを下ろせば両方から守られているような気になっていましたが、宇宙放射線に対しては何の役にも立っていません。効くものと効かないものを分けて考えないと、守ったつもりになるだけです。
そしてもう一つ。偏光レンズが推奨されない理由の3つめ——他機のきらめきが消える——これは、買い替えるまで知りませんでした。自分の目を守るつもりの道具が、見張りの邪魔をしていたかもしれない。良かれと思ってやっていることが裏目に出る構図は、このブログで何度も書いてきたとおりです。サングラス1つでも、根拠を確かめてから選ぶ価値はありました。
結論
高度9,000メートルの紫外線は地上のおよそ2倍。そして旅客機の風防は、UV-Aを最大53.5%通していました。窓の中にいても、浴びています。
サングラスで防げるのは、紫外線だけです。宇宙放射線は、レンズどころか機体の構造すら素通りします。混同してはいけません。
選ぶなら、中性グレー、可視光の透過率15〜30%、紫外線99〜100%遮断、そして偏光は避ける。良いサングラスの条件は、地上と空とで違います。
数字は嘘をつかない――UPRTは『あれば良い訓練』ではない。
吉川 哲也(Tetsuya Kikkawa)
UPRT JAPAN 代表
エアラインパイロット(A320)
HIEN Aero Technologies シニアアドバイザー・テストパイロット
元航空自衛隊戦闘機操縦士(F-4・C-130)
出典・参考
- Nakagawara, V. B./Montgomery, R. W./Marshall, W.「Optical Radiation Transmittance of Aircraft Windscreens and Pilot Vision」DOT/FAA/AM-07/20、米国連邦航空局 民間航空医学研究所、2007年 ― 旅客機6機種・小型機2機種の風防の透過率実測。UV-Bは1%未満、UV-Aは最大53.5%、380nmで54%。可視光(400〜600nm)は両材質とも平均82.8%。
Optical Radiation Transmittance of Aircraft Windscreens and Pilot VisionOptical radiation can have acute and chronic effects on the tissues of the eye, especially if exposure levels exceed nor... - 米国連邦航空局「Sunglasses for Pilots: Beyond the Image」― 中性グレーの推奨、可視光の70〜85%遮断、紫外線99〜100%遮断、偏光レンズを推奨しない4つの理由、調光レンズを推奨しない理由、フレームとレンズの大きさ、高度1,000フィートにつき約5%の紫外線増加。
https://www.faa.gov/pilots/safety/pilotsafetybrochures/Sunglasses.pdf - Sanlorenzo, M. ほか「The risk of melanoma in airline pilots and cabin crew: a meta-analysis」JAMA Dermatology、2015年 ― 19研究・26万6千人超。操縦士2.22倍(95%信頼区間1.67〜2.93)、客室乗務員2.09倍、操縦士の死亡率1.83倍。高度9,000m付近の紫外線は地上の約2倍、雲や雪の反射は最大85%。
- Rafnsson, V. ほか「Cosmic Radiation Increases the Risk of Nuclear Cataract in Airline Pilots: A Population-Based Case-Control Study」Archives of Ophthalmology, 123(8):1002-5、2005年 ― 445人(操縦士79人、非操縦士366人)。累積被曝量との関連、特に40歳までの被曝。
- 欧州操縦士協会(ECA)「Protecting Pilots Against UV-A Radiation」Position Paper、2025年 ― UV-A透過は機種および窓の位置により異なり、製造者が仕様を公開していないこと。風防の紫外線遮断性能を型式証明の要件とすべきという提言。水晶体がUV-Aを吸収するため、操縦士にとってUV-Aが主たる眼の問題であること。
https://www.eurocockpit.eu/sites/default/files/2025-10/Protecting%20Pilots%20Against%20UV-A%20Radiation_PP_25_1015_F_0.pdf - 米国連邦航空局「Radiation Exposure of Air Carrier Crewmembers」― 地上で毎時約0.06マイクロシーベルト、35,000フィートで毎時約6マイクロシーベルト、41,000フィートの極地方で毎時約12マイクロシーベルト。世界保健機関の目安(高度1,000メートルにつき10〜12%増加)および眼鏡の歴史については各公開資料による。
※ 本稿は2026年11月時点の公開情報に基づく。数値は測定条件・機種・緯度・太陽活動により大きく異なる。図はいずれも筆者による整理である。
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